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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第五章 続きのハジマリ

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2話 初めての真実

「お前さんに、呪術の使用と勉強を禁じていた理由を話す前に、一つ、問いに答えてくれ。お主、『(うぶ)(ひと)(ひら)』をどう捉えとる?」

 深夜回った、丑三つ時、(とも)()()(づる)は向かい合い、彼は16年間黙ってきた事を、ゆっくりと話し始めた。

「最近こんな質問ばかりね。まあ、いいけど。『それは産まれし時、手に持ちて、赤に染まらば染まるほど、()(そう)(じゅつ)()として素養あり、更には次期当主の候補となり()る』これが、倉で読んだ内容だわ」

 智鶴は問いに対して、『紙操術師たるために』の一説を(そら)んじて聞かせた。

「そうじゃな。それが(おおむ)ね正しいと言えば正しいが、正確にはちと違っておる」

「えっ……」

 そう言われたら、私は何を信じ込まされていたのかと、問いただしたくなるのを抑えて、祖父の言葉を待つ。

「これは、千羽家当主のみに口伝で伝わる、門外不出の内容じゃから、他言無用で頼むぞ」

 智喜は速記の術を使い、四方の壁に一枚ずつ『遮音』の意味を持つ(じゅ)()を飛ばした。それらが正常に作動した事を確認すると、続きを語り出す。

「あれはのう、その者が魂に抱える()()の比重によって、赤くなる仕組みなのじゃ。それに、握って産まれてくるのでは無い。産まれた後に、とある呪符を持たせ、それがどう染まるかを見るのじゃ。そうして産の一片は作り出されとる」

「それじゃ、何!? あの倉で読んだ書物には大事なことが書かれていないって言うの!?」

「まあ、そうと言えるな」

「そんな……。それで? 私から呪術を遠ざけていた事と、それがどう繋がるのよ!」

 憤りを隠せぬまま、祖父の吐き出す真実に気を揉む。

「お主の産の一片は、何色じゃったかのう」

 智喜は(ひげ)を撫でながら、諭すように、静かに問いかける。

「……あ、そっか。(しん)()

 赤に赤を()らし、紅となっても更に赤に染めて出来上がる色、深紅。(きわ)みの赤と言っても差し支えのない色。それは、智鶴の魂に強く紙鬼が()()いている、何よりもの証拠だった。

「でも、赤ければ赤いほど、当主候補なんでしょう!? それなら、むしろ術を教えるべきじゃないかしら」

「いや、それもちと違うのじゃ。赤ければ赤いほどというのは、常識の範囲内でのこと。原色の赤の話じゃて。お前さんは赤すぎる。赤すぎる者は、紙鬼化しやすいのじゃ」

「紙鬼化って何よ。聞かされていないわ、そんなリスク!」

 彼女は(げき)(こう)に顔を赤くして、(たたみ)を平手で叩いた。

「そうじゃ、(おきて)で言えぬからな。こうしてただ一介の術師でしかないお前さんに話していること自体、異例じゃて」

「おかしいわ。そんなの、まるで紙鬼化するのを、黙って見ているみたいじゃないの」

 智鶴は、自分が信じてきた世界が間違っていた可能性に、足下が揺れる感覚がした。

「許して欲しい。真実を知った者が、動揺し、変に意識した結果、紙鬼化してしまう前例があった。そういった悲しい事件の末に、頭を悩ませた先祖が制定した掟なのじゃ。それに、ワシはお主を紙鬼化などさせたくない。じゃが、真実は言えぬ。じゃから、呪術から離れさせたかった。それでもお前さんは呪術の道を歩み始めてしまった。そこで、お前さんにある術をかけた。とても古い術じゃ」

「術……」

 脳みそがショートしそうだった。次々と()()される全く知らされていなかった真実に、もう何を言われても、驚けるような体力が残っていなかった。

「そう、その術は『(こと)()(しば)り』という、(まじな)(じゅつ)じゃ。お主が紙を操ると知った時、ワシは『20枚までの制限』を設けたじゃろう。それが正に、その(じゅつ)なのじゃ。ルールを決め、それを破らぬ限り、術は解けぬ。これによって、お前さんの中に居る紙鬼を封じておった。でも、年々、日々、成長しておくお前さんを縛り続けるには、力が足りなかった。詰めが甘く、中途半端に縛り付けてしまって、本当に申し訳ない事をしたと思っておる。この通りじゃ、済まなかった」

 智喜は畳に(こぶし)を着けると、深く深く頭を下げた。

 智鶴の中には、どこに発散して良いのか分からない、グツグツとモヤモヤとした感情が(くすぶって)っていた。それでも祖父の掛けた術というのを、自力で解いてしまったという後ろめたさもあって、更にモヤモヤに拍車を掛けるのだった。

「いいわ。気にしないでなんて、素直に言える訳無いけど。きっとおじいちゃんはまだまだ言えない事情を抱えているんでしょ? 掟、掟で、これ以上詮索しても無駄だと思うから、今日の所はもういいわ。でも、一つだけ教えなさい。どうして今、話して聞かせたの? 知ったことで、私が千羽に反旗を(ひるがえ)すかも知れないし、紙鬼化するかも知れないじゃないの」

 智喜が言葉に詰まった様で、目線を横に逸らす。ピリッとした空気が、奥の間に張り詰めていた。

「そうじゃな……。教えた理由は、お主が()()(かい)()を習得したからじゃ。元来その術は、正式に当主候補となり得た時、教わる術じゃ。まだワシはお前さんを次期候補として決めておらぬが、紙鬼回帰を習得した者になら、秘匿も一部なら開示して構わぬだろうと、そう判断したから……というのが答えじゃ」

 智鶴が小さく首肯したことを認めると、智喜は言葉を続ける。

「それに、毎夜千(せん)()を守っておるお前さんなら、真実を受け止められると信じたのじゃ。ワシかて、先代から真実を聞かされた時、正気じゃいられんかった。それでも、乗り越えた。お前さんも、もう乗り越えられるだけの歳と経験を重ねておる。これもワシの独断じゃが、そう思うたのは、紛れもない事実じゃ」

 智喜はしっかりと智鶴の目を見据えて、(しん)()に告げた。

「……分かったわ。ゆっくりになるとは思うけど、きちんと考えて、出来るようなら納得する努力は(・・・)するわ。じゃあ、今夜はこの辺りで、おやすみなさい」

 立ち上がりながら「努力は」というのをやけに強調して、祖父に言い放った。

 中に鉄球を入れられたかのように胃が重く、またその入り口を巾着のように閉められたかのようにキュッとした、全く言葉が消化不良で、胃の腑に落ち着くどころか入りもしていなかったが、それでも智鶴は、足腰に力を入れてやっと立ち上がる。

「ああ、おやすみ。そして、千羽をよろしく頼む」

 敷居を跨ぐ瞬間、背中へ投げられた言葉に振り返らぬまま、智鶴は部屋を後にした。


どうも、暴走紅茶です。混種もお読み頂きありがとうございます。

寒くなったり暑くなったり大変な気候ですが、如何お過ごしでしょうか?

体調は崩していないですか? ご飯はちゃんと食べてますか? 夜は寝れてますか?

紅茶さんはいつでも皆様を見守っていますよ。

では、また来週。 

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