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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第四章 強さのイミ
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第四章 強さのイミ エピローグ

 り~んと仏間にりんの音が響く。

 まだ8月にもなったばかりのある日。(せみ)()(ぐれ)(ふう)(りん)の二重奏が夏をかき立てる。

 仏壇の前で、口元には長い白ひげを蓄え、頭は前頭部から頭頂部までをハゲ上がらせた老人――(せん)()(とも)()が、亡き妻、息子に手を合わせていた。

「ああ、ばあさん。これで本当に良かったのじゃろうか」

 遺影の中でいつまでも静かに微笑む妻をじっと見つめる。

「智房、お前は最初からこちらの運命を選んでおったな。ワシとは意見が噛み合わんでも、お前はこうするべきだと言っておったな」

 智房と言い合った記憶を思い出し、苦笑いした。

「結局あの子らは運命の歯車を回し始めた。ワシはどうしてもそれを止めたかった。止めたくてもどうしようも出来んかったがな。智房よ、お前が選びたがっておった未来がやってくるぞ。はあ、これから千羽はどうなるのじゃろうなあ」

 智喜は10年前に起こったある出来事を思い出していた。それは千羽家吹()(ぶき)(かい)で、唯一の血縁、白澤院(はくたくいん)(つぐる)の娘に起こった出来事だった。


 それについて語るには、先ず、13年前の事から語る必要がある。

 ――13年前

 白澤院告の嫁、(はく)(たく)(いん)()()が待望の第一子を身ごもった。それは寒さに凍える1月の事。告が嬉しさの余り、千羽家本家屋敷に飛び込んできた事が懐かしく思い出される。

「智喜様! 智喜様! 私についに、こ、子供が! ここ、子供が!」

 と、電話で済まして良い物を、わざわざ伝えに来たのだった。その時の告の慌てっぷりを見て、()(あき)()(づる)も泣きわめいてしまった。今でも笑い話として()()()さんが話すから、間違った記憶ではないだろう。

 その日から十月十日余り過ぎた11月、告の娘、(はく)(たく)(いん)(みお)が誕生した。呪術師の出産では何が起こるか分からない事から、自宅に産婆さんを招いての出産だった。彩奈はとても頑張り、ふんばり、母子ともに健康で、出産を終えた。

 澪は千羽の血によって、産の一片を持って生まれることも、白澤院の血によって三つ目の眼を持って生まれる事も無かった。呪術師一族の(まつ)(えい)たる告はどこか残念そうであったが、それよりも可愛い娘が無事に生まれてきてくれた喜びに、(むせ)()いていた。


 それから2年の時が過ぎる。

 澪、2才になったばかりの12月のこと。

 告は智秋、智鶴の遊び相手として、よく澪を連れて本家屋敷を訪れていた。その日もそうして、彼女ら3人は居間でままごとをして遊んでいた。

「智鶴は疲れ切ったお母さんで、私が帰りの遅いお父さん、澪ちゃんはスレた子供ね!」

 智秋が先頭となり、子供ながらに鋭く大人を風刺したままごとを繰り広げていた。そんな風景を横目に、千羽家、白澤院家の両父母は机を囲み、談笑をしていた。休日によく見られる風景で、後から現れた智喜も何気なくそこへ座り、話に参加した。

 だが、一つの異変がそこで起こる。

 午後の3時少し前。そろそろお八つを出してあげようと、美代子が立ちあがった時だった。邪気の気配が急に広がる。それは子供たちのいる所から感じられた。

 千羽家本家屋敷は勿論結(けっ)(かい)にて外界から閉ざされており、()()()等認められた妖以外の立ち入りを一切禁じて居たのにも関わらずなのにだ。

 大人は全員ぎょっとし、その(いち)(ほう)(こう)に目を向ける。咄嗟に『難聴』と『眼隠し』の護符を作った智喜は孫にそれを貼り付け、耳と目を塞いだ。ただ、澪には貼らなかった。いや、正しくは貼れなかった。

 そう、それは邪気の出所が澪だったからである。

「なにこれ~? 何も見えない、聞こえないよ~~~」

「お母さん? お母さ~~~ん」

 と泣き出す子供にも素っ気なく、大人たちは澪に注目した。

 そして、注目の的となった澪は、しゃがんでいた態勢からスッと立ちあがると、邪気が更に増大し、髪は逆立ち、額には白澤特有の第三の眼が現れていた。

「そんな、澪……。血を継いでいたのか……」

 娘の急な力の発現に、戸惑いながらも、どこか嬉しそうな告。対照的に不安な顔をして、飛び込み、抱きしめて良い物かと様子を覗う彩奈。千羽の夫婦も智喜もただそれを静かに見守っていた。

 

「――この先の未来、紙吹雪に包まれし者、百の眼を持ちし者、竜を操りし者が合わさり、止められた運命の歯車が動き出すであろう――」


 それだけを告げると、澪は後へ仰向けにバタンと倒れ、気を失った。

 白澤とは中国にて吉報を告げに来る妖である。それは神とも崇められ、()(もの)の神託を人々は大変有り難がったという。そして、白澤院家は遠い先祖に白澤を持つ、先祖返りの一族。百々目鬼などの妖と違い、限りなく神に近いその妖が子孫に与える影響は大きく、それなりの頻度で力を持つ子供が生まれてくる為に、現在の地位に辿り着いた過去がある。

 そして澪はその力に目覚め、居間の呪術師たちにその神託を下したのだった。

「……」

 だが、それはその場の大人たちにとって吉報とは言いがたいものであったらしく、全員が打ちひしがれ、微動だにできないでいた。

 数分そうしていたか、はっと我に返ると、子供に貼った護符を剥がし、泣きじゃくる2人をあやしながら、澪に布団を敷いてやった。

「今の……」

「ああ、そうか、とうとうか……」

「父さん、もう良いじゃ無いですか。諦めて神託に従う道が一番の良い道かと思いますけど」

「いや、ワシは……。すまん。考えさせてくれ」

 この翌年、紙鬼の復活により、智房が他界。更に翌年、百目鬼という『眼』の子供が門下に加わり、そして智鶴が紙吹雪の術を会得した事を知り、神託にあった運命の歯車が動き出した実感が沸々と沸いてくる中、智鶴に術の使用を禁じ、代わりとして智秋に(かみ)(ばく)(じゅつ)を教え育てることにした。更には、百目鬼の修行に自分でなく、藤村を当てる事にした。

 そうすることで、少しでも運命の歯車の動きを緩めよう緩めようと努めてきた。

 だが、今年の初め、最後のピース、『竜を操りし者』たる(りょう)()が現れた。

 それでも諦めず、智鶴が道場へ向かうと聞けば、藤村をあてがい、何とか何とか何とか智喜にとっての『最悪の事態』を免れようとしたのだ。

 だがついに先日、智鶴が紙操術師最大とも言える『()()(かい)()』に目覚めたことで、彼はやっと、もう自分の意思どうこうで歯車を止められない事を悟った。いや、竜子を受け入れた時点で、百目鬼を受け入れた時点で、智鶴が紙吹雪を操った時点で、既に悟っていたのかも知れない。それでも、何とか周りに不審がられないよう務めつつ、歯車の動きに油を注ぐ真似だけはしないよう心がけてきた。


「こうなってしまったからには、もう歯車の回るに従う他はないのかのう」

 記憶を辿った後、どこか悲しげな声で、仏壇に問いかける。

 勿論返事は無い。無くとも、そこで微笑む最愛の人を見たら、どこか救われた様な気がした。

どうも。第四章までお付き合い頂いたアナタ、本当にありがとう御座います。

だんだんと物語が動き始めましたね。次章では更に物語が加速します。

どうぞどうぞ第五章 続きのハジマリもご贔屓に!


また来週!

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