表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第四章 強さのイミ
74/151

17話 そして迎えた最終日

 最終週に入り、どこの修行場も最終行程に入っていた。

 (りゅう)(こく)(たに)()()()(がわ)の岸辺で(りょう)()から、水柱が上がる。

「うん。上出来だねぇ。凄いねえ。やっぱり若いっていいね~」

 (ふみ)()が腰に手を当て、そう言った。

「そう? へへ」

 竜子がステレオタイプにも、後頭部を掻く。

「コラ、調子に乗らないの!」

「分かってるって。でも、なんか調子がいいよ」

「竜子様、無理はなさらずに」

 汗を掻いた主人に、()()()がタオルを渡した。

「無理じゃ無いよ。さあ、もっとやろう」

「じゃあ~。もう最終週だし、実践形式で手合わせしましょう」

「臨む所だよ」

 両者構えて見つめ合う。先に竜子の放つ竜気が炸裂した――


 ――30分ほどの組み手の後、文子がストップをかけ、模擬戦は終了した。

「うんうん。最初とは見違えるほどだよ~。霊気も安定してるし、竜気や妖気の扱いも大分出来てるね。良い子だね~」

 文子が竜子の頭を抱きしめ、撫で回す。

「ちょと、やめて~痛いよ~。嬉しいけど、痛いよ~」

「あらあら。ごめんごめん。じゃあ、今日はこの辺で切り上げて、お風呂行こうか~!」

「賛成!」

 2人と2匹の竜は家に向かって歩き出した。


 

 その頃、(きん)(ぽう)(ざん)では(どう)()()が花畑に座っていた。

「百目鬼ぃ。いくぜ~~~~~」

「イェ~~~~~~イ」

 メダカの音頭で昼の修行が始まる。百目鬼も一ヶ月半もの間このノリに会わせてきた。慣れとは怖い物で、最初の頃、あんなに声を出すのが恥ずかしかった彼も、もう大きな声で返事をしていた。

「草花の総数は~~~~~?」

「450株!」

 メダカの問いに、テンポ良く応えていく。アップテンポなBGMが聞こえてきそうな雰囲気だ。

「その内、花の咲いてるのは~~~~?」

「322株!」

「花の数は~~~?」

「1458輪!」

 テンポが上がった。

「赤い花!」

「8種類!」

「青い花!」

「6種類!」

「白と黄色を足すと~~~~?」

「丁度、10種類!」

「全部大正解だぜ~~~~~~~!!!!!!!」

「いえ~~~~~~~い」

 メダカとハイタッチする。

「見違える様だな!」

「まだまだ、だよ」

「い~~~や。最初の頃と比べて、凄く良くなってるゼ~~~イ」

「うん。最初と、比べたら、大分、よく見える、よ」

「だろう? 世界が変わるだろ?」

「うん。そりゃあ、もう」

 ニッコリと笑った。

「よし、それじゃあ! もっと色んな物を、者を、モノを見に行くぜ~~~~! 俺についてこ~~~~い!!」

「いえ~~~~~~い!」

 百目鬼はメダカと共に山を駆け回った。川に行けば魚の数を数えて、山を登れば、街の様子を観察して、森の中では動物の数を、洞窟に入って暗闇でも見える練習を、山のそこら中を修行場にして、眼を養った。これが最近追加された修行だった。

 そうこうしている内に夜が訪れる。太陽が役目を終え、月が現れると、師匠もメダカから(りん)(きゃく)に変わる。

「百目鬼! 行くぞ!」

 高速で鱗脚が迫る。

 百目鬼はニヤリと笑うと、それを躱し、「遅く、なった」と一言。

「言ってくれる!」

 鱗脚との組み手も、最初のようなリンチから、誰が見ても組み手だと分かるような力関係になってきていた。

 ――だが、まだまだ戦闘は不慣れなようで、

「おっかしいな~」

 などと言って、殴られた頬を(さす)りながら、傷口に再生繊維を伸ばしまくっている訳だが……。


 *

  

 百目鬼がそんな組み手を終えた頃から、()(づる)の『仕事』が始まる。

「よ~~~し、今日から仕事での紙鬼回帰使用を許可する! だが、まだ30分の縛りは解けん! 考えて使うように!」

「任せなさい!」

 (とも)(ふさ)の指示に、智鶴は嬉しそうな顔で応えた。

「わっちも戦闘する訳だから、時間を計ってやれん~。ゴメンよ」

「大丈夫よ。自分でやるから」

 両手を合わせて、申し訳なさそうにしていた(かん)()から、ストラップの付いたタイマーを受け取ると、首に提げる。

「よし、じゃあ行くか!」

「ええ!」

 智成が引き戸をパーンと開け放つと、そこはもう()()(もう)(りょう)(ばっ)()する世界。

 低級から上級までの様々な妖が、木枯山のガスに釣られてやってくる。

()(そう)(じゅつ)!」「(こう)(れい)(じゅつ)!」

 智鶴と栞奈が、目に入った妖を片っ端から滅し、己の術で道を空けていく。その様子を満足そうに見ると、智成もジャリッと地面を蹴り、2人とは別方向の妖を目指して走り出した。

「今日も雑魚ばっかねっ」

「油断するなよ!」

「栞奈こそ!」

 たった一ヶ月半という短い期間ではあれども、共に戦ってきた実績があり、今となっては背中を任せ共闘する仲になっていた。

「うおおおおお。(きょ)(じん)(けん)()!」

 目の前の妖に放った術のゲンコツが、全くはじき返された。

「出たわね!」

 彼女の目に映る妖はその名を『()(しゃ)』という、仏像の様な見た目をした三面六臂の上級妖だ。その3つの顔による死角の無さと、6本の腕に握られた剣や盾による絶え間ない攻防に、命を落としてきた術者も、1人や2人では無いと言われるような敵である。

 だが、智鶴は余裕の笑みを絶やさず、タイマーのスタートボタンををピッと押し、一声。

「紙鬼回帰!」

と叫んだ。


 *


 そして迎えた最終日。それぞれの修行地では各々が感謝と別れを告げていた。


「ありがとう、ございました」

 金峰山の山中で百目鬼が深々と頭を下げた。

「ああ、この夏、しっかりと成長したように思うが、まだまだひよっこなのに変わりは無い。向こうに戻っても、怠けずに鍛錬しろ」

「はい!」

「って、旦那ァ堅ぇよ。軍隊かぁ~~~~?? 百目鬼! お前はいい眼を持ってるぜ。大丈夫だ。そのままもっと先を見据えるんだぜ~~~~」

「イエ~~~~~~~」

「Fooooooooooooooooooooooo!! その息だ!」

 百目鬼のこの返答を初めて見た鱗脚が、目を丸くしていた。

「ひょっひょっひょ。まあ、またいつでも遊びに来たらええ。どうせ鱗脚も寂しくして居るだろうしのう。里帰りのついででいいから、またのう、少年」

「はい」

「いや、別に寂しく等は……。だが、そうだぞ。いつでもまた来い。俺も腕を磨き上げて待ってる」

「うん、絶対に、また、来るよ」

 そして手を振り、山を下りる。

 荷物を取りに家へと戻ると、家族3人が見送りに出てきた。

「本当に送らなくて大丈夫かい?」と、父。

「うん。ここから、バス、乗ってく」

「にぃ~。行っちゃうの? 次はいつ帰ってくるの? 明日? 来週?」

 華英は兄の服の裾を掴んで、離そうとしなかった。

「華ちゃん、それは、ちょっと、無理、かな。まあ、都合が、合えば、年末、とか?」

「いいねえ。じゃあ、大晦日にすき焼き、しましょう。すき焼き」

 母はもう泣かなかった。すき焼きの言葉を聞いて、テンションを上げた妹は、意外とすんなり裾を離した。

「うん!」

「ああ、そうだった、そうだった。これ、渡しておくわね」

 そう言って、母から鍵を一つ渡された。

「なに、これ?」

「ウチの合鍵よ。これでいつでも帰ってきて良いからね」

「母さん……うん、ありがとう」

 百目鬼はその鍵をギュッと握りしめると、実家を後にした。後ろ髪引かれる思いはあれども、振り返ること無く、一歩を踏み出した。



 同刻。龍刻の谷・雄呂血川の川縁では、文子と竜子が向かい合っていた。

「本当に、帰っちゃうのぉ~。もっと居なよぉ」

「そうだぞ。吾輩も美夏萠と竜子とまだまだ遊びたいぞ」

 羅依華が地団駄を踏んで嫌がった。何千年も生きているだろうに、仕草がほんとうに見た目の歳相応で、竜子は思わずぷっと吹いた。

「あはは~。そう言ってもらえるのは嬉しい事なんだけどね。あっちで待ち合わせてるから、行かなきゃ」

 竜子は遠い千羽の地を思い出す。もうみんな帰路に就いただろうか。人型の美夏萠を見たら、智鶴ちゃんは驚くだろうか。隼人君はまた固まるかもな。そう思うだけで、心が早く早くと騒ぎ出す。

「そっか~。まあぁ、そうだよね~。引き留めたら、私が(とも)っちに怒られちゃうしぃ」

「ずっと気になってたけど、その智っちって……」

「ん? あんたらの大将、(せん)()(とも)()の事だけど~?」

 何か変? とでも言いたいように、あっけらかんとそう言ってのける。

「やっぱり……」

「智っちとは古い仲なのよぉ。語れば長いわ。それに大して変わった話でも無いしね~」

「そうなんだ」

「そうそう~」

 最後まで文子は軽いノリだった。

「荷物も積んだし、そろそろ行くね。きっとまた来るから」

「うん。あっちに戻っても、修行はちゃんと続けるんだよ? 美夏萠ちゃんと従者の皆と仲良くね。それと、それとぉ~」

「分かったよ。分かったから。もう、お母さんみたい」

「……」

 竜子の口からお母さんという単語が出たのを聞いて、どこか気まずそうな顔をする。

「別に、もうお母さんが居なくなったこと、もう引きずってないよ。大丈夫」

求来里(くくり)は……。求来里は良いお母さんだった?」

「覚えてないけど、きっとね」

「それならよかったぁ。()(しょう)(みょう)()に尽きるわ」

「じゃあ、今度こそ行くから。またね、文子さん」

「お世話になりまして、どうもありがとうございます。羅依華も、元気で」

 竜の姿のまま、美夏萠が礼を言う。他の従者達も、かってに顕現化し、口々に礼を言った。

「こら、みんな勝手に~。まあ、いっか」

 竜子はひらりと美夏萠に跨がると、「ばいば~~い。またね~~~」と叫び、2人の姿が見えなくなるまで手を振った。地上の2人も同じくそうしていた。


 

 竜子の別れより1時間くらい経った後、()(がらし)(やま)から悲鳴が響き渡った。

「うわ~~~~~。寝坊した~~~~~」

 声の主は智鶴だった。飛び起き、スマフォを確認する。きっともう他の2人は出発してるだろうと推測される時間。

「栞奈も智成も何で起こしてくれないのかしら!」

 部屋の戸をスパーンと開けて居間に出ると、そこでは朝食を終えた智成と栞奈が茶を啜っていた。

「わっち、起こしたもん」

「寝ている時に部屋に入るなって、言われたしなあ。なのに怒るなんてセンスねえ事この上ねえぜ。全く」

「あ~。もう、私が悪かったわよ」

「そりゃそうだ」

「で、智鶴は、修行着で帰るのか? 新幹線でその格好は、ちょっと浮くと思うぞ~?」

「え? あ、ホントだ! 私服どこやったかしら……」

 バタバタと居間に出てきたかと思えば、またもやバタバタと部屋に引き返していく。

「最後まで(せわ)しない奴だな~。帰ってからが思いやられるぞ」

「全くだ」

 2人に呆れられながらも、バタバタと支度していく智鶴。荷物をチェックして、服装も整えて、1時間で全部済ますと、玄関に出た。

「忘れもんないか? どっかに何か置き忘れてるとか無いだろうな」

「大丈夫よ」

「智鶴、わっちがいなくて大丈夫か? 独りで朝起きられるか?」

「だ、大丈夫……だと思うわ」

「不安だな~」

 栞奈が腕を組んで訝しげに智鶴を凝視する。

「それより、本当に世話になったわ。ありがとうございました」

「おう、良いって事よ。爺さんとか()()()さんとかによろしくな」

「ええ。分かったわ。智成も、その内実家に帰って来なさいよ」

「まあ、帰りづらくてな……。いつかきっと気が乗ったら、帰るわ」

 明後日の方向を向いて、(ほお)()いた。智成の心中にそれは、重くぶら下がってるのかも知れないが、智鶴には関係の無いことだった。

「いつでも良いと思うわよ。何か腹に(いち)(もつ)あるなら、私をここへやったりしないと思うし」

「そうだな……。まあ、それもそうだが、智鶴ちゃん。あんまり無茶をするなよ。向こうに戻ったら、ちゃんと人の言うことを聞いて、身の丈に合った行動をするんだぞ」

「大丈夫よ。任せときなさい」

「その息だ!」

 最初こそ怪しく思って居たこの言葉も、すっかり信じられる言葉になって居た。

「智鶴~。またいつでも来いよな? わっち、智鶴が来てくれて嬉しかったぞ。寂しくなるなあ……」

 智鶴と智成の話を聞いていたら、別れの実感が湧いてきたのか、栞奈の声が悲しそうになって居た。

「も~。最初の態度は何処へ行ったのよ。大丈夫、きっとまた来るわ。その時には栞奈も驚くような成長をしているはずよ。っと、そろそろ行かないと、バスが……」

 尻ポケットからスマフォを取り出し、時刻を確認する。

「じゃあ、行くわ。またね、2人とも」

 手を振って別れた。山を下りる。バス停に着くと、程なくしてバスが来た。


 こうして3人は各々千羽の地に向かった。

 一ヶ月半の修行の成果は、そして、彼らを待つモノとは……。

どうも。暴走紅茶です。

詳しい後書きはエピローグに書きますので、続けてどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ