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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第一章 操られたアヤカシ
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6話 吹雪会

 ある日の昼間。()(づる)たちが学校に行っている時間。千羽家の広間に人の気配がある。

 それは、昼間だというのに、締め切られた暗い部屋の中、(ろう)(そく)の光のもと、8人の呪術者が集っている為であった。

 どの術者も手練れであることが、立ちこめる気から察せられる。

「では、吹雪会、定例報告会を始める」

 上座に座る智喜の声が重く響いた。

 吹雪会とは、千羽家傘下の大家が名を連ねる会合の名称である。中部地方を8つに割って、それぞれがその地域の呪術者の監督権を握る名家。千羽・白澤院(はくたくいん)を始め、()(たん)(ざか)(だっ)(さい)(ねこ)(やなぎ)・雪ヶ(ゆきがはら)・弐ツ(ふたついり)月謳(つきうたい)以上の8家で構成されている。だが、千羽と血縁にあるのは白澤院のみであり、あとの7家は明治23年、宮内府より秘密裏にに出された呪術大家統制令に従い呪術者一族が編纂、区分された際に傘下となった。

 勿論当時は揉めに揉めた。しかし、結局『手出し無用の五家』と言われ恐れられていた呪術大家が上に立つ事でその事態を抑え込み、今に至るというわけである。

「では、定例に従い、月謳家から順に報告をお願いします」

 白澤院当主・白澤院(はくたくいん) (つぐる)が進行役を担い、会合が進んでいく。


「――それでは、千羽智喜様の報告をもちまして、報告会は終わらせて頂きます。他に言い残した事、連絡事項等のある方は挙手をお願いします」

 すると、一人がすっと手を上げた。(だっ)(さい)家当主・(だっ)(さい) (かん)(きち)(ろう)だった。

「智喜様よ。若輩者である立場からあんたに意見するのは良くないと思うが、気なるので、聞くけどよ。何だか千羽の地に余所者が入り込んだって言うじゃねえか。その報告はしてくれねえんですかい?」

 漢吉郎はしきたりに従い20歳で家督を継いだ。そして、現在23歳。吹雪会では最年少であった。だが、若いとは言え、その腕前は天候を操るとされる獺祭家において、歴代最強を誇る実力者だ。勿論吹雪会でも彼を『若いから』というだけで軽視する者は居ない。

 しかし、こういった古き裏の世界にはまだどこか年功序列の風潮が消え去っておらず、彼が智喜に意見をする事は異例であった。

 彼の発言に、一度場がざわつく。それを智喜が手を挙げ制すると、口を開いた。

「何。心配する事はない。(やっこ)さんの尻尾はもうすぐ掴めるじゃろうし、この一件は智鶴に暫く任せてみようと思っておる」

「智鶴様に!? まだ16にもなっていない娘っ子ではないですか!」

 雪ヶ原家当主・雪ヶ(ゆきがはら) (ともえ)が異論を口にする。

「こら、口を慎みなさい。智鶴様は千羽家の――

「いや、そう言われるのも無理はない。ワシのせいじゃて」

 告が巴を嗜めようとしたのをかっさらい、智喜が言葉を続ける。

「ワシが後継を決めかねているのが悪いんじゃ。みなには迷惑をかける。この通り、すまない」

 そう言って、深く頭を垂れる。その光景を目にし、吹雪会の面々が戸惑った様子を示す。「今回の事は、ワシが口を挟むより、智鶴に動いて貰った方が上手く事が廻る様に思うのじゃよ。どうか、皆様、ご寛容にご容赦下され」

 各々頷き、この件にこれ以上意見する者は居なかった。

 その後も淡々と定例会は項目を進め、お開きとなった。

「おい、猫柳の。ちょっといいか」

 皆が退席する中、猫柳家当主・(ねこ)(やなぎ) (また)(ぞう)を智喜が呼ぶ。

「はい。にゃんでしょうか」

 中年で背の低い男性が、ハンチング帽を取り、耳をぴょこんと立たせ、智喜に近づく。

 元来猫柳家は化け猫・猫又の一族であった。しかし、日本が開国し、宵闇が薄れていく中で人と交わり、呪術者として新たに一族の歴史を始めたという来歴をもつ家系である。その為に半分は人間、半分は化け猫といった様であり、彼の様に猫の特徴を持つ者も少なくない。

「お前のとこの傘下に、確か契約術者が居たと思うが……」

「ああ、十所(じっしょ)ですか?」

「そうじゃ、そう、その十所家、今はどうなっとる」

「どうと言われましても……。求来里(くくり)が居なくにゃって以来没落の一途という零細呪術家ですが。それがにゃにか」

「いや、いい。お前には今から言う事を了承して貰いたいだけじゃて――


 会合が終わった後、奥の間では智喜と(つぐる)が顔を合わせていた。

「此度の一件、そもそも聞かされていない上に、智鶴様に任せる等とは……。私には言って下されば良かったのに」

「悪いな。別に黙っとるつもりじゃなかったんじゃが、どう言ったものか考えあぐねて居ての……。特に血縁にあり、10年前の事を知っとるお前さんには何と言えば良いのか……」

「まさか」

「そうじゃ。運命の歯車はもう回り出しておる」

 そう言って庭のすっかり花を落とした梅の木を眺める智喜の表情は暗く、先を案じている様に見えた。

 

 所変わり、ここは清涼高校。終礼のチャイムを目覚ましに智鶴がノロノロと目を覚ます。

 キョロキョロと辺りを見回すと、百目鬼がクラスメイトの男子と談笑していた。もう友達を作ったのかと呆れたような気分で居ると、隣の席から声がする。

「あ、起きた」

「おはよう」

「おはようじゃないよ。もう学校終わったよ?」

「あら。じゃあ帰らなくちゃね」

 そう言うと呆れる日向を横目に、智鶴はテキパキと帰り支度を始める。

「じゃあ、お二人とも、さようなら」

 すっかり打ち解けた静佳と日向へ手短に挨拶を済ませ、昇降口へと向かう。そこで靴を履き替え、家路を急いだ。

 そして、そんな彼女を見つめる影があった。

 場所は3階にある2年生の教室。

「ウチの妹に何か用?」

 影に向かい、白髪の少女が強い口調で声を掛ける。

「いや~? 別にぃ~?」

 影は一瞬ビクリとしたが、直ぐに平静を取り戻すと、そう答え、教室から消えていった。

「智鶴……」

 少女は独り、西日がゆったりと差し込む教室の窓から自身の妹を見つめ、どこか苦しそうに呟いた。

 そして、彼女は何かを決心した様な顔つきになると、友達の誘いも断り、家路を駆ける。この華奢な少女のどこにそんな力が、と思わせられる俊足で家に飛び込むと、妹の部屋へと足を向ける。そうして、(ふすま)の取っ手に手を掛けようとしたままの姿勢で固まる。

 今更どうやって話しかければいいのよ……。

 彼女は見えない重しに潰される様に膝から崩れ落ちた。

 彼女たちはもう4、5年は口を利いていなかった。始まりは些細な嫉妬心だった。それが日に日に根を張り、引っ込みがつかなくなっていた。

 本当なら今すぐにでもこの襖を開けて、妹を叩き起こし、気をつけろと言いたい。心配していると、力になりたいと。しかし、このたった2センチ弱の厚みしかない襖に遮られた妹との距離が、とてつもなく分厚く重い絶壁に思われ、どうしても踏み込めなかった。

 やっぱりだめだ……

 よろよろと立ち上がり、落とした鞄を掴むと、不安と後悔の念に(さいな)まれながら、自分の部屋へ消えていった。

どうも。暴走紅茶です。

平日は仕事に時間を潰され、土日は溜まった家事をこなし、いつ書いたら良いのやら。

でも、なんとなく書いちゃうんですよね~。趣味は辞められまへんがな。

皆様は趣味とか持ってますか? 趣味はええもんですよ。

暇が無くなるからね!

では、暇を持て余しつつ。今週はこの辺で。

また来週お会いしましょう!

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