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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第四章 強さのイミ
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12話 集中修行その2

(どう)()()(はや)()が取り組む、集中修行、最終日の3日目は起きてからずっと精神統一、即ち全身へ妖力を行き渡らせる感覚を磨き直すことに徹し、夜を迎えてから、ついに妖術の発動を学ぶ事となった。しかしながら、ここまでの修行の成果をどう使ったとして、これがどうにも上手く活かせない。

「何も難しい事は無い。暴走状態を思い出せ。妖力を濃密に練り上げろ」

「はい……」

 (りん)(きゃく)の言葉に、素直に返事をするも、心中は穏やかで無く、やってる。言われたとおりにやっているのに、なかなかに難しい。と反発するような気持ちが湧いていた。

「おお~やってるな! どうせ旦那の事だから、根性論だけでやってるんじゃねぇかって、思って見に来てみれば、案の定だ」

「うるさい」

 メダカが木にもたれかかり、腕を組んで立っていた。

「百目鬼ぃ、花畑での修行覚えてるか~? あれ、今やってみ」

「何を、見たら、いい?」

「何を!? 全てに決まってるだろ~~~~ぅ!」

「すべて……」

「そうだァ。何をというわけじゃねェ、全てを境無く『視る』んだぜ~~~い」

「全てを……境無く……」

 百目鬼はゆっくりとしゃがみ、地面に手をつける。

「……千里眼!」

 辺り一帯を視る。この山に来る前は、水墨画のような白黒の世界に見えていたのに、色彩豊かに、カラフルに見渡せた。まるで本当にそこへ赴き、直に目で見ているような感覚である。

「あれ……?」

「おおぅ! 分かったようだなぁ!」

「ああ」

 彼はしっかりと首肯した。

「それでやっと俺に追いついた位か~~~~。万里眼はもっと見えなくちゃいけねえYO! 例えば空気を見るなら、その中を流れる水気。それが上に流れているのか~~~~~? 下へ流れているのか~~~~~?」

「全て……」

 見よう、見ようとして、どんどん力む。妖力を高められるだけ高めていく。

 思い出せ……あの時の感覚……。

「おい、力みすぎだ。それだと無駄が多すぎる。もっとイメージしろ。全身に眼を開いて、360度全てを見るんだ」

 鱗脚に言われ、深呼吸をし、再び挑戦する。

 今まで培ってきた基礎を思い出す。過不足無く均一に力を。そして、眼にその力を集約する。

 イメージ、しろ。イメージ、しろ。腕、から、更に、先へ、肩、脇、胸、首、胸、腹、背……。

 百目鬼がイメージを膨らませれば膨らませる程、それに呼応して腕の眼が大きく開く。そして、肩に脇に胸に首に……次々と眼が開いていった。

「おお!」

「いけそう。……万里眼!」

 妖気が全身に過不足無く行き渡ったとき、全身隈無く開眼した。が、それも一瞬。何かが見えた気がしたが、それも気のせいだったかも知れない。

「はぁ……はぁ……」

「良い調子だ! もう一度!」

「いや、休んだほうがいいぜ~~~~~。ちょと力を出しすぎだ!」

 メダカの言葉に、身体の力を抜き、その場にへたり込む。力みすぎていたからだろう。足と腕の筋肉がピクピクと小さく痙攣していた。

「まあ、とっかかりとしては上出来だろう。あと、そこの牡丹坂。遠慮しなくていい。出てこい」

「は、はいッ!」

 少し距離を置いた先の木陰から、そっと百目鬼を見守る少女に、鱗脚が声を掛ける。見つかっていないと思っていたのだろうか、驚いた声を上げて近づいてきた。

「休憩をなさるなら、一度診察させて頂きます」

 桜樺はテキパキと準備を整えると、至って真面目に触診等の診察を行う。

「大分妖化が進んではいるものの、まだ人の枠に止まっていますね。良好と言えるでしょう。このまま続けて問題無いです」

「ありがとう」

 2日目、椿姫が早めに帰ってきたことに不安を感じた彼女は、こっそりと入山していたのだった。そして、こうして百目鬼の診察が出来てホッとしたのか、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「じゃあ、もう一度!」

「はい!」

 再び立ちあがり、妖術の発動を試みる。

 さっきの要領で!

 一気に妖力をトップギアに持って行く。腕の眼、身体の眼が開いていく。

 暴走した、時の、感覚、頭が、真っ白で、殆ど、覚えて、いないけど、確か、凄く、頭が、冴え、渡っていた!

 ……だから、だから、もっと、思考を、クリアに、来る、情報を、拒まず、流し、整理する、感覚!

「万里眼っ!」

 暑さに乾いた喉が裂けるくらい、身体の芯が揺れるくらい、大きな声で術を叫ぶ。

 全身の眼が大きく大きく見開いた。

 でも、そこで止まらない。どんどん全身の眼という眼に妖力を行き渡らせる。コントロールする。暴れるくらいに練りまくった妖力を、余すこと無く!

「…………………………見えた!」

 千里眼での見え方が鳥の様とするならば、万里眼状態だと、その見え方はレントゲンや透視に近いと言えた。木々の導管・師管。風の流れに、飛び交う動物の筋肉・骨・血管・雑木の動きまでが全て見渡せた。勿論カラフルに、それは実際の目で見るよりよっぽど……。

「凄い、綺麗……」

 全ての生物が鉱物が物質が物体が持つ気と、その流れが見えた。木々が地中から水を吸い上げる様が見えた。リスに(かじ)られる木の実とその中に住む芋虫が見えた。今まで見たことの無い全てが見えた。

 だが、感動も(たけなわ)になった頃、それはすっとズームを引く様にしてフェードアウトしていった。

「あれ、消えた……?」

「発動は出来たな! 次は維持だ! 維持が出来たら、戦闘訓練に入る! 絶対にこの夏、全てを覚えて貰うぞ!」

「はい!」

 直接的に褒められた訳では無いが、これは鱗脚なりに十分褒めてくれていると感じた百目鬼は、嬉しそうに表情筋を弛緩させた。


 結局3日目も発動するだけで、維持の訓練とまではいかなかったが、十分に及第点を頂き、そして桜樺からもこのまま修行を続けても大丈夫とのお墨付きを得た事で、無事に集中修行を終え、帰宅出来る流れになった。

 ボロボロになった着替えをたたみ直してリュックサックに仕舞うと、「ありがとう、ございました。また、明日。お願い、します。桜樺も、ありがとう、ね」と(しっか)り頭を下げ、(いえ)()に就く。


 そんな人の子らを見送った妖共は、何と無しに会話を続けていた。

「いやあ。鱗脚の旦那も、スパルタだね~~~~」

「いやいや、大分優しくしているじゃろ。ひょっひょっひょ。珍しい位じゃて」

「うるさい」

 三柏翁のからかいに、照れくさくも否定する鱗脚。

「まあ~~~? それだけ、百目鬼が優秀というわけで」

「どうかな」

 愛弟子を簡単に認められない、難しい年頃の師匠は、わざと難しい顔をして腕を組み直す。

「あ、もしかして、弟子を褒められて照れてるのか~~~~???」

「うるさい」

 といいつつも、口元は笑っていた。

 そんな三人の元へ、何処とも付かない場所から新たな影が現れた。

「メダカ、よくやっておるか? 三柏翁殿、鱗脚殿、お久しぶりだな」

「おお、メダカの(あるじ)がお出ましだ」

「ひょっひょっひょ。久しいのぉ。ぬらりひょん」

 新たな影は続けざまに問いかける。

「して、我からメダカを派遣させ、面倒を見させている奴はどんな調子だ?」

「まずまずだ」

「ふん。そうで無くては、わざわざ百鬼を九十九鬼に減らした意味が無い」

「ひょっひょっひょ。百などとうに越えとるじゃろ」

「言葉の綾だ。そういうことなら良い。メダカ、あと半分となった修行期間も、ちゃんと面倒を見るのだぞ」

「任せろ~~~~~い」

 そして月夜に照らされる影は、再び3つとなった。


「た、ただいま……」

 3日ぶりの実家は、数ヶ月ぶりに帰ってきた気さえするほどに、懐かしく心底ホッと落ち着いた。家に入ると、直ぐに風呂を済まして寝間着に着替え、ソファに沈み込む。

「あ~~~~~~。疲れた……」

「にー、オヤジくさい~」

 華英がそう言って笑うのも、日常に一時帰宅したみたいで、心がゆるりと(ほど)ける。

「だって、疲れた、もん」

「はいはい、お疲れ様。何してきたの?」

「企業秘密」

「けち~~」

「華ちゃん、あんまりお兄ちゃんを困らせないの」

 洗濯物をたたみながら、母が娘を(いさ)める。

「は~い」

「でも、元気そうで何よりだわ。ちゃんと帰ってきてくれてありがとう」

「そんなに、改まら、ないで。帰って、来るよ。ここが、実家、なんだし」

「あら、嬉しい言葉ね。今日はお肉買ってあるから、お父さんが帰ってきたら、すき焼き、するよ~~!」

「すき焼き!? やった~~~」

 華英が嬉しそうに両腕を掲げる。百目鬼もまた嬉しそうに笑っていた。


 だが、この修行の本題はまだ始まったに過ぎない事を、この時の百目鬼はまだ知らない。

どうも、暴走紅茶です。

今週も読みに来てくださり、誠にありがとうございます。

先週に引き続き、百目鬼君の修行回でしたが、いかがでしたでしょうか?

来週も引き続き、お楽しみに!

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