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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第三章 弱いワタシ

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18話 これからのこと

それから一週間、()(づる)は目を覚まさなかった。

 あの後、智鶴と(りょう)()を連れて帰った千羽一行は、彼女らを客間に寝かせ、(じゅ)(じゅつ)(てき)(しょ)()()(じゅつ)(てき)(しょ)()を行った。翌日の昼過ぎには()(たん)(ざか)の術者も来て彼女らを診察、その甲斐あって竜子は三日と経たずに目を覚ましたのだが、智鶴はなかなか目を覚まさなかった。

 智鶴は夢を見ていた。

 夢の中で智鶴は様々な紙鬼になっており、歴代の色々な()(そう)(じゅつ)()と共にあった。心からパートナーと認め、共に力を合わせた術者が居れば、完全に拒絶した術者も居た。中には力に呑まれ、家族や門下の者と思しき術者に滅された末路を辿る者も。

 知らぬうちに右目から涙を流していた。喜怒哀楽の4字では表しきれない、全ての感情が流れ込んできた。

 そんな光景も、テレビのチャンネルを変えるように、ブツンと切り替わる。

 彼女は真っ暗な世界に立っていた。

 本当に立っていたのかは分からない。上も下も右も左も何も分からない闇そのものの中に居た。

 そんな中、彼女に話しかけた者が居る。

「やっとここまで来たか」

「誰?」

「だから、私はお前だと言ったハズだが」

 その声は靄の様なものから聞こえる。何も見えない闇の中、それでも実体の無い何かがそこには居た。居ると分かった。

 智鶴はこのまま(こん)(にゃく)(もん)(どう)になるくらいならと、話を変える。

「あの後どうなったの?」

「全部全部滅そうとした」

「それで?」

「でも、邪魔された。敵に、人に。みんな私の邪魔をする。だから骨みたいなやつしか滅してない」

「じゃあ、ぬらりひょんは!?」

「知らん」

「そう……」

「早く目を覚ませよ。そうしたら、私が直ぐにでも探し出して滅してやるから」

「いや、いいわ。アナタに頼るだけなのも違うと思うから。私は私のやり方でアイツを滅する」

「何で。私の力が信用できないのか?」

「そんな事は無いわ。でも、やっぱり仇が消えていくところを自分の目で見て、記憶に残したいじゃない」

「そうか……まあ、いい。どうせお前は直ぐ私に頼るから。みんなそうだから。私は知って居るぞ。でもまあ、好きにすると良い。お前が私を求めるまで、私はひっそりとしててやろう」

 声が止むと、靄は急速に小さくなっていった。それに吸い込まれる様にして、その暗闇の世界も消えていく。そして、黒い画用紙に白のペンキをぶちまけるが如く、眩しいほどに明るい白の世界が広がった。


 そうして智鶴が夢を見ている間、居間に面した縁側には竜子と(どう)()()が腰掛けていた。

「でね、初めての感覚だったんだ。()()()と完全にでは無いけど、一体になる感覚。きっとあれを磨いたらもっと先へ行ける気がする」

「そんな、事に、なってた、んだ」

(はや)()君の方は?」

 こうしてあの夜あった事を話していた。

 本当はもっと早くに話し合うべきだったのだが、その後、滅茶苦茶になった鼻ヶ岳の修復や智鶴の看病や何やらでばたばたしており、なかなかこうしてゆっくり話す機会が得られていなかったのだ。

 百目鬼は智鶴と自分の事を竜子に話して聞かせた。

「智鶴ちゃんが……。それで今こうなってるんだ」

「そう。あれは、紛れも、なく、()()、だった。智鶴、混じってない、ハズなのに、何だったん、だろう」

「分からないな。紙操術自体門外不出で、他家には家の成り立ちくらいしか明かされてないでしょ? 私もこうしてここに来るまでただ紙を浮かせられるくらいだと思ってたし」

「そう、紙操術、には、秘匿が、多い」

「そうだね……。ああ、あと、隼人君の頭痛のほうはどうなの?」

「あれ以来、ない、よ。多分、鬼気に、当てられた、だけ、だと、思う」

「そっか、大事なくて良かったね。それにしても、今回の件は分からない事だらけだね」

「うん……。でも、一つ分かること、ある」

「何?」

「俺たち、まだまだ、だって、こと」

 ふたりして、顔色暗く、靴下の柄を凝視してしまう。

「そうだね……。私ね、智鶴ちゃんが起きてから言おうと思っていたんだけど、この夏休みに出稽古することになったんだ。智喜様にお願いしたらね、快く承諾してくれて」

「竜子も? 実は、俺も」

「そうだったんだ! 智鶴ちゃんはどうするんだろうね」

「分から、ないけど、きっと、どこかへ、行くか、此処で、するか、あの力に、ついて、智鶴は、学ばな、ければ、ならない、と、思う」

「そうだね。じゃあ、夏休みの間はみんなバラバラかな」

「うん。2学期には、強くなって、再開」

「それが最高だね」

 2人がそう話していると、客間の方が騒がしくなる。何だ何だと()()(うま)に集う門下生を掻き分けて先頭に出る。

「あら、2人とも。おはよう。心配掛けたわね」

「智鶴!」「智鶴ちゃ~~~~ん!」

 智鶴が目を覚ましていた。2人は枕元に駆け寄るが、竜子は勢い余らせ抱きついた。

「ちょっと、今私汚いから、止めなさいよ。恥ずかしいわ」

「いいじゃん、いいじゃん。目が覚めて本当に良かったよ!」

「ありがとうね」

 その後、智鶴は風呂へ入り身を清めると、医者からの検査と問診を受け、病床から抜け出した。

 本家の居間にて、軽食をとる智鶴の前には百目鬼と竜子が座り、3人で座卓を囲む形をとっていた。

「いやぁ。今回はよく眠ったわ」

「そんな軽い話じゃ無いよ」

「本当に、そう。心配、した」

「ごめんなさいね」

「でも、起きたら元気そうで良かった」

「ええ。不思議と体はピンピンしてるの。寝たっきりだったから少し歩くのに違和感があるくらい」

「そっか。でも、本当に良かったよ。隼人君から、鬼になったって聞いて不安だったし」

「……そうね」

「あれ、何? だったの?」

「私にも分からないの。でも、分からなくちゃいけないことは、分かってるつもりよ」

「そう……」

 その時、スッと廊下側の障子が開けられた。

 一段落付いて話をしている3人の中に、割り入る者が居た。

「会話中失礼する。智鶴は目が覚めて本当に良かった。急で悪いが、3人とも奥の間へ来てくれ。丁度準備が整った」

それは智喜だった。

 今回は大きな()()など無かった智鶴だが、一週間も寝ていたとなると、足腰が弱化している。いつもよりも数割遅い足取りで、奥の間へ着いた。

「早速で悪いが、お主らの出稽古について話す」

「いや、お爺ちゃん、ちょっと待ってよ。何の話?」

「お主ら、誰もこのことを話して居らんかったのか?」

「あ、はい……すみません。最近のバタバタで。隼人君が行くこともついさっき知った訳でして」

「呆れたわい。情報の共有は大事じゃぞ。まあ、いい。そういう訳じゃ。竜子と百目鬼は自ら出稽古とその行き先を志願してきた。そして今し方先方と話がついたとその報告じゃ」

「何それ!? 私も! 私も行く、行きたい……です! 私も、強くなりたい!」

「……そう言うと思ったわ。ちゃんと場所は用意してある」

 智喜はニヤリと笑い、話を続ける。

「それでじゃ、お主ら3人には明後日、終業式の次の日から出稽古へ向かって貰う。行き先はそれぞれ決まって居るじゃろうから、そこへ向かう様に。智鶴は後で話すから残ってくれ。また、行くに当たって条件がある」

「何かしら」

「一つ、修業先では千羽の名に恥じぬ行動をすること

 一つ、大きな怪我やトラブルがあった場合には、お主らの意思に関係なく中断とする

 一つ、無茶をしたり、師に刃向かったりすることの無い様に」

 そして最後に、

「一つ、夏休みの宿題はきちんと終わらせること

 お主らはまだ高校生じゃからな。いくら呪術師と言えども高校生の本文は勉学じゃ。教養を身につけることは術の成長に繋がる部分もあろうて」

 「わかりました」宿題の話に苦笑いを浮かべつつも、各々がそのように返事をし、解散となった。

 皆が去った奥の間に、智喜と智鶴の2人が残る。

「それで、私は何処へ行けばいいのかしら?」

「まあ、そう話の先を急ぐな。お前には一つ話しておかねばならぬ事がある」

「何かしら」

「紙操術という術、そのものについてじゃ。この術はお前も知っての通り、紙鬼に取り憑かれた開祖の編み出した術じゃ。言い換えれば、紙鬼に取り憑かれたからこそ産まれた術とも言える」

「何が言いたいの?」

「まあ、言うより見た方が早いじゃろ」

 そういって、智喜は呪力を練る。己の魂にアクセスし、その中に潜む鬼を呼び起こす。

 すると、智喜の左の額から角が生え、手足の爪は鋭利になり……と、智鶴の鬼化と似た症状を示すが、白目となったのが左目だけである事、自我を保っている所など、異なる点があった。

「紙操術の神髄には、その紙鬼の力を引き出すものがある。その名も『()()(かい)()』。それがこれじゃ」

「こんな術が……。全然知らなかったわ」

「そりゃそうじゃ。教えてないからな」

「……ずっと聞きたかったんだけど、どうして私は術を教えてもらえなかったの?」

「それはじゃな……また追い追い話させてほしい。それは今じゃ無いんじゃ。取り敢えず今は道場で基礎を習い、この夏には出稽古の許しも出した。それでどうか満足してもらえんかのう」

「……いいわ。でも、必ずいつか私の納得するように話しなさいよ」

 どこか不安を残したままに、智鶴は引き下がった。

「必ず」

 智喜はとてもとても渋い顔で返事をした。

「話を戻そう。智鶴。お主にはこの術を学んできてもらう。行き先は()(がらし)(やま)じゃ!」

「木枯山!? 大霊山の一つじゃない!」

「そうじゃ、その山に住む、智房の弟、(せん)()(とも)(なり)の元で修行を積んで欲しい」

「……お父さん、弟なんて居たの?」

「居た。そしてそいつは、ワシが知る中で現存最強の紙操術師じゃ」

「最強……お爺ちゃんよりも?」

「ワシを倒して、この家を後にした男じゃからな。まあ、息子に負けているなど悔しいが、頼もしい事この上ないとも言えるからのう」

「父さんの弟で、最強の紙操術師……。分かったわ! 私、行く! 行ってその最強をかっ攫ってくる!」

「うむ。それでは明後日に備えなさい」

「はい!」


 こうして、全員の修行先が決まった。

 果たしてこの夏休み、彼らは何を学び、何を知り、何を得るのだろうか……。

ハッピーメリークリスマス!

は昨日のこと。

どうも、暴走紅茶です。

早い物で、本年ももう終わりですね。それに伴い、今年ラストの更新です。

それと、この小説も来月で1周年です。記念に何かやれたらなと思いますが、何かして欲しいことはありますか?

もしもあればここの感想か、Twitterの方まで是非。

最後に、今回はもう一話更新ですので、そちらも続けてどうぞ!

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