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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第三章 弱いワタシ
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15話 空の戦い

()(づる)(どう)()()が戦闘を始めた頃、(りょう)()の挑発にまんまと乗ったふらり火が、彼女目がけて飛んできていた。

「飛んで火に入る……いや、飛んだ火が入る? まあ、いいよね! どっちでも!」

 竜子が景気づけに()()()の体を叩くと、それに応じて思いっきり(ほう)(こう)。ふらり火を()(かく)する。いくら上級の妖といえども、超級に属する(みずち)(りゅう)()(はら)んだ咆哮には耐えられない。怯んだところを、すかさず尻尾ではたき落とす。

「ナイス! 美夏萠。追撃よ! (すい)(りゅう)(ほう)!」

 落ちていく妖に向かい、川の激しい水流を思わせるブレスを吐く。重力落下に更なるスピードが加わり、地面に叩き付けられる妖。その上、火の妖に、美夏萠の水は効果が抜群だった。

 完全に(ちん)()したふらり火が地面にめり込むのが、上空からも確認出来た。

「やった~。美夏萠、凄いわ! 修行の成果ね!」

 竜子は実家から帰ってきてからと言うもの、朝は学校へ行くまで持ち帰った書物を読み、放課後はそれに書かれた技や身体の訓練を行っていた。直ぐに抜群の効果は示さないものの、着実に自分の力となってきている感覚があった。

 確実に仕留めたのかな……。上空から警戒を解かずに見守るが、流石は上級の妖。この程度ではやられていなかった。骸にしか見えない鳶の体に向かい、ふらりと人魂のようなモノが近づく。それが触れた瞬間、再び燃え上がった。力を取り戻したふらり火は、大きく羽ばたくと、竜子へ向かい両翼を振る。すると、その翼から抜けた羽が、炎の槍となり、彼女らを襲った。

 ふらり火の妖術、()(ちょう)(ふう)(げつ)だ。

 この程度、ブレスでいなせると高をくくった美夏萠が慢心のブレスを吐くも、ジュッと軽い音を立てただけで貫通し、その体を襲った。

「クッ! 美夏萠、大丈夫!?」

 その心配に、小さくガウッと鳴いて応えると、体勢を立て直そうと、一歩退く。だが、それも後手だった。気がつかぬ間に背後を取られており、背をその翼で激しく打たれた。「ガッ!」

 うめきのような声を上げる。更に追撃追撃、火鳥風月も交えたコンボに、態勢を直せぬまま、只やられてしまう。それでも諦めずに、竜子はマドウメを顕現化させる。屍をベースにした妖に効果があるのかは未知数であるが、必死の願いを込めて、術を発動させる。

「マドちゃん! 幻覚複製!」

 幻影を使った影分身である。今ふらり火の目には美夏萠が幾体にも増えたように写っているだろう。その中の一つ、唯一の正解である本物に跨がる竜子は、頼む、効果があってくれと祈り、指を組んだ。

「……」

 効果はあった。ふらり火は動きを止め、急に増えた美夏萠を見定めるように、ホバリングする。それ隙にと、増えた全美夏萠での集中攻撃。だが、それも上空へ飛ぶこととで回避されてしまう。そして、急降下と同時に放たれた花鳥風月の雨が降り注ぐ。

 それをくさりんを振り回すことで、当たる羽を軽減させ、更に急降下して突っ込んできた本体を牽制することに成功した。完全に体勢を立て直した美夏萠はふらり火と(そう)(たい)し、(にら)()う。美夏萠が低く唸り、威圧を掛けるが、我関せずといった様子のふらり火は大きく大きく一声鳴いた。

「ギャ~~~~~~~~」

 それは鳶とは思えない程汚く、(おぞ)ましい叫びだった。その声に反応して、新たに人魂が寄ってくる。それを吸収したふらり火は更に火力を増し、数周り大きくなった。

「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 もう一声鳴くと、()(ちょう)(ゆめ)を発動。先ほどの花鳥風月と違い、槍のような羽でなく、小鳥の姿を模した火がそのくちばしを尖らせて迫ってくる。これは受け止めきれないと判断した美夏萠は回避行動に出るが、追尾機能が付いているようで、逃げても逃げても追ってくる上に、その殿(しんがり)には、ふらり火本体が飛んでいるのが見える。恐らく、この小鳥で弱らせたところに、トドメを刺すつもりなのだろう。

 そうはさせないと強く思う竜子の思考はどんどん加速していく。

 『呪力循環 発』は一撃必殺。もしも外したり、効果が弱かったりしたらもう終わりだよね。今は使い時じゃ無い。それでも、他に出来る事……出来る事……。思い出せ、思い出せ、書物には何が書いてあったか? 思い出せ、思い出せ、思い出せ、

「思い出せ~~~~~~~~~~~~」

 その瞬間、ふと脳裏を過ったのは、書物のことではなかった。あの日、書物を持ち帰った日、襲ってきた竜使い。雷の竜使い、若い見た目の女性、その女性は……。

「一か八かね……」

 あの女性がどうやってあんなことをしていたかなんて分からない。それでもあの人は竜の力を自身に宿していた。それは恐らく、極限まで竜と一体になることに違いない。

 わからないけど、きっと私にはまだまだ先の先に成せる業なのだろうけど。でも、憶測でも、今出来ることをする!

「美夏萠、よく聞いて。いまから2人の波長を最大限に合わせるわ。それでどうなるかなんて分からないけど、きっと何かが変わると思う。今はそれに賭けるしか無い」

 美夏萠はその言葉を理解すると、雲よりも高く飛び上がる。上空は風の流れが速いのだ。上手く行けば、火を媒介とした技なら、風に吹き飛ばされ、その数を減らせるかも知れない。

 美夏萠が回避行動を続ける中、竜子は相棒の波長を読むことに専念する。竜気は余りにも厳かで、百目鬼ですら読むことは難しい。それでも長年ずっと一緒に居る竜子に分からないなんて道理は通らない。

 読んだ波長に自分の波長を合わせていく。

 先ずは呼吸、そして(まばた)き、心音に至るまで……。

 どんどん美夏萠と自分の境が分からなくなる。

 自分が美夏萠になって、自分になった美夏萠を乗せているかの錯覚にすら囚われる。

そして、意識もずっと遠くなっていく。

 今まで浮いていると思っていた自分が、急に沈む。

 深く深く。

 湖の底にゆらゆら沈んでいく感覚。

 不思議と苦しくは無い。心地よい感覚。

 底には誰かがいて、その人は「大丈夫よ。竜子。大丈夫」とそれだけ言った。

 声を聞いた瞬間、急激な浮上感に襲われる。

 水中から酸素を求めて地上へ逃げる様に、ザブンと。

 全てが初めての感覚だった。

「今の何? あの声、美夏萠……?」

 波に揺られる心地よい感覚のまま、辺りを見回し我に返る。酷く健やかに頭が冴え渡っていた。戦闘中だというのに、どこか心地よさも感じる。ドクン。自分でない誰かの脈動を感じる。

 今の竜子と美夏萠は溢れる気の波長はおろか、その鼓動一つに至るまでリズムが揃っていた。

 するとどうだろう、2人の間にあった力量がコンプレッサーを掛けたかのように、一律になっていく。竜子の霊力には美夏萠の竜気が交ざって、美夏萠の竜気には竜子の霊気が交ざって。多いモノは減り、少ない物は増える。

 分かる。いつもは私の霊力量までしか力を発揮できない美夏萠が、私に自分の気を流し込む事で、許容量を底上げして、その(かせ)を外さんとしている事が。

 野生に戻っていくかのように荒々しく唸る美夏萠、それは正直怖い。私というブレーキが無くなり、野生の蛟となった時、この子はどうなってしまうのだろう。

 彼女の心にはそんな不安も溢れてくるが、それでも先ほど聞いた大丈夫の声に心を委ねて()()める。

「美夏萠! 好きなだけやりなさい!」

「グヮガ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 今までに聞いた事の無い()()な雄叫びに竜子ですら怯みそうになるが、それでも(しっか)りとしがみつき、相棒を信じる。

 美夏萠はくるりと振り向くと、迫る小鳥の大群に向かってブレスを吹いた。そのブレスは、今までのが水鉄砲に思えるほど強化されており、触れたものから順に鎮火され、消えていく。

 全ての()(ちょう)を散らされた今、再びふらり火と対面し、低く唸る。

「ここから再スタートだよ!」

 竜子の声が広い空へ響き渡った。

どうも。暴走紅茶です。

今週もありがとうございます。

来週も、どうぞよろしく。

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