12話 そして、今へ
百目鬼は田んぼに挟まれた線路を行く、単線電車に揺られていた。
沢山沢山迷って、考えた。智鶴にも竜子にも、藤村にも、智喜にも、美代子にも。また、事実を誤魔化しながら日向にも、みんなに相談してようやく決意が出来た。
彼は実家に向かっていた。
実家とはいうものの、彼はそこで暮らしたことが無い。それは、彼が実家を去った後、母・春賀の体調が優れないことを理由に、彼女の実家付近に建て売りで買った新たな家の事だからだ。そこでは今、両親と妹が暮らしているのである。
タタン……タタン……という音に身を任せて、ボーッと外を眺める。1ミリも記憶に無い原風景。郷愁の念も何も無く、ただただ心に抱えるのは不安と後悔だけ。
先に語った過去の中、両親の彼に対する思いなど1つも知らない。きっと俺は親に捨てられたんだ。そう思っていた。それでもみんな、口を揃えて里帰りしろという。
どうしても踏ん切りが付けられない中、智鶴が吐いた言葉「成長したのなら、親に報告するのが子供の務めよ。さあ、行ってらっしゃい。私はここで待ってるから」が彼の背中を押した。
待っていてくれるなら、ちゃんと結果を残して帰らなきゃな。そんな思いが彼の中にフワリと漂う。
電車は最寄りの駅に着いた。駅に降り立つと、初めて懐かしさに襲われた。だけれども、何かを思い出した訳ではない。ただ、何となくそんな気がした。
バスに揺られて数十分。言われた通りの場所に、言われた通りの建物が建っていた。
震える手で呼び鈴を押す。
それは幾度も建物の中を木霊し、そしてスピーカーから質の悪い声が聞こえてきた。
「はい、百目鬼です」
いやにうるさく心臓が体を震わせる。その鼓動一回一回が胃に響いて気持ち悪くなってくる。
「あの、僕は……」自己紹介をしようとしたのに、そこで声が途切れる。みんなに背中を押して貰って、遠路はるばるここまで来たのに、情けない……。泣いて蹲ってそして逃げ出して仕舞いたくなった。
「もしかして、隼人?」
10年近く会っていないのに、ずっと連絡もしていないのに、何センチも背が伸びて、最近はニキビまで出来て、もうすっかり見た目が変わったのに、名前を呼ばれた。
「…………う、うん! ただいまっ」
その言葉がためらいもなく出てきた感動に、思わず涙をこみ上げそうになる。久しぶりの再会に涙は似合わない。グッと堪えて笑顔を作ると、玄関が開け放たれた。
駆け出してきた女性は、遠い記憶の中よりもずっと老けていて、すこし太ったみたいだった。それでも、はっきりとわかる。
「母さん……」
ぎゅっと抱きしめられた。
「……」
何も言わない。
折角作った笑顔が台無しになった。
暫くそうしていたが、少し落ち着くと、母が手を握る。
その手に引かれて家に入った。
初めて入ったのに、どこか懐かしい匂いがした。
リビングに通された。そこには艶やかな長い黒髪を左肩の辺りから胸にかけて流し、少し大きめの白いパーカーにタイトな黒いスキニージーンズを穿いた、綺麗な女の子がいた。彼女は、誰? と言わんばかりに百目鬼を見上げた。
初めて見るハズの女性だと思ったが、それでも血の繋がりとは不思議なもので、彼の中に答えが浮かぶ。
「もし、かし、て……華ちゃん?」
「……もしかして、にー? にーなの!?」
華英は驚き慌ててスマホを落とした事にも気がつかず、飛び上がるように立ち上がった。
にーと呼ばれる懐かしさに、また鼻の奥がツンとする。
「お母さんが慌てて飛び出していくから何事かと思ったけど、にーが帰ってきたんだ」
「うん。ただいま」
「座ってよ」
座り直すと、華英はソファーの空いている所を手で叩く。
「ありがとう」
「ごめんね、急に帰って来るなんて思って無くて、今日は泊まっていくでしょ? お母さんお買い物に行ってくるから、2人で待っててくれる? お父さんももうすぐ帰って来ると思うけど」
「うん」
そう返事はしたものの、「泊まっていく」という言葉に、ここは本当の居場所では無いと言われているようで、寂しい気がした。それでも拒絶もなく、大歓迎された事で、心に支えていたモノがスッと落ちていった。不安も後悔も見る影を失った。
お母さんが出て行った、2人きりのリビングで、隼人が口を開いた。
「あのさ、……俺のこと、恨んで、ない?」
「10年ぶりくらいに帰ってきて、急に何を言い出すかと思ったら」
「いや、少し、不安、で」
「て言うか、にーってそんなにカタコトで話すんだね。遠い記憶の中ではいつも凄く楽しそうにしていた気がしてたから」
「そうだね、話すのは、苦手。でも、嫌いじゃ、無い」
「そうなんだ。話し相手もちゃんと居るんだね。良かった、独りじゃ無いんだね」
「……」
「私ね、ずっとにーの事どう思って良いか分からなかった。確かにあの頃お母さんが倒れたのも、何度も引っ越したり、家族が分裂しちゃったのも、にーのせいかもしれない。でも、もう記憶には殆ど無いし、見ての通りお母さんも元気だし。うん。恨むなんて事は無いな。いつかきっと会いたいなって、そう思ってた」
「……」
「も~。黙ってないで返事くらいしてよ。ちょっと恥ずかしいじゃんか」
照れているのを誤魔化そうと、彼女は百目鬼をペシペシと叩いた。
「……ありがとう」
「……」
「華ちゃん、綺麗に、なったね。今は、楽しい?」
「オジサンみたい」
そういって華英はプッと吹いた。百目鬼はあたふたして、顔を赤くした。
「からかわ、ないで」
「ごめん、ごめん。楽しいよ。ずっと東京に居たら、もっと違う生活があったかも知れないけど、今もちゃんと楽しいよ。学校に友達もいるし、部活も楽しい。今日もね、部活してきたんだ」
「部活は、何?」
「吹奏楽部。トロンボーン吹いてるんだ」
「いいね。音楽か。俺も、仲間が、ギター、やってて」
「仲間って何? 友達じゃ無いの?」
「友達、友達……うん。そうだと、思う」
百目鬼にとっては竜子も智鶴も、友達と言うよりは仲間と言った方がしっくりくる。友達なんて改めて思うのも、何だかちょっと照れくさい。
「変なの。にーは? 部活とかしてるの?」
「俺は、仕事が、あるから」
「仕事……」
兄とは全く違う生活をしている事に初めて気がつき、マズい質問をしてしまった気がした。そしてそんな表情を読み取った百目鬼も、気を遣わせてしまっていると思い、何とか空気を戻そうと言葉を探す。
「……あ、でも、学校に、仲いい奴、いるよ」
「へ~。そうなんだ。その人、彼女?」
「かッ! 居る訳、無い、だろ」
「どうなんだろ~? さっきのギターやってる子ももしかして、女の子だったり?」
「確かに、竜子は、女! でも、違う! もう、この話は終わり!」
あの頃物心も付いたばかりであるにも関わらず、理不尽に振り回された妹が、こうして笑顔で迎え入れてくれた。それがこんなにも嬉しいことだなんて思いもよらなかった。沢山笑って、笑いすぎて、涙が出た。
日も大分傾き、夜となった。10年ぶりに家族揃っての食事。記憶の彼方に忘れ去った母の味も、一口で鮮明に思い出された。
妹が風呂に行き、母は後片付け、父と2人きりになる。
2人で縁側に座り、隼人はお茶で、晩酌の相手をする。
「本当に、大きくなったな。体もがっしりして」
「うん。毎日、修行、してる、から」
「それで、どうなんだ? 実際。ちゃんと生活出来てるのか?」
「うん。夜は、遅いし、朝は、早い、けど、それでも、みんなが、良く、してくれる、から、何とか、なってる、よ」
「そうか……腕はどうだ? もう大丈夫なのか?」
「うん。…………見る?」
「…………ああ」
隼人は腕の包帯をゆっくりと解いた。
「怖がら、ない?」
「大丈夫だ。お父さんだぞ、息子を怖がる事なんてあるか」
隼人の髪をグチャッと撫でた。
「痛い……」
「はは。髪、伸びたな、でも、似合ってるぞ」
「ありがとう、じゃあ、いくよ」
そう前置くと、小さく「開け」と唱える。
腕の目がびっちりと開いた。
父は一瞬ビクッとしたような気がした。でも、全く怖がる素振りなど見せずに、その腕を見ると、満足そうな顔をした。
「そうか、そうやってもう自由に出来るんだな。いいなあ、俺は2つしか持って無いから、目の前の少ししか見られないけど、お前はそんなにあるんだから、きっと色んなものが見えるんだろうな」
「父さん……」
そんな事始めて言われた。呪術者であってもこの体を見て怯える者がいるというのに、一般人の父が怯える素振りも見せず、いいなあと言ってくれた。それがどれほど嬉しかったかなんて、それは百目鬼にしか分かるまい。
「で、そこからビームとか出せるのか?」
「……父さん」
我が父ながら阿呆めと肩を落とした。
翌日、隼人は両親に頼み、祖父母のいる母の実家へ連れて行ってもらった。
「ありがとう。俺は、ちょっと、山に入る、から、家で、待って、て」
家族にそう伝えると、かつて三柏翁に出逢った山裾の林に入り、そして山の奥へと進む。
こんな行動に出たのには1つの理由があった。
みんなに帰省についての相談をしていた時のことだ。竜子に相談した際に、そこの山は特に神格の妖が多い山である事、きっと妖たちは悪意を持って自分へ近づいた訳ではない事を教えて貰った。だから、帰省すると決めた際に、必ず山に立ち寄ろうと思っていたのだ。
ある程度人目に付かない所まで登ると、腕の包帯を解く。神格に近いとなると、気配を読むのも一苦労だが、何とか目当ての妖を見つけ、走った。
気配を追って辿り着いた場所には、どの木よりもうんと背の高い、柏の木が生えていた。その木に手を突く。
「すみません。勝手は、分かって、います。三柏翁。是非にも、再開したい」
そう言うと、背後から肩を叩かれた。
不意を突かれ、敵かと思い咄嗟に身構える。が、そこには押せば倒れてしまうような、異常にひょろひょろの老人が立っていた。
「久しいの、少年」
「三柏翁?」
「ひょひょっひょ。そうじゃとも。大きくなったなぁ。見違えたわい」
「その節は、大変、ご無礼、を。他の、妖にも、悪いこと、しました。あの時の、真実を、知りたい、です」
「……そうじゃのう。教えてやっても良いが、まあ取り敢えず座りなさい」
三柏翁は手頃な切り株を示すと、腰掛けるように促す。
「少年よ、もう無事に過ごせておるか?」
「はい」
「それは何より。良ければじゃが、術を見せてくれぬか?」
「分かり、ました。見せたら、教えて、くれますか?」
「考えようとも」
百目鬼は掌を地面に着けると、術を発動した。すると、先ほどまでとは打って代わり、多くの気配が寄ってきていた。
「これは……?」
「ひょひょっひょ。ビックリしたか? お主を一目見ようと集まった妖共じゃよ。あの頃、お主を心配しておった奴らじゃ」
「心配……」
「そう、我らはお主を救うが為に、その腕を掴んでおったのじゃ」
「……俺は」
隼人は今まで自分のしてきた思い違いを恥じた。何でもかんでも敵だと思っていたあの頃。気がつかないだけで多くの味方がいたのだ。気がつけたとして、何も変わらなかったかも知れない。それでも、その事実が知れただけでも、嬉しかった。
「……俺は、知らずに、なんて」
「いいんじゃよ。元来妖と人は、そう簡単に相容れるものではない。それにお主はまだまだ幼かった。幼い子が妖に怯えることは当たり前じゃて。お主は何も恥じること何て無いぞ。これは全てワシらの気まぐれじゃからのう。なあ、皆の者よ! ひょひょっひょ。ひょひょっひょ。ひょひょっひょ……」
三柏翁の笑い声が木霊するのに応じて、次々に妖が姿を見せ、隼人をジロジロ見たり、自己紹介をしてきたりした。彼はあの頃の無礼を詫び、また色々な事を話した。
「千羽って、あの千羽智鶴のいる千羽か!?」
話していた中の妖が1匹、恐怖に戦いた顔をする。
「……そうだよ」
「悪鬼羅刹、妖なら目が合わずとも滅されるという……。恐ろしや……。お前もそんなのの相棒になっちまったんだな……。お~恐」
智鶴の悪名がこんな所にまで響いてきている事実に、苦笑いしか浮かべられなかった。
妖とこんなにも話した事は無く、智鶴ほどでは無いが、仕事柄妖は敵だという概念を持ち合わせる彼にとっては、とても不思議な時間だった。
楽しい時間も気がつけば終わってしまう。
妖たちは別れを告げ去って行き、隼人もそろそろ戻ろうと膝に手を置いた時だった。この山唯一の上級妖、鱗脚が現れた。
「お前が、あの時のか。強くなったのか?」
「あなたは、もしか、して、鱗脚?」
「俺は強くなったのか、と聞いているんだ」
鱗脚は腕組みをし、鬼神のような形相で百目鬼を捉えた。
「まあ、あの頃、よりは」
「そうか、なら、かかってこい」
「え?」
「来ぬなら行くまで!」
急に襲いかかる鱗脚に、去り際の妖たちも驚き、立ち止まり、その様子を見守り始めた。隼人は反射的に攻撃を避けると、構え直す。
「急に、何。俺は、戦う、気、ない」
そうは言っても鱗脚の攻撃は止まらない。だが、その攻撃は不思議とどこか組み手をしている時を思い出させるものだった。
「俺はただ、その強さを示せと言っているだけだ」
「……なら!」
百目鬼は一歩退き、眼を開く。そして、反撃に出た。
数分そうして戦っていると、急に鱗脚が攻撃の手を止めた。
「……それなりには強くなったみたいだな。でも、まだまだだ。妖術すら使えんとは、なんと人とは情けないものなのか」
「妖術?」
「知らぬ訳でもあるまい。人は妖術を教える術すら持たぬと言うのか? 何とも何とも脆弱な師を持ったのだな」
藤村を、そして智喜を馬鹿にされたようで、百目鬼は頭にカッと血が上った。
「今の言葉、取り消せ、よ」
ぶわりと妖気が滾る。
「面白い。ほら、掛かってこい」
百目鬼は自身最高速度のラッシュを掛けるも、それは全ていなされる。
「そんなものか。では、行くぞ。妖術 刹歩」
鱗脚とはその脚に麒麟の力を宿す妖である。
その出生はとある武士が、近くを通った麒麟の逆鱗に触れ殺された所、脚に麒麟の鱗を宿し、妖の姿となって再び世に現れたと語られている。鱗脚の妖術は麒麟の様に、刹那の如く素早い移動を可能とする技であり、それを発動されたが最後、もう目で追うことは出来ないと言われている。
そして、その加速を乗せられた重い一撃が、百目鬼を撃沈させた。
百目鬼が目を覚ますと、妖はみな去って行ったようで、鱗脚と三柏翁のみになっていた。
「少年、すまぬの。この馬鹿がやり過ぎたわ」
「馬鹿とは何だ。俺はか弱いくせに、我ら妖と渡り合おうとする愚かな人間を……」
「鱗脚。もし、良かったら、俺に、稽古を、つけて、くれないか? 俺も、妖術を、覚えたい」
「……人が俺に付いてこられる訳がないだろ」
鱗脚の言葉を最後まで聞かぬままに、そう懇願する。そんな百目鬼は全ての目から真剣な眼差しを向けていた。
「……し、仕方が無いな。でも、直ぐには駄目だ。人間の子供はそろそろ夏休みという期間に入るのだろう? その間なら教えてやらんことも無い」
「ありがとう。必ず、夏休み、入ったら、また戻る、よ」
再会を誓い、山を出る。暫く歩くと、まだ母の実家まで距離があるというのに、そこには母がうろうろしていた。
「心配になって迎えに来ちゃった。もう用は済んだの?」
「うん。心配、掛けて、ごめんね」
「よく見たらお洋服がボロボロじゃない。それに顔にも泥をつけて。何かあったの?」
体の傷は妖の再生能力で消せても、服までは戻らない。百目鬼は顔の泥を拭うと、笑って見せた。
「いや、大丈夫」
「あなたの大丈夫は、大丈夫じゃ無いってちゃんとお母さん知ってるのよ?」
母さんだってそうだろう。と思ったが言わなかった。
「本当、大丈夫、だって。それより、俺、母さんに、話したい、事、あって」
「なに?」
「あの頃の、こと、ちゃんと、謝りたくて」
「あの頃ねえ。こんな所で立ちっぱなしも何だし、歩こうか」
母と連れだって田舎道を歩く。こんな事始めてと思えるほどに、その記憶は見つからなかった。
日を遮り、木漏れ日を零す木々が、優しくサワサワと音を立てている。
「あの頃は大変だったね~。お母さん、ボロボロだったもんね。格好悪かったなぁって、いまでもたまに思い出すのよ」
「違う、それは、俺の、せい、で」
「そうやって背負わなくても良いのよ。あなたはちゃんと生きているし、ちゃんと大きくなった。その傍に居られなかったのが寂しいけど……。うん、元気そうでなによりよ」
「恨んだり、怒ったり、しない、の?」
「何でそんなことするのよ。もう、お母さんを見くびらないで。子供を恨んだり、いつまでも怒ったりする親がどこに居ますか。居たとしても、それは私じゃ無いわ」
「……」
「私もね、あなたに謝りたかったの。側に居てやれなくてごめんね、あのとき手を離して離ればなれになってごめんね、直ぐに迎えに行かなくてごめんね、10年も……連絡も……しなくて…………ご、ごめんね」
母の頬に涙が滴る。それでも気丈に、袖でそれを拭い去ると、言葉を紡ぐ。
「本当に、帰ってきてくれて、本当にありがとう。昨日の晩ね、嬉しくてこっそり泣いちゃったの。本当の本当に嬉しかったのよ。もうきっと会えないかなって、そんなことを思っちゃう自分もいて、会いに行こうにも、行って良いのか分からなくて、だからこうしてまた家族4人揃えて嬉しい。本当はあっちになんて戻って欲しくない。危険なことなんて何もして欲しくない。仕事だって辞めて欲しい。もう手を離したくない。けど、あなたは向こうにやりたいことを置いてきているのよね?」
「うん……うん……」
隼人も一緒になって泣いた。再び母に抱擁された。再会の時よりもさらに優しく、包み込まれる様に。
帰り道、隼人は沢山の事を母に話した。智鶴のこと、竜子のこと、千羽家の話に学校の話。10年の溝を埋めてもまだ有り余る程に、沢山の事を。話している内に母の実家に着いてしまったから、祖父母と父と華英も交えて沢山話した。話の途中、母がまたそっと涙を拭っていた。
――気がつけば電車の来る時間になった。
「隼人。元気でな。いつでも帰ってきてくれて良いんだぞ。ここはお前の家なんだからな」
「父さん。ありがとう」
「にー。彼女が出来たらちゃんと教えてね。私もここで待ってるから」
「華ちゃんも、彼氏、出来たら、ちゃんと、お兄ちゃんに、報告、するんだぞ」
「それはどうかな~?」
兄妹揃って笑った。
「これ、お土産ね。いつかお友達もつれていらっしゃいね。風邪とか引かないようにね。あと、それから……」
「はは。ありがとう。大丈夫、だよ。これは、ホントの、大丈夫」
きっと直ぐに戻ってくるから、別れはこんなものでいい。
そう思ったけれども、家族と離れることが、こんなにも寂しい事とは、隼人自身、想像だにしていないことだった。引かれる後ろ髪を振りほどき、電車に乗った。
行きに抱えた不安も後悔も全てどこかに捨ててきた。
代わりに沢山のものを拾い集めてきた。ポケットが張りちぎれそうな程に。
どうも。暴走紅茶です。
これにて百目鬼君パートは終わりです。彼のお話は如何でしたでしょうか。
沢山頑張ってみましたが、全て伝えられたか分かりません。
きっと彼はまた一歩先へ進みます。
そんな彼の活躍をお楽しみに!
では、また来週!




