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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第三章 弱いワタシ

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7話 落下物注意

夕方、空の上から千羽家に飛来……いや、落ちてくる者が居た。

 ドスンという音を聞いて、何事かと(せん)()家・門下生一同が玄関前に集う。

「りょ、(りょう)()!?」

 ()(づる)(どう)()()が駆け寄ると、まるで下敷きを使って静電気遊びをした後の様に髪を逆立たせ、また所々衣服や(うろこ)が焦げた彼女らが完全に伸びていた。直ぐさま竜子を客間に寝かせ、()()()はその場で応急処置を受ける。()()()を始め、回復系の(じゅつ)が使える者と、それを手伝う者が屋敷内を駆け回る。

「襲撃? でも、何で。竜子は実家に帰って居たんじゃ無いの?」

「帰り道、だと、思う」

「私、辺りを見てくるわ!」

「わ、私も行きます!」「俺も」「僕も」

 智鶴と他にも空を飛べる門下生が千羽家上空の様子を偵察し、百目鬼を始め、探索系術者が辺りを探るも、敵らしい影は見つからなかった。

「まあ、皆落ち着け。もしかしたら、ただ雷雲に巻き込まれただけかも知れん。先ずは()(やつ)の回復を待つのじゃ」

 (とも)()の号令に従い、皆散って行くが、何となく修行に戻る気が無くなったのか、広間や大部屋に帰っていく。

 幸い命に別状は無かったようで、約2時間後彼女は目を覚ますと、ピンピンに回復していた。

「竜子、目が覚めたのね。もう大丈夫なの? 何があったの?」

「ああ、ゴメンね。心配掛けたね。でも、大丈夫。もう完全に回復したし、大事ではないから」

 そう言う竜子は順番に話し始めた。


 時は数時間前に(さかのぼ)る。

 実家からの帰り、ゆったりと空を眺めて飛んでいた。これからの修行のこと、戻ってからの仕事、そんな事を考えて。

 美夏萠に背中を預けそうしていると、頬をかすめる様に電撃が襲ってきた。

 通常、雷というのは、空から地上に向かって落ちるものである。また、雲の周りでも放電現象が起こるが、それだとしても、雲から真っ直ぐ上に向かって飛ぶものでは無い。

「襲撃!?」

 竜子は仰向けの状態から素早く起き上がると、美夏萠に跨がる。

「あーらら、外しちゃったわねん」

 背後から声がする。

「誰!?」

「誰って()(しつけ)ねん。で~も、今はまだ名乗らないことにするわ~」

 振り返るとそこには長いさらさらの髪を風に美しく(なび)かせ、ピップホッパーのようにダボッとした服を着こなしたお姉さんが立っていた。そう、文字通り中空に立っていた。

 相手の動きに注視しながら、出方を覗う。

羅依華(らいか)、おいで~」

 その人が手を招くように振ると、彼女の隣に向かって、下方から何かが昇ってきた。それは金色の鱗を陽光に反射させた1匹の竜だった。

「うそ。竜!?」

 竜とは現代において急激に個体数を減らしており、竜子ですら美夏萠以外の(みずち)も竜も見たことが無いほどだった。

「見て見て。私も竜を従えているの。そう、あなたと同じねん」

「同じにしないでよ! うちの子の方が綺麗だし、それに、うちの子は蛟よ!」

「あ~ら、若いのね~。血の気が多いって最っ高。蛟も竜も大差ないわ~。それ、ただ水竜ってだけでしょん」

 蛟は竜の中でも、主に水竜の事を指す言葉である。

「先に手を出したのはあなたの方だからねっ。後悔しても知らないよ! 美夏萠! 打ち落としてやんなさい!」

 美夏萠が水弾を吐く。それは真っ直ぐに相手へ向かい、爆ぜた。

「当たった!」

 だが、爆ぜた後の霧が晴れると、そこには何の姿も無かった。

「ど、どこ!?」

 辺りを見回すも、人影は無し。

「過信って素敵ね~。若者の特権だわ~」

 耳元で声がした。声に反応して全身が粟立つ。

「ひっ」

 小さく上げた悲鳴を聞くと、その人は少し距離をとり、空中で胡座を書いた。

「呪力……」

「あ、それはやめておきなさい」

 そう言われると、呪力が吹き飛ばされた。

「何したの!?」

「ただ竜気で呪力を中和しただけよん。アンタ、こんな所で(じゅ)(りょく)(じゅん)(かん) (はつ)なんて使ったら、(れい)(りょく)切れで落ちるわよ~。そしたらどうなるかしらぁ」

 一瞬、落ちて潰れる自信を想像して、血の気が引いた。考え無しに動こうとした自分を恥じる。

「あなた、何がしたいの!?」

「ん~。お仲間の様子見? 味見? かしらん」

 お姉さんは竜子を手のひらで転がすように、のらりくらりと言葉を(かわ)す。その態度に、竜子の怒りも(ます)々(ます)(つの)っていく。

「どういうこと!?」 

「まあ、直に分かるわよん」

「馬鹿にして……。美夏萠! (すい)(そう)(ほう)!」

 美夏萠の周りに小さな槍が無数出現し、一直線に飛ぶ。

「まあ、避けてばかりじゃつまらないわよねん。……(らい)(へき)

 迫り来る水鎗砲を、帯状の雷で防いだ。それに、その雷はどう見ても羅依華でなく、彼女自身から発せられたように見えた。

「うそ……」

「まだまだひよっこちゃんには驚きの技かな~。じゃあ、もっと馴染みのある技、見したげるねん」

 そう言うと、その女性は竜子の背後を指さす。つられて振り向くと、そこには羅依華が口を開いていた。

「うわっ!」と竜子が悲鳴を上げ、同時に「羅依華、(らい)(ほう)」と女性が唱えた。

 竜子の記憶は()()までである。


「……それで、気がついた時にはここで寝てたって訳なの」

「……よく生きてるわね」

 智鶴が呆れた様に言う。

「私もそう思うんだけど、何だろうあの人、私を倒す気は無いみたいだったし、それに今すこぶる元気なのよ」

「まさか、雷に低周波治療の効果があったとでも言うの!?」

「もしかしたらそうかも」

「……」

 そんな2人の会話を、智喜は渋い顔をして聞いていた。

「智喜様、どう、されまし、た?」

「あ、いや、考え事をな」

 竜子が事情を話すというので、同席していた智喜が腕を組み、思案顔に皺を深くする。

「お爺ちゃん、何か知ってるの?」

「いや、ワシは何も知らんよ」

「怪しいわね……」

「本当に何も知らん。竜子の目が覚めて良かったじゃ無いか。それに、今夜の仕事にも支障が無さそうじゃし」

「はい。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 智喜がそう言い、そそくさと自室へ帰っていく背中に謝辞を投げかける。特に返事も無いまま、襖は閉じられた。

「もう、本当にビックリさせないでよ」

「ごねめんね。でも、私、初めて美夏萠以外の竜を見たんだ。それに、あの術者、竜に乗らず空を飛んでたし、自分の体から電気を発していた。どういう仕組みなんだろう。私にもあんな事出来るのかな」

 今の竜子は負けて悔しいと言うよりも、未知の発見に心を(おど)らせている様だった。

「そうね……」

 自分の他にも強くなろうとしている者が居る。所謂ライバルという存在に、智鶴の心が少し緊張する。

「あっ!」

「わあ! ビックリさせないでって、言ったばかりじゃない!」

 何かを思いだした竜子が、急に大きな声を上げる。

「ごめん! それよりも私の荷物、見てない!?」

「荷物?」

「そう! 書物のつまったボストンバッグ!」

「ああ、それならアンタたちが落ちてきた後に、天と空が重そうにして運んできたわよ。今は玄関に置いてあると思うわ」

「ああ、良かった……」

 心底ホッとして胸を撫で下ろす。

「そんなに大事なモノなの?」

一応十所(じっしょ)家の秘伝書だからね。燃えちゃったらもう換えがないし、今回の帰省はそれを持ち帰るのが目的だったし」

「そんな大事なモノを持っている時に戦闘なんてしちゃ駄目じゃないの!」

「ははは……まさかこんな結果に終わるとは思っていなくて……」

「力量、見れる、ように、ならなきゃ」

「そ、そうだね……。以後気を付けるよ」

 百目鬼からの(しっ)(せき)を受け、反省の姿勢を示す。

 その後、竜子は智喜へ改めて侘びと謝辞を伝えると、家に帰っていった。美夏萠も多少焦げただけで、直ぐに回復をしていた。本当に襲撃者は何を目的としていたのだろうか……。

どうも。暴走紅茶です。

10月なのにまだまだ暑いですね。

こんな時は部屋でゆっくり物語でも摂取しましょう!

では今週はこの辺で。

また来週もよろしくお願いいたします!

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