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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第二章 ムカつくアイツ
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16話 知らない力

雨上がりの様なムンとした空気が、辺りに(ただよ)う。

 目の前には相手の出方を(うかが)い、睨み合う()()()(ぬえ)

 だが、そんな景色も、ボロボロの少女が立ちはだかり、景色が一変した。

「アンタ! まだ動いちゃ駄目よ。休んでなさい!」

「そんなボロボロの人に言われてもねぇ。でも、確かに派手な事は出来ないね。まあ、しないんだけど。いいから少し見ててよ」

「……」

 ()(づる)の無言を肯定と受けとった竜子が、胸の前で見慣れぬ印を結ぶ。

「まだこんなレベルでしか出来ないんだけどね……」

 自嘲するようにそう言うと、彼女は自分と美夏萠の『繋がり』をしっかりと意識する。今自分がここに居て、美夏萠が空で戦っている。目を(つぶ)ってもそれが分かるほどに強く、しっかりと。そして、そっと呟いた。

「呪力循環 発」

 呟くや否や、竜子の(れい)()が爆発した。智鶴は、術が失敗し、彼女の(れい)(りょく)が暴走したかと思った。だが、そうではない。爆発的な早さで早さで霊力が(じゅ)(りょく)へ変わっていく。

「あんた何を……」

「契約術の初歩よ。主人と従者はお互い密接に影響を及ぼし合うの。だから、私が呪力を漲らせれば……。ほら、美夏萠の竜気(りゅうき)(みなぎ)る訳。これでもあの子の最大まで引き上げてやれないのが、悔しい所だけどね」

 それと……と、彼女は続ける。

「これ、そんなに長く持たないから、ボロボロの所悪いけど、()(せい)、してやって」

 竜子の呪力循環の影響で、美夏萠が()(たけ)びを上げ、その竜気を爆発させる。

「これで最大じゃ無いなんて」

 智鶴は呆れるばかりだが、ただボーとしては居られない。

 足下に置いたロール紙に呪力を流し込んで一振りの()(とう)を作り、それを手にすると、紙に乗り、空へ飛んでいく。

 竜気が漲った美夏萠が、一つ「ガウっ」っと声を上げる。すると、川の(すい)(めん)から、水で出来た槍の大群が鵺に向かい発射される。それは鵺を貫かないまでも、刺さり、深手を負わせていった。

 また、鵺に当たらず、空へと飛んだ槍は、美夏萠と鵺の頭上で弾け()(さん)する。キラキラと辺りに水の粒が降り注ぎ、辺りの水の気が濃くなる。その気を吸い、美夏萠が(しゅう)(れい)に青く輝く。そして、ありありと竜気を(たぎ)らせたまま、鵺に突進を繰り出す。

 まだ槍の痛みから逃れられていなかった鵺は、モロにそれを食らい、態勢を崩した。重力に引っ張られ、川へと落ちる前に美夏萠は尻尾で(つか)み、()()げる。

「ひょ……ヒョー―」

 鵺の苦しそうな声が次第に弱まっていく。

「加勢出来るタイミングが無いわ……」

 智鶴は呆れた顔をするが、一旦刀を下げると、「(かみ)()(ぶき) (はり)()(ごく)!」と声を上げ、タイミングを見計らい、紙吹雪の針を飛ばしていく。それは主に鵺の目や、深い傷口を狙った攻撃だった。大きなダメージとはならない。それでも、鵺の体力を消耗させるのには一役買っていた。

 美夏萠は鵺の声が出なくなるまで締め上げると、数メートル敵を持ち上げ、水面に叩き付けた。ぶくぶくと泡だけが川面に浮かび上がる。

「やった!?」

 歓喜の声も束の間、数秒後、ザブンと音を立て、それは水上に姿を現した。

「まだ倒せないの!?」

 そして猛攻が始まり5分が過ぎた頃だろうか、美夏萠の動きがガクンと止まり、川に落ちる。ザブンと大きな飛沫(しぶき)を舞い上げ、川面は激しく波打つ。

 状況を理解した智鶴が、ハッと振り向くと、竜子が倒れていた。

「りょうこ~~~~~~~~」

 直ぐさま戻ろうとする智鶴を、竜子は震えながら手を上げ、制する。

 (げん)(がい)に、構わないで、倒して。とそう言っていた。智鶴にはそんな声が確実に聞こえた。

 竜子の意思を汲んだ智鶴は振り向き、鵺をしっかり両目で捉えると刀を上段に構える。

ドクンと心臓が強く脈打つ。それを皮切りに、どんどんと心拍数が上がっていく。

 意識が加速していく。まるで自分が自分でなくなる様な感覚を覚える。

 それに合わせて呪力を練り上げる。こんな力が自分のどこに残っていたのか、智鶴自身にも分からなかったが、今はそんな難しい事考えて居られないと、本能のままに力を湧き上がらせる。

 対する鵺は、既に美夏萠の猛攻を受け、手負いとなって居たが、その(まが)々(まが)しい(じゃ)()は健在だった。智鶴という、大きな呪力の塊に気がつくと、攻撃の予備動作に入った。

 その様子を視ていた(どう)()()は、何故か冷や汗が止まらなくなっていた。(ひつ)(ぜつ)しがたい感覚に捕らわれ、どうすることも出来ない不安感のようなものに襲われる。額がチリリと(うず)いた。

「智鶴……」

 百目鬼が小さく小さく呟いたのが聞こえたとは思わないが、それをゴングに、智鶴と鵺が動いた。

 鵺は助走をつけ、トドメとばかりにその爪を光らせ、智鶴に迫る。

 智鶴は全身の力を刀と足場にのみ集約させ、自身最高強度、最高威力、自身最高滑空速度を叩き出し、文字通り『(こん)(しん)(いち)(げき)』を鵺に向かい、放つ。

 鵺は……

 智鶴は……

「うおおおおおおおおお」「ひょ~~ひょ~~~~~」

 双方の雄叫びが闇夜に(とどろ)いた。

 すれ違い様、お互いの技が光る。


 ドボン。


 小さく木霊したのは、智鶴が川に落ちる音だった。

「智鶴!」

 百目鬼が川の流れに足を取られながらも、駆け寄った。

「ごめん……オレ、間に合わ、なかった……。ごめん……」

 百目鬼の頬に涙が垂れた。

「何……泣いてるのよ。男の子で、しょ、しっか……り、なさい。それに、見な、さいよ……」

 智鶴が途切れ途切れに言いながら、空を眺めていた。

「え……?」

 言われて百目鬼が空を振り仰ぐ。底には鵺が、額から首元にかけて割られ、(ちり)になり風に流されていくのが見えた。

「ごめん……流石に、ちょっと疲れたわ。後、宜しく……」

 そう言うと、智鶴は気を失った――

今週もありがとうございます。

来週もどうぞよろしくお願いいたします。

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