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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第二章 ムカつくアイツ
33/151

15話 そう言えば日向が

午後8時。夕飯を済ませ、丁度お腹が落ち着いた頃。()(づる)(どう)()()(りょう)()の3人は(せん)()の門前に集まっていた。

(とも)()様、どうだった?」

「行ってきて良いって。ただ、くれぐれも注意する様にと、余所の土地で粗相が無い様にって言ってたわ」

「そう。それなら、良かった」

「なら、早速美()()()に乗ってね」

 そう言って竜子は美夏萠を顕現化させるが、智鶴は拒否反応を示した。

「誰がアンタのミミズに乗りますか。私は紙で飛んでいくわ。百目鬼までは乗せられないから、百目鬼はアイツのミミズに乗せて貰うといいわ」

「ミミズって言った? ウチの美夏萠の事を?」

「あら。にょろにょろしているから、見間違えたわ」

「竜子さんに悪口を言うな!」

 家族捜しの為に顕現化していた唯雄が、智鶴に食ってかかる。

「うわ、びっくりした」

 驚いて声のした方を見て、顔を上げると、2人がのっぺらぼうになっていた。

「こら、お前! よくも!」

「唯雄は主人思いの良い従者だね。手放したくなくなっちゃうよ~」

「ぼ、僕も……あ、でも」

 そう言って唯雄の頭を撫でてやる竜子。唯雄は撫でられて嬉しそうにする。

「何だか仲良くなりましたねえ。もういっそ、このままで居たら?」

「そうもいかないよ。この世にはどんなモノにも自然な形があるの。この子は、家族と居る方が、自然な形なんだよ。それに、ご家族も心配しているだろうし」

 智鶴の悪態は、竜子がのっぺらぼうだろうと、関係ない様だった。

「あーあー。もう、行く、よ。ほら、智鶴も、準備、して」

 あきれ顔で百目鬼がそう言ったが、智鶴に表情を読み取る事は出来なかった。


 空を飛びながら、竜子が智鶴に話しかける。

「私は大丈夫だけど、智鶴ちゃんは霊力もつの?」

「分かんないけど、これも修行の内よ」

「もし駄目そうなら、いつでも乗せてあげるよ」

「誰がそんなミミズに」

 折角の竜子の提案を足蹴にした発言と馬鹿にされた事に、美夏萠が怒り、低く唸る。

智鶴はビクッとして「う、嘘よ。立派な(みずち)様だこと」と訂正した。

 完全なお世辞だが、美夏萠はそう言われ、悪い気はしなかった様子で、威張る様に少し(うろこ)を逆立てて見せた。

「あ、そろそろ、目撃、あった、場所」

 携帯で位置を確認していた百目鬼がそう言うので、隣県で隣町の(はま)()()(きゅう)(りゅう)(ちょう)(きゅう)(りゅう)(かわ)沿いに3人は降り立った。

 

 この辺りはもう海が近いこともあり、川幅が広く、対岸までは橋を渡らないことには、行けそうも無い。また、川の両岸は背の高い草木が茂っているが、川から離れるにつれ、舗装された遊歩道になっていく。また、両端には堤防が築かれ、その上には道路が敷かれていた。

「来てみたものの、これ、見つかるの?」

「取り敢えず、探って、みる」

 百目鬼が地面に手を置き、眼を発現させるが、どうにも見つからない様で、「少し、歩こう」と提案した。

 堤防の上を川の流れに沿って歩きながらキョロキョロとする。少し歩くと、百目鬼が探りを入れる。竜子も思いだした様に(てん)(くう)を出すと、探索指示を出す。

 歩いて行くと、草木の茂みだった川岸が、目の粗い砂利と砂に変わっていく。

「あ、何か、妖気だ」

 ふと立ち止まり、百目鬼が先を指さした。

「居たの?」

「分かんない、けど、妖気、感じた」

「どこ?」

「ちょっと、遠いけど、次の、橋の、下」

 彼が指す方向には大きな橋が架かっていたが、まだまだ距離があり、そのサイズ感が上手く掴めない。

「行ってみよう」

 竜子は天と空に先行させ、先頭を走る。

「居た!」

 まだ橋の下までは少し距離があり、その下となると暗くてとても見えないが、妖である所の天の視界を借りた竜子には見えた様だった。

 3人が近くまで来ると、橋の下に数名、人型妖の姿が見えた。妖たちは(つつみ)に腰掛け、(うな)()れている様だ。

「唯雄……見つからないね」

「やっぱり清涼市ではぐれたんだよ」

「本当に忌々しい妖だったわ」

 そんな声が聞こえてくる。

「あ、あの~」

 今回も竜子が話しかけに行った。勿論智鶴は持病の発作が現れ、百目鬼に羽交い締めにされていた。

「ひぇえ。に、人間! 私たちは悪い妖では無いんです。どうか、どうか、お助けを。命を取るなら、私だけにして下さい」

「いや、お前は子供と居てやれ。ワイが出る」

 どうやら唯雄の両親らしい。その2人の後には兄弟だろうか、他に3人ののっぺらぼうが居た。

「いえ、勘違いをされているようですが、滅しに来た訳ではありません」

「え……?」

「この子を……」

 と言った瞬間だった。

「危ない! 伏せて!」

 百目鬼が智鶴を(かば)う様に伏せ、叫んだ。それと同時に、堤防が爆発したかの様に(ふん)(じん)を上げ、()()()(じん)に破壊された。

「竜子~~~~~」

 智鶴の叫び声も衝撃音にかき消される。

 衝撃をマトモに受けた竜子が川岸まで吹き飛ぶ。

「竜子さん!」唯雄が心配そうに駆け寄り、竜子の危機を感じ取った美夏萠が勝手に顕現化した。

「ここまで追って来たの……」

 お母さんのっぺらぼうが、腰を抜かし、震えて言った。

「何よ。聞いてないわ……」

 智鶴たちの目の前には大きな妖が現れた。発せられる邪気から、少なくとも上級、それ以上の可能性も検討される。

 その妖は、熊の胴体に狒々の顔、足が虎で、尻尾が蛇、それにコウモリの翼で成り立っていた。所謂鵺(ぬえ)と呼ばれる妖である。だが、こんな個体は報告に聞いていない。

 智鶴が戦闘態勢をとったとき、ふととある会話がフラッシュバックした。

――そのお化けはね、なんか馬みたいな見た目で背中に羽が生えてるらしいの。先輩が言うには、西洋から来たペガサスかユニコーンじゃないかって。――

 日向が話してくれた噂話だった。

「これ、ウマ(・・)じゃなくて、クマ(・・)じゃない!」

 そう叫び、智鶴は鵺に向かっていく。

「百目鬼はアイツをお願い! 美夏萠! アンタはアイツを助けたいなら、手伝いなさい!」

 美夏萠は竜子以外の指示を聞くのが()(ごく)()(ほん)()(きわ)まりないという様子ではあったが、他に為す術もなく仕方が無いと、智鶴の近くに降りてくる。

 鵺が獲物を定める様に、ヒョーヒョーと不気味に唸りながら智鶴を見つめている。

「いい? 私が引きつけるから、アンタが攻撃しなさい」

 鵺から視線を離さずに、美夏萠へそう伝える。美夏萠は分かったのか、ゆっくり智鶴から離れ、獲物を狙う。

 ……どうする。百目鬼の戦闘は上級相手に通じる物ではない上に、竜子の参戦は望めないわ。手持ちは巾着にロール紙。自分自身の戦闘準備は万端だけど、上級を1人で相手にするなんて。いや、やらなきゃ。

 智鶴は素早く状況を整理し、戦う決意を固める。

「紙吹雪! (しゅう)(ちゅう)(ほう)()!」

 (にら)み合いの中、先に動いたのは智鶴だった。腰の巾着から飛び出した20枚の紙吹雪が、鵺にたかる様に飛び交う。が、しかし鵺がヒョ~~~~~~と雄叫びを上げると、邪気の圧によって、紙が吹き飛ばされてしまう。

「クソッ。流石は上級ね」

 鵺が次はこちらの番と、地団駄を踏む。いや、地団駄に見えるそれは、人の使う(うさぎ)()――足のステップで発動させる呪術――に似た(よう)(じゅつ)だった。地団駄を踏む度に、邪気が濃くなっていく。

 智鶴は、ウッとくる邪気につい、口を塞ぐ。

 妖が突進しようと、後ろ足に力を入れた時だった。水の塊が勢いよく空から降ってきた。

 美夏萠の攻撃だった。

 急な攻撃に怯み、地団駄の効果が薄れる。その隙に智鶴は一気に間合いを詰め、一声「()(ろう)(かぎ)(つめ)!」と叫んだ。

 彼女の使う紙吹雪の術は、遠距離になるほど、その効力が落ちる。智鶴の攻撃は、鵺の鼻っ面で発動した。最大威力の攻撃が鵺を襲う。

 ザクリと皮膚を抉られた鵺は、ヒョ~~~~~と痛みに声を上げ、傷口から血の代わりに邪気を噴出させるも、致命傷とはならなかった様で直ぐに立ちあがるが、目の前に智鶴は居ない。

 その代わりに美夏萠が突進し、土手っ腹へ体当たりを食らわす。

 体勢を崩した鵺は、羽を羽ばたかせ、上空へ。そして、急降下。智鶴は(とっ)()に避けたが、辺り一帯の地面ごと抉られ、衝撃派に吹き飛ばされる。上手く受け身は取った物の、吸い込んだ砂埃に気管がやられ、咽せてしまう。

「げほっ。ごほっ」

 こうなってしまうと、集中出来ず、上手く(じゅ)(りょく)が練り上げられない。

 智鶴が戦える様になるまで、美夏萠が攻撃を繰り出し、鵺の意識を自分へ向け、抵抗するものの竜子が戦闘不能に陥っている為、本領が発揮できない。得意の空中戦でも、鵺の方が一枚上手となった。美夏萠は防戦一方、苦しそうな声を上げていた。

 敵の弱点を探るために眼の力を使っていた百目鬼も、見かねて呪符を取り出すが、「だめ!」と智鶴が叫び、制する。攻撃をしたら、敵に認定されてしまう。そうなった時、自分は百目鬼を守れないとの判断だった。

 それを察した百目鬼は少し悲しい顔をしたが、再び妖の方へ掌を向けると、解析を再開する。

 咳が収まり、再び呪力を練ろうと集中した瞬間、鵺に殴り飛ばされた美夏萠が迫ってきた。

「うわっ! ちょっ!」

 美夏萠ごと、堤防に叩き付けられた。紙服を硬化させて衝撃を緩和したものの、衝撃が大きく、直ぐに動けない上に、敵の猛攻が止まらず、反撃の余地がない。

 智鶴がどんどん傷つけられていくのを見て、百目鬼の焦りは頂点に達していた。早く、早くと思えば思うほど、上手く妖力が空回りして、敵の弱点らしきところが見えてこない。これが上級……と、百目鬼は冷や汗が止まらなかった。

 だがそんな百目鬼の焦りを余所に、鵺が大きく振りかぶったタイミングを突き、美夏萠が素早く首元に噛みついた。そのまま体を敵に巻き付け、振りほどかれないように、キツく、深く、牙を突き立てる。

「ひょ、ひょおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおぉっっぉ」

 逃れようともがき、苦しそうな声を上げつつも、強かに地団駄を踏み、邪気を爆発させる。その邪気に押し退けられ、美夏萠は鵺から離れた。

 両者は口からフシューと息を吐き、睨み合う。


 一方で智鶴はというと、美夏萠のお陰で鵺の猛攻から逃れるも、しばらくは立ちあがれなかったが、腕と脚に力を込めると、堤防に手をつき、ゆらりと立ちあがった。

「ごほぉぁあっ……こなクソ……」

 口から血を吐きながらも、再び立ちあがる事を諦めない。紙操術師としての、妖と対峙する1人の術者としてのプライドが、彼女を奮い立たせる。

「くっそ。やってくれるじゃないの」

 ここまで来ると、重さが足枷にしかならないロール紙を地面に降ろし、霊力を循環させ、呪力を練り上げる。勢いよくロール紙を千切り、今まさに飛び立とうとした時だった。

「智鶴ちゃんにだけ、良いとこ取りはさせないよ」

 目の前に竜子が立ちはだかった。

今週もありがとうございます。

来週も是非よしなに。

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