12話 出会いー1
百目鬼と出会ったのは、9年前、私がまだ6歳の春だった。
お父さんが亡くなって1年も経っては居らず、私はいつも泣いて居た。ただ悲しかっただけでは無い。お父さんに術を教えて貰い始め、いつも褒められていたのに、お父さんが亡くなった夜、私は家に居た。門下のみんなも、お父さんもお母さんもおじいちゃんも、全員あの鼻ヶ岳に行っていたのに。私とお姉ちゃんだけは、家で2人、震えている事しか出来なかった。
強すぎる邪気が、家にまでその裾を広げていた事を今でも覚えている。震えが止まらなかった。お姉ちゃんは「大丈夫だよ」と私を励ましてくれた。あの頃はまだ仲良しだった。
宵闇が開ける頃になって、みんなは帰ってきた。誰しもが俯いていた。おじいちゃんは悔しそうだった。お母さんは家に入ると途端に泣き崩れた。お父さんは帰ってこなかった。
おじいちゃんは一言「ぬらりひょんのせいじゃ」とそう言った。
私は泣いた。大好きだったお父さんが居なくなってしまったから。お父さんが大変なときに何も出来なかったから。
私はいつも泣いて居た。私はいつも、お父さんを思い出しては、イッチーを抱きしめていた。
そんなある日の事だった。彼がウチへやってきたのは。
智鶴がぬいぐるみで遊んでいた。そうしたら、門下の一人がやってきて、こう言った。
「智喜様が、客間にお呼びです」
と。智鶴は呼ばれる理由が分からなかった。お土産でも買ってきたのかな? テストの点数が悪かった事かな? それとも、呪術を一人で学んでいる事がバレたのかな。そんな事を思いながら、言われるがまま、客間に入った。
入って先ず思ったのは、「お姉ちゃん居ない」という事だった。智喜に呼ばれた際、智秋も一緒だと、何かの連絡事項だけで済む確率が高い為、怒られるという可能性が低くなるが、今は居ない。智秋は友達の家に行っていたのだ。この為、智鶴の中の不安要素が薄れる事は無かった。
姉の不在を確かめた後は部屋を見渡す。するとそこには白澤院の当主、告と、彼の手を握り、不安そうに小さくなっている一人の男の子がいた。
「智鶴様。こんにちは」
「こ、こんにちは。告さん」
「ほら、君も挨拶しなくちゃ」
と、告さんはその子に挨拶を促す。
「こんにちは」
蚊でももっと大きく鳴くだろう、と言うくらい声が小さく、智鶴は彼が挨拶をした事に気がつかなかった。
「告さん、この子はだあれ?」
智鶴は当然の疑問を口にする。
「それについてはワシが話そう。じゃが、まあ、皆座ろうぞ」
後から部屋に入ってきて、智鶴の隣に立った智喜がそう言った。皆は智喜に倣い、座布団の上に座った。男の子はそれでも告の手を離さなかった。
全員が座った事を確認すると、智喜は小さな来訪者の紹介を始めた。
「彼の名前は、百目鬼隼人。千羽家傘下白澤院家所属、呪術師の卵じゃ。年は智鶴と同じ6歳。彼は百々(ど)目鬼という、両腕に100の眼を有する妖の先祖返りじゃ」
智鶴はそう聞いて、彼に興味を持ったのか、智喜の話を半分に、百目鬼をじろじろと見て、ソワソワとしだす。
「百目鬼よ。この子は智鶴。千羽の子じゃよ。君と同じ6歳。呪術は殆ど使えんが、年の近い者同士、仲良くしてやってな」
智喜がニコリと笑い、彼にそう言った。当の百目鬼は、紹介された事と、智鶴がジロジロソワソワと見て来る事への恥ずかしさで更に縮こまっていた。
「はい、よろしくおねがいします」
と言ったものの、やはりその声は誰にも聞こえていなかった。
「で、おじいちゃん。何でこの子だけ、ウチに来たの? 告さんのところには他にも子供が居るよね」
そうである。白澤院は百目鬼の様に、一般家庭に生まれた先祖返りの子供や、両親が妖に殺されてしまった呪術一家の子供などを養う施設を経営している。百目鬼の他にも、子供は何人か居るのだ。
「それはのう……色々あってじゃなあ。白澤院に居るより、千羽で引き取った方が良いと考えられたのじゃ。それに、丁度彼はお前と同い年。きっと仲良く出来るんじゃ無かろうかと、まあ、大人の考えた事じゃし、上手く行かないなら他を考えるが。一旦な」
「いろいろ? よくわかんないけど、これから一緒に暮らすって事?」
「そうじゃ。お前はなかなか物分かりが良いのう。彼は、門下生の一人として、この家の一員になって貰う。急に大人だらけの大部屋というのも可哀想じゃから、特別に一室与える事になっておる」
「とくべつたいぐうだ! いいなぁ。私もまだ自分の部屋無いのに」
そう言って、智鶴はどこかで聞いてきた言葉を発し、口を尖らせた。
「というわけで、智鶴よ。百目鬼と仲良く出来るかのう」
「うん!」
こうして、百目鬼は千羽家の門下生となった訳である。
その後、自分の部屋や、道場なんかを案内して貰うため、門下生の女性と美代子、告に連れられ、百目鬼は部屋を後にした。
百目鬼が去った客室で、智喜は智鶴に向かい、話を続けていた。
「智鶴。お前にはまだ話がある。最近、倉に出入りしとるじゃろ」
そう言われ、智鶴がギクリとする。
「い、いや……知らないよ? 私じゃないよ?」
「いや、怒るつもりはない。正直に言うてみい」
「……」
そう言って何度も怒られてきた智鶴は、当然の如く口を割らない。
「じゃあ、お八つのケーキはワシが食べるとしようか。美代子さんが今日はショッピングモールの藤見屋で赤いイチゴの乗ったショートケーキを買っていたはずじゃが。まあ、正直に言えない子には、そんな贅沢はさせられないのう」
「ええ~~。ケーキ食べたい! 食べたい! おじいちゃんだけずるい」
智鶴はケーキを人質(ケーキ質?)にとられた不満に、机へ手をつき、ぴょんぴょんと飛び跳ねることで訴えた。
「ちゃんと座りなさい、ではもう一度聞くが、お前は倉に入ったのか? 正直に言うてみい」
「……はい。入りました」
項垂れる様な正座で、ごにょごにょと言った。
「それに、ここのところ、しょっちゅう入っとるよな?」
「……はい。ごめんなしゃい」
ケーキには抗えなかったようで、素直に白状した。
「あれ程駄目じゃと言うておったのに、お前という奴は……。何を見た?」
「じゅじゅつのしかた……」
「はあ。お前という奴は。誰に似たのかのう」
「……ご、ごめんな……しゃい」
智鶴は誰も教えてくれないのに、自分で学ぶ事も許されない悔しい気持ちと、約束を破った事への罪の意識で、涙がもう決壊寸前だった。
「まあ、お前の気持ちは分からんでも無い。今回は不問にする」
「本当? ありがとうおじいちゃん」
不問と言われ、智鶴は涙が引っ込み、ぱぁっと明るい顔をする。
「で、どこまで出来る様になったんじゃ?」
「え~とね。同時に紙を浮かせられる様になったよ。お父さんみたいに上手に操れないけど。浮かせるだけだけど」
智鶴の言葉に、智喜は渋面を浮かべる。
「因みに聞くが、何枚まで浮かせた事がある?」
「え? 覚えてないけど、多分20枚くらい?」
「そうか……。良いか、智鶴よ。今後一度に浮かせて良いのは、20枚までとする。それ以上は霊力の消耗が激しいから駄目じゃ。それが約束出来るなら、お前に倉への出入り、呪術の勉強を許そう。どうじゃ? 約束出来るか?」
「本当に!? やったぁ! 約束する!」
智鶴は万歳をして喜んだ。
「そして、もう一つ良いか?」
「うん」
もうこの上なくご機嫌だった智鶴は、智喜の事なら何でも受け入れる姿勢だった。
「百目鬼は色々と辛い事があって、心を閉ざしてしまっておる。恐らく部屋から殆ど出る事は無いじゃろう。そんな彼の心を開いてやって欲しい」
「こころをひらく? どうやるの?」
「要は仲良くなれば良いんじゃ。先ずはお前とだけでも仲良くなって欲しい。お前が呪術の道に進むのなら、きっと彼はお前の相棒となるじゃろうから」
相棒という単語を聞いて、現在『音楽魔女ドミソ』に大ハマり中の智鶴は、ワクワクした気持ちが爆発しそうになった。
というのも、ドミソの世界では、主人公のドミソちゃんが、5人の仲間と力を合わせて戦うのだが、その中でも智鶴は特にドミソちゃんが大好きで、彼女の相棒、妖精のオンプンというキャラ、相棒という存在に憧れを抱いていたのだ。
「相棒? どうめきくんが、私の相棒になるの?」
「そうじゃよ。まあ、色んな事が上手く行けばの話じゃが」
「相棒のためなら、頑張らなきゃ! 私、どうめきくんの所行ってくる!」
まだそうと決まった訳でも無いのに、はしゃいで智鶴は走り去っていった。
「こ、こら。まだ話は終わっとらん……」
智喜は全ての言葉を発っすることが出来なかった。
「どうめきくんの部屋は、ここですか~?」
門下生用通用口の脇にある部屋の前で、智鶴が大きな声を出す。が、中からは返事が無い。
「どこかへ行っているのかな?」
智鶴はそう呟くと、道場へ行ってみる事にした。
「どうめきくんはいますか~?」
道場の戸を開けると智鶴はそう問いかける。すると、スキンヘッドを汗で輝かせた藤村馨と、綺麗な髪を長く伸ばした女性が出てきた。
「智鶴様。道場は立ち入り禁止ですよ」
藤村がそう言う。
「あう……。ごめんなさい」
「その、どうめきくん? という方はここへ来ていないよ」
女性にそう言われ、智鶴は、「そうでしたか。じゃ!」 とお辞儀をして、道場を後にした。
「告さんも居ないし、お母さんも居ない……みんなどこで、どうめきくんと遊んでいるんだろう」
智鶴は思いつく限り、トイレとか、お風呂とか、台所を探したが、どこにも居なかった。
「あ、そうだ! 広間に行ってない!」
と名案を閃い(ひらめ)たかの様に言うと、玄関の右側。普段は門下生の食事場兼談話室となっている大広間の襖をターンと開いた。
「いた! ……あれ? やっぱり居ない」
大広間には、美代子と告が座っていた。てっきり百目鬼は告の陰にいると思ったのだが、そうではない様だった。
「智鶴? どうしたの?」
美代子がそう尋ねるので、智鶴はテコテコと歩み寄ると、母の膝を揺する様にして、「どうめきくんは~?」と疑問で疑問を返した。
「あらあら、百目鬼くんを探しているのね。お友達になりたいの?」
「うん! 相棒だからね!」
「もう、そんな事言って。あんまり困らせちゃ駄目よ」
「いやいや。案外、年の近い子がグイグイ行く方が、ともすれば上手く行くかもしれませんよ」
と釘を刺す美代子に対し、告は智鶴を肯定する。
「あんまりうちの子を甘やかしちゃ、駄目ですよ」
そう言われて困った顔をする告が面白くて、智鶴も母のまねをして「だめですよ~」と言っていた。
「ああ、でも、残念ね。百目鬼君は今ここに居ないの。お部屋じゃないかな。こんな字が書いてある部屋なんだけど」
美代子は手近にあった紙に『百目鬼』と書いた。
「読めない~」
「この字で、『どうめき』と読むのよ」
「そうなんだ! 百目鬼君だね! これと同じのが書いてある部屋を探してくる!」
智鶴は紙をひったくると、廊下側の襖をまたもやターンと開けて、走り去った。
「元気なのは良い事ですね」
「ええ。本当に。百目鬼君が来てくれて、あの子もこうして笑顔が増えれば良いのだけれど」
智鶴が居なくなった広間で、美代子がそう言っていた。
「う~んと、百目鬼は、『百』に『目』に『鬼』! ……でも、どの部屋だろう」
まだ漢字の読めない智鶴は、それを文字でなく、記号として捉えていた。
智鶴は屋敷内をぐるぐると歩き回り、同じ文字を探していく。けれど、どこにもその表記がなされている部屋は見つからず、結局最初の部屋の前に戻ってきてしまった。
「つかれた……って、あ! 百と、目と、鬼だ! 何だ、ここで合ってたのか~」
そう、屋敷中をぐるぐると探し回った智鶴だが、結局最初に訪れた門下生用通用口の脇にある部屋で合っていたのだ。
「どうめきく~ん。いますか~?」
中に呼びかけるも、返事がないので、襖を叩いてみるが、それでも返事が無い。
「あけるよ~?」
とうとう痺れを切らした智鶴はそ~っと襖を開けた。
部屋の中には一見して誰も居ないようだったが、よく見ると、ベッドの脇に小さく膝を抱えて百目鬼が座っていた。
「いた! 探したんだよ!」
そう言って、腕を組み、ぷんぷんと怒った様子を見せる智鶴。
百目鬼がそっと顔を上げる。髪が顔に掛かってよく見えないが、目が合った。と智鶴は感じた。
見つめ合い、数秒時間が止まる。
百目鬼はスッと立つと、反対側の襖を開けて、脱兎の如く走り出した。
「おいかけっこ!」
智鶴は嬉しそうに言うと、百目鬼の後を追っていった。
誰も居なくなった大広間を横切り、廊下へ抜けたとき、「ただいま」と智秋が帰ってきた。自分よりも背の高い智秋なら守ってくれると思ったのか、百目鬼は智秋の陰に隠れる。
「ちょっと。この子誰?」
「百目鬼くん! 多分あとで、おじいちゃんから教えてもらえるよ」
それでも百目鬼を捕まえようと諦めない智鶴は、姉の足下に隠れる彼へじりじりと距離を縮めていった。だが、突然「いでっ」っと智鶴が声をあげ、頭を抑えた。見上げると、手刀を構えた智秋がいた。
「怖がってるでしょ。止めてあげなさい」
姉らしくそう忠告するが、大好きなお姉ちゃんに打たれたと分かった智鶴は、大声を上げて泣き始めた。その声を聞きつけて、美代子がやってくる。大部屋からもなんだなんだと門下生が顔を出した。
「おねいちゃんがぶった~~~わ~~~~~ん」
何で打ったの? と美代子が智秋に尋ねたり、智秋が状況を伝えようとしたりする中、百目鬼はこっそりと自室へ戻った。
「ほっといてよ……」
自室でまた小さくなり、膝を抱える。誰にも聞こえない声で、百目鬼はそう呟いた。
「もう誰とも関わりたくない」
深く悲しい気持ちが迫ってくるが、涙は出なかった。ここへ来る前に全て流しきっていた。
夕飯時になり、美代子が百目鬼を呼びにやってくる。
美代子に手を引かれ、本家の居間へやってくると、既にご馳走が並んでいた。それに少しだけ心がほっこりとした。
「あ! どうめきくん!」
ほっこりとした気持ちは、智鶴の声にかき消された。
「歓迎会も兼ねているの。さ、座りなさい」
美代子に言われるがまま、座布団へ腰を下ろす。目の前には唐揚げや卵焼き、サラダにお刺身と百目鬼の好きなものばかりだった。
「うむ。皆席に着いたな。では、改めて紹介しよう。千羽家の門下生としてここに住む事となった百目鬼隼人君じゃ。宜しくしてやってな」
智鶴と智秋は同時にコクンと頷き、美代子は「はい」と声を上げた。当の百目鬼はというと、やはり俯いてもじもじしていた。
「では、頂くとしようか。いただきます」
智喜の号令に従い、他の者も手を合わせると、「いただきます」と言って箸を掴んだ。
賑やかしい食事の後、美代子が智秋と智鶴と百目鬼を、お風呂へ連れてきていた。美代子にはまだ台所仕事が残っていたので、彼女は服を脱がずに、ジーパンの裾とシャツの袖を捲っている。三人の服を脱がすと、洗濯籠に放り込み、風呂場へ促す。
裸で3人、横並びでプラスチック製の風呂椅子に座る。
「どうめきくん辺なの付いてる~! ね、お姉ちゃん」
「もう、智鶴ったら。そんな事に興味持たないの」
智鶴よりもおませな智秋は、心なしか顔を赤らめる。百目鬼も同じように少し恥ずかしそうだった。
美代子は三人にそれぞれ順番に濡れタオルを渡し、そこへ順番に石けんを付けていく。そして、「さんはい」と掛け声を掛けると、智鶴と智秋が同時に体を洗い始めた。百目鬼も戸惑った様子を見せはしたものの、二人に倣い、体を洗っていく。
「先ずは腕を洗いましょ~右腕右腕左腕左腕♪ お次はお腹とお胸です~」
智鶴と智秋が楽しそうに歌いながら、体を擦る。毎日見ている子供番組『母上とご一緒』で、歌の姉様が歌っている歌だった。
シャボンがフワリと舞って、どこかでパチンと爆ぜてを繰り返し、2人は歌いながら、もう1人は照れながら、体を洗っていく。
「これでおしまい! お尻のお山をきゅっきゅっきゅ!」
と最後の歌詞を歌いきると、美代子は三人へ順番に湯を掛け、泡を流してやる。そして、それぞれ頭にシャンプーを垂らすと、またもや「さんはい」と言った。
流石に頭は歌いながらでは洗えない様で、黙って髪をゴシゴシわしゃわしゃと洗っていくが、智鶴はどこか上機嫌で、小さく鼻をふんふん♪ と鳴らしていた。
風呂上がりに美代子は百目鬼を自室に連れて行くと、棚から包帯を出した。
「これを巻いておけば、もう、怖い事は起こらないわ」
美代子の明るい声に百目鬼は顔を上げる。
「この包帯にはね、おばさんの呪い文字が書いてあるの。意味は『眠り』。眠くなると目が閉じちゃうよね? それと同じように、あなたの腕の眼が開かない様に出来るの。術が上手くなるまでは、ちゃんと巻いておくのよ」
百目鬼は、包帯を巻いて貰う間、ずっと美代子の顔を眺めていた。もう暫く会っていない母と照らし合わせる様に。
「よし。おっけい」
最後をキュッと縛ると、彼女は百目鬼の頭をぽんと叩いた。
「うるさいし、我が儘な子だけど、智鶴と智秋とどうか仲良くしてあげてね」
百目鬼はぺこりと頭を下げると、自分の部屋へ戻って行った。
夜も遅くなったが、慣れないベッドと枕に、寝付けないで居た。
白澤院の大部屋の煎餅布団も、決して良い物では無かったが、少し慣れたあそこは、全く慣れていないここよりは幾分かマシな気もした。
コロコロと寝返りを打ったり、目を閉じてみたりしたが、どうしても寝付けない。
仕方なく、天井を見上げると、板の目が人の顔に見えてくる。怖くてキュッと目を瞑ると、今日の事を思い出していた。
告様に連れてこられた新しいお屋敷。そこの主人と孫娘。智秋さんと智鶴。智秋さんは良いけど、智鶴って子は駄目だ。鬱陶しい。騒がしい。苦手だなぁ。でも、美代子さんはいい人だ。お日様の匂いがした。あの人が仲良くしてやってと言うなら、考えても良いな――百目鬼は知らぬ間に寝ていた。
これが百目鬼が千羽家に来て1日目の事である。
今週もありがとう。
読んでくれたアナタに感謝。
来週も読みに来てくれると嬉しい、な。