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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第二章 ムカつくアイツ

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8話 反省会

()()()ない。不甲斐ないわ」

 次の日の昼休み。屋上では()(づる)が機嫌の悪そうに弁当を食べていた。

「私も。何年妖の相手してるんだって感じだよ」

「ホントよね……って、何でアンタが居るの!?」

 しれっと、さも当然かの様に(りょう)()も一緒にお弁当を食べていた。

「いいじゃない」

「俺が、呼んだ」

(どう)()()!?」

「これからの、打ち合わせ、しなくちゃ」

「百目鬼がそう言うのなら、『仕事』だからしょうがないわ」

 智鶴はどうやら、()(なた)(くろ)()(てん)(ちょう)の言葉を実行し、仕事だからと自分に言い聞かせる事で、竜子の事を『諦めよう』と思い始めているようだった。

「でも、ホント、分かってたのにね」

「そうよね」

「2人の悲鳴で、驚いて、術を解いた、俺も、不甲斐ない」

「……」

 3人は弁当をつつく手も止め、一点を見つめる。

「でも、本当に居たわね。のっぺらぼう」

 沈黙を破りきらないくらいに、智鶴がポツリと零した。

「そうだね。でも、あんなに若そうなのっぺらぼうが、一体だけ居るなんてことある?」

「珍しい、ね」

 のっぺらぼうは人に近い背格好である為か、家族を作り、その単位で行動する事が(もっぱ)らである。その定義に従えば、少年ののっぺらぼう一人というのは、なんとも不思議な話であった。

「おじいちゃんの見立てではね、流れ者じゃないかって」

「流れ者?」

 竜子が首を傾げる。

「何かがあって、家族とはぐれてしまったんじゃないかって」

「ああ。なるほど」

「でも、そんな事関係ないの。あの妖、私に術をかけたわ! 滅して良いって事よね」

 智鶴の目が(らん)々(らん)と輝く。

「まだ、そう、決まってない」

 竜子もそうだと言わんばかりに首を縦に振る。

「何でよ。そこに、術を使う妖が居るのよ? 一般人に大きな被害が出る前に滅さなきゃでしょ。これが、私たちの、『仕事』よ」

 智鶴が声を大きくしてそう主張する。その光景へ呆気にとられながらも、竜子が疑問を呈する。

「ずっと疑問だったんだけど、何で智鶴ちゃんはそんなに妖を滅したがるの? 私と戦った時も、私より()()()を攻撃し続けてたし」

「それは、妖が絶対悪だからよ。いつも言っている事でしょう?」

「本当に?」

「そうよ……」

 智鶴が気まずそうに俯く。一瞬沈黙が流れたが、百目鬼が智鶴の言葉を(さら)い、話を続けた。

「智鶴のお父さん、妖に……」「ちょ、百目鬼!? 言わないでよ」

 全て話す前に智鶴が阻止したが、一言で全て伝わってしまった様だ。

「そうだったの……」

「ふんッ。アンタに同情なんてされたくないわよ」

「同情じゃ無いわ。私もね、昔、お母さんが仕事に行ったきり、まだ帰ってこなくて……」

「……」

「それをちょっと思い出しちゃったの……。なんてね、もうそんな事は乗り越えているんだけどね」

 取り(つくろ)う様に、後半を明るく話した竜子を、百目鬼が表情の無い顔でじっと見つめていた。

「あ、そう言えば。話は、変わる、けど。智鶴、朝、(とも)()様に、何か、言われて、なかった?」

 彼は竜子から視線を外すと、この話を掘り下げるのは良くないと思ったのか、話の方向をずらした。

「そうだったわ。忘れてた。アンタ、今日の放課後、ウチにいらっしゃい。おじいちゃんが呼んで来いって」

「なんだろ……私何かしたかな」

「何かはもうした後じゃない。多分、(えっ)(けん)の事だと思うわ」

「謁見?」

 竜子が何のことか分からないと言う風に、首を傾げた。

「アンタがここでやってくために、(だい)(てん)()(さま)へお顔を見せに行くのよ」

「ええっ」

「鼻ヶ(はながたけ)(やしろ)の上。普通の人には入れない(しん)(いき)にいらっしゃる、ここいらの(うじ)(がみ)(さま)よ」

「私が会って大丈夫なの?」

「会わない方が大丈夫じゃ無いのよ。その土地に入ったら、その土地の主に挨拶をするのは当然の事じゃないかしら?」

「それもそうね……。分かった、放課後だね」

 丁度その時予鈴が鳴った。3人はまだ半分以上残る弁当に目を落とすと、慌てて掻き込んだ。

 教室に戻ると、日向が話しかけてきた。

「あ、ちーちゃん、やっと戻ってきた。どこ行ってたの?」

「ちょっとね、気分が乗ったから、外で食べてた」

「百目鬼君と?」

「そういう訳じゃにゃいわ」

「噛んだ」

「噛んでない」

 智鶴が顔を赤くして否定する。

「まあいいか。可愛かったし」

「か、かわ……」

 更に赤くなる智鶴。

「ふふ。やっぱりちーちゃん、直ぐに照れるね」

ニコニコと笑顔を向けて話す日向の顔が、恥ずかしくて直視出来くなった智鶴は、そっと視線を彼女から外した。

「うるさいわね」

「怒んないでよ~」

「ふん。日向だから特別に許すわ」

「あ、そうだ。ちーちゃんて、お化けとかの話、信じるタイプ?」

お化けというワードに驚いて、智鶴は日向の目を直視した。

「いいえ? 全く」

「目力と言葉がか噛み合ってないよ……」

「そんな事より、それはどんな話なの?」

日向が「あのね……」と切り出したとき、本鈴がなり、日直の生徒が「キリーツ」と声を上げた。

「続きはまた後でね」

「うん……」

 だが、5時間目が終わっても、移動教室のバタバタで話しかけられず、6時間目とホームルームが終わると、日向は直ぐ部活の友達に引っ張られていってしまったため、結局話は聞けず仕舞いに終わった。

「何の話だったんだろ……」

 帰り道で独りごちるも、解は出ず。気になるけれども、

「私から聞くのもなぁ。なし崩しに家業の事がバレるかも知れないし……。聞けないなあ。何だったんだろう」

となんだかモヤモヤした気持ちを覚えながら、智鶴は帰宅した。

 ジャージに着替えて早速と、トレーニングに出る時、竜子とすれ違った。

「智喜様居る?」

 門の前でそう尋ねられたから、智鶴は「うん。奥の間」と短く答え、走り去った。

「お邪魔しまーす」

 竜子は緊張した様子で、敷居を跨いだ。ここへ来るのはあの夜以来。自分の生活の何もかもが変わった場所。震える手で玄関を開けると、中へ入る。

 因みに竜子は千羽付となっても、この家に住んでは居なかった。住み込みが定められているのは門下生のみであり、竜子にその義務はない。その上、今借りているアパートの契約更新云(うん)々(ぬん)があり、住処を変える事はしなかった。

「この家、前に来たときは気がつかなかったけど、広いね~。全盛期の時のウチより広いね。絶対」

 そんな独り言を言っていると、右の方から、修行着姿の両手に入れ墨のある若い男がやってきた。

「お客さんですか?」

「あ、はい。十所竜子といいます。智喜様に呼ばれて居まして」

「ああ。当主のお客様ですか。これは、失礼を」

 といいつつも、ヘラヘラした居住まいを直す様子は無かった。

「智喜様なら奥の間にいますよ。さあ、どうぞ」

 その男に連れられて奥へと上がる。竜子を連れて行く間、その男は呑気にも、「智喜様も隅に置けないなぁ」などと言っていた。

 奥の間へ付くと、男が中へ声を掛ける。

「智喜様。お客様です」

「通しなさい」

 そして、その男の手によって、障子が開けられた。

「十所です。智鶴さんに言われて来ました」

「ささ、入りなさい」

 にこやかに室内へ通される。その部屋は前に入ったときと違い、部屋には何の文字も書かれていなかった。

「お久しぶりです」

 そう言って、深々と頭を下げる竜子。

「ああ、そんな丁寧にしなくて良い。頭を上げて、なんなら足も崩して良いぞ」

「ありがとうございます。でも、正座が落ち着くので」

「それなら良いが」

「して、どういったご用件で?」

「まあ、そう焦るな。どうじゃ? この土地には慣れたか?」

「はい、と言いたい所ですが、まだなかなか土地勘が付かなくて……」

「そうかいそうかい。何も無い田舎じゃ。直ぐになれるじゃろうて。あと、そうじゃ、智鶴とは上手くやれとるか?」

 ギクリとした事がバレないように、笑顔を作って、返事をする。

「それも、ぼちぼちと言うところです」

「まあ、あの子は環境の変化に弱いからのう。どうせ、今まで通りが崩れたとかそんな事を思っとるに違いないわい。変わることも悪いことじゃないのにのう。早う気がつかんかのう」

 彼は困った様な声を出しながらも、どこか嬉しそうに、(あご)(ひげ)()でていた。

「あの、差し出がましい様ですが、智鶴さんの方から少し小耳に挟みまして。何やら大天狗様へ謁見させて頂けるとかなんとか」

 話を逸らそうと、竜子は無理矢理本題に入った。

「なんじゃ。アヤツ、もう喋ってしまったのか。ちと驚かそうと思ったんじゃがのう」

 子供っぽく文句を言う智喜は当主と言うより、智鶴の祖父といった感じがした。

「そうじゃ。謁見じゃ。智鶴が鼻ヶ岳の鼻出神社へ参拝に行った折、家来の天狗様が降りてこられて、お前さんに大天狗様へ謁見する様にとのお達しを出されたのじゃ」

 智鶴は八角齋と仲が良いことも、鼻ヶ岳に修行場を設けていることも秘密にしているので、お茶を濁した結果、こんな報告になっていた。

「はい」

「丁度明日は土曜日じゃし、昼頃にでも智鶴と百目鬼に案内して貰いなさい」

「分かりました」


「おじいちゃん、何だって?」

 夜、仕事中に珍しくも、智鶴から竜子へ声を掛けた。

「智鶴ちゃんの言っていた通り、大天狗様の件だったよ。明日のお昼に2人に案内して貰えって。時間ある?」

「俺は、大丈夫」

「『八角齋さんからのお願い』だしね。私も行けるわ」

「八角齋さんって?」

「大天狗様の()(らい)(しゅう)よ」

「へえ。智鶴ちゃん、天狗様も妖なのに、仲いいんだ」

「付き合いも長いし、それに氏神クラスの眷属に手を出す様な真似は、流石にしないわよ」

「ふ~ん」

「何よ」

 パチンと火花が見え、ああ、結局またかと百目鬼がうろたえる。が、智鶴は至って冷静なまま、先を続けた。

「……まあ、いいわ。今日はこれ以上湧かないでしょうし、帰りましょう。百目鬼、どう?」

「辺りに、気配は、無い、よ。帰って、大丈夫」

 予想外にも火花が散らなかった為、百目鬼はホッと安堵した。

「じゃあ、また明日。14時にウチへ来なさい」

 そう言いながら、百目鬼と智鶴は帰って行った。

「はーい。じゃあね」

 突っかかってこない事に驚いたのか、心のここにあらずと言った返事をし、2人を見送った。

今週もどうもありがとう。

来週もどうぞよろしく。

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