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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第二章 ムカつくアイツ
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6話 こんな事件がありまして

16時半頃、()(づる)が帰宅した。そして、玄関口の土間に見知らぬ革靴が置いてある事に気が付いた。

「おじいちゃん? 誰か来てるの?」

 客間を開けてそう尋ねた。


 時間は少し遡る。

具体的には智鶴が帰り着く3、40分前の事。千羽家の玄関口にスーツ姿の男が2人立っていた。門下生の1人が出迎えると、2人は懐から警察手帳を取り出し、提示した。

「県警捜査二課の(はなわ)(こう)(ぞう)です」

「同じく(いま)(がわ)(しゅう)(いち)です」

「お待ちしておりました。客間へどうぞ」

 客間には、ローテーブルが置かれ、向かい合う様に2枚ずつ座布団が敷かれていた。

(とも)()様はもうすぐいらっしゃいますので、暫しお待ちください」

「智喜様? (とも)(ふさ)さんじゃなくて?」

「ええ。現当主は智喜様ですよ?」

 不思議なことを聞かれたという様な顔をして、門下生は去って行った。

  

 待つ事数分、廊下とこの部屋を仕切る障子が開けられた。

「すまない。待たせた」

 と言って入ってきたのは老人――千羽智喜だった。

「いえ、こちらこそ。急なアポイントになってしまいましたのに、予定を開けて頂きまして、ありがとうございます」

「そう畏まらんでいい。最近は暇じゃったからの、気にせんでくれ」

「いえいえそういう訳には……。あ、そう言えば、本題に入る前に一つ宜しいですか?」

「なんじゃ?」

「智房さんは? てっきり、彼が当主になったと思い込んでいました」

「ああ、智房は亡くなったよ。10年前になるかのう」

「あ、ああ……そうでしたか。それはご(しゅう)(しょう)(さま)です。後で線香をお上げしても?」

 亡くなったと聞いて、驚き半分、申し訳なさ半分と言った複雑な表情を作り出すと同時に、智房と会っていたのがもう10年以上前という事実に、時の流れの速さを感じた。

「勿論、ありがたい事じゃ」

 数秒気まずい沈黙が流れる。

「……それでは、本題に入らせて頂きます」

 話しにくそうに幸三は本題に入った。

 

 そして、今に至る。

「これ、智鶴。急に開けちゃ駄目じゃろ。お客さんに失礼じゃて」

 智鶴が居間の側から(ふすま)を開けて、智喜に叱られた。

「ああ、良いんですよ。(あら)(かた)話す事も話しましたし、智房さんに線香を上げて、そろそろ出ます」

「ああ、ちょいと待ってくれ。返事がまだじゃった。その件、この子に任せる事にする」

「この子? この、高校生のお嬢さん?」

 幸三が智房と初めて会ったときよりも、更に若く見える少女が任に就くと聞いて、驚いた顔をする。

「そうじゃ。ワシの孫で、(とも)(ふさ)の娘じゃ」

 こんにちはと両者頭を下げる。

「ああ、この子が。では、智房さん同様腕も立つと」

「そこは期待せんでくれ」

「おじいちゃん!?」

「まあまあ、良いから、お前も席に着きなさい」

 智鶴が席に着いたのを見ると、幸三が話し始めた。

「先ほど智喜様にも話したので、詳しい話や資料等はそちらから聞いて頂くとして、私からは掻い摘まんで概要をば」

 そうして話し始めた幸三によると、最近清涼駅の周辺で、のっぺらぼうを見たと交番に駆け込んでくる者が何人か居たという。最初こそ酔っ払いの戯れ言と、上に報告すら上がらなかったのだが、こう何件も重なると(かん)()する事も出来なくなり、不審に思った警察は調査をしたが、丸で何も掴めなかった。もしや本当に妖怪の仕業ではないかと、こうして千羽を訪ねることになったという訳だった。

「そんなことがあったなんて、気がつかなかったわ」

「まあ、百目鬼の索敵も流石に駅前の方まで探れんて。それに、あっちは普段湧かないからのう」

「そうね。駅前に出るなんて、珍しいわね」

 話について行けなくなり、修一がきょとんと首を傾げる。

「ひょっとしたら、流れ者とかかもしれんのう」

「あ、あの~」

 自分らを余所に話が盛り上がってしまう前に、幸三が口を挟んだ。

「俺たち、本当、そろそろ時間なもんで、失礼します。あ、でも、線香だけ上げたいですね」

「ああ、これは、すまなんだ。智鶴、仏間まで連れていって差し上げなさい」

 はいと返事をすると、智鶴が立ち上がり、2人を仏間へ連れていく。

「刑事さんたちは、お父さんの知り合いなの?」

「ああ、まあね。昔に仕事でちょっと」

「そうなのね。お父さんに線香を上げて下さる刑事さんなんて初めてだから、驚いてしまったわ」

 そして仏間に着き、こちらですと言って中へ通すと、智鶴は外で控えていた。チーンとお(りん)の音が厳かに響き、(きゃ)()の香りが部屋を漂う。あからさまに付き添いで仏間まで来た修一も、一緒になって手を合わせていた。

「ありがとう。智鶴ちゃんはまだ若いのに、偉いね」

 仏間から出てきた幸三が智鶴にそう話しかける。

「若いと言っても、もう高校生だから、我が家では普通の事だわ」

「あ、高校生ね……」

「まさか、中学生かとでも思ったの!?」

「いや、まあ、いいじゃないか。……っと、コイツは修一って言うんだ。これからこの件の担当はコイツになるから、覚えといてね」

まさか小学生かと思ったなど言えない幸三は、話をすり替えた。

「わかったわ。よろしく」

 修一もぺこりと頭を下げる。

「じゃあ、お(いとま)するから。くれぐれも無事で。この件をお願いします」

「ええ。任せておきなさい」

「……ああ、忘れるととこだった」

 修一は何かを思いだした様子で、慌てて内ポケットを探る。

「夜に調査で出歩くとき、もしも警官に()(どう)されたらこれを見せてね」

 そう言って一枚のラミネートされたカードを一枚渡す。

「お前、準備が良いな」

 幸三に褒められた修一は照れくさそうに、頭の後ろを掻いた。

「では、これで本当にお暇します。お邪魔しました」

 刑事2人は頭を下げ、千羽家を後にした。


 返り道、修一は幸三に向かって口を開いた。

「あの子が次の跡取りなんですかね。あんな小さい体で、あんな大きな家を背負って行けるんですかね」

「ん~。分からんけど、大丈夫なんじゃないかな。お前はあの家で何か感じたか?」

「そうですね……ああ、ヤケに静かだなと。あと、娘さん、言葉遣いが高圧的なのに、全く嫌な感じがしなくて。言われてみると不思議な感じがしますね」

 修一は腕を組み、考えながらそう言った。

「そうなんだよな。あの家に行くと、なんだか自分の常識が分からなくなる気がするんだ」

「確かに、そんな感じがしました」

「だから、きっと俺たちの基準じゃ計れないんだよ。無闇に心配する事もないさ」

「そんなもんなんすかね」

 そんな事を話ながら、彼らはバスに乗り、千羽町から去って行った。

 

 修一に貰ったカードを弄びながら客間に戻ると、智喜が待っていた。

「それじゃ、詳しい事を話すから。ほれ、対面の席に座れ」

 智鶴が座ると、智喜が詳しい話を始めた。のっぺらぼうの特徴、現れたとされる場所等々。

――以上じゃ。分かったか?」

「何となくはね」

「そうか、なら、この件お前らに任せるからの。他の2人にもち(、)ゃ(、)ぁ(、)ん(、)と、情報共有するんじゃぞ?」

「え!? 私だけでやるんじゃ無いの?」

「折角3人1組で仕事をして居るんじゃし、探し人……この場合は妖か。というのは、複数人で探した方が見つかりやすいもんじゃ」

「え~」

「お前、まさかまだ(りょう)()に突っかかって居るんじゃなかろうな」

「……」

「いいか? お前は確かに前から家の外の仕事も請け負って、この千羽の地以外の場所も知っとるし、(どう)()()以外の呪術者と力を合わせる事もやってきて居る。じゃが、それは単発でのことじゃ。これからここにどんな妖が湧くかも分からんしな。そういった時のためにも、息の合った仲間を増やしておくのは、そんなに悪い事でも無い」

「そんな事は分かってるわ。でも、何であの女なの? 他にも居たでしょ」

「あの子が、お前と似た様な傷を負って居るからじゃ」

「え?」

 祖父の口から出た意外な言葉に、智鶴がキョトンとする。

「ワシから話す事でも無いわい。本人に聞くんじゃな」

「ええ……」

 あからさまに面倒くさそうという表情をする智鶴。

「人と人は言葉を交わしてこそ、(わか)()えるというもんじゃ」

「そうは言うけどさ……」

 智鶴はふくれっ面で遠くを見る様に目を逸らした。

「じゃあ、今晩からのっぺらぼう捜し、宜しくの。ああ、そうじゃ、言い忘れて居ったがのう、邪気が無い限りのっぺらぼうは滅さず、ちゃんと話を聞く事。人と妖だって、言葉が交わせられれば、きっと解り合える」

 言いたいことを言い切ると、智喜は「さーて、明日は老人会の旅行じゃ~」と言いながら部屋を去って行った。

「え、ちょっと、おじいちゃんっ!?」

 智喜の放った言葉の意味を遅れて理解した彼女は、追いかけようと立ち上がったが、足が(しび)れて転けた。


「……と、言うわけ」

「分かった。竜子には、俺から、伝える」

 百目鬼の部屋で、2人は話していた。

 門下生は普通、男女別の大部屋を(つい)(たて)で仕切って暮らしているのだが、百目鬼は彼らと当番の日が違う事や、門下となった時まだ6歳であり、大勢の大人と暮らすストレス等を考慮され、一室が与えられていた。

「よろしく」

「今日はやけに素直」

「五月蠅いわね。良いじゃないの」

「うん。良い事、だね」

 そう言いながら百目鬼は携帯を弄り、竜子に連絡を飛ばす。その様子を見て、智鶴はジトッと(にら)んだ。

「いつの間に連絡先交換したの?」

「え? いつって、仕事始めた、時」

「本当に嫌らしいわ」

 ぺっぺと唾を吐く様な仕草をする。

「智鶴。もう、いい加減、諦めなよ」

「……」

「彼女が、また、千羽に、何かしない様、見張るのも、スリーマンセルの意味が、ある」

「……分かってるけど。ねえ、百目鬼。百目鬼はあの子の事、本当はどう思ってるの?」

 ベッドに腰掛ける百目鬼を、下から覗き込む様にして、見つめる智鶴。上目遣いの彼女はいつもの彼女とは違っていて、何だかとてもしおらしく見えて、百目鬼は何故か少しドギマギしていた。

「どうって、いわれても、な……」

 彼は智鶴からそっと目を逸らし、言葉を探す。

「智喜様が、判決、下したときには、もう、諦めて、考えない様に、してたから……」

「そうなんだ。百目鬼は凄いね。大人だ。私は今でも、こうしてウジウジしてさ。本当は2人で子供みたいって、私の事笑ってるんでしょ」

 そんな事を言う気は無かったのに、百目鬼がはっきり、本当はムカついてるとかそんな事を言ってくれたら、きっとそれだけで落ち着いたのに。少し自棄(やけ)になって言った言葉を智鶴は後悔した。しかし。

「違う」

すかさず百目鬼がそれを否定した。

 百目鬼が真剣な眼差しで、智鶴を捉える

 百目鬼の(まと)う雰囲気が真剣なそれに変わる。

「俺は、何があっても、智鶴のこと、笑ったりなんて、しない」

「百目鬼……」

 髪の間から見える強いな眼差しに、気圧されそうになる。

 その眼差しが、本心から出た想いが、そっと、しかし、強く抱きしめる様に、智鶴を包み込んでいく。彼女の目はハッとして大きく見開かれ、それは鏡の様に正対する少年を映し出していた。

「それに、きっと、立場が違えば、俺も、竜子に、素直になんか、なれなかった、かも」

「そうなの?」

 ふわっと笑う百目鬼は、いつもの雰囲気に戻っていた。

「うん。だって、俺の立場で、智喜様に、逆らえないよ」

「それもそうか」

「そうだよ。智喜様の、言う事、従って、そうやって、今まで、生きてきた。だから、今更、逆らう、何て、しないよ。智喜様が、決めたなら、俺は従うんだ」

「百目鬼のおじいちゃん崇拝は、健在なのね」

「勿論。智喜様は、恩人。だからね」

「そうね。でも、なんかスッキリしてきたわ。私も、そろそろ『諦め』られそう」

 この部屋に入って、初めて自然にはにかんだ。

こんばんは。今週もありがとう。

普段のことはTwitter(@bousou_koutya)にて

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ではまた来週。

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