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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第二章 ムカつくアイツ
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1話 再始動

「ほっほっ。はっはっ」

 軽やかに呼吸をして、鼻ヶ岳の参道を駆け上がる者の姿があった。

 それは紺色にオレンジのラインが入ったジャージを着て、腰には巾着袋をぶら下げた智鶴である。

 中腹まで登ると参道を外れ、舗装されていない山道に入っていく。

「よっ。ほっ」

 彼女は巾着から数枚、A5サイズの紙を取り出し宙に放ると、それを足場に右へ左へ飛び移り、上方へと飛び上がる。そして木の枝に着地し、同時に足場にした紙が巾着の中へ吸い込まれる様に戻るのを確認すると、次は木の枝を飛び移りながら山の奥を目指していく。

 すると、開けたところに出た。

 枝から飛び降り、スタッとそこへ着地するとすかさず腰から紙を抜き取り、辺りの木々に取り付けた的を()()いていく。

 そして全ての的を射貫くと、またもや紙を足場にして飛び上がっていく。木の(てっ)(ぺん)には、大きな紙が結ばれていた。(ほど)き、広げると、その紙の上に立つ。そのままゆっくりと前傾姿勢になり、(きん)()(うん)に乗る孫悟空の如く空を駆ける。木々を避けながら、左旋回・右旋回・ターン・急降下・急上昇。

 竜子と戦ったときよりは幾分かマシになってきたものの、まだまだ動きがぎこちない。やはり、大きな紙をしかも自分を乗せつつ操作するのは難しい様だった。

「~~~~~~クシュン!!」

 と、その時急に大きなクシャミが出た。その反動で彼女は足を滑らし、紙から落ちた。

「うおわぁぁっぁぁあああ」

「あ、危ない!」

 そんな智鶴を間一髪で(すく)い上げたのは、鼻ヶ(はながたけ)は大天狗に仕える八角齋(はっかくさい)だ。

「死ぬかと思った……。八角齋さん。助かったわ……」

「もう、お前はいつもいつも危ない事をしおって!」

「ええ。本当に助かったわ。ありがとう」 

 地上に降ろして貰いつつ、彼女は言葉を続ける。

「だから、どさくさに紛れてお尻を触った事は、気がつかなかった事にしてあげる」

「なにを~~~。小娘のケツなんぞに興味あるかぁ!」

 天狗なので分かりにくいが、八角齋は顔を真っ赤にしていた。

「小娘に興味津々なくせに」

 彼女はうりうり~もっと触りますかぁ? と(あお)る様にお尻を向ける。

「やめい! そんな汚いものをこっちに向けるな」

「あら、うら若き乙女に汚いなんて。傷つくわね」

 智鶴は(ふん)(がい)した事を見せつける為に、分かりやすく腕を組み、頬を膨らませた。

「ああ。それはスマン」

「良いのよ。許してあげるわ」

 直ぐに元に戻ると、何事も無かったかの様な表情をする。

「それより、お前は何をしていたんだ」

「リハビリよ」

「リハビリ? 何でそんな事を」

「余所者が入ったって言ったでしょ? そいつとの交戦で、結構深手を負っちゃって」

「それは難儀だったな。もう、具合は良いのか?」

「見ての通り。今の私なら、ハゲヶ岳を実現できるわ!」

「絶対に止めろよ? 絶対だぞ? フリじゃ無いからな?」

「やれって言ってるの? それ、もう完全にフリじゃない。大天狗様にチクるわよ」

「くぅ……。()(やつ)の数百倍生きているのに、何故いつもいつも言葉で押し負けるのだ? なんか、ワシ、オマエ、コワイ……」

「怖くないわよ。失礼ね」

「それで? 敵は倒したのか?」

 智鶴の言葉に苦笑いしながら、八角齋はそう問う。

「勿論よ。……と言いたいところだけど、痛み分けって所ね。情けない話だわ」

 やれやれと両手を空へ向けて首を振る。

「逃げられたのか!?」

「いや、逃げては居ないわ。何なら今でも街に居る」

「そんな。いや、でも、こうして修行すれば、いつかまた倒せる機会はあるからな。落ち込むなよ」

「何か勘違いをしているようね。彼女……侵入者は丁度一ヶ月前、千羽家本家付きになったわ」

「は?」

 八角齋が思いっきり()(げん)そうな顔をする。

「そうよね!? そう思うわよね!」

 智鶴がようやく意見を同じくする者と出会い、目を輝かせる。おじいちゃんも百目鬼も竜子を擁護する様な事を言うから、彼女はずっと閉口していたのだ。

「そりゃそうだろ。千羽は(あだ)なした奴を許したんだ? 何で?」

「分からないの。でも、何でかおじいちゃんが不問にしちゃって。それに、一緒に仕事しろって。私、(りょう)(よう)(きん)(しん)が解けたら、そいつとスリーマンセル組まなくちゃいけなくて……」

「それは……辛いな」

「どうしよ。そんなのに振り回されてたら、強くなれない……」

 智鶴は悔しそうに拳を握り、足下を見つめる。

「大丈夫。なんて無責任な事しか言えないけどな。それでも、自分のペースを見つけて、きっと強くなればいいだろ」

「そうね……そうよね。分かってるんだけど……。ああ、もう! ………………そうだ!」

 再び、八角齋を見ると、ニヤリと笑う。

「八角齋さん、今度私と手合わせしてよ。滅さない程度に力加減するから」

「お前、相当ワシをナメとるだろ。ワシだって、500年以上生きる大妖怪の端くれ。お前みたいな小娘じゃ、足下にも及ばんよ」

「この前、私の打撃で伸びてたくせに」

 智鶴は小声でそう言った

「何か言ったか?」

「いえ、何でもないわ」

 明後日の方向を向いてそう言い返す。

「けどなあ。そうだなあ……。まあ、暇なときなら良いぞ。お前、これからも毎日トレーニングしに来るんだろ?」

「本当に!? ありがとう! 今のところは毎日トレーニングする予定よ」

 嬉しそうに口元を綻ばせる。

「なら、暇なとき、ここに来たら良いんだな?」

「そうね。本当にありがとう! 取り敢えず貴方を倒す方法を考えなくちゃ!」

「倒すって……お前が言うと、なんだか背筋がゾ~っとするな」

「思い過ごしよ。八角齋さん、強いんでしょ?」

「八角齋様~~~~」

 そんな事を話していると、小間使いの小天狗が八角齋を呼びに来た。

「そろそろ戻らなくては。いいか? 絶対に山を傷つけるなよ?」

「分かってるわよ」

 智鶴はあらぬ方向を向いてそう言う。

「本当に分かってるんだよな!? それと、あんまり無茶するな。折角取り戻した健康体だ。大事にするんだぞ。あと……あれだ。その新しく千羽付になったって少女、時間を見つけて一度大天狗様に(えっ)(けん)させなさい。この地で長く働くなら、必要な礼儀だ」

「わかったわ。おじいちゃんに言っとく」

 八角齋は智鶴の頭にぽんと手を置くと、山の頂上の更に上、人が簡単に入る事の出来ない神域へ飛んでいった。

 八角齋の(ちん)(にゅう)はあったが、大体これが今、智鶴が家に帰ってから行っているトレーニングだった。

 竜子との死闘から早い事でもう1ヶ月が経っていた。あの判決を聞いた後、智鶴はアドレナリンが切れたのか、ぶっ倒れてしまった。

 翌日には目を覚ましたものの、霊力切れと、骨折、切り傷、打撲……etc.の怪我は直ぐに治らなかった。それでも、町医者の治療と、薬草の調合に長けた一族、()(たん)(ざか)から呼んだ(くす)()母美()()()(かい)(ふく)(まじな)いのお陰で、日に日に良くなり、つい一週間前、全ての包帯が解けた。

 だが、相当な荒療治だったようで、「もう、怪我しないくらい強くなる」と毎晩泣きながら言っていた。

 学校へは歩ける様になった頃から復帰していたが、仕事の方はなかなか療養謹慎が解かれず、智鶴の代わりとして先に回復した(どう)()()(りょう)()、門下生、それと時々()(あき)が行っていた。百目鬼と竜子が2人で仕事をしていることや、千羽の跡目候補として現場に出られない不甲斐なさ等から、人生で一番悶々とした日々を過ごしていた為に、包帯が解けると直ぐに今行っているトレーニングを始めた。勿論最初は誰もいい顔をしなかったが、リハビリだからとの言い訳を押し通して山通いを続けていた。 


「ただいま~」

「智鶴様、お帰りなさい」

 玄関で待ち構えていたのは、スキンヘッドの門下生――(ふじ)(むら)(かおる)だった。

「智喜様が奥の間にてお待ちです」

「分かったわ。ありがとう」

 おじいちゃんが? 何の用だろう? と疑問に思いつつも、奥の間へ向かう。

「おじいちゃん? 今戻ったわ」

「智鶴か。入りなさい」

 智鶴が障子を開け、中へ入ると、いつも通り紋付き袴を着た祖父が薄暗い部屋の中に座っていた。

「まあ、座りなさい」

「何かあったの?」

 智鶴が座りながらそう問う。

「いや、何、久しぶりにお前の話でも聞こうと思ってな」

「何よ。改まって」

「最近、何やら走り回って居るとか聞いてのう。もう怪我は良いのか?」

「ええ。もう元気よ。元気が有り余っているくらいだわ」

「そうか」

 (とも)()は優しく微笑むと、話を続ける。

「それだけ元気なら、もう良いじゃろう。(せん)()()(づる)に課した療養謹慎を解き、今夜からの仕事に参加する事を許す」

「本当!?」

 智鶴がぱああと嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「ああ。本当じゃ。ちゃんと3人で行う初仕事じゃからの。気張りなさい」

「3人……。そうよね……」

 急激に笑顔が消えていく孫の顔を見て、智喜が苦笑いを浮かべながらも「まあ、頑張れ」と言っていた。


 そしてその頃、千羽町の雲の上では、一匹の蛟が背に竜子を乗せ、優雅にその体躯をくねらせていた。

「ねえ、()()()? あなた、本当はもっと強いんじゃないの? それこそ、千羽の子なんて目にもならないくらい。どんな妖も近づけないくらい。やっぱり私が未熟だから、あなたの力を引き出しきれないのかな」

 美夏萠は落ち込む竜子のその言葉を理解しているのかは定かでないが、竜子を乗せたまま、スイーーと空を滑っていく。まるで気にするなとでも言っている様だ。

「それと、結局こんなオチになっちゃったけど、これはある意味でハッピーエンドよね。良くて(きょう)(せい)()(かん)、悪くて家の解体……もしくは命まで取られるかと思ってたし。でも、もし私が勝ってたら、どうなってたのかな……」

竜子は一瞬、もしもの世界の自分に想いを()せ、遠い目をした。だが、すぐに笑顔に戻ると、また美夏萠に話しかけた。

「でもね、私、これからが凄く楽しみなんだ。美夏萠は知ってると思うけど、同年代の子と仕事したことなかったからさ。いつも若い子のいない現場ばっかりだったし。そりゃあ不安もあるけど、それを感じさせないくらい楽しみ。今、(はや)()君と仕事を始めて、思うの。これで同性の智鶴ちゃんも加わったら、きっともっと楽しいだろうなって。仕事の手を抜くって訳じゃないの。こうなってしまった以上、もう、流れに身を任せるしかないじゃない? それなら思いっきり楽しみたいんだ。あ~。でも、出会いがあんなだったし、学校ですれ違う時も凄く(にら)んでくるんだよね、智鶴ちゃん。仲良くなれるかな……。上手にやれるかな……。そっちはなによりも不安かも」

 大丈夫、貴方はよく頑張っていると伝えたいのだろう、美夏萠は体をくねらせ、胴上げをするかの様に竜子を幾度も空へ放り投げた。竜子は少し怖がっていた。

どうもこんばんは。暴走紅茶です!

五月ですね!

今まさにGWです!

ステイホームが推奨される中、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

もし、暇だって方がおりましたら、是非暴走紅茶の作品を読んでみて下さい。

この作品を読み返すも良いし、他の作品を読んでみるのも良いですよ!

(個人的には詩集と、魔法具点の退屈な一日がおすすめです)

ではまた来週!

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