表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第2部 第一章 殺しはキライ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/166

13話 最初のきき

「どう(かん)()? 何か感じるものはある?」

「いや~やっぱ大阪でも無さそうだぞ?」

「そう……」

 白髪の少女が物憂げな表情を浮かべて空を眺めた。

「にしても、流石は大都会よね。人の多さに目が回りそう」

「おお、そうだな~。わっち、生まれてて初めての大都会だから、結構おっかなびっくりだぞ」

 通天閣の展望フロアから市内を一望する2人の呪術師は、敵地の真ん中にいることよりも、大都会の真ん中にいることの方がよほど怖いようであった。

「あら、おこちゃまね」

「そういう()(づる)だって、ずっときょろきょろしてさ。お上りさん丸出しじゃんか」

 関西では指名手配されている彼女といえど、昼間、観光客に紛れ、しかも隠形を掛けているのだ。不意に2人を見つけるのは、手練れの呪術師ですら無理だろう。ただ1つ難点があるとすれば、気温が高まる初夏の日に、白いモッズコートを着ている異様さが周りから浮いているくらいだろうか。しかも、目立つ白髪を隠すためにフードまで被っているときた。しかし、多様性が重んじられるこの頃である。それだけで不審と咎められ、身分がバレる可能性は限りなく低い。

「だって、私も大都会なんて初めてだもの。滅多なことが無い限り、名古屋すら行ってなかったくらいだし」

「なんだと~。わっちのこと小馬鹿にしておいて! 中部の大家のくせに!」

「中部の大家だからこそよ」

「そういうもんなのか~?」

「そういうもんなのよ」

 何処か憂いを帯びた横顔に、栞奈の視線が釘付けとなる。

「なんか悪いこと言っちまったか?」

「何が? 別にどうってこと無いわよ。ほら、収穫が無かったのならみんなのとこに戻りましょ」

 2つの人影がエレベーターに消えていった。

 その姿を遠くから眺める者の存在に気付けず。


 *


 夕飯時。居間には、テーブルに用意された食事を1人でもくもくと食べる(ちょう)ヶ(が)(すみ)(げん)(ぼう)の姿があった。母は基本的に地下の自室で食事を摂っており、弟も姉も仕事に出かけているらしい。静かな部屋の中でようやく束の間の休息を得た彼は、思考のスピードを緩め、今日起こった様々な出来事を脳内で反芻する。

「女難か~。いや、男女難か? ともかくな~。はぁ」

 今朝、朝倉文月と再会してからと言うもの、災難続きであった。

 ハンバーグの汁を吸って色味が変わったマッシュポテトを突きながら、のんびり食事を進める。

(まあ、今日は仕事もないし。早よ寝よ)

 などと欠伸の出るようなことを考えていたときである。

 居間の襖がスパーンと開け放たれた。

「ぼっちゃん。西方で鬼気が観測されました!」

「嘘やろ~」

 ようやく終わったと思った本日の災難は、まだ終わっていないようだった。

(あのクソ女~~~手間取らせやがって! どういうつもりや!)

 怒りがマックスに戻った幻望は、心の中で(はく)()をめった刺しにした。


 *


 すっかり(ひと)()もなくなり、アトラクションの灯りも全て消えたユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、昼間とは打って変わって別世界のようであり、不気味な雰囲気が漂っている。

「はぁ。母ちゃんも姉ちゃんも、ついでに弟も出払っているときに、ほんま災難やわ~」

 “掃除屋”が既に手を回していたのか、園内には清掃員すら居なかった。

「んで、どこに白鬼がおんねん。鬼気の(ざん)()すら感じひん」

「おかしいですね……。確かにこちらの方から……」

 女中のお菊はそう答えると、目を瞑り、視覚を遮断。辺りに残る鬼気を関知すべく、気配を辿った。

 数秒後目を開けると、「あ。こっちです」と言って先へと進んでいく。

 大人しく着いていった一行が辿り着いたのは、昼間なら逆さに釣られたサメの人形を背景に、多くの人が記念撮影しているであろう場所だった。

「まだ潜伏しとるか?」

「そこまでは分かりません。私、戦闘班ですので」

「そない、無責任な。いま飛びだしてこられたら、たまったもんやないで?」

「幻望様も、本家の人間ならちゃんと探してくださいよ」

「探しとるけど、見つからんから聞いとるんやろ」

「なら、もうここに居ないのでは?」

「……」

 幻望は思考を巡らせ「……そうやな」と、お菊の言葉を肯定する。

「そうもあっさり取り逃がすんですか?」

「いや、白鬼も大阪で舞い上がって、記念撮影中にうっかり鬼気を漏らしてまったのかもしれんやろ。うっかりなら、漏れたことに焦ってとんずらしとるはずやし、これで辻褄があう」

 然もあらんと疑う余地のない言い訳で、お菊の何か言いたげな視線をひらりとかわす。

「そう、ですね? そう考えれば確かに辻褄が合います。では、これ以上は追わないということでよろしいですか?」

「ああ。もう少し園内を偵察したら帰るで。あんまり適当やると、鬼ババ共がうるさいからな」

 鬼ババ共とは勿論、母と姉の事である。幻望には白鬼の他にも警戒すべき鬼が居るようだった。

 その後、園内を見回りし、異変が無いことを確認すると、一行は帰路についた。


 *


「で、収穫はなしと」

「そうや。居らんもんは仕方ないやろ」

「そうでありんすな。先日は捕らえられ、昨夜は逃げられ、全部全部“仕方ない”ことでありんす」

(棘がある廓詞なんて風情がないなぁ、ほんまに……)

 仕方ないを強調して言われた幻望が反抗的なことを考えていると、

「まあ、まだ近畿に居ると分かっただけでも収穫でありんす。ところで、仕事を振って早1週間が立とうとしてるでありすが……。このまま逃がす気でありんすか?」

 恩赦を得られたと思ったのに、さらに追い打ちを掛けられた。

「ぐっ……。それはやな……」

「いい訳言う暇がありすなら、さっさと結果をもって来るでありんす!!」

「は、はい……」

 怒られてとぼとぼ地上階へ戻った彼の前に、人が立ちはだかる。

「おい、幻望!! 昨夜も白鬼を逃したとは、本当か!?」

「そない何回も、何回も言わんでもええやんか~!! 俺かて、逃がしたくて逃がしとるわけとちゃうで!!」

 半べそをかきながら大声を上げる幻望に、()()がちょっと引いた様子でたじろいだ。

「お、おお……。分かってるのなら、それでよいのだ。うむ、精進しろよ」

 どこかちょっと優しくされた幻望だった。

 フラフラと居間の襖を開ける。そこには弟の宵月が座っていた。

 宵月は兄を見るや口を開く。

「お、へっぽこ。昨や……」

 何を言われるか既に見当が付いていた幻望は、無言のまま弟を殴り飛ばした。

「ひい! 非力を隠すためにDVに逃げるのか! サイテーだな!!」

 昨夜の事を何度も何度も、ネチネチネチネチ言われるのに比べたら、弟から発せられるしょうもない悪口など川のせせらぎのようで、むしろ心地よささえ感じられるほどだった。


 *


「はぁ。俺はどないしたらええんやろ……」

 キャンキャン文句を言う弟を無視して、頭を冷やそうと散歩に出る。家から少し離れた公園のベンチに座って、風に揺れながらキイキイ鳴くブランコを横目にため息を漏らす。黄昏時に黄昏れるのは、余計に感傷が深くなる気がした。

「どうしたの? 話、聞くよ?」

「あんな、俺――って、うわ! お前、またか」

「お前とは失礼。ふみって呼んで。もう、何回言ったらわかるの?」

 独りごちたつもりが独りではなかった事実に、心臓が飛び出そうになった。

「まあ、お前と話しとったほうが、まだ落ち着くかもな」

 昨日、(みき)()を諭した後、(くろ)(ひめ)は玉梓家本家からの遣いに回収されて行った。類い希な駄々のこねっぷりだったが、屈強な遣いの者は全く意に介さず、辛辣なまでにテキパキと対処。お世話になったお礼にと、丁寧に土産の“たぬきまんじゅう”をそっと手渡す徹底ぶりに、そういえば名家のお嬢様だったということを思い出させられた。

 それも幻望にとっては日常の光景だったが、初めて目にした文月は呆気にとられ、口をぽかんと開けていたのが印象的だった。

 黒姫に続き、文月も、「お邪魔しました。失礼致します」と礼儀正しく帰って行った。その光景を見ていたお菊が、「良い子とお友達になったんですねぇ」とニヤニヤしていたのが、少し幻望の堪忍袋をの緒をすり減らした。

「きのう、あのあと、公園で泣いてる暁、見た」

「んで?」

「知らない人だから、取り敢えず缶コーヒーだけ渡して帰った」

 冷たいのか、暖かいのか、分からないエピソードだった。

「缶コーヒーはホットにした」

 あったか~い話だった。暑い初夏のホットな話だったかもしれない。

「幻望。昨日私の術を評価してくれたの、うれしかった」

「はぁ? 何のことや?」

「暁は自分のことをなにも知らないから、弱いけど、私はちゃんと知ってるって、わかってくれた」

「あれのどこを聞いたらそう思うんや。脳内お花畑か。いや、おバカ畑やな!」

「おバカ畑は流石に酷い。ちょっと、怒りそう」

 フードの中で、文月の頬が小さく膨らんだ。

「お前がキレたかて、こっちに手の内はバレとるんやで」

「そうだった。というか、幻望はどこまで知ってるの?」

「お前が人前で使った術の内で、記録されとるもんは把握しとる」

「じゃあ、まだ修行中の術までは知らないんだ」

「ん? 何か新しい術を試しとるんか?」

「……秘密」

「そうか」

 悪戯っぽく笑う朝倉を、興味なさそうな表情であしらう。

「呪術師として、当然やな」

 自分を呪術師としてカウントしてくれている事実に、嬉しくなってふふっと笑い声が零れた。

 ゆっくりと、太陽が街並みの向こうに消えていく。マジックアワーに人影2つ。和やかな応酬は、薄暗くなるまで続いたのだった。


 *


「この、あいだの、遊園地、楽しかった」

「そうね」

「今日の場所は、文学があんまし分かんないわっちには、ちょっと難しかったぞ」

「わがまま言うんじゃないの」

 3人の若者が、楽しげに話している。

「じゃあ、この辺でいいかしら?」

 3人が石碑の前に立つ。

「どういう意味なんだ?」

「私も詳しくは知らないけど、辞世の句みたいよ。人生を振り返って、咲いたものと散ったのものの儚さでも読んだのかしら。まあ、何にせよここですることは1つだわ」

「ああ、さっさと、終わらせて、去ろう」

「退路は完璧だぞ」

「ありがとう。……紙鬼回帰」

 夕陽も差し込まない程分厚い雲は、今にも涙をこぼしそうだった。


どうも。暴走紅茶です。

今回もお読みくださりありがとうございます。

今東京は雪が降っております。きっと全国ニュースで一大事になっていることでしょう。あまりテレビを見ないので分からないですが。いやぁ、それにしても休日で良かった。出勤中に乱れるダイヤほど嫌なものもないですからね……

ではでは~月曜日にはピーカンになることを願って。また次回!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ