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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第2部 第一章 殺しはキライ

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10話 折鶴

()(づる)の体から()()が膨れ上がる。対して幻望は、体の周りに煙を纏っていた。

「これが、噂に聞く幻術を見せる煙ね。厄介だわ。……でも、吸わなければ良いだけでしょっ!」

 智鶴が片手で中空を()ぐと、鬼気が吹き荒れ、煙が消し飛んだ。

「おお、こわ。これが鬼気か。おそろしぃなぁ」

 常人なら気絶するか良くて嘔吐してしまうような鬼気を浴びてもなお、(ひょう)々(ひょう)とした態度を崩さない様子に、智鶴は彼を強者だと認定した。つぶさに出方を覗いつつ、機を見て術を発動する。

「もう一度捕まりなさい。しば……」

「おっと、同じ手は、二度も食らわへんで」

 幻望は(しゅん)(きゃく)で間合いを詰めると、一瞬で背後をとった。

(ゆめ)()(どう)(ろう) (まとい)

 彼のつぶやきと同時に、匕首(あいくち)が煙を纏う。そして、その切っ先が智鶴の背中に迫っていく。勿論、智鶴の自動防御は働いていたが、わざと攻撃を受けて油断を誘おうと、紙に強い鬼気は込めなかった。思惑通り幻望の匕首は、誘い込まれたことも知らずに、自動防御の紙片ごと智鶴の背を切り裂く。

 もらった。彼女は追撃のために鬼気を練り上げる。

「『お前は無闇に煙を吸う』夢見灯籠!」

 匕首に纏わり付いていた大量の煙が、傷口からなだれ込む。

 幻望が智鶴の行動を定義づけつつ、煙をまき散らした。

 何を世迷い言を。と彼女は嘲笑ったが、(からだ)はそんな思いに反し、煙の中で大きく息を吸っていた。

 彼女の意識がフッと闇に吞まれる。

「灯籠に火をくべましょう」

 そんな言葉が聞こえた気がした。

 *


「あ、あれ? チカラが入らないわ……。さっきの攻撃、もしかして(れい)(りょく)を奪うようなものだったのかしら……? だとしたら、マズったわね」

 霊力切れ特有の全身から力が抜ける感覚がした。こうなってしまっては、(じゅ)(じゅつ)()はおろか、一般人だって立って居られないだろう。

「どうしましょう。……う~ん。あれ? ここはどこ?」

 自分が座り込んでいる場所が、先程までの路地裏ではないことに気がついた。

 更に辺りを見回すと、地面が土で沢山の木々に囲まれていることを知った。どうやら山か森かその類いの自然溢(あふ)れる場所に居るらしい。

「如何にも出そうね。チカラを奪って場所を転移させるって、どんな術よ」

 幻望の術が幻術であることは知っていたが、あまりにリアルな質感の自然に、智鶴はここが幻術の世界であると断言しきれず、他の術の可能性も考慮してただ過ぎていく時間に身を任せることしかできなかった。

 場所の検討はついていなかったが、なぜかその景色が郷愁の念をくすぐった。自分はこの場所を知っているハズなのに、とてもよく知っているハズなのに、どうしても思い出せない。喉元まで正解がちらついているのに、どうしても的確な場所が思い浮かばいのだ。そう、まるで記憶に蓋がされているかのように。

 だが、直ぐにこの場所の正体と、現状に理由をつけられる事象が起こりはじめる。

 もたれかかれそうな木の根元まで余った力で這い寄ると、背中を預けて呼吸法による回復を試みる。目を瞑り、深く呼吸を整える。数多の生き物が蠢く地中、そこから養分を吸い上げる木々の根、幹、枝の先には葉がついており、植物が気孔をから呼吸をしている。自分と自然が一体になるイメージ。澄んだ空気と、揺れる地面。

「ん? 地面が揺れてる?」

 地震か? と慌てた智鶴は、倒木を恐れてその場を離れようとした。だが、空を見上げたまま、あんぐり口を開け、言葉を失った。

「な、なんで……?」

 そこには一年半前に対峙し、今は行方が知れないハズの()()が自分を見下ろしていた。

「智鶴……智鶴……たすけて……」

 紙鬼から姉の声がする。

(ああ、そうか、ここは鼻ヶ岳なのね。それに、私は今幻術に囚われているんだわ)

 様々な事象が点となり線で結ばれ、状況が冷静に理解できた。だが、それでも目の前に現れた、『救済を懇願する紙鬼化した姉』というのは余りもショッキングな場面であり、智鶴の動きを完全に止めてしまう。

(ど、どうしましょう。体ってどうやって動かすんだっけ? どうすれば幻術から逃げ出せるんだっけ? そんなことより、ああ、お姉ちゃん、お姉ちゃん――――

「あsdkぁghslf;vじゃぽfk」

 突如、何者かに殴られた智鶴は、どこの言語とも分からない音を発した。


 *


 智鶴が地面にうずくまってうめいている。(うわ)(ごと)は小声過ぎて、なんと言っているのか分からなかったが、どう考えても緊急事態だった。

「あ~あ。五家のお嬢様って言うから期待してたんやけど。こんなへっぽこじゃ、取引内容がほんまでも、実現不可能とちゃうかなぁ?」

 幻望が智鶴を足蹴にして、百目鬼と栞奈の方を振り向く。

「なあ、君らぁはどう思う?」

「智鶴、から、離れろ」

 百目鬼がゆっくりと(よう)()を練り上げる。

「おお、そないやる気出されても、困ってまうなぁ。元々は逃げる気やったんや。逃げて、考えを纏める時間を作ろう思っとったんや。せやけど、今は取引に何の魅力も感じひん。理由はさっき言った通りや。今は、もう戦争の引き金になる恐れが1ミリでもあるお前らを、生かして帰したないな~って気持ちが強うなってきたわ」

「よく、喋る、ガキだ」

 百目鬼が(しゅん)()を使い、高速で移動する。地面を蹴り、飛び上がり、大上段から拳を振り下ろした。だが、そんなオーバーモーションの攻撃、幻望が避けられないわけがない。

「どこ狙っとんねん」

 ()(ゆう)(しゃく)々(しゃく)、小馬鹿にしたような態度で百目鬼の攻撃を避ける。

「智鶴、起きろ」

 百目鬼の本気が籠もったパンチは、思いっきり智鶴の頬を殴り付けた。

「嘘やろ。君らおもろいなぁ。仲間も半殺しかいな」

「いてて……。あ~良いパンチよ、百目鬼。お陰で目が覚めたわ」

 智鶴が頬をさすりながら、無傷で立ち上がる。まるで、寝過ぎたと頭を掻きながら、朝、目を醒ますかのように。

「よいしょ」

 全身についた砂埃をパンパンと払い、ん~とひとつ伸びをした。

「さて、最悪な悪夢を見せてくれたお礼は、どう伝えようかしらね」

 彼女は肩をグルグル回し、ジェスチャーで百目鬼に下がっているように伝える。

「二度と醒めない悪夢の中に連れて行ってあげるわ。()()(かい)() (しん)

 智鶴の鬼気が膨張した。猛狂う圧倒的な圧。

(おり)(がみ)! ()(とう)!」

 紙で折り上げた刀に鬼気を込めると、じわじわと深い紅色に染まっていく。

 鬼の姿をした少女が、幻望に向かって飛び込んでいった。

「ちょ、そんなん、匕首じゃ受けられん――

 彼が頭を抱えて身を守った瞬間。

(あん)(さつ)(じゅつ) (おぼろ)(づき)

 不意に現れた長身の太刀が智鶴の攻撃を受け止め、いなし、さらりと流した。さらに、加勢しようとした百目鬼の足下には(けん)(せい)を意味する弾丸が撃ち込まれる。

「どこに行ったかと思えば、お前が捕まってどうする!」

 声が空から降ってきた。

「げ。姉ちゃん……」

「げ。とは何事だ! 白鬼如きに遅れを取るなど、蝶ヶ澄の恥さらしめ!」

「ほんと、弱い兄を持つと、大変だよね~」

 幻望の両脇に立つのは、姉の()()と弟・(よい)(づき)だった。

「姉ちゃんってことは、アナタが(あん)()(しょう)(じょ)ね。名前が売れるって、大変ね。手の内が世間に知れ渡るなんてね」

 紙刀を振りかざした智鶴が攻勢に出る。

「銃撃を前に怯まぬとは、敵ながらあっぱれ!」

 眞名が両手の引き金を引く。打ち出された弾丸は、霊気を帯び、正確に智鶴の心臓へ向かってくる。彼女の術、「自動照準」の効果である。それは、会敵する前に展開される術。打ち出された弾丸が正確に狙いへ被弾する術式。ただそれだけの単純な術ではあるが、それ以上の暗殺術は無いと言っても過言ではない。そう、彼女の暗殺は、出遭ったときには既に終わっているのだ。

 だが、智鶴はその銃弾を切り裂いた。

 今まで術が完成してから何年も。名が売れ、何度も何度も仕事しをしてきて初めて、全てが防がれた。

「鬼を殺すのに、銃撃はちょっと弱いかしら」

 正確に急所を狙うということは、相手にとっても正確に弾道を見抜けるということ。さらに、智鶴は自動防御の(すべ)を会得している。打撃も斬撃も、防げる・防げないにかかわらず、自動で紙片が対応する。自動防御と刀捌き。それは旅の中で成長した力。ただ性格に飛んでくる弾丸くらいなら、いとも容易く防ぐことができるのだった。

 いつの間にか懐に飛び込んできていた智鶴が、紙刀で眞名の銃を天高く弾き飛ばす。

「クソがッ」

 姉の珍しい悪態を聞きながら、幻望は誰に気づかれることもなく、静かに煙を滑らせる。

「おお、こっちの兄ちゃんも強いじゃん」

 智鶴と眞名の隣では、百目鬼と宵月が戦闘していた。

「素手で俺の太刀と張り合うなんざ、余程鍛えてるなぁ。いいねぇ、いいねぇ。殺しがいがある」

「そんな、大物。狭い路地、使いにくい!」

 百目鬼も、言葉で対抗しなながら拳を突き出す。

「でもお前、本気じゃないだろ。見せてみろ。どんなチカラを使うんだ――

 と、その瞬間。

「暗殺術 (えん)(かく)(しゃ)(げき)」「夢見灯籠 (けむり)(しば)り」

 眞名が術名を発するに応じて、空中を舞っていた拳銃が発砲音を響かる。同時に幻望の煙が足を縛り上げ、動きを封じた。百目鬼と栞奈は(とっ)()のことに反応しきれず、脳天や心臓を貫かれ、崩れるようにゆっくりと地に倒れ込んでいく。

 完全に地に伏すと、先程までの威勢が嘘のように絶命した。

 ぬらぬらと光る血が、路地裏に染みをつくっていく。

「もう、姉ちゃん。俺のオモチャを奪わないでよ」

「宵月、これは遊びじゃない。そいつらは『(おり)(づる)』。私たちの敵だ!」

 だが、仲間が撃たれたというのに、智鶴は平気な顔をしていた。

「お前! 流石は鬼という所か。仲間の命なんぞ……は!?」

 眞名は目の前の光景が信じられず、その場に固まる。

「流石の私だって、仲間が死ぬような事があれば、取り乱すわ。でも、弾丸で撃ち抜かれたくらいじゃあ、ねぇ?」

 地に伏していた百目鬼は、「あいててて」などと、まるで転んで擦り剥いたくらいのリアクションで起き上がった。打ち抜かれたハズの頭部は繊維が伸び、再生。その後、口を開けると、弾丸をペッと吐き出したのだった。

 その後ろで仰向けに倒れた栞奈は、その輪郭に一瞬ラグが走ると、百目鬼と同じような態度で立ち上がる。

「お前、人を殺すことに(ちゅう)(ちょ)とかないんだな。正直、引くぞ」

 そんな言葉すら吐いて見せた。

 目の前で起こった現象に驚き、気が緩んだ幻望の幻術が解け、煙が夜風に流されていく。

「不死身なのか……?」

 今まで数え切れないほどの人を葬ってきた彼女にとって、“死なない敵”というのは、初めての存在だったらしく、動揺が隠し切れていない。

「不死身かどうかは、最後までやってみたら分かる事よ!」

 再び智鶴が紙刀を構えた時だった。

「智鶴、これは、流石に、ヤバい」

 百目鬼の力が無くとも分かる。

 ――数十を超える銃口が智鶴たちを狙っていた。

「あ~あ。多勢に無勢ね」

 降参とでも言いたげに、智鶴が紙刀を地面に捨てた。カランと無機質な音を立てつつ、元の紙片に戻る。

「手を挙げろ! 動いたら打つぞ!」

「私たちは逃げも隠れもしないわ。まだまだ関西観光がしたいもの。でも、今日のところは帰るわ。色々観光したら……そうねぇ、最後は“鹿が見たいから、大阪で1番高い場所”に行くわ」

「戯言を……。総員、打て!」

 眞名の号令で、奉公人達が一斉に引き金を引いた。

 しかし、智鶴たちを打ち抜いた弾丸は空間に穴を開けただけだった。

「なっ……」

 一瞬何が起こったのか理解できなかった眞名を嘲笑うかのように、路地と智鶴たちを描いた絵が、べろんと剥がれ落ちた。

どうも、暴走紅茶です。

今週もお読みくださり、ありがとうございます。

早いもので年内ラスト更新となりました。本年度も沢山お読みくださりありがとうございます。いろいろあった1年でしたが、詳しい振り返りはTwitterかブルースカイとかで。

それでは、本年もお世話になりました。

良いお年を!!


また次回!!!!!

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