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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第2部 第一章 殺しはキライ

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7話 夜明けの明星

 (ちょう)ヶ(が)(すみ)(げん)(ぼう)(よい)(づき)が修練場で模擬戦をしてから数日後の夜。

「ふぁああ~。だるい。半グレの解体て。明確に書かれとらんから、殺してまっていいのかもわからんなぁ」

 幻望はとあるビルの屋上で、ターゲットの資料を捲りながら欠伸をしていた。

「なになに? あ~。最近こういうのも増えてきとるよなぁ」

 資料に載っていたのは、10代の半グレ集団、その幹部構成員の情報だった。チーム名を『()()けの(みょう)(じょう)』。

 チームリーダー(あかつき)(みき)()をはじめとした(じゅ)(じゅつ)()()(じゅ)(じゅつ)()(こん)(ごう)の集団。男女比が7:3で男の方が多い。構成人数10数名。少年院経験者有り。トレードマークは無地で白帯の腕章。そして、

「……ほんまかいな。魔呪局登録済み呪術者0人て。世も末やなぁ」

 魔呪局の管理が行き届かなくなった関西では、こうした半グレ集団が幾つもできては、解体され、また別でチームを結成するといったいたちごっこが繰り返されていた。非呪術師を巻き込んでいること、大家に連ならないあぶれた家の出身であること、他様々な理由から目の上のたんこぶとして問題視され、蝶ヶ澄家のような対人技術を有した呪術一家に取り潰しの依頼がくるのである。ただ、暗殺業界の掟として、よほどの理由がない限り、基本的に18歳未満の子どもは殺してはいけないことになっている。

「めんどうやなぁ。ホンマ。ガキはクソして寝てろ」

 と、悪態をついた幻望もまだ17歳のガキである。


 

「お、アイツらか」

 新大阪近くの公園にたむろしているターゲットを確認した幻望は、もともと偵察目的で来ていたこともあり、雑居ビルの外階段に座って、様子を(うかが)った。

(これで、全員なんか? そうやったら、構成員は9人か……。幻術で不意打ちすればギリ全員寝かしつけられるな。けど、1人でも取り逃がすと厄介やなぁ。応援連れてきたいとこやけど、半グレの解体は安いでなぁ。人員も割けへんよなぁ。あ~めんど)

 などと考えていた時である。


「お兄さん、何見てんの? …………えっち」


 ゾクッと鳥肌が立った。いつの間にか背後を取られ、一切の気配を感じとることができないまま声を掛けられた。飛び上がりながら後退し、踊り場の手摺りに着地する。

 正面よりも少し見上げたところに居る少女は、年の頃12といった見た目で、まだまだおぼこさが抜けていない。制服と思われる紺のセーラー服の上から、うさ耳の着いた白いもこもこのパーカーを羽織り、そして右腕に白帯の腕章を結んでいた。

「あ、マズいな」

 どうやら、公園のメンバーを囮にこの少女が近づき、さらにこの少女が囮になる事で、先程公園のメンバーが移動し、ビルの付近に集まってきている様である。ムカつくことに連係のとれた動きに、幻望は下唇を噛んだ。

 奇襲でなら1人でも何とかなりそうだったし、幻望にはそれを成功させられる術がある。そのために、この仕事を振られているはずだった。なのに、見つかってしまっては意味が無いし、取り囲まれてしまったら、もっと意味が無い。

 相手の出方を覗いつつ、腰の匕首に手を伸ばすが……。

「動かないで」

 目の前に居たはずの少女が、耳元で囁いた。

 命令されたからではない、驚きの余り動きが止まる。

(なんやこれ? 幻術か? 時間操作系? なんや、何が起こっているんや?)

 気配を読む限り、敵の数は15人前後。先程目視で確認したよりも増えている。やはり潜伏していた戦闘員も居たようだ。中には非術師も居ると聞く。無闇に傷つけて良い物かも分からないし、そもそも気質(かたぎ)の人間に呪術を見せるのも、呪術師として憚られる。

「驚いた? 私は、どこにでもいるし、どこにもいない」

 声が聞こえた頃には、その姿は消えていた。

「どうなっとるんや!」

 幻望は大きな声で困惑を口にする。

 いつもは自分が相手を困惑させる側なのに、その手の術には誰よりも詳しいはずなのに、一切手の内が読めなかった。

 狭い路地に逃げるのは得策ではない。何とか、人の居る方へ逃げなくては、撒けない。

「あ~驚いたでぇ。こない強い奴ら……、もう降参や」

 そう言いながら、両手を上げる幻望。

 彼の言動に釣られて、動き出す人の気配。

 上の階、下の階から様子を覗われていることが如実に分かった。

「1,2の……3!」

 自分に向かって来ようとする気配を掴んだ瞬間、幻望は7階の踊り場から飛び降りた。敵を捕らえんと、各階の踊り場から人影が飛びだしてくる。どの顔ぶれも幻望と同じくらいか、年下に見えた。

「飛んで火に入るなんとやら。(あん)(さつ)(じゅつ) (ゆめ)()(とう)(ろう)

 飛びだしてきた者たちが煙に包まれ、急に動きを止めた。幻望は、捕まることなく無事に着地。更に両脇から構成員が飛びだしてくる。これには瞬脚で移動しながら、峰打ちで昏倒させた。

 ドサドサと音を立て、若者達が地面に転がる。力をいなすことも許されず、思いっきり足から着地させられ、骨折した者も居たようだが、うめき声を上げるだけで死んではいないようだった。

「あ、もしもし~怪我人多数出ましたんで、救急車お願いします~」

 まだ戦闘員が居るはずだが、幻望は挑発の意も込め、悠長に裏稼業専門の救急車を手配した。

「殺し屋じゃないの?」

「またお前か」

 隣に先程の少女が立っていた。

「逃げられないよ?」

「うるさいわ。俺は殺しは嫌いやねん。帰らせて貰うぞ」

「そうはさせない」

「どないする気や」

 相手の出方を覗いながら、退避経路を確保する。

「どこまでも付いていく」

「出来るもんなら、やってみぃ」

 幻望は時間や空間を操作し、瞬間移動を可能にする術師には負けるが、それと同等くらいの速力を有する。フッと消えたかのように加速。次の瞬間には4キロ先のビルの上に居た。

「はぁ……はぁ……。こんな全力疾走も、久々やでぇ」

 普段の暗殺では、闇に紛れて殺して帰るだけだから、逃げる動きを取り入れる必要はない。そのため、4キロにもわたる瞬脚を使うのは、修行でやったくらいのものだった。

「呪術大家ってのも、たいしたことないね」

「!!!」

 自分の正面に、かの少女が立っている。

「しつこいガキやなぁ」

「リーダーに、逃がすなって、いわれてるから」

「どんなトリックや」

「自分の呪術を、明かす人っていないと思う」

「はぁ。ホントは年端もいかないガキに、こないな事しとうないんやけどなぁ。ごめんな」

 幻望は素早く匕首を抜くと、少女の腕を切りつけた。流石は暗殺者、そのスピードと正確さは他の追随をゆるさない……ハズだった。

「あ、あれ?」

 匕首は空を斬り、少女は明後日の方角に佇んでいる。

「先に謝るから、そりゃ逃げるよ」

「ああ、まあ、そうだよな」

 変に納得させられた。

(あ~~~~ヤバいヤバいヤバい。これに捕まってる内は退却もキツい。いっそ、本気出して動けないくらいの致命傷を負わせてやるか……? いや、どう見ても未成年やな……)

 幻望が思考を巡らした瞬間、少女に肩を叩かれた。

 瞬間、視界が暗転する。

「影潜」

 少女の声が聞こえた。まるで沼地のようで、水の中のようで、どろっとしてさらりとした、初めての感覚に包まれる。

「大人しくしててね」

「ふ、ふはははは」

「何がおかしいの?」

「絶対こうするって思っとったで」

「どういうこと?」

(あさ)(くら)(ふみ)(づき)。お前の手の内なんて、ちゃーーんと知っとるわ」

「え!?」

 暗くて見えないが、急に名前を呼ばれて、驚き、慌てふためいている様子が目に浮かんだ。

 幻望が事前に貰っていたリストに、彼女の情報が載っていたのだ。彼は知らない振りをして、挑発していただけ。文月はそれにまんまと乗ってしまったのである。

「いやぁ。待っとたで~」

 体勢を整え、気配で文月の位置を把握し、対峙する。

(あん)(さつ)(じゅつ) (ゆめ)()(とう)(ろう) (ほう)

 唱え、匕首で目の前の空間を切ると、そこは元の屋上だった。

「いやぁぁぁぁぁぁあああああああああああ」

 文月の絶叫が、闇夜の街に木霊する。

『夢見灯籠 崩』は術破りの術。幻術や今受けたような、術師を拘束するような術に対して使用する事で、それを崩す事ができる。ただ、それだけではない。この術には(じゅ)()(がえ)しの効力もあり、崩された術師はその反動で意識を失うほどの苦痛を覚えるのだ。

 気を失った文月は、泡を吹いてぐったりと地に伏していた。

「やれやれ。どうするかなぁ。クライアントに引き渡すか? ここに放置してってもええんやけど……」

 と、その時だった。

「その子をどうするつもりだ、暗殺者!」

「おお、ようやくお出ましか~」

声がした方に顔を向けると、両腕に白帯を巻いた学ラン姿の少年が、息を切らしながら屋上の扉を開けてこちらを睨んでいた。

「文月ちゃんはおねむの時間らしいからなぁ。お前が俺と遊んでくれるんか?」

「悪魔め! 離れろ!」

「悪魔て。悪魔って言った。中二病やなぁ」

 実際、少年は中学生くらいに見えた。こんな子どもが大人に刃向かっているとは、世も末だ。などと、どうでも良いことに思考を巡らせるほどの余裕があった。それもそのはず。リーダーから指示を受けるような“頼れる”存在を、易々見殺しにはしないだろう、朝倉を戦闘不能にすれば、確実に釣れるだろうという算段があったから。またしても、思惑通りにことが進み、幻望は思わずニヤけそうになった。

 少年が呪力を練ろうと構えをとった刹那、幻望は瞬脚で移動し、その腕を掴む。

「変なマネはよしや。俺は、ただお前らに忠告しにきただけやねんから。のう、夜明けの明星リーダー、暁幹也」

 少年は押し黙ったまま、微動だにしない。

 鋭く切れそうな殺気を放ちながら、幻望は言葉を続ける。

「裏の世界に生きる呪術師が、気質(かたぎ)の人巻き込んで何しとるんや。今は組の取り潰しで済んどるけどなぁ。これ以上オイタすんねやったら、その首、もろうたるでぇ」

 幹也はガクガクと足を震わせ、膝から崩れ落ちた。

「わ、わかった。いう通りにする」

「よし、ええ子や。ほな、全員分の白帯を集めて、明日またここに来てや~」

 幻望が手を離してやると、脱兎の如く駆け出し、文月を掴むとその場から離脱していった。

「ほんま、新世代は手に負えんわ」

 近年、鼻ヶ岳の乱以後のこと、『新世代』と呼ばれる今までの呪術体系から逸脱した術師が目立つようになってきた。先程の朝倉文月もそんな新世代の術師だった。今までの呪術界では、蝶ヶ澄家など五家をはじめ、歴史の中で脈々と受け継がれてきた呪術師が大半であり、だからこそ家柄が重要視されてきた。名家に生まれ、名家で育つ者。また、名家の一門に加わり、術を磨く者……。

 しかし、駆け落ちなどを要因に家というものに囚われない者たちも居た。そういった家の子どもは、“家の呪術”というものがないため、両親の術が半端に受け継がれ、混ざり合い、新たな術を生み出す。今までは、家という縛りがない術師が暴れぬよう、魔呪局が目を光らせ、取り締まりをしていたのだが、監視の目が届かなくなった関西以西の地域では、そのような術師が台頭しつつあるのだった。

「伝統と新作、どっちが“正常”なんかはわかんけどなぁ……過渡期っちゅうやつやな~」

 幻望の独り言は闇夜に紛れ、どこへもなく流れていった。

 

 *


 翌日の夜、同じ場所。ビルの上には2人の人間が立っていた。

「ほんまに全員分やろうなぁ」

「う、嘘は言ってない。俺の付けていた2枚と、構成員18人分。合わせて20枚」

 昨日読み取った敵の総数と一致することを確認した幻望は、白帯を満足げにボディバッグへ仕舞うと、再び元・夜明けの明星リーダー暁幹也の両目をスッと見据える。

「ええか? これは見せしめのようなもん。大家で言えば、家紋剥奪のようなもんや。昨日も言ったけどな、二度、はないで?」

「分かっている。これからは、構成員達が他でチームを結成することもないよう目を光らせる。それに、無闇に非術者を巻き込んだりしない」

「その言葉、ゆめゆめ忘れることないようにな」

 瞬脚を使い、その場から消えるように立ち去った。


「これで、何が変わるとはない気もするけどなぁ」

 幻望が路地裏を歩きながら独りごちる。こういった仕事は何度かこなしてきたし、実際、再結成したグループの噂は聞かないから、恐らく効果はあると思われるが、こんな布切れだのを集めたところで、全員が改心するとも思えない。半信半疑がいいところであった。

「けど、これで依頼達成なわけなんよなぁ。なんかこう、スカッとせんわ」

 確かに依頼内容には、全員分の腕章を集めてくることと記載されていた。今の子にはこういった統一感の剥奪が大きな意味を持つのだろうか? 大家に属する“一般的な呪術師”であるところの蝶ヶ澄幻望には皆目見当のつかぬ事であった。

 帰ったら夜食に何を食べるか。大盛りのカップヤキソバが1番やけど、やっぱ今日はラーメン屋に寄るのもええなぁ。返り血とか浴びとらんし――などと、暢気なことを考えていた時である。

 

()(ばく)(じゅつ)


 誰も居ないはずの路地裏で、人の声が聞こえた――と思った時にはもう遅かった。幻望は“紙”で出来た糸に縛り上げられていたのだから。

「なんやこれ! 誰や! って、紙? まさか――」

「初めまして。蝶ヶ澄幻望。大人しく縛られてくれて、嬉しいわ」

(はく)()!!」

 幻望の声が裏路地に木霊した。


どうも! 暴走紅茶で~~す。

今回もお読みくださり、本当に、本当に、ありがとうございます!

日に日に寒さが増すここ最近ですが、昨日から秋晴れが続いていて、本当にお洋服をどうしていいやら分かりませんね……不便。不便ぞ……。

そろそろ気候が落ち着くことを願って、また次回!

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