14話 終戦
その頃、百目鬼はうつ伏せに倒れたまま、妖封じの護符を剥がそうと、解呪に専念していた。手で剥がそうともしてみたが、無理に剥がして何かがあっては智鶴の元へと行けない。だがその時、蛟の咆哮が聞こえた。心配が募ってくる。早く智鶴の元へ急ぎたいと気が急き、力が空回り。上手く集中出来ない。
「今は、これを、解かなきゃ」
大きく深呼吸をすると、集中力を高めていく。何とか抑え切れられていない妖力を使い、護符の術式を読み取っていく。護符等の札というものは元々設定された回路に霊力を注ぐ事で発動するものであるから、千里眼を持つ百目鬼にその回路構造が読みとれない道理は無い。前回は霊力切れと竜子に対する怒りで上手くやれなかったが、今回こそはと集中する。
これは、気がつかな、かった、けど、かなり簡単な、構造。ただ、妖力の巡り、悪くしてる、だけ、みたい。なら。
百目鬼は無理矢理両腕の眼を開き、暴走すれすれまで妖気を発する。巡りを抑制し、力の発動を妨げる護符なら、それを上回るほどにどんどんと早くしてやり、処理落ちさせてやればいいだけの事だ。
暫くそうしていると、護符ははらりと落ち、風に飛ばされていった。
「上手くいった」
と、立ち上がろうとするが、妖力の使いすぎでよろめいてしまう。
「大丈夫、俺は、人間」
普通の妖ならこれで倒れてしまうが、彼は人間である。意識的に妖力から霊力に切り替え、立ち上がる。
「結構、きついな」
でも、走れる。
百目鬼は残る力を振り絞り、智鶴が戦う林を目指した。
「たしか、この辺り……」
林に入り更に歩けども、交戦音がしない。それどころか、林はいつも以上に酷く静かだった。
「どこだ」
歩いている内に林を抜けた。その先にあるのは草原である。草原に入ると、先ほどまで木々に拒まれて届かなかった月光が差してくる。なんだか様子がおかしい。だが、百目鬼はそんな事に気がつく余裕が無かった。その草原には智鶴が立っていた。
百目鬼が解呪に成功する少し前に時を遡る。
雄叫びを上げた美夏萠は血相を変え、智鶴に迫りくる。これにはロール紙のガードも間に合わず、無残にも吹き飛ばされる。重力に引っ張られながらも、辛うじて戦闘服を硬化させ、激突の威力を和らげる。しかし、草原に叩き付けられた衝撃は相殺しきれない。
「ぐぉわっぷ」
10メートルの上空から叩き付けられた智鶴は、口から出した事も無い様な声を上げ、血へどと胃液が口から吹き出たが、致命傷には至らなかず、まだよろりと立ち上がる力は残っていた。既に満身創痍であり、服は所々破れ、何本か骨も折れていた。
しかし、智鶴の目にはまだ闘志の灯火が消えてはいなかった。
諦めない! 家のためにも、百目鬼の為にも!
そこへ、止めと言わんばかりに美夏萠が口を開けて迫る。だが、智鶴は振り絞った力を練り上げ、遠くへ流されたロール紙を力ずくで引き寄せる。
水を吸い、重くて操作もままならないが、細かいコントルールなんて気にしない。暴れ狂うロール紙は大蛇の様にくねり、美夏萠へ迫る。
迫る蛟と紙、どちらが先か
「ぐおおおおおお」
「いけぇぇぇぇえええ」
草原に紙が現れたが、あと一歩の所で間に合わない。しかし、智鶴は諦めない。
ずっと自身に付き添わせていた紙吹雪で美夏萠の左頬にフックをぶち込み、軌道をずらした。だが、それも完全では無い。少しずれたとて、サイズがサイズである。直撃しなくとも過ぎる風圧だけで、この体では致命傷を避けられない。
しかし不意な攻撃に驚いたのか、少し美夏萠のスピードが落ちた。これなら間に合う! 鋤の様に先端を刃に変えたロール紙を蛟の土手っ腹に突き刺すべく、腕を思いっきり横に薙いだ。
「おあぁぁぁああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
かすれる声、大声を出しただけで、飛び出る唾の飛沫に血が混じる。
蛟が目と鼻の先に迫るが、私の方が間一髪で早い。決まった! と思った瞬間だった。
「参りました~~~~」
竜子の声が林に木霊する。
美夏萠は急に動きを止めらた衝撃で目を回し、草原に落ちた。
智鶴はその声に驚き、力が抜けた。ロール紙はへなへなと力を失い、こちらも草原へ、はらりと落ちた。
草原がシンと静まりかえる。
「……え?」
智鶴が驚きの声を上げたのも束の間、竜子が美夏萠から降りてくる。
「いやぁ。流石は千羽の本家様だね。このままじゃ美夏萠が滅される所だったよ」
あ、美夏萠ってのはこの子ね。と、竜を撫でながら智鶴の方へ歩く。
「何のつもり……?」
「そんなに疑らないでよ。美夏萠が気絶しちゃった反動で正直立ってるのがやっとなんだ。なんなら押してみなよ。簡単に倒せるよ。気が済まないなら殴ってくれてもいい」
「手負いの奴を殴ったって寝覚めが悪いだけよ。でも、取り敢えず話は聞かせなさい。それが敗者の務めよ」
強がっているが、智鶴も負けず劣らずの満身創痍だった。
「分かってるよ。私も負けて逃げたり逆上するほど墜ちてない」
丁度その言葉が出たタイミングで百目鬼が現れた。
「智鶴……。傷だらけじゃないか!」
「百目鬼! 無事だったのね! 私は大丈夫!」
智鶴の無事を確認すると、安心して視野が広がったのか、百目鬼の目に竜子が映る。
「お前ッ! ……って、どうなってるんだ?」
百目鬼の目の前には、月光の元、地に伏す蛟と2人の少女が話ている風景が広がって居る。その光景にただただ混乱していた。
「ただいま~。急で悪いけれど、おじいちゃん居る?」
出迎えてくれた母をせかす様にそう言う。母は突然の来客と、ボロボロの娘たちに戸惑いを隠せない様子だったが、奥の間へ通してくれた。
「おじいちゃん、入るよ」
「ああ」
障子を開けると、既に何かしらの術が部屋に書き巡らされていた。
百目鬼と智鶴が部屋に入った後、敷居の外で竜子は三つ指を突き、深々と頭を下げる。
「お初にお目にかかります。千羽家傘下猫柳家が主、契約術宗家十所家当主代行、十所竜子と申します。この度は度重なる無礼の程を謝罪したく、僭越ながらお目通り願った次第に御座います」
「これはご丁寧に。このままじゃ話しにくかろう。面を上げて、こちらへ来なさい」
智喜がそう答える。
「はい」
そのまま百目鬼・千鶴と智喜、そして竜子で三角形を作る様に座ると、智喜が口火を切った。
「それで、お前さんは何故に千羽の若い衆を監視していたのかのう」
「それは……」
竜子が口籠もる。
「言いにくい訳でもあるのか?」
「いえ……そういう訳では……」
ぽつりぽつりと竜子が事情を話し始めた。
どうも。暴走紅茶です。
いつもこの後書きを動でも良い話しで埋めてしまっているので、たまには宣伝とかしておこうと思います。
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という事をたまには言っておいてもバチは当たらないかなと思いました。
それでは、いつも読んでくださっている皆様、初めて読みに来た皆様、本当にありがとうございます。
第一章『操られた妖』は次回で最終回となります。
よって、次回は15話とエピローグの2本立て! 豪華! お楽しみに!
では、次回またお会いしましょう!