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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第八章 これにてマクヒキ

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16話 アンティークモダン

 日が傾き始めた頃、後始末に追われる当主・(せん)()(とも)()を手伝っていた(とも)(なり)が、(かた)(ぎり)(めい)()と共に奥の間を訪れていた。

「じゃあ、オヤジ、俺たちも帰るわ」

 智成がそう言って、冥沙が頭を下げたときである。


「もし」


 玄関で声がした。丁度その時手隙きの者がいなかったから、帰る出鼻をくじかれた智成が応対しに向かった。

「どちら様で――もしや、アナタは」

「はい。私、(こっ)(とう)()(そう)()(ろう)と申します」

 杖を突いたえび腰の老人が、付き添いの者に介護され、だがキッパリと威厳のある声音でそう自己紹介した。


 *


 骨董屋惣五郎とそのお付きの者数名。千羽智喜を始め、智成、()()()(かむ)(くら)(かん)()(どう)()()(はや)()といった千羽一門が待つ客間の前に、(せん)()()(づる)が立っていた。赤く腫れぼったい目の周りが、つい先程まで涙を流していた事を物語っている。それでも、千羽の(じゅ)(じゅつ)()として、涙を拭い、足を踏み出したのだ。

「遅れて申し訳ございません。千羽智鶴です」

 泣き止むのに時間がかかり、遅れたことについて、一言詫びを入れてから、智鶴が襖を開ける。中に入って、待ち人達を見渡した彼女に、驚きの表情が広がった。

「え、アナタは……。嘘でしょ」

 骨董屋の背後に控える者達の中に、見知った顔が居たのだ。

「はは、騙してたみたいで、ごめんね。実は、そうなんだ」

 その者は、黒縁のメガネをくいっとあげて、智鶴に微笑んだ。

「マスター、こっち側の人だったのね」

 そう、そこに居たのは、喫茶『もくれん』の店主、(くろ)()(みつ)(はる)だった。

「マスターはやめてくれよ」

 黒瀬は小さくはにかんだ。

 骨董屋は(じゅ)(じゅつ)(たい)()(とう)(せい)(れい)にて、領地外行動の禁が出ている日本において、全国にネットワークを持つ唯一の呪術師一族である。その拠点となる場所の特徴は骨董品がおいてあること。今思えば、『もくれん』にはアンティークの調度品が多数設置されていた。

「早く座りなさい」

 驚き、固まっていた智鶴は、智喜の催促によりようやく座布団へ正座した。どうやら栞奈と百目鬼も驚いていたようで、彼女の反応に、頷いて同意を示していた。

「千羽の皆様。本日は急な来訪、誠に申し訳ない。改めて、骨董屋惣五郎と申します」

「いえ、手出し無用の五家が(だい)(いち)(せき)、骨董屋様のご来訪とあれば、いつでも歓迎いたします」

 智喜が深く頭を垂れるのに続いて、他の者も一礼した。

「そう畏まらないでいただきたい。これから話す事の(てん)(まつ)によっては、あなた方の気分を害する可能性もあります故」

 骨董屋は、そのまま話を続ける。

()(たび)千羽様方へ直にお会いしようと思ったのは、他でもない。我が(こっ)(とう)()()(ものの)()()についてです――


 骨董屋の昔話が始まった。


 *

 

 これは1,000年以上前。太古の昔、大陸より伝わった呪術が、日本に根付いていた山岳信仰を始めとする神道と結びつき、各地で様々な(まじな)いや呪術が広まっていった頃。

 妖が見える者は、見えぬ者に代わり、()()(もう)(りょう)を相手取ることで地位を築いていた。各地で独自解釈が行われ、変容していき、その進歩は止まることを知らなかった。多くは正義のために、民草のために呪術を行使していたが、混沌と化した呪術界では、見えぬ者を(たぶら)かし、悪用する者も現れ始めていた。

 そんな折りに立ち上がったのが、現在呪術の祖として崇め語り継がれる伝説の呪術師『()()(はく)(よう)』である。

 彼の生年月日や詳しい出自は定かではないが、恐らく現在の新潟県辺り、日本海側の何処かで生まれ、呪術の腕を磨いていたとされている。

 免許皆伝を出された彼は、その後日本全国を行脚し、各地に散らばる呪術を調べ、纏め上げていった。その際に書き上げた『(ぜん)(こく)(じゅ)(じゅつ)(そう)(しょ)』は現存しないものの、(おん)(みょう)(りょう)がつくられた際にも重宝されたと伝わっている。

 その行脚は、各地に白葉の手によって祓われた妖の伝説として残されている。そこからわかるように、志波白葉は相当呪術の腕前が立った人物であるようだが、彼の偉業はただの強い呪術師に収まらない。他にも貧しい人からは金銭を受け取らず妖を祓った、時の権力者を見返り無しで助けたなど、人徳ある人物としても彼は尊敬の念を集めていたたのだった。

 また白葉は、後進の育成に精を出したことでも有名である。

 全国呪術叢書制作の行脚にて名を挙げた後、彼は『志波塾』を創設した。まだ陸路もままならない時代だったにも関わらず、門下生は通算で1,000人に届くとも言われ、全国から呪術師達がその門を叩いた。塾では呪術の基礎だけでなく、正しく呪術を扱うことを説いた。5年の修行期間を耐え抜いた者には三つ並びの金輪紋が刺繍された羽織、通称『(こん)(りん)()(おり)』を与えられた。志波の意志を受け継いだ卒業生達は実家に戻り、その羽織を着て、悪しき呪術師達を駆逐していった。

 悪しき呪術師の勢力は次第に衰え、体系の近い呪術を扱う者同士の交流も始まり、彼の功績は現代に続く呪術の発展に大きく寄与した。正史として表舞台で語られる事が少なくとも、呪術史を学んだ呪術師で、彼を知らない者はいないほど、歴史のキーマンである。


 *


 骨董屋がここまで話したところで、千羽の面々は皆首を捻っていた。そんな基本的で、呪術師なら誰でも知っているような事を話すために、彼は訪ねてきたのだろうか、と。 

 猜疑心に満ちた視線に気がついたのか、骨董屋は

「ここまでは、皆さんも知ってらっしゃる事だろうとは思っておりますが、一応おさらいという訳で……」

 とお茶を濁した。

 

 *

 

 だが、凄腕の呪術師志波白葉も人間である。老いには敵わず、50手前で死去したと伝えられている。彼の最期は多くの塾生・卒業生に看取られ、それは安らかな死であった。だが、惜しむらくは彼に子供が居なかったことである。彼の死後『志波塾』を正式に継ぐ者がおらず、その育成機関は幕を閉じた。

 呪術史を扱った本や志波白葉の伝記などは、大体ここで話が終わる。謂わば裏の表の歴史。そして、ここから語られるのが、骨董屋家と物部家、またその周囲にいる家々しか知らない続きの物語。

 それでも、彼の意志を継ぐ者がいた。それが現在の骨董屋家と物部家である。

 志波白葉の死後、門下生は分裂した。彼の功績である呪術師の監視に賛同した派閥――骨董屋家派と、強大な力に憧れた武力派閥――物部家派である。


 *


「え、そんな事実聞いたことない……」

 智鶴がつい言葉を漏らして、しまったと口を閉ざした。

「そうでしょう。ここからは、秘匿として史実から葬り去られているのです。その訳も、先を聞いていただければ、お分かりになるかと」


 *

 

 歴史が進むにつれ、物部は武力を振りかざし、呪術界の暗部に、骨董屋家は呪術界の監視者として、日本の呪術史を記録してきた。

 律令制の崩壊と共に陰陽寮も廃絶され、武士の時代すらも終わり開国。江戸城が無血開城された明治維新の頃。文明開化において薄らいだ闇夜は、呪術を表舞台から遠ざけた。だがそれは、妖が消えたことを意味する訳ではない。人知れず日々妖と戦う者がいなくなった訳でもない。次第にブラックボックス化していく呪術の世界はまたもや、悪意持ったものの跋扈を許してしまった。この時代を待っていたかとばかりに、物部が台頭。再び混沌と化していく日本で、修復不可能と思われた呪術界を纏め上げる法令が出される。それが明治23年に宮内府より秘密裏に制定された『(じゅ)(じゅつ)(たい)()(とう)(せい)(れい)』だった。またその際、新たに呪術師を統制する拠点として東京に設置されたのが『()(じゅつ)(じゅ)(じゅつ)(かん)()(きょく)』である。

 骨董屋家にその意志はなかったが、長きに渡り縁を結んできた天皇家に対する忠義心と、呪術師の管理・監視という志波白葉の意志が尊重された政策に、渋々承諾。魔呪局の局長並びに、呪術界の頂点として据えられた『手出し無用の五家・第壱席』を担うこととなる。それでも骨董屋一族には、表立った行動を良しとしない掟があったから、魔呪局のトップである事を外部に知らせず、五家議会にも絡繰人形での出席をしていたのだった。


 *


 話し続けて口が渇いたのか、骨董屋がお茶を啜った。

「良いお茶を使ってますね」

「ありがとうございます。たまたまの頂き物なんですが」

 お茶を淹れた美代子が、謙遜の意味を込めてそう言った。本当は来客用に買っている特選の煎茶だった。

 コトンと湯飲みが茶托に戻された。

「ふぅ。ここまでの話でお分かりかと思いますが、志波白葉様の晩年が史実から消されたのは、他でもありません。私たち骨董屋家が表舞台のトップに立ったからです。表舞台と裏舞台のトップが、それぞれ同じ出自であると他家に知られたら、要らぬ疑心を抱かれかねないですから」

「話は分かりました。ですが、それと此度のご来訪と、どう関係が?」

 智喜の問いに、骨董屋は一切の難色を示すことなく、答えた。

「はい。先ずは、一言謝りたかった。同じ出自の家の者が、大変ご迷惑をおかけした。誠に申し訳ない」

 骨董屋サイドが、皆深く頭を下げた。

「いやいや、お顔を上げてください。同じ出自とは言え、それは1,000年以上も前の事ではないですか」

 慌てて智喜が陳謝を制した。

「それはそうですが、私たちは監視者の一族、勿論物部の動向も探ってはおりましたが、なかなか尻尾が掴みきれず、一族の恥です」

 骨董屋の表情は悔しさが滲み出ていた。もしも先に何かを掴んでいられたとしても、監視者の一族として、監視以上の事は出来ない。だが、それも昔の話。名実ともに呪術界のトップになった今であれば、魔呪局の力も、五家議会の力も使えたはずである。だが、結局全てが後手に回ってしまった。

 ――これは力を手にしたが故の後悔であった。

「10年前、紙鬼の暴走の背後に物部がいるかも知れないと、智喜殿から相談がありましたが、その時も突き止められなかった。奴らはどれほど深い闇の中に沈んでいるのか。それをこれから突き止めていく所存です。もう野放しには出来ない。同じ志波白葉様という偉大なお方から始まった家として、彼の名をこれ以上穢す訳にはいかないのです」

 そう言って決心を告げる骨董屋の姿を見て、智鶴は懺悔するキリスト教徒を思い出していた。恐らく彼は智喜よりも高齢だろうと思われる。曲がった腰も、老いだけではなく背負ったものの大きさに耐え切れていないようにも見えた。

「本日は、物部による最大の損害を被られた千羽様に、お詫びと決意の表明をしに参ったのです。身勝手な言動に、愛想を尽かされたかも知れませんが、何卒今後とも手出し無用の五家同士、お力をお貸し願いたく……」

「そのことですが」

 骨董屋の懇願を遮って、智喜は言葉をねじ込んだ。

「千羽家には現在、戦力となる本家の者がおりません。ここに居る千羽智成は、金烏会――謂わば、骨董屋様の手駒。また、こちらの千羽智鶴も、昨日禁呪を使用したため、これから除名処分を言い渡すところでした。私も高齢、美代子さんはそもそも千羽の血筋ではない。一応遠方に親戚の紙操術師はおります故、養子を取るのか、はたまた本家の座を何処かの分家に譲るのか。これからの展望は何一つ決まってはおりません。よって、その申し出には、いまここで返事出来ません事、誠に申し訳なく存じます」

「そんな……。本日の魔呪新聞はご覧になったでしょう。もう、物部の台頭が始まっているのです。そうなってしまえば、現在の呪術界は大きく揺らぐ。五家議会だって、このままじゃ……」

「そんなことは分かっています。私どもが昨夜体験したこと、お忘れではありませんよね?」

「いや、はい、勿論です。ならば分かっていらっしゃるでしょう。今すべきは物部を押さえ込むこと。そのために戦力を増やすこと。智鶴さんの除名はおろか、智喜さんの隠居だって、今することではないでしょうに。これは、ひいては呪術界のためなのです」

「……ほう。それが本心かのう」

 智喜は足を崩し、胡座をかくと、ねめつける様に骨董屋惣五郎をみやり、懐から出した扇子で畳を衝いた。

「へ? 千羽様?」

 急に態度を変えた智喜に、骨董屋が可笑しな声を上げた。

「ワシは五家議会を降りた。隠居じゃ。それに跡取りもおらん。これはもう、どうすることもできん事実じゃ。わし昨夜の戦いで力の大半を失ってしまったしのう。智鶴のバカも多くの者に目撃されとる。それをああだこうだとなあなあにしたら、周りのものに示しが付かん。どのみち一門は崩壊する」

 一呼吸置くと、智喜は先を続ける。骨董屋は未だ目をマルクしたまま固まっていた。

「じゃから、もう主どもに媚び諂う必要が無くなったわけじゃ。じゃから、こうして態度を改めさせてもらった。骨董屋殿の仰るとおり、物部が台頭すれば、五家議会はおろか、呪術大家統制令自体あやふやになる未来が来るじゃろう。そこで、味方をつなぎとめたく、今日ここに来たのじゃな? ワシらへの謝罪などと綺麗事を建前に」

 扇子で畳を小突くと、鬼気を発した。

「ならば! これからは対等に行こうじゃないか。主らが望めば、千羽を解体せず、力になろう。じゃが、そうと決まれば、主らも千羽に協力して貰う必要が出てくる」

 骨董屋の肩がワナワナ震えだした。

「一つ、千羽への金銭的援助。一つ、席次を設けない対等な五家議会の再編。一つ、領地区外呪術使用の禁の撤廃。以上3点が、協力するための条件じゃ」

 智喜の凄みに、智鶴はただただ尊敬の念に駆られていた。自分が同じ立場だったとしても、このような啖呵を切れる自信など無い。如何に智喜が、人生をかけて魑魅魍魎の跋扈する呪術界を渡り歩いてきたか。想像しただけで、自分が矮小な存在であったと自覚させられてしまう。

「黙って聞いていれば、いけしゃあしゃあと……。自分の立場が分かっているのか! 私が一声出せば、千羽など……」

「立場が分かっておらぬのは、そちらのようじゃな。これから巻き起こる時代のうねりにおいて、中部地方一円に散る吹雪会が、一切の協力をしないと言ったら、お主らは困らぬのか?」

「……クソッ。それは、千羽とて同じはず。それに、そうだ! 千羽はもう解散なのだろう? それなら、自動的に吹雪会も解散だ。もしも首の皮一枚で千羽が生き残り、吹雪会が継続されたとて、混沌を極めた時勢で吹雪会が存続できる保証もない。もし存続できたとしても、領地外呪術仕様の禁が解かれれば、要となる中部を手中に収めようとする東西の軍勢に、両方から攻め入られる事など明白なこと。そんな時、縋れる者がいないとなれば、吹雪会、恐るるに足らず!」

「……」

 押し黙り、値踏みをするように骨董屋を見つめる。

「考えが及んでいなかったか。今なら許してやる。今まで通りの五家議会に戻ってこい」

「……小さいのう。まず、吹雪会じゃが、この書類を見ていただきたい」

 智喜が袂から巻物を取り出した。それは中部一円に広がる全ての呪術一家を纏め上げた吹雪会の名簿だった。スルスルと広げていき、巻末に差し掛かった部分を骨董屋に見せつける。

「これは、吹雪会発足時に作成したものじゃ。ここに、『吹雪会全家は、たとえ千羽が無くなろうとも、解散せぬ事』が誓われておる。それに、そもそも吹雪会は魔呪局発足よりも前から存在しておる。魔呪局や五家議会がどうなろうと、屁でも無いわ。次になんじゃったか? 他所からの攻め入り? するなら好きにするが良いわ。全面戦争じゃ。それをお主ら体制側がほかっておけば、混沌は更に広がる。そんなこと易々見逃せまい。千羽を見過ごすのも勝手じゃが、ワシら吹雪会を主ら側に付けぬ限り、お主らの気苦労は更に増えることになるぞ? さあ、どうするのじゃ?」

 智喜は愉快に笑いながら、巻物をまき直した。

「クソッ……。これだから横入りの一族に関わりたくなかったんだ……」

 骨董屋は、なにか固くてトゲトゲしたものを無理して嚥下するように、顔を顰めた。

「いいでしょう。条件を吞みます。これから、対等によろしく頼みます。ですが、全てを飲むのは流石に無理が過ぎる。詳しい条件は、追って決めましょう」

 相手が条件を吞んだことを確認すると、智喜はケロッと鬼気を収め、握手にてその場を終えた。

 智鶴だけは、骨董屋の放った『横入りの一族』という言葉が妙に引っかかって、眉間に皺を寄せていた。


 *

 

 骨董屋を見送ると、智成が深い深いため息をついた。

「はぁ。オヤジ、やってくれたな」

「なんじゃ。何か文句があるのか?」

 智喜が話だけは聞いてやろうとばかりに、腕を組む。

「あるある。大いにある。それはもう、ホントに。俺にも立場があるんだ。もう、明日から金烏会でやってけねぇよ……」

「そもそも、今だってやってけてないですよ」

「ああ、そうだったか。じゃあ、気にすることなんてないな。はっは~」

 冥沙の横やりに、智成が膝を叩いた。

「ちょ、冗談ですよ。なに認めてるんですか」

 と、慌てて詰め寄る彼女を無視して、父に向かう。

「オヤジ、かっこよかったぜ」

「ふん。当主じゃぞ。当然じゃ」

 彼の目に映った現当主の姿は、それはもう、本当に、かっこよかった。

「格好つけやがって。センスあんなぁ。俺はそんな風にはなれねぇや。やっぱ、破門になっといて正解だったな」

「何を……? あの時、ワシがどれだけ腐心したと……」

「まあまあ、いいじゃねぇか。またこうして会えたんだし」

「お前というヤツは……。誰に似たのかのう」

「ははは。誰だろうなっと、それじゃ、そろそろ行くわ」

 話しながら智房が立ち上がる。

「そうか、千羽町にはいつまでいるんじゃ?」

「何も考えてねぇけど、今回の件絡みで移ってきただけだから、暫くしたらまたどっかに行くんだろうな。これから忙しくなるだろうしなぁ」

「そうか。達者でな」

「おうよ。あと、俺も何か分かったら連絡するけど、智房のことくれぐれもたのんだぞ」

「ああ……、一切仮説も立たぬが、必ず何とかはしてみるつもりじゃ」

「忙しいのに、悪いなぁ。俺が連れて帰れれば良いんだけど」

 智成が済まなそうに言った。ここに残るという選択肢は端から無いようだった。

「そうもいかんじゃろ。お主はお主のすべきことをせい」

 智喜はその言葉で、息子の背を押した。

 智成が面はゆそうに笑った。

「おう、オヤジもいつまでも現役でな」

「言われんでも、わかっとるわい」

 そんな戯れ言を交わして、智成は屋敷を出て行った。

「なあ、冥沙」

「何ですか、改まって」

 二人が住んでいる(※別の部屋)千羽町のアパートへの道すがら、智成が声を掛けた。

「さっき、オヤジが骨董屋様にえらい啖呵を切ったんだ。それに、今回の件、呪術界に広まってるみたいでな。俺の立場がとうとう危ういんだ」

「それで、何ですか?」

「きっとバディ関係のお前には、今まで以上の迷惑を掛けるかも知れねぇ。バディが解消されるかも知れねぇ。最悪、2人で首になるかも。いざとなったら、俺なんて……」

 そこまで話したとき、冥沙がすっと智成の方を向いた。

「私の心配をするなんて、悪いものでも食べましたか? 気持ち悪いです」

「お前……人が……」

「心配なんて無用ですよ。私は千羽智成のバディですから。迷惑に関しては、金烏会一慣れてます。それに、何でしたっけ。首? バディを降ろされる? 私たちを野に放つ恐ろしさが分からないハズないですし、私以外にこんな仕事がこなせるような人、居ませんから。安心してください」

 冥沙がニコリと笑った。

 智成は、真顔だった。

「え、ちょ、その顔なんですか!? 折角いいこと言ったと思ったのに! 大仏様の方がまだ表情豊かですよ!?」

「いや、なんか。なぁ?」

「なぁ? ってなんなんですか!?」

「四十にもなって、そんなこっ恥ずかしい台詞聞いちまうとなぁ。あ、鳥肌……」

「絶対バディ降りてやる~~~~~~~~~~~~~~」

 智成の照れ隠しに気がつけない冥沙の怒号が、千羽町に響き渡った。


どうも。暴走紅茶です。

今回もお読みくださりありがとうございます。

東京、暑すぎます。

死にそう……。マジ無理……。

皆さんもご自愛ください。

では、また次回。

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