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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第八章 これにてマクヒキ

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12話 その時

 お父様、お父様、やはり私は、出来損ないなのね……。

 少女が儚い視線を送り続ける。

 その先には父の背中と、次期当主の兄。

()(しん)(ほう)』を最年少で完全に会得した、真の天才。

 兄の目は全ての感情を失っていた。それは心を揺さぶられることが弱点の(まじな)()として、最高峰の成功作である事を体現している。

 私がどれだけ呪いを極めようと、その域に近付くことさえ出来ない。

 それはまるで、飛ぶ鳥を羨ましげに見上げる獣のようだった。


 *


 (はな)ヶ(が)(だけ)の戦況が、再びひっくり返った。

 大勢で()()に集中していたからこそ、鬼の体力を削る事が出来ていたが、上級妖の出現によって分散された今、それは困難を極める事になった。

「くそう、(ぬえ)に気を取られていると、紙鬼の攻撃が、紙鬼に気を向けると、他の妖が」

 どこかの門下生から、悲痛な呟きが漏れた。

 イッチーと共に山を登っていた(せん)()()(づる)も、状況が変わったことに気がついた。

「これ、私のせいだ……」

 戦場から悲鳴や断末魔が木霊してくる。その光景を目にして、智鶴の足は完全に止まる。

 自分がわがままを言ったから。母の心を揺さぶってしまったから。せっかく好転した戦況を、台無しにしてしまった。私のせいで、みんなが傷つく未来へ舵を切ってしまった。

 他の結界も効力が弱まったから、恐らく母は気絶でもしたのだろう。なら、もうあのレベルの結界が生産されることは、母が目覚めるまで無いのだ。いや、目覚めたところで、直ぐに術が使えるとは考えにくい。智鶴の中に最悪の想定が次々に広がっていく。

「イッチーごめん。私が甘かった。あのレベルの鬼を前にして、何を暢気な事言ってたんだろう。あれは別格だわ。全力で倒し切らなきゃいけなかったのよ。それを、お姉ちゃん、お姉ちゃんって。そりゃ、お姉ちゃんは大事よ? でも、人が無残に蹂躙されていく中で、それを言い続けるのは、只のわがままでしか無かったわ。……やっと気がついた、遅すぎた」

 智鶴の懺悔に、イッチーが心配そうに裾を引く。ぬいぐるみは、まだ行ける? 登ろうよ。と、そう言っているようだった。

 だが。

「ごめん。私、行かなきゃ…………()()(かい)()

 鬼化すると、智鶴は素早く飛び去っていった。

 テディベアは1人で山頂へと登っていった。


 *


「いやあ。素晴らしい。これが、紙鬼……」

 千羽町某所の廃倉庫。老若男女の区別が付かない声が木霊する。その人は、(ねん)(しゃ)()によって紙に映し出された映像を見ながら拍手を送った。

 月明かりが差し込んでも尚、彼の顔は暗く表情が分からない。

「お姿を見せられるとは、紙鬼とはそこまでの鬼なのですか?」

 黒スーツの男が声を掛ける。

「見て分からないかい? これは私の野望にもっとも近い存在だ」

「それなら……」

「ああ、是非、欲しいねぇ」

 その発言に、黒いスーツの集団が、ビシッと襟を正した。


 *


()(そう)(じゅつ)! ()(ろう)(かぎ)(つめ)!」

 智鶴の攻撃が紙鬼に食らいつくも、それは微々たる傷しか付けられない。

 上級妖は各戦闘員達が引きつけてくれているから、自分は紙鬼をどうにかしなくてはならないのに、攻撃が通らないでは話にならない。

(もっと、もっとよ……もっと想像して……)

「そう言えば、紙鬼って、何も無い所から紙を出しているわよね……」

 智鶴はそんなことを思い出した。

「私にも出来るんじゃないかしら?」

 それは完全に物理法則を無視した想像だった。

 なんとなしに、虚空へ手をかざしてみる。

「う~ん。やっぱりダメね。簡単な話じゃないわよね」

 紙鬼の攻撃を避けつつ、次の一手を探す。

「紙操術! 巨人の拳固! 餓狼の鉤爪!」更に、距離をとって「針地獄!」

 次々に技を繰り出していく。だんだん蓄積していくダメージに、攻撃も通るようになっていくが、いまひとつ決定打に欠ける。それでも、紙鬼にとっては鬱陶しいことこの上ないようで、完全に智鶴を目の敵にしていた。

 と、その時。

「智鶴様! 危ない!」

 左方から叫び声が聞こえた。

 紙鬼に囚われている中、左から門下生を切り抜けてきた鵺が襲ってきたのだ。それを知らせるべく、(なか)()(じょう)()()()が叫んでいた。

 流石に自動防御では上級妖の体当たりなど防げないし、丁度同じタイミングで紙鬼が拳を揮ってきた。紙鬼を紙壁で防ぎ、鵺は体を翻して避けようと考えたが、どうにも間に合わない。

(万事休す……)

 そう思った。自分はここまでかと、腹をくくりかけた。


(ふう)(てん)(じゅつ)! (とっ)(ぷう)!」


 結華梨の声が、耳の奥に反響して、咄嗟にその方向を見た。

 離れた場所にいたハズの結華梨が、突風に背中を押され、自分の目の前に一瞬で移動してきた。

 鵺を制する方法が思いつかなかった彼女にとって、結華梨を制することなど出来るはずもない。

 ドクン、ドクンと心臓の音がうるさく耳に響く。

 鮮血がまき散らされた。

 それは智鶴の顔にも飛び散り、視界を真っ赤に染め上げる。

「結華梨~~~~~」

 鵺の口元からたらりと結華梨の血が滴った。そのまま肉を食いちぎり、彼女の体は中空に放り出される。

 気を取られている間に迫ってきた紙鬼の重たい拳を、智鶴はドンと精一杯の力で受け止めると、勢いを利用して地面にいなす。

 胴体の半分以上を食いちぎられた彼女が、全ての力を失い、地面に吸い込まれていく。

 彼女の脳内に、走馬灯が駆け巡った。

 親、兄弟の顔、一緒にそだった家、みんなで笑いながら囲んだ食卓。

(私に期待して、家を存続するために千羽へ送り出してくれたのに、本当にごめんなさい。ここまでみたい……)

 中学、高校の友達。一緒に汗を流した部活。どうでもいい恋バナに、ちょっと胸がときめいたっけ。

(成人式で、また飲みに行こうねとか、夢の国に行こうねとか言ったのに、実現出来ないです。ごめんなさい) 

 大学の友達、講義のノートを貸して欲しいなんて言ってくれたのが、出会いだった。短すぎる大学生活だったが、それでも本当に楽しい時間だった。

(ちゃんと事情を話せないままでした。本当にごめんなさい。いつか再開したかった)

 自分の身勝手な行動から、様々な人への謝罪ばかりが浮かんでくる。

(あ~あ。なんでこんな選択しちゃったんだろう。智鶴様だって、言っちゃえば余所の人なのに。ここまでする事無いのに。でも、孤独だった門下生活で、最初に寄り添ってくれて、本当に嬉しかった。ありがとうございます。ありが……)

 紙鬼の追撃を逃れた智鶴が、最高速で空を滑り、結華梨を抱きかかえた。

「何してるのよ、バカ。そんな私の為になんて……。バカよ、バカ……ばか……」

(そんなにバカバカ言わないでくださいよ。私、頑張ったんですよ。ずっと強くなったんです。でも、よかった、智鶴様、無事ですね。本当に、よかった。最後にアナタを守れて、本当によかった……)

 途切れかける意識の中で言葉を紡ぎ出そうと、必死に口を動かした。

「無理しないで。大丈夫よ。大丈夫!」

「智鶴様、無事で……」

 なによりと、そこまで言いたかった結華梨の想い儚く、力尽きた。

 智鶴の腕の中で、彼女の瞳孔がすっかり暗くなる。

「ゆかりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい」」

 智鶴は、結華梨を戦場から少し離れた木の根元に降ろしてやると、

「すぐ終わらせて戻ってくるからね。それまで待ってるのよ」

 亡骸に優しくそう言って、瞼を降ろしてやった。

 紙鬼が近付いてくるのが地響きで分かる。

「ごめん、お姉ちゃん。もう許せないわ」

 肩口で顔の血をぐいっと拭う。紙服が赤く染まる。智鶴の瞳孔が開く。

枯れた涙は頬を伝わず、心をぐしゃぐしゃに湿らせる。原型が分からなくなるほどに。


「紙鬼ぃ! ――その時が来た!!」


 その叫びを聞いた魂に巣くう鬼が、ゆっくりと頷いた。

()()(かい)() (きょく)

 紙鬼の放った紙糸が、先端鋭く、背を向ける智鶴に迫るが……。

 それは、爆発した智鶴の鬼気によって、全て消し飛んだ。

 霧散していく鬼気の中、右目の瞳以外が完全に鬼化した智鶴が立って居た。

 以前と比べものにならない程の禍々しい鬼気が、辺りの塵に触れる度、深紅の火花を散らす。


「さあ、終わらせるわよ。私の失態は、私が自分拭いさる!」


 更に濃く、鬼気が彼女を取り巻いた。

 

 *


 鵺を含め、3体の上級妖が滅された。

 吹雪会・金烏会の面々は、各所で勝ち鬨を上げ、次の戦闘に向かう。幸い、妖が増えることは無かったが、いつまた邪気が振りまかれるのか分からない。それでも押されることなく戦えている。戦況がそこまで悪いとは、誰も思っていなかった。

 なのに。

「紙鬼がもう一体? いや、新手の鬼か!?」

 伝令が走るまでもない。紙鬼の他に、濃密で、凶悪な鬼気が山に垂れ込めてきたのだ。

 戦場一帯、拠点に至るまで、全ての関係者に戦慄が走った。

 そこへ送れて伝令が走る。

「伝令! 伝令! 智鶴様が紙鬼化、智鶴様が紙鬼化、詳細は分からないが、暴走に注意! 暴走に注意! 繰り返す……」

 伝令を走らせた(どう)()()にも、まだ智鶴がどうなっているのか見定められていなかった。それでも、なんとか力にならねばと、彼女の元へ駆け出す。

(智鶴……智鶴……。なんで、なんで。智鶴まで、失ったら、俺……)

 今にも泣き出しそうだった。ずっと一緒だった智秋が紙鬼になったというだけでも、相当ショックが大きかったのに、智鶴までとなると、もう感情が追いついてくれない。

 紙鬼を観察し伝令を走らせるため、拝殿付近で待機していた彼だったが、事態が事態である。我武者羅に木々を掻き分け、鬼気の濃い方へ濃い方へと足を向けた。もう視ている余裕はなく、荒ぶる感情に術が解けていき、一歩踏み出す度、眼が一つずつ閉じていった。

「智鶴!」

 視なくても分かった。もうこの茂みを越えれば、その先に彼女がいると。だから、待ちきれず、名前を呼びながら戦線に飛び出た。

「え……?」

 彼は眼を疑った。そこに居たのは、巨大な紙鬼と、小さな紙鬼。自分よりも背丈の小さな、ちゃんと服を着た紙鬼が、紙鬼と戦っている。

「どういう、こと……?」

「俺もまだ信じられてねぇけどな、智鶴は自我を失っちゃいねえ」

「うわ! びっくりした!」

 知らぬ間に、隣に(とも)(なり)が立っていた。こちらは『()()(かい)() (しん)』を発動しているらしく、かなり濃厚な鬼気を発している。なのに、百目鬼の視界に入っていなかった。

「万里眼持ちのくせに、驚くなんて、センスねぇなぁ」

「すみません。でも、どういう?」

「ああ、俺の『紙鬼回帰 真』は、自分の制御できるギリギリまで紙鬼を表面化させて、謂わば、70%紙鬼の力を引き出している。無理してるから、飲まれる寸前で、体のサイズも変わっちまう。けどな」

 智成は、今一度姪の姿を眼に写すと、先を続けた。

「あれは別もんだ。智鶴の紙鬼回帰は、完全に紙鬼と一体化している。紙鬼に飲まれるんじゃ無く、協力関係で成り立ってるとしか考えられない」

「協力、関係……」

「ああ、紙鬼が智鶴に力を与えているんだ。紙操術師が引き出してる訳じゃねえ。だからどこにも無理が生じてない。その証拠に、ほら、体のサイズまでは変わってねぇだろ」

「確かに……」

 説明を受けたところで、納得にほど遠い百目鬼は、まだ気が動転して目の間を見つめたまま固まっている。

「いったいどういう絡繰なのかねえ。羨ましさよりも、嫉妬するな。こりゃぁ」

 ニヤニヤと満足そうに笑う智成と、まだ思考が追いついていない百目鬼。2人の目の前では、どんどん紙鬼が蹂躙されていく。

 そんな折、ふと、智鶴が木枯山で修行していた頃を思い出す。

(そういえば、アイツ、起きたまま紙鬼と会話してやがったな……)

「……鬼に祝福された少女、か。なるほどな」

(めい)()~。ここはもう大丈夫だ。俺たちは他の妖を倒しに行くぞ」

「はいはい、分かりましたよ~」

 いつからそこに居たのか、木の枝に足を掛けて、ぶら下がる冥沙は、ペチコートを丸出しにして返事した。

「お前さんは、アイツの隣に居てやりな。いつアイツの紙鬼がへそを曲げるか、分かんねぇからな」

「は、はい……」

 よろよろと、言われたとおりに足を踏み出す百目鬼は、まだ状況が飲み込みきれていなかった。それでも。

「やるしか、ない」

 言葉に出した途端、視界が晴れた。足取りもハッキリしてくる。

「万里眼!」


 *


 紙鬼回帰 極を発動してからというもの、智鶴は体も頭も全てが軽くなったような錯覚に囚われていた。いや、錯覚ではないのかも知れない。事実、ほぼ完全な紙鬼化により体力筋力などの身体的な能力が上がり、鬼の魂に蓄えられていた知識によって頭脳もブーストされているのである。

「すごい、すごい、すごい! どんどん知識が増えていくわ! からだも凄く軽い!」

 ――だから、早く解き放てと言ったろう――

「そうね! でも、これで破門だわ」

 ――不服か?――

「いいえ、全く!」

 冷静になったとき、きっと様々な後悔が湧き出てくるのかもしれないが、今は最高にハイだった。

「紙鬼! 行くわよ!」

 ――おう――

 智鶴の鬼化が極まった。深紅の赤黒い火花が散る。

()()(そう)(じゅつ) 拳固! 薙ぎ蹴り! 抜き手!」

 拳を引き絞り、高く飛び上がる。

 紙操術とは、元を正せば紙鬼の力を操る術。紙を操るのは、その副産物に過ぎない。紙操術なんて言葉も、紙鬼操術が時代の流れと共に訛り、鬼が消えた言葉であって、その始まりでは紙鬼操術であった。そんな知識も、紙鬼から殆ど全ての知識を引き出せる今の智鶴には、50音を諳んじる程の当たり前になっていた。

 呼吸をするように、鬼気を拳へ、足へと集中させる。だが紙鬼も負けていない。智鶴の攻撃を受け止め、流し、反撃に出ようとした。それでも尚、智鶴の方が一枚上手であった。小さな体躯を活かし、紙鬼の攻撃をちょこまかと躱す。足場にしている紙も、ただ1枚の紙に乗り続けるので無く、飛び移り、飛び跳ね、縦横無尽に戦場を移動する。

「お姉ちゃん、やるわね。次はこうよ!」

 智頭が中空で手を翻すと、紙片が現れた。先程はただ祖父の行動を思い出し、思いついただけで実現出来なかった術が、紙鬼の中に蓄えられていた先代までの知識と経験により、いとも容易く実現する。

「紙鬼操術! 紙吹雪! (ほむら)(えん)()!」

 紙鬼に接近し、そう唱えると、彼女を中心に紙片が半径3メートルの円環を描く。続いてその紙が発火し、円形の炎が紙鬼を焦がした。

「紙吹雪! 餓狼の鉤爪!」

 以前よりもより鋭利になった紙吹雪が鬼の肌を抉り取る。

「紙壁!」

 紙鬼の反撃はいとも容易く、紙の壁に受け止められた。

 跳ね回り、飛び回る智鶴の表情は晴れやかである。

 強さを手に入れ、紙鬼と互角に戦う彼女は、姉との姉妹喧嘩をしているような気分になっていた。

「お姉ちゃん、意地っ張りね! いい加減負けを認めなさい!」

 地面に飛び降りた智鶴は、居合い切りをするように、腰の位置に手を回す。すぅっと息を吸うと、何の言葉も無く、紙刀が形成される。

「紙刀術 抜刀」

 小さく呟くと、息を止める。

 ダンッと地面を蹴ると、一気に加速し、紙刀を抜き放った。

 紙鬼は反応する間も与えられず、脇腹から邪気を吹き出す。

「まずい!」

 深傷を与える事には成功したが、このままではまた妖が寄ってきてしまう。

「折紙! 風車!」

 いつぞや蛇骨鬼の毒霧をまき散らしたときのように、紙で大きな風車を作り、邪気を吹き飛ばそうとした。だが、今回の風車は前回と様子が違う。その羽1枚1枚に、速記術による呪的文字が書き込まれているのだ。その意味『突風』。

 風車が動き出すと、突風が紙鬼を襲った。

「結華梨みたいには出来ないわね」

 この風では切り裂くところまで発展させられないと踏んだ智鶴は、邪気がまき散らされると、直ぐに紙を紙片に戻す。

 風に煽られた紙鬼が、腕のバネで体勢を立て直すと、その勢いのまま智鶴に殴りかかる。風車を紙片に戻した瞬間のことであり、智鶴は対応しきれず、紙壁ごと殴り飛ばされた。

 地面が抉れ、クレーターが出来るような威力の攻撃。だが、砂埃の中からはほぼ無傷の智鶴が現れた。

「蚊に刺された方が、致命傷よ!」

 彼女は地面を強く蹴ると、空に飛び立ち、戦闘を再開した。


 *

 

「え!? 回復、して、るのか!?」

 側で視ていた百目鬼が、驚きの表情を作る。

 だが、これは回復では無かった。地面に叩きつけられる瞬間、地面に向かって鬼気を爆発とも呼べる出力で放出、衝撃を相殺していたのだ。

「すげぇ……。俺も、負けて、いられない!」

 智鶴の勇士に背中を押された百目鬼が、目を瞑り、妖気を練り上げる。

 まき散らされたと言えども、空気中の邪気は通常よりも濃くなっている。それを集積し、自身に取り込むと、彼を中心に妖気が渦まく。

「できる、か、わからない、けど」

 暴走スレスレに高まる妖気を、緻密にコントロールする。

「グゥ……」

 腕が爆発しそうな感覚に、脂汗を浮かせて、うめき声を漏らした。

「……いまだ! 黒腕(くろのかいな)!」

 百目鬼が両手の拳をぶつけると、渦巻いていた妖気が腕に収束する。すると、みるみるうちに彼の腕は漆黒に染まり、開いていた眼は真っ白に虹彩を失った。

「で、でき……できた……」

 だが、様子がおかしい。何かに乗っ取られたかの様に、身もだえし始める。

「収まれ……。収まれ……。智鶴は、鬼を、抑え込んだ。俺だって、出来る、はず、なんだ!」

 自分の中で暴れようとする妖気を、制御下に収めるべく、意識を必死に保つ。

(もっと、出力を、抑えれば、制御、出来る、けど、それじゃ、紙鬼に、届かない……!)


 数分の時が流れた。

 

 旧態依然として、智鶴はまだ紙鬼と互角の戦いをしている。そう、互角。どちらが優勢でもないから、勝敗がつかないでいた。きっと誰かが加勢したら、戦況は変わるのかも知れない。だが、複数体の上級妖が暴れ、低級・中級の妖も這い回る現状、それが出来るのはただ1人。

 百目鬼が紙鬼に向かって飛びだした。


どうも! 暴走紅茶です。

今回もお読みくださりありがとうございます。

これを皆さんが読んでいる頃、僕はフェスに行っています。

多分ホテルにいると思います。

探さないでください。

では、また次回……。

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