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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第一章 操られたアヤカシ
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13話 紙操術 v.s. 契約術

美夏萠は目を隠され、暴れていた。

「大人しく……しなさーーーーい」

 頭の位置が下がったタイミングで、智鶴が新たに作り出した槌を振るう。ゴチーンという音が聞こえそうな程のクリティカルヒットに、美夏萠は動きを緩慢にし、ふらふらと目を回す。

「流石にここまで高位だと、簡単には倒せないか……」

 美夏萠は怒った様子で、竜気をたぎらせる。すると、それに押し巻け、目隠しの紙が吹き飛ばされた。

 美夏萠は鋭いまなざしで獲物を睨む。ぐふぅ……と口から息を吐き、攻撃のタイミングを計る。

 美夏萠に睨まれた智鶴は、蛇に睨まれた蛙のような気分になっていた。格の違いがありありと分かる。それに、竜気がどんどんと濃くなり、散らし切れない……。

「クッ……ここまでなの……」

 次第に濃くなっていく竜気に、吐き気を催し顔を上げていられなくなる。

 近づけない……。

 互いに次の一手を繰り出すタイミングを伺いながら動きが固まって居るところへ、不意に一人の声が聞こえてきた。

「美夏萠~」

 その声はどんどんと近づいてくる、そして、その声の主は蛟に飛びついた。

「良かった、無事だったのね」

 智鶴の前に現れたのは、百目鬼と戦っている筈の竜子だった。ここに彼女が居るという事は……百目鬼は……。

「嘘だ……。そんな……」

 智鶴の顔が絶望の色で染まる。千羽に喧嘩を売った事を後悔させてやるなんて、そんな大見得切っておいて、なのに押されて……それに、百目鬼がまた傷付けられた。

「なんなのよ……」

「あれ? 美夏萠が無事だったから、倒されちゃったと思ったのに~。タフなのね」

 美夏萠の頭上に跨がり、竜子は意地悪く言い放った。

「出てってよ……。もう、やめてよ……」

 そう言いながらゆっくりと顔を上げる少女の体から、禍々しいオーラが漂っている。

「何しに来たの。ここは私の土地なの。邪魔者は、居なくなれッ!」

 叫びと同時に発散された智鶴の霊気に、ビリビリと大気が震える。この辺り一帯に立ちこめた竜気が吹き飛ばされた。

「何なのよ、これ、こんなの聞いてないわ」

 豹変する少女を目の当たりにし、慌てる竜子。そんな彼女めがけ、智鶴は背負っていたロール紙を千切る事無く、塊の投擲した。

 ロール紙は空中で蛇の様にうねり、蛟を絡め取る。そのままグイグイと締め上げられる美夏萠だったが、素直にやられてやる蛟では無い。体に力を込めると、それを自身の気で吹き飛ばそうとした。だが、離れない。おろか、大気に逃げられない竜気が紙に圧迫され、呼吸も苦しくなってくる。藻掻けば藻掻くほど、絡みついてくる。

「グオ……」

「なんなの!? もう、美夏萠! 遠慮しなくて良いから、やっちゃってよ」

 その言葉に、藻掻く美夏萠の動きが一瞬止まる。そして、瞳がギョロリと動く。

 そして、美夏萠の体から突然水が湧き出した。それは山奥の水源で溢れるが如く、穢れを祓わんとする厳かな水だ。

 ふやかされた紙は脱皮するかの様に、ベロンと剥がれ落ちる。しかし、紙から解放された2人の視界に、智鶴が居ない。

「どこ!?」

「ここよ」

 耳元で声がする。

 はっと横を向くと、智鶴がいた。何故、彼女は飛ぶ術を持っていなかったのに。

 彼女は紙の上に立っていた。そして、もうその少女からは先ほどの様な禍々しさは消えていたが、酷く冷静な目つきでこちらを向いている。


 数分前

 智鶴は、ロール紙を投げると、蛟に巻き付く様操作し、直ぐに駆けだしていた。巻き付く紙を囮に、自分は先ほど目隠しに使った紙を探したのだ。ロール紙そのものを投げてしまった上に、戦闘に使った紙はボロボロでもう再利用出来ない。

 そうなると、残りの紙は美夏萠に飛ばされた目隠しの紙以外に無い。

 直ぐに見つからないよう、走りながらも術を使い続ける。捜し物をしながら術を行使するのは消耗が激しく、いつもよりも息が上がる。集中を分散させるという事は容易な事では無いのだ。

 ただ、彼女が紙を探すのは攻撃に使うためでは無かった。

 地面と空中では、分が悪いというもの。智鶴は紙を使い、妖を殴り飛ばした事も、妖の攻撃を逸らした事もある。そう、紙で押せば物を動かせる。なら、それを応用すれば? それを足場にすれば? きっと空を飛べる。そう考えた彼女は必ず見つけると走った。走りながらも紙が蛟から離れないように術をかけ続ける。

 捜し物と、術と、思考を同時に処理する負荷に、頭が割れそうに痛い。

「ゼェ……、ど、どこよ……」

 飛ばされていった方へ駆ける。暫く探すと、木の根元にその紙は見つかった。直ぐさまそれに乗ると、術を掛ける。不安定ながらも、ふわりと地面から体が離れる感覚があった。

 コントロールは上手く行かないが、取り敢えず浮かぶ事は出来そうだ。そう、後の事は後で考えよう。そんな事を考えながら紙にしがみつく。

 流石に水を使ってくるとは想像だにしなかったが、そこまでヒートアップしてくれた方が、視界は狭まり死角に入るのも容易くなる。

 空中をしっかりと見定めて、智鶴は10メートルの上空を目指した。


 そうして、智鶴は今空に立っているのだ。

 普段なら高くて怖くて足がすくむだろうが、敵を目の前に、頭に血が上ってアドレナリンはドバドバ。恐怖は感じていなかった。

 美夏萠は咄嗟に水を吹こうと、予備動作に入ったが、それは智鶴が許さなかった。

「紙吹雪! (じょう)(しょう)()(そう)(けん)!」

 彼女の叫びに答え、わずかに残っていた紙吹雪が美夏萠の顎にアッパーを食らわす。智鶴に吹きかける筈だった水は天高く吹き出され、辺り一帯に雨の如く降り注いだ。

 降り注いだ水は勿論智鶴にも降り注いだが、元々気を紛らわす為に飛ばしていた紙が傘代わりになり、大して濡れる事は無かった。

「くッ……。美夏萠? 大丈夫?」

 竜子が心配そうに従者の頭を撫でる。それに対し、美夏萠はまだやれると言わんばかりに、智鶴を睨む。

 睨まれた智鶴は、慣れない足場によろめくも、踏ん張り、キッと敵を(にら)み返す。

「勝負はここからよ!」

「いくよ! 美夏萠!」

 美夏萠は天高く舞い上がると、向きを変え、智鶴に突っ込んできた。まだ細かいコントロールが出来ない為、避けようにも攻撃範囲外に出られそうにない。だが、端から逃げる事など考えて居なかった。彼女が手を下から上に振り上げると、そこにとてつもなく大きな紙が壁の様に立ち塞がった。それは先ほど美夏萠に巻き付いていたロール紙だった。

 濡れて重くなっている為に、細かいコントロールは効かないが、壁にする程度なら、何ということもない。

 美夏萠は間一髪で体をくねらせて激突を避け、飛翔したが、智鶴の袖がその壁ごと空間を切り裂いた。

 紙の向こうには美夏萠の尻尾が。見事に袖が命中し、切り落とされ、木々の小枝を巻き込み、バキバキと音を立てながら落下していった。

「美夏萠!」

 美夏萠は主人の言葉に応えるように力むが、ここまでに竜気を噴出しすぎたのか、なかなか上手く尻尾が再生しない。無残にも血が激しく滴るばかりだった。

「ゴッグオオオオォォォオオオォォオオオォォオオオォォオオオォ」

 痛みに藻掻く様に上げた雄叫びが、落雷の如く轟いた。

どうも、暴走紅茶です。

なんか今日(4月9日金曜日)寒くないですか?

春夏通り越して、秋を思う気候ですよ。訳が分からん。腑に落ちん。

ついこの間まで長袖でもキツいくらいのぽかぽか日和だったのに。

また直ぐ暖かくなるといいですね。

では、また来週。

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