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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第七章 隠したダイスキ

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8話 ハラハラお守り日和

「……ちょっと待ちなさいね」

 ()(づる)が思考を巡らす。

 私がこれからどうしたいのか、こんなにも切迫した状況で考えなくてはならないとは思ってもみなかった。きっとまた誰かに助言を貰って、少しずつ雪解けしていくものだとばかりに思っていたのに、ここには()(なた)はおろか(どう)()()も、(りょう)()もいてくれはしないのだ。もしかしたら、(かん)()が魂の術で来てくれるかも知れない。しかし、それは紙鬼の怒りを買う可能性がある以上、祖父が許す訳ない。そもそも、今ピンチなのだと、外に伝える手段が何一つない。

 孤独だった。

「時間はあるようでないものだ。この空間は異界ではないから、外の世界と時間の流れが同じ。もしかしたら今すぐにでも解呪されて、私はここから出て行けるようになるかもしれないが、何の答えも得られず逃げた場合は、契約を破棄したとみなすぞ」

「そんなに焦らせないで。考えが纏まりきらないわ」

(私がどうしたいのか)

 正直まだ何も決められていなかった。先述の通り、ゆっくりでいいと思っていたから、答えを後回しにしてしまっていた。でも、それはただ逃げているだけなのだ。

(逃げることの何が悪いのよ)

 自分はずっと戦ってきた。同年代がゲームをしているときも、部活をしているときも、恋バナをしているときも、ずっとずっと。だから、ちょっと解放されて、そんな遊戯に現を抜かしてみたい気持ちもあった。そうしてもバチなんて当たらないと思っていた。

(でも、もう後戻りは出来なくなってしまったのよね)

 そう、あの日、契約をしてしまったから。宿敵に備え力を欲した余りに、自分の可能性を狭めてしまった。自分の人生から、呪術以外のレールを取っ払ってしまった。OLになっていたかも知れない、学校の先生になっていたかも知れない、服飾の仕事に就けたかもしれない。そんな可能性のレールは、もうどこにも無いなんて、そんなことは分かりきっていた。

(腹を括るしか無いのかしら)

 そう思ってみても、括れる腹づもりが無かった。ただ着物の帯を締め直したところで、出かける先がないのでは話にならない。括ったところで、自分がどこへ向かえば良いのか分からないのは変わらない。

「遅い! 遅すぎる! 何をそんなに悩むことがあるのだ!? 私と共に戦うか、私に吞まれるかたったその二択だろう!」

 待たされすぎた紙鬼がカッと怒り、辺りが鬼気にビリビリと震えた。

 今回は錯覚ではなかった。


 *


「智鶴様、私、千羽家門下生の(なか)()(じょう)()()()と申します。この度智鶴様の身の回りのお世話を言付かりました。何卒よろしくお願いいたします」

 客間で、6歳児に三つ指をつく成人女性がそこに居た。

 先程千(せん)()()(とう)(しゅ)千羽智(とも)()から簡単な説明を受け、その後直ぐさま挨拶に伺った次第であった。

「ゆかりちゃん? うん。よろしくねっ! ねっ! ゆかりちゃんはどんな術が使えるの!?」

 道場や倉と言った、呪術に関係するものから遠ざけられている幼い智鶴にとって、門下生という新たなオモチャ(・・・・)は、大人達の思惑通り気を引いた。

「あはは~。私、そんなに呪術が得意な訳では無いんですけど、一応風を操る(ふう)(てん)(じゅつ)という術が使えますよ」

「風! 凄い凄い! 見せて、見せて~」

 まんまと目を輝かせた智鶴が、結華梨に迫る。

「しょ、しょうがないですね~」

 一応智喜から禁則事項として、智鶴の気分を害さない事と、呪術を使わせない事を申し使っていたが、ただ見せるのは多分大丈夫だろうと踏んで、(れい)(りょく)(じゅ)(りょく)に練り上げる。

「いきますよ! (ふう)(てん)(じゅつ) (くう)(ほう)!」

 結華梨がさっと手をなぎ払うと、ブンと吹いた一陣の風が、机の上に置かれていた絵本のページをパラパラ捲った。

「おお~!」

 大尊敬する智鶴が感激し、拍手までしてくれたものだから、結華梨は照れと嬉しさに舞い上がって、調子に乗りだした。

「こんなことも出来ますよ! それ!」

 手首を捻りながら、小指から手を閉じる――彼女の中では竜巻のイメージをしているらしい――と、その動きに応じて、智鶴の頭上でつむじ風が巻き起こった。

「ふおおおおおお!」

 風力に負けて、首をぐるぐる回す。いとも楽しげな声を上げているが、その風が止まった後の方が、更に楽しさのボルテージを跳ね上げた。

「わ~~~~! すご~~~~~!!!」

 結華梨の手に握られた手鏡に自分の姿を写すと、髪型がふわふわくるくるの名古屋巻きになっていた。

「可愛い~~!」

 目の中に収まっていたキラキラが、外に溢れているように見えた。

(わ~智鶴様、メッチャクチャ可愛い~。抱きしめても良いかな? いや、流石にマズいかな)

 結華梨は命じられた仕事の途中と言うことを忘れて、脳内がお花畑で満たされていた。

「あら、あなたは……」

 そんな折り、不意に襖が開き、智秋が顔を出した。

「ち、智秋様! この度智鶴様のお世話を仰せつかまつりました、中之条結華梨です」

 と、命じられてここに居るのだ、決して無断で無いと言うことを強調して、再びの自己紹介をした。内心では抱きしめたりとかしていなくて本当に良かった~と、安堵していた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。お爺さまから聞いてるわ。私たちがあれこれ動くことになったから、アナタに白羽の矢が立ったそうね。ちょっとだけ心配してたけど、その様子じゃ取り越し苦労だったみたい」

 フッと笑う智秋だったが、そんな表情の下では智鶴が取られたみたいで、嫉妬心を燃やしかけていた。

「今時間あるのよね」

 なんて小声で、だが、結華梨には聞こえるくらいの声で言うと、智鶴の側にスッと座って、妹を抱きしめた。

「おねーちゃん、どうしたの~?」

「ん? 別に~」

 なんて言って、結華梨をちらっと見る。

 対して結華梨はぐぬぬと、負けた気がしたら、

「次は私の所においでください~。この後は何して遊びます~?」

と、『長時間一緒に居られるマウント』をとってやった。

「智鶴は、本当は私のがいいもんね~」

 智秋も負けずに、『大好きな姉マウント』をとる。

「智秋様はお仕事がおありでは?」

 裏を返せば、そろそろ出て行けと、溶けないくらいにオブラートで頑丈に包んで攻撃を繰り出した。当たれば痛いだろう。

「今時間あるんだって、言ってるじゃない」

「あら、とか言って、どなたかお待ちじゃ無いんですか~?」

「そんなこと無いわ。これから時間が取れないかも知れないから、今のうちに智鶴成分吸収しとかないとね~」

 と更に抱きしめる。

「お、お姉ちゃん。苦しいよ~」

 智鶴がギブと言わんばかりに、頬を膨らませて、腕をタップしていた。

 とその瞬間、閉まっていた玄関側の襖がピシャリと開け放たれ、

「智秋、いつまで待たせるんだ? ってか、何してるんだ!?」

鬼の形相で栞奈が現れた。

「栞奈ちゃ~~ん。二人が意地悪する~」

 なんて智鶴が自発的に、栞奈へ抱きついていったから、更に険悪なムードが増したのだった。


 *


 百目鬼は智喜に言われたとおり、屋敷内では常に万里眼の状態を保っていた。

「百目鬼さん! お疲れ様です! この後手合わせ願えませんか!?」

「お疲れ、今日は、ご、ごめん……」

 自分に憧れの念を抱いている門下生がいる手前、平常を装ってはいたが、いやはや、正直キツかった。ただ屋敷の周りを見ているだけならともかく、千羽一体を見続けろと言うから無茶な話である。美代子に妖力増強の意味を込めたブレスレットを貰ってはいたが、砂地に水をまくようなモノでしか無かった。

 だが、これも永遠にと言う訳では無い。仕事や私用で外に出るときは切って良い事になっているし、目的としては監視者の捕捉であったから、さっさと見つけて楽になりたい所である。

「そうは、言っても、屋敷の中、霊気で、溢れてて……」

 そう、ショッピングモールや学校などとは違い、意識的に霊気を高めている人々が暮らす空間であるから、彼の監視網に引っかかるものが多すぎるのだ。一応皆の意見として、呪術にて見張られている可能性が挙げられていたから、呪力に的を絞って視ているのだが、それでもついつい道場や庭なんかで呪術を使われると、意識が引っ張られそうになる。

「ダメだ。余計な、カロリー、使わない、為に、部屋に、籠もろう」

 のそのそ重い足取りで、廊下を進んでいく。

 そんな時だった。丁度、前方から結華梨に追われた智鶴が駆けてきた。

「どうめ……って、うわ~~~。眼がいっぱいだ~~~~!」

 屋敷であるから、顔にも手にもそこら中に眼を開いていた。智鶴はそれを面白がり、食いついてくる。可愛いし、構ってやりたいのは山々だが、ここで無駄に消耗している場合ではない。術を行使してまだ1時間も経っていないハズだったが、限界が近づいている気配がしていた。

「いま、無理、ごめん……」

 横を素通りしようとしたら、がしっと足を掴まれ、(はかま)の裾を捲られた。

「……! ちょ、やめ……」

 抵抗するが、力が入らない。

「いいじゃん、いいじゃん! かっこいい~~~」

 智鶴はワクワクした表情で、足に開いた眼を凝視している。

「ち、智鶴様~。ダメですよ~」

 無理矢理剥がして良い物かと、智鶴への対応に結華梨がしどろもどろしている。

「これ、触っても痛くないの~?」

「痛くは、ない、けど、だめ」

 痛くは無いが、特に妖気が流れている場所のため、なんかちょっとだけ敏感になっているのだ。触られたら、力が抜けてしまうかも知れない。そんな敵に出会ったことが無いから分からないけど。

「へ~」

 智鶴が無邪気な声を上げて、人差し指で、つ~っとさわった。

「ぷいやっ!!!!」

 変な声が出た。そうか、こんな感じがするのか。別に痛くも痒くもなんともないが、実に名状しがたい不思議な感覚がする。ただ分かるのは、気持ちよくはないという事だけだ。

 百目鬼が新たな感覚と知識を得た。

「やめ、やめて……中之条さん、剥がし、て」

「あ、はい! 智鶴様! こっちで遊びましょうね!」

「イヤァ! 百目鬼くんと遊ぶの!」

 イヤイヤと百目鬼の足に引っ付いて離れてくれない智鶴と、それを引っ張る結華梨。対して疲労から体軸が不安定になっていた百目鬼は、いとも容易く転ばされた。バキバキ ドゴン!! という大きな音とともに、障子を突き破って倒れる。衝撃によって、張り詰めていたものが解き放たれ、百目鬼はそのまま術が解けて気を失った。

「わ~~~~。百目鬼く~~~~ん!」

「ど、百目鬼さん!? 大丈夫ですか!?」

 大きな音と急に倒れ込んだ障子に驚いた門下生が、わらわらと近寄ってくる。

「何だ、どうした……って、百目鬼さん!?」

 遠くに居た門下生も、何かあったのかと覗きに来ては、百目鬼が目を回してぶっ倒れて居るのに、驚き、声を上げていく。

 ザワザワガヤガヤとした騒ぎを聞きつけた智喜が、ふらっと現れる。

「百目鬼、流石に無理じゃったか……すまぬ……」

 自分の配慮の足りなさを痛感した智喜は、南無と手を合わせた。


 *


 翌日からは皆学校を休み、調査等、智喜の指示に従い、行動していた。

 そんな昼下がり、千羽家本家屋敷の庭にて、中之条結華梨が、不安げな声を上げていた。

「智鶴様~? 智鶴様、どこですか~?」


 昼ご飯の後、お昼寝をしていたハズの智鶴が気が付けば布団から抜け出し、行方を眩ましていた。屋敷内にはどこにも居なかった。不安から、心がザワザワする。

 玄関に向かうが、門下生がショッピングモールに駆けていき、急ごしらえに買ってきた子供用の靴が見当たらない。

「外……?」

 急いで門下生用の通用口へ駆け抜け、自分の靴を履くと、庭に出た。正面の門は締め切られており、智鶴の力ではビクともしないそれは、きちんと閂をかけられており、潜戸も開けられた形跡が無い。

「ということは、庭のどこかですよね……」

 だれと会話している訳でも無いが、自分を落ち着かせるために、ボソリと呟いた。


 ……そして今に至る。

 屋敷の玄関から道場側へと歩き出し、ぐるりと屋敷の周りを歩いてみたが、何処かに隠れていると言う風はない。試しに庭木の茂みを掻き分けてみても居ない。やはり『かくれんぼ』ではないようだった。

「智鶴様~」

 声を掛けてみても、勿論返事は無い。

 道場にも顔を出してみたが、来ていないとのことだった。

「残すはここだけですね……」

 結華梨はとある建物の前に立った。

 一番確率が高く、一番居て欲しくない場所。最悪から逃れるために、無意識的に視線から外していた場所。

 そこは、倉だった。

 千羽家の歴史に関する書物や、各種呪(じゅ)()が仕舞われている、謂わば千羽の宝物庫である。呪術の使用が鬼気の暴走――状態の悪化に繋がる今、6歳当時、常日頃から倉に忍び込んでは怒られていた事実がある以上、彼女の立ち入り禁止は強く言いつけられていたバズである。

 それに、いつも開いている門に閂を掛ける程だ。ここも鍵が閉まっていて当然だろう。

 しかし、何故か倉戸前が開けられていた。

(ここに居たってことが、もしも智喜様とかにバレたら、お叱りを受けるんですかね……。ひぃ~怖いです~。居ないでくださいね、智鶴様~)

 開けるのをためらいつつ、木戸の取っ手に手を掛ける。

 ゆっくりと引くと……空いてしまった。中の鍵も開けられていたのだ。

 一体誰が……そう思う余裕もなく、結華梨は戸を開いていった。

 自分が入れるくらい開けた瞬間、中之条結華梨は、倉から目を背けていたこと、(ため)()い、さっさと開けなかったことを悔いることになる。


 倉の中は鬼気が充満していた。


どうも。暴走紅茶です!

今回もお読みくださりありがとうございます!

なんと本日誕生日を迎えまして、26歳になりました! 誕生日に更新できるなんて、幸せです!ありがとう!ありがとう1

26歳もばりばり頑張っていきますよ~!

では、今回はこの辺りで。

また次回!

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