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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第一章 操られたアヤカシ

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11話 開戦

 それは月が影を作り出すほどに明るい晩の事だった。夏の到来を待ちわびて、青き色を取り戻しつつある草木が気持ちよさそうに夜風に揺れ、桜が残りの花びらを手放そうとしていた。

 そんな(どう)()()(しゅう)(げき)より4日、学校での遭遇より3日後の今夜、事態が動いた。


「今夜も平和ね」

「そうだね。小物が数匹居ただけだし」

 いつも通りのパトロール風景だった。いやそうでも無い、()(づる)の背には山で修行を重ねたロール紙が背負われていた。

「それも手応えの無いやつだったわね」

「……見逃しても良かったんじゃ」

「何か言った?」

百目鬼が小声で呟くと、智鶴がすかさず切り返した。

「……いや、なんでもない」

 そう言って、住宅街を抜け、林の方へ向かおうとしたその時だった。智喜特製のペンダントが激しく輝いた。「うわ!」智鶴が声を上げる。それと同時に目の前に新たな気配が現れた。

 今日は妖も少ないからと、(きびす)を返した帰路でのこと。そんな他愛も無いおしゃべりを遮る者が現れた。それは、住宅街の道路の真ん中へ、音も無く、静かに降り立った。

「やあ」

 (ちん)(にゅう)(しゃ)の正体は竜子だった。彼女は二人の目の前10メートルの位置に降り立つと、小さく手を振った。

 余裕を見せる竜子に対し、急に正面から声をかけられ、驚きが隠せない二人だったが、脊髄反射で(とっ)()に身構える。

「でたな。十所!」

「どこから、湧いた!?」

「待ってよ。戦う気は無いんだって」

 そうは言っても、百目鬼を襲ったときと同じ格好が、余計に闘争心を燃やす。

「問答無用! 千羽に喧嘩を売った事、後悔させてやる」

 智鶴が手を振り、それに呼応して紙吹雪が鋭く竜子を襲う。竜子はそれを払いのけるかの様に手を振ると、紙はその威力をなくしてはらりと落ち、無情にも風に飛ばされていった。

「うそ」

「な~んだ。こんなもんなんだ。警戒したのも無駄だったかも」

 竜子が頭上高く手を掲げ、パチンと指を鳴らすと、背後に、深く吸い込まれそうな青色の鱗を輝かせ、優雅に体躯をくねらす(みずち)が現れた。

美夏萠(みなも)! 出番だよ」

 そう言いながら、手を振り下ろすと、その動きに合わせ、美夏萠が口を開けて襲いかかってくる。

 避けるも虚しく、美夏萠が動いただけの風圧で吹き飛ばされる。住宅の(へい)に叩き付けられ、カハッと口から空気の塊が飛び出す。そして、痛みとは別に、ゾワリとした感覚が智鶴を包み込んだ。

「なにこれ……」

 体を抱えて(うずくま)りたい。冷や汗が止まらない。

「……これ、この感覚。智鶴! これ、竜気だ! そうか……これだったのか……」

 百目鬼が叫ぶ。自身に纏わり付く感覚は、霊気よりも更に高位な気の感覚。

 妖の中には妖気で無く、固有の気を発する者が居る。鬼の鬼気、神の神気、それに竜の竜気。その気は霊気や妖気よりも純度が高く、高位で人や妖を寄せ付けない。

「竜気?」

「詳しく説明する、余裕は無い。でも、気をつけて。これを操られたら、勝機が揺らぐ」

 そうか、竜気に包まれていたから、居場所を特定出来なかった。あのとき、掴まれた、青いの、コイツの尻尾か。そうか、そうだったのか。智喜様の纏う高位な、自然と溶け合った、霊気より、更に高位で、自然そのものとさえ、言える、竜気……。読めなかったか。まだまだだな……。

 百目鬼は今までの不信なところが全て繋がり、やっと敵の正体が腑に落ちた。

「竜気に当てられるなんて、やっぱりお嬢様は育ちがいいんだね」

 立ち上がるのに時間がかかっている智鶴に、竜子が威勢良く言葉をぶつける。

 その言葉に、うなだれていた百目鬼がハッと前を向く。

 そうだ。今は、戦闘の、最中。うなだれてる。場合じゃ、ない。

「一旦退こう」

 智鶴をかばう様に構える百目鬼がそう提案する。

 霊気の上位互換である竜気。妖力で活動する百目鬼は智鶴よりも幾分か平気だった。

「だめ、ここで逃がしたら、もうチャンスなんてない気がする」

「でも……」

「用は、『気を紛らわせれば』いいわけでしょ?」

「簡単に言うけどさ」

「簡単だもん」

 智鶴が立ち上がると、巾着袋から10枚の紙片が出てきて彼女の体の周りを高速で飛び交い、彼女の紙を(なび)かせる。まるで、それは地球の周りを飛び交う衛星の様だ。

「これで、気を散らしちゃえば、竜気、恐るるに足らずよ!」

「やるね~。じゃあ、準備も整った様だし、美夏萠!」

蛟が再び襲いかかってくる。それを避けると、土手っ腹に残りの10枚で攻撃を繰り出す。その紙片は鉤爪の様に美夏萠の体を抉ったが、蛟はダメージを受けたような素振りさえ見せない。

「百目鬼は本体をお願い!」

 飛び退りながら、彼にそう叫ぶ。指示を聞き、こくりと頷くと、竜子の元へ駆けていった。

 走りながら、眼を大きく見開いた。


 竜気は克服したものの、その威力はどうにもならない。先ほども竜気のブレスに吹き飛ばされ、コンクリートに叩き付けられた。紙服(しふく)を堅くしていなかったら今頃骨がバラバラになっていた事だろう。

 木陰に隠れ、小技を繰り出す。居場所がバレれば次の木陰へ。

 だが、美夏萠も只やられる訳では無い。尻尾で辺りの木々をなぎ払い、智鶴を探し出す。見つけるとそのまま尻尾で(はた)く。

「グッ」

 幾ら私服を堅くしようと、腹に直接入れられた打撃のダメージはそう軽減しない。

 口から飛び出た胃液を拭うと、ニヤリと笑った。

「ぼちぼち新技、出しましょうかね」

 智鶴はすっかり汚れてしまった巻紙を引き延ばすと、それで二振りの刀を作り出した。

「行くわよ!」

その刀を構え、美夏萠へと突っ込んでいく。蛟は避けようと、上へ飛んだが、それに合わせ、智鶴は下段から切り上げる様に、右手の刀を思いっきり(とう)(てき)した。それは美夏萠に傷を付けず、顔の前ではらりと元の形へ戻ると、べったりと張り付く。

「やった!」

 鼻ヶ岳で掴んだ感覚。小さい紙を操るときの様に、力任せではだめ。きちんと、折る方向、伸ばす方向、鋭利にする部分を意識して、面で無く、点と線で捕らえる。そう、折り紙を折るのと一緒だ。力任せに掴んだだけでは、それは容易く丸まったゴミくずになってしまう。ちゃんと、一辺一辺折り目正しく――。

 そして、残った一振りを構え、暴れる美夏萠の元へと木々の間を駆け抜ける。

 枝を足場に、木を駆け上り、蛟の目線の高さまで(ちょう)(やく)すると、上段から思いっきり脳天めがけて刀を叩き付けた。その攻撃は(たてがみ)を少し切り裂いた程度で、致命傷を負わす事は出来なかったものの、痛みは小技と比べものにならかったようで、竜の怒りは更に増していく。

 落ちていく衝撃を広げた紙でトランポリンの様に吸収すると、智鶴は天を見上げ、「よし!」と呟いた。


はい。こんにちは。いや、投稿時間的にはこんばんはですね。暴走紅茶です。

毎度ご愛読ありがとうございます。

そう言えば、「今日は」も「今晩は」も後に続く言葉がありそうですよね。

みなさんなら、挨拶のついでに何て言います?

「今日は、晴天なり」?「今日は、素敵ですね」?

何か一言添えられる挨拶って、素敵ですね。

それではまた来週。

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