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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第七章 隠したダイスキ

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4話 手は行き場を失う

 我武者羅に藻掻いた。

 ここに居てはダメだと思った。

 誰かを待たせている気がした。

 誰かが待ってくれている気がした。

 気がしただけだった。


 *


 4日目の朝、食卓には朝ご飯を食べ散らかす(せん)()()(づる)が居た。キャッキャと声を上げて、楽しそうにしている彼女とは対照的に、対面に座る母・()()()は疲れ切っていた。

「美代子さん、大丈夫?」

 手伝いのために住み込んでいる(りょう)()が、茶碗と箸を持ったまま、心配そうな声をかける。

「ああ、うん。竜子ちゃんありがとう」

「お母さん、あまり根詰めないでね」

 智秋も心配そうな表情で、母を見つめる。

「いや、解呪より、解析中、智鶴がじっとしていられないのが、まあ大変で。昔の私、どうやって子育てしてたんだろう……」

(とも)()様の呪符とかは?」

 一応当主で、()(そう)(じゅつ)応用速(そっ)()(じゅつ)を使う智喜からは、沈静の意味を込めた呪符を貰ってはいたし、自身手製の呪い布団もあるにはあるが。

「今の智鶴を(じゅ)(てき)に刺激するのは余りよくない気がして、使わないようにしてるのよ」

という訳である。

 全員が、ああ~確かにと頷く。彼女の中に眠る()()が、何をきっかけに顔を出すか分からない今、物理的にも呪術的にも刺激するのは好ましくないのだ。

「叱って感情が揺さぶられるのも、きっと良くないでしょ? 拘束なんて以ての外。あとははしゃぎ廻るのをただなだめる事しか出来なくて……」

 美代子の周りにどんよりとした空気が降り注いでいるかのようだった。

「だれか一緒に入ることはダメなの? ほら、私とかが相手してるからその隙に、みたいな」

「ああ~それも考えたんだけど、()(あき)には鬼気が混ざってるし、(りょう)()ちゃんも素で多少なりとも(りゅう)()(よう)()が混ざってるでしょ? (じゅ)()(じゅつ)(しき)に干渉しないとも限らないから、気持ちは嬉しいけど、私と智鶴以外は入れないようにしてるの」

「そうか~」

 竜子が何か良い案は無いか~と首を傾げている。そんな折だった。

「イッチー」

 智秋がポロッと声を漏らした。

「え?」

 よく聞こえなかったと、竜子が聞き返す。

「智鶴の一番大好きなぬいぐるみ。お父さんが買ってくれたやつ。あれ渡しておいたら、ちょっとは大人しくなるんじゃない? 気休めかも知れないけど」

「……! その手があったか~。智秋、お手柄よ。今日から試すわ」

 新たな気づきに、どんよりした空気が和んだ。

「みんな! 話に夢中にならないでくれ! 智鶴の面倒を見てくれ! 戦場は目の前に広がっているんだぞ!」

 はしゃぐ智鶴に米粒だらけにされた(かん)()が、1人和めず、わめき散らした。


 *


「ごめん「ください」

 昼過ぎ、千羽の玄関から、かわいらしい声が来客を告げた。

「は~い。あら、(おう)()椿姫(つばき)じゃない。久しぶり」

「智秋様! 「お久しぶりです」

 呪術の世界から一歩退いてしまった智秋は、土曜日の昼間なんて専ら外に出ているから、()(たん)(ざか)()(まい)と遭遇していなかった。いや、正確にはお互いにちらっとその姿を見かけることはあったが、こうして面と向かい合うのは中々に久しぶりだった。

「いま丁度智鶴を寝かしつけた所なの。さ、上がって」

 智秋が姉妹を客間に通す。

「お昼寝タイムでしたか「今日は時間ありますし「少し待って起きてから「診察しますね」

 勿論、美代子が日々経過を観察しているのだが、医学は勿論、霊医学なんて全くの素人であるから、きちんと診て貰うことになり、こうして2人が呼ばれたのだ。

 客間で机を挟み、向かい合って座る。何でも無い世間話から始まった久々の雑談だったが、どうしても話の流れは智鶴の方へと向く。

「智秋様、「大丈夫「ですか?」

「え?」

「いや、「ほら、「その……「言いにくいのですけれど「智鶴様と「仲が……「余りよろしくないと「伺っておりましたので」

「ああ」

 昼寝をしている智鶴が居る隣室の襖をチラリと見やって、言葉を続ける。

「うん。一時休戦かしらね。元に戻ってからどうなるかは分からないけど、取り敢えず今はみんなに協力することにしたのよ」

「そうで「すか」

 智秋の優しい表情に、姉妹はほっと一安心した。


 *


 授業中、先生の声も耳に入らず、百目鬼は1人頭を抱えていた。

 昨日見た後ろ姿は確実に竜子のものだと思ったのだが、直ぐさま行使した千里眼では、髪の毛1本すらその足跡を追うことが出来なかった。気のせいかとも思ったが、気になってしょうがない。竜子のクラスに聞き込みに行こうにも、上級生に知り合いはいないし、急にそんなことをしては、面倒な噂が生まれてしまう可能性すらある。

 だからこうして1人で考えを巡らしていたのだ。

 竜子が昼間に学外へ出ていた理由。

 思いつくことと言えば、課外学習で駅の方へ来ていた事……だが、それだと急に消えた意味が分からないし、そもそもそんな授業があるなんて、噂にも聞いたことが無い。他の可能性は……例えば、そう、家事を申し出て、調査までするとなると、皆に気を遣わせるからこっそり行っていた場合だ。それなら美夏萠に乗って空に飛び上がったタイミングと考えれば、急に消えたことにも納得は出来るが……。交互に学校を休むというルールがある以上、それを無断で破るようなヤツではないと思った。

 万策尽きかけていた。

「一旦、保留、か……」

 誰にも聞こえない小声で、独りごちる。

 1つ、頭の片隅に嫌な発想が浮かんだ。そんな事が浮かんだ時点で恥ずべき事だと、自分を律したが、その場合だと、嫌に因果がうまく結びついて、結果に繋がりそうに思えた。絶対にあり得ない。そんな訳無いと思う度に、過去の記憶が蘇ってくる。

「いや、そんな、ことは、無い」

 気がつけば声に漏れていた。無意識だったから少し大きな声が出てしまっていた。

「百目鬼。何が無いって?」

「あ」

 先生に注意されて、赤くなる。

 クラスのみんなが、平和そうに笑っていた。


 *


 智鶴が6歳だろうと、16歳だろうと、昼が来れば夜も来る。昼になれば人が町に溢れ、夜になれば暗闇から妖が現れるのは、自然の摂理として、当然のことである。

 今日も今日とて夜の仕事がやってくる。

「やっと智鶴が寝付いたぞ……」

 学校終わりから智鶴の面倒を引き受けていた栞奈が、疲れ切った様子で、遅れて合流した。

「遅いじゃない。って言おうとしたんだけど、それは大変だったわね。お疲れ様」

「おお、今日からだったのか」

「うん。よろしくね」

 今日は智秋の復帰戦だった。と言っても門下生の当番日に人手が足りなかったり、急な用事でかり出されたりすることは多々あったので、彼女自身、仕事をする事はそんなに久々でも無かった。今日は智鶴の代わりとして臨時の出勤であるとしても、こうして本家の仕事としての夜は、数年ぶりであり、どこか緊張している様にも見て取れた。

「智秋の仕事着、って言うか、戦闘服? 初めて見たけど、智鶴と違うんだな」

「ええ、智鶴はあの子お手製の紙製の着物でしょ? 私のは普通に布製なのよね」

 そう言って袖口を掴んで袂を見せる彼女は、忍者装束のようで、動きやすそうな白装束姿だった。所々に施された刺繍は、飾りで無く、実は紙のこよりを縫い付けてあるものであり、実用性も兼ね備えている。

「そろそろ、行こう」

 妖が増えてきたことを視た百目鬼が、先陣を切った。


 智秋の使う術は、紙操術の応用、()(ばく)(じゅつ)である。こより状に寄った紙の糸を操り、罠を仕掛けたり、捕縛したり、切り裂いたりする事に特化しているが、極めつけは……

()(ばく)(じゅつ) (しゅう)(えん)

 これである。絡め取られた妖が、燃えさかる紙の糸によって消し炭にされた。『紙は燃える』という特性を術によって再現した技であり、智秋の必殺であった。

「おお~! 凄いな!」

 栞奈が驚嘆の声を上げる。

「ありがとう」

 術を褒められて、智秋がニコリと笑った。

 だが、これはたまたま成功した例に過ぎない。

 他はと言うと、初めての共闘に栞奈と竜子と足並みが揃わず、誤って転ばせたり、捕縛してしまったりした。経験のある百目鬼だって、導線を潰されたり、逆に潰してしまったりした。

「ああ! ごめん!」

 この夜は、そんな謝罪の言葉が何度も交わされたのだった。


「うへ~疲れたぞ……」

 一通り滅しきった4人が、沼地付近の大岩に背を(もた)れさせて、一息ついていた。

「やっぱ、智鶴ちゃんいないと張り合いがないなぁ」

「居なく、なって、より、ありがたみ、分かる」

 智秋以外の3人が智鶴の不在を嘆くものだから、彼女は面白くなかった。

「悪かったって言ってるでしょ」

(ここでもやっぱり、あの子と比べられるのね)

 その思考に、チクリと胸が痛んだ。

「いやいや、責めてるんじゃ無いよ。最後の方は、ちゃんと連携とれてたし。それに、智秋がこんなに強いなんて、知らなかった」

 仲間と言うよりは、学校の友達として接してきた時間が長かったからか、智秋だけは呼び捨てにする竜子。対して栞奈が嫉妬した声を上げる。

「今日ずっと思ってたけど、智秋だけ呼び捨てなんだな」

「ホントだ。全然気がつかなかったよ」

 ケラケラと笑い声が上がった。

「今日は、もう、大丈夫」

 万里眼で見渡した百目鬼の一言で、一行は屋敷に帰るべく、立ち上がった。


 帰り道は、栞奈と智秋が先導して、竜子と百目鬼が付いていくような並びになった。これはチャンスと、百目鬼が小声で竜子に話しかける。

「ねえ、一昨日の昼、駅前に、居なかった?」

 竜子がビクッとした……気がした。

「居なかったよ。学校に居る時間じゃん」

「そう……だよね」

 胸を撫で下ろして良いものかと、百目鬼の手が中を(さま)()った。


どうも。暴走紅茶です。

今回もお読みくださり、誠にありがとうございます!!

暑さv.s.節電。一方が生きる限り他方は生きられないのか。まだまだ結果の分からない答えに、ヤキモキする気持ちもあります。

ですが!! 暴走紅茶からのお願いです!

高齢の方、幼い子供が居る方には、迷わずエアコンのスイッチをオンにしていただきたい!

そんで、涼しくなったお部屋で拙作を読んでいただけたら、何よりの幸いです。

では、皆様がお元気で夏を乗り越えられますよう。

また次回!!

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