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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第七章 隠したダイスキ

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2話 ツンケンと照れ

 体が動く様になった。

 それでもまだ、五感に靄がかかっているようだった。

 真っ暗な中で藻掻く。

 足を蹴り出して、腕を回して、早くここから出たい想いを体で表現する。

 でも外に何があるのかは分からない。

 そう思ったら藻掻く必要が分からなくなった。

 どこにも行けないと悟った。


 *


 台所に活気が溢れている。いつもはその指揮を()()()が執って、門下の当番が朝食の支度をするのだが、今日からは勝手が違う。それでも当番の度に繰り返されるうち、門下生の皆は朝のルーティンが体に染みついていた。

 (なか)()(じょう)()()()も今日の朝食当番として、熱心に長ネギを輪切りにしていく。

 朝一、師範代の(ふじ)(むら)(かおり)から事の重大さを聞いたときには、道場が一度ザワつき、結華梨自身も()(づる)(よう)(だい)だけでなく、これからの生活に気を揉んだが、それも()(ゆう)に終わった。年長者を中心に門下生同士で指揮を取り合うまで、時間を要する事は無かったからだ。

「これも、共闘の修行のうちだ」

 誰かが呟いた言葉が、ヤケに耳に残った。

 

「結華梨~お味噌汁はどう?」

「あとネギを入れるだけです!」

 先輩の問いかけに張り切って答える。暗黙の了解で、今台所で一番の年長者が全体を仕切っている。だんだんいつも通りの良い香りが屋敷にも流れてくる。導線が上手く作れずぶつかったり、美代子が朝一に済ませてくれていた下ごしらえが無くて、手間取ったりする程度のトラブルはあったものの、これという一大事は無かった。どんどん用意されていく朝食が、広間や本家の居間に運ばれていく。

 広間で待っていた他の門下生から、「お疲れ!」だの「ありがとう!」だの、いつもよりも多く掛けられる言葉が当番たちの心を救った。

 

「いただきま~~す!」

 なんとか美代子無しでも朝ご飯に辿り着けた安堵に、朝ご飯が余計身に染みた。

 食後の片付けは各自が行い、掃除当番は物置に、洗濯当番は洗面所の洗濯機に、何もない者は道場や大部屋に向かう。朝食・風呂掃除当番であった結華梨は、この後の仕事は夕飯時までないので、道場に向かおうとしたが、ふと気になって智鶴を訪ねた。最初こそ、本家の居間に入ることなど以ての外と思っていた彼女だが、智鶴と接するうちに、気がつけば平気になっていた。それが良い事か悪いことかは措いておいて。

「失礼します!」

 一言声をかけて開けたそこには、本を読んでいる(かん)()とスマフォを弄る()(あき)の他に人は居なかった。

「門下生が何の用? なにかあったかしら?」

 スマフォから少し顔を上げ、そう答えた智秋の言葉が冷たく聞こえた。しまったと思った結華梨だったが、ここまできてすんなりと引き下がるのも変であると自分に言い聞かせ、居間に入る。

「いえ、ちょっと智鶴様が気になりまして」

「へえ。最近の門下生は普通にこっち来るんだ」

「うっ……」

 結華梨の顔色が悪くなる。

「ちょ、智秋。言い方がキツすぎるぞ。コイツは智鶴と仲いいヤツなんだ」

「あなたも馴れ馴れしいね。まだ出会って間もないじゃない。年上に対する口の利き方も分からないの?」

「うっ……」

 栞奈の顔色も悪くなった。

「そろそろ手伝いでもしてくるわ」

 そう言い残すと、智秋はそそくさと何処かへ消えていってしまった。

「ごめんなぁ。せっかく智鶴の事心配して来てくれたのに。あとでわっちが丁寧に気を付けてちゃんと言っておくから」

「ああ、いえ。勝手に入ってきたのは私ですし。それより、あなた栞奈さんって言うんですね。ご挨拶が遅れまして、すみません。智鶴様と再開されたとき一緒に居た、中之条結華梨と申します。よろしくお願いいたします」

「おう! 覚えてるぞ。智鶴に抱きついてたヤツだろ」

 栞奈の記憶に、顔が火照った結華梨だったが、それもお構いなしに栞奈が先を続ける。

「こちらこそだ! お前、良い奴だな~きっと智秋も知ったら優しくなると思うぞ」

「いえいえ、そんな。それで、智鶴様は……?」

「ああ~今、美代子が入念に(じゅつ)(こう)(ぞう)(しき)を調べててて、別室に居るぞ」

「ああ、そうだったんですね。間が悪かったです。私も修行に戻りますね」

「頑張ってな~。また気が向いたら顔出してくれな!」

「ありがとうございます」

「あと、わっちは別に本家の血筋とかじゃないから、そんなに改まる必要ないぞ?」

「お気遣いありがとうございます。でも、私はこっちの方が話しやすいので」

「そうか! ならいいんだ」

 それから(ふた)(こと)()(こと)話して、居間を出た。

 道場に向かう廊下を歩いていると、物干し場で智秋がシーツを干しているのが見えたから、先程の()(れい)()びようと、行き先を変えた。

「智秋様、先程は大変失礼いたしました」

「分かれば良いのよ」

 智秋は彼女の方を見ること無く返した。

「でも、何? あなたも、智鶴が心配なのね。まあ、あれよ。いいんじゃない? 最近とか分からないし。智鶴が見たけりゃ居間にでもどこにでも来たら」

 数分前、居間を出て直ぐのこと。ついつい人見知りからツンケンした態度を取ってしまった事を、心の底から後悔していた。今結華梨の顔を見られないのも、機嫌が悪いからで無く、顔が真っ赤で恥ずかしいからだった。

「は、はい! ありがとうございます!」

(え、なになに? 智秋様めちゃくちゃ可愛いです~)

 照れていることに気がついた結華梨が、微笑ましいわぁと笑顔になって、ルンルンで道場へ去って行った。その直後、しばらくフリーズしていた智秋は、彼女の気配が無くなってから、はぁぁぁあああとため息をついてしゃがみ込んだ。

(ああ、もう、初対面は苦手よ)

 高校2年というのに、まだ子供っぽく人見知りしてしまう自分が恥ずかしくて、嫌になったのだった。


 一通りシーツを干し終えてからは暫くする事もなかったので、自室に戻るかと思っていたら、台所の方から智鶴と、彼女を追って栞奈が走ってきた。

「智秋~智鶴を捕まえてくれ~」

 よく見ると、智鶴は片手に数珠(じゅず)の様なものを掴んでいる。

「こら、智鶴!」

 と声を上げた瞬間、妹に向かって妹の名を呼んだのがとてつもなく久しぶりに思えた。そんな訳無いのだが、物心ついて初めて呼んだ気さえした。だから、動揺して喉に二の句が詰まってしまって、それ以上は何も言葉が出てこなかった。

「えへへ~お姉ちゃんガード!」

 智鶴に背後から抱きしめられた。

(はぅっ! 智鶴に抱きしめられてしまったわ!)

 ずっと意地を張って妹とのスキンシップをしていなかった彼女に、この可愛い生き物は劇物だった。

 ケラケラ笑う智鶴と、余りの衝撃に昇天しかけている智秋と、疲れ切ってヘトヘトな栞奈――その光景は、いやはや実にカオスを極めていた。


「智秋、大丈夫か?」

 何とか智鶴を捕まえた栞奈はしっかりと手を握って、居間に連れて行った。数珠を母に返してきた智秋も合流し、二人で面倒を見る運びになったのだが、先程の衝撃から、まだ心臓がバクバク言っている智秋は、どこかぼーっとしていた。

「……あ、ああ。うん。大丈夫」

「ホントか? お前ら姉妹が仲良くしているところ見たこと無かったからさ、仲悪いのかってちょっと心配だったんだけど、取り越し苦労だったみたいだな」

「え?」

 智秋がその言葉に驚いた顔をする。

「めちゃくちゃ顔が綻んでるぞ」

「そ、そんなこと無い」

 智秋は弛んだ表情筋に活を入れるべく、両手で顔を揉んだ。

「まあ、なんでも良いけどな。あ、いいですけどね。か」

「何それ」

 急に改まった栞奈に、真意が読み取れないと複雑そうな顔をする。

「だって、さっき馴れ馴れしいって」

 そう言えばそんな事を言ってしまっていたと、また顔が赤くなる。

「あ、いや、ええっと。もう良い。普通に喋って」

「そうか? いいならいいんだけど……というか、智秋、表情がコロコロ変わって面白いな。流石姉妹。そういう所で智鶴とそっくりだ」

 変なところでそう言われてしまったから、更に顔を赤くした。


 *


「入りますー」

 その翌日、千羽家奥の間に、来訪者があった。


ごめんなさい。

投稿できていませんでした。

それでも読んでくださって、誠にありがとうございます。

では、また次回。

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