ある朝の……
本作、ご無沙汰しております(;'∀')
以前お手紙の返信に添えるために書いていたSSがあったので掲載します(*^^*)
ご興味があればよろしくお願いいたします。
(どうしよう……)
それは、ロデニウム城から離宮に帰宅してしばらくたった日のことだった。
朝、ベッドの上で目を覚ましたエレナは途方に暮れていた。
エレナの細い体にはユーリの腕がしっかりと絡みついていて、どうあっても起き上がることができなかったからだ。
ユーリは幸せそうな顔で深い眠りの中にいて、彼の腕から強引に抜け出そうとすると起こしてしまうかもしれない。けれども、いつまでもぎゅうぎゅうに抱きしめられたままなのは、エレナの心臓的によろしくなかった。恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。
「ん……エレナ……」
ふにゃりと笑ったユーリが、抱きしめたエレナの頭に頬ずりをする。
「かわいい……エレナ……」
ユーリが甘い声でそんな寝言をささやくものだから、エレナの心拍数と体温は一気に急上昇した。
「で、殿下……」
「エレナ……」
夢の中のユーリの行動はさらに大胆さを増し、エレナの頬に唇を寄せてくる。
チュッチュと頬にキスをされたかと思うと今度は鼻の頭、そして最後には唇に――
「おはようございます、旦那様! 奥様!」
キスを予感してぎゅうっと目をつむったその時、少し大きな声が聞こえてきて、エレナはびくりとした。
目を開くと、部屋の扉の所にミレットの姿がある。
ミレットは完全にあきれ顔で、じっとりとした視線をユーリに向けていた。
「いつまで寝たふりをしているつもりですか。奥様を困らせるのでしたら、結婚式まで寝室を分けますよ!」
「……ちっ」
小さな舌打ちに驚くエレナの目の前で、眠っていたはずのユーリが瞼を持ち上げた。不貞腐れたような顔で、エレナを抱きしめたまま入口を振り向く。
「いつもより起こしに来る時間が早い気がするんだが?」
「いつも通りです」
ミレットは言い張り、ずんずんと部屋を横切ると、勢いよくカーテンを開け放つ。
「さあ、旦那様は早くお部屋から出てくださいませ。奥様のお着替えができません」
「夫婦になるんだから、俺の目の前で着替えても……」
「旦那様」
ミレットに凄まれて、ユーリは言葉半ばで口を閉ざす。
そしてエレナを抱きしめていた腕を緩めると、仕方なさそうな顔でベッドから降りた。
すごすごとユーリが退散していくと、ミレットがやれやれと肩をすくめる。
「奥様、嫌な時は嫌だとはっきりと旦那様にお伝えして大丈夫ですよ。言わなければ調子に乗りますから」
「えっと……」
(恥ずかしかっただけで、嫌ではなかったんだけど……)
キスも、恥ずかしいけれど嫌ではないし、むしろさっきだって――、とエレナはユーリの熱が触れずに終わった自身の唇に指先を触れて、真っ赤になった。
「奥様?」
急に赤くなったエレナに、ミレットが首をひねる。
しかし、キスが未遂に終わって残念だと思ったなどとは口が裂けても言えないエレナは、赤い顔を隠すために、シーツを頭のてっぺんまで引き上げたのだった。





