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 エレナの力が安定したら、そのうち呪いは完全に解けるでしょうね――、ジュリアはそう言い残して帰って行った。


 ――何か困ったことがあったら言いなさいね。罪滅ぼしってわけじゃないけど、あたしでよければ力を貸すわ。


 ユーリはジュリアを咎めなかったが、すべてをなかったことにできるはずもなく、ただぶっきらぼうに「ああ」と頷いた。


「拍子抜けだ」


 夜、ユーリはエレナのベッドに寝転がり、いつぞやエレナに言ったのと同じ言葉を口にした。


「もっと陰険で性悪な女だったら、容赦なく捕えて罪に問うてやろうと思ったのに」


 ジュリアのことを言っているのだろう。

 エレナがベッドに上がると、ユーリに引き寄せられてその広い胸の中にすっぽりと抱きしめられる。

 ユーリが狼の姿のときはエレナが彼を抱きしめて眠っていたが、今はすっかり逆である。はじめは緊張してカチコチになっていたエレナだが、最近は少し慣れてきた。相変わらずドキドキと心臓はうるさいが。


「しかし無能だからと言って自分の子供を殺すなど――、お前の一族はどうなっているんだ」

「力だけがすべてのような一族ですから……」

「理解できん」


 ユーリがふんっと鼻を鳴らした。

 エレナはユーリの中で小さく笑う。無能と蔑まれてきたエレナには、彼が当たり前のように言ったその言葉が嬉しかった。

 無能ものと言われ続けていたエレナも、ジュリアの子供のような末路をたどる可能性があった。エレナは母のおかげで生かされたが、これまでそれは奇跡のようなものだと思っていたけれど、ユーリはあっさり「親が子供を守るのは当然だろう」と言い切ってしまう。


「別に俺はジュリアを許したわけでも、味方するわけでもないけどな。あんな話を聞かされてあいつを捕えて処刑したら後味が悪すぎだろ。まったく、本当に拍子抜けだ」

「殿下……」

「それに、あいつのおかげでお前が手に入ったのは本当だからな」


 ユーリはエレナを抱きしめたまま、ずいと顔を近づけてきた。


「今夜のキスはまだもらっていない」


 にやにや笑いながらユーリが言うから、エレナの顔が真っ赤に染まった。

 覆いかぶさってきたユーリにそっと唇が塞がれて、エレナはぎゅっと目を閉じる。何度か啄まれてそっと唇が離されると、うっすらと目を開けたすぐそばにユーリの顔があった。

 ユーリはエレナの顔をじっと見つめてから、口端を持ち上げる。


「呪いも、悪ことばかりじゃないな」


 ユーリが何を言いたいのか、エレナにはよくわからなかった。

 





 エレナのもとに父から遣いがやってきたのは、ユーリの二十歳の誕生日パーティーの二週間前のことだった。

 朝、コンコンと窓が叩かれる音で目を覚ましたエレナは、窓の外に真っ白い梟がいるのを見つけた。

 しきりに窓を叩く梟に、不思議に思ったエレナが窓を開けると、梟はエレナの目の前で姿を変え、一通の手紙になった。

 驚いて手紙を見たが差出人の名前はない。けれども、こんな芸当ができるのはノーシュタルト一族しか思い浮かばす、エレナは手紙をもって机に向かうと、ペーパーナイフで封を切った。

 手紙の文面は短く、用件だけがかかれている。

 その短い手紙を読んだエレナは大きく息を呑んだ。


「そん、な……」


 差出人は父であるノーシュタルト一族の長からだった。


 そして手紙にはこう書いてあったのだ。


 ――ユーリ王子の花嫁はバネッサだ。お前はパーティーの夜にバネッサと入れ替わり、一族の暮らす地へ戻るように。


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