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 ジュリアはソファに腰を下ろすと、優雅に足を組んだ。


「エレナ、まだか?」


 部屋の外ではユーリがしびれを切らしたようで、どんどんと扉を叩いている。

 ジュリアは扉に視線を向けると、ぱちりと指を鳴らした。


「鍵をかけたから、入っては来られないはずよ。ほら、そんなところに突っ立ってないで、座んなさいよ」


 エレナは戸惑いながらも、言われた通りジュリアの向かいに腰を下ろした。


「あの、それで、さっきの話ですけど……」


 ジュリアは、ユーリに呪いをかけたのは自分だと言った。でも、ジュリアの外見はどう見ても二十台で、もうすぐ二十歳になるユーリに呪いをかけたのならば、五歳くらいで呪いをかけたことになる。


「あ、疑ってるわね。本当よ。あたし、これでももうすぐ五十歳だし」

「五十歳!?」


 エレナが驚きの声を上げると、ジュリアは気をよくしたらしい。


「あら、あの男の娘の割にはかわいらしいじゃないの」


 うふふ、と楽しそうに笑うジュリアに、エレナはさらに戸惑ってしまう。ユーリに呪いをかけたと言うから、どんなに恐ろしい魔女なのかと思っていたのに。


「王子に呪いをかけたのはあたしよ。あの頃かなり病んでいてね、私怨のために利用した形になっちゃったから、これでもちょっとは反省していたのよ。でもあたし、呪いはかけられるけど解けないから、もうすぐ二十歳だけどどうしようかしらーって思ってたらあんたが出てきたってわけ」

「おい、エレナ!」


 部屋の扉が開かないことに気がついたらしいユーリが「開けろ」と騒いでいる。しかし、ジュリアには開けるつもりはないらしい。


「でも、どうして呪いなんか……」


 ユーリはそのせいで二十年間苦しんでいた。どんな理由があるのかは知らないが、エレナは許せない。ユーリがどんな気持ちでこの二十年をすごしてきたか、エレナには想像することはできないけれど、ものすごくつらかったはずだから。

 ジュリアにもエレナの気持ちが伝わったのか、彼女はふと笑みを消した。


「恨んでいたのよ。ノーシュタルト一族をね。それは今も変わらないけれど、あの時はどうにかして奴らに復讐することしか考えていなかった。そんなときちょうど生まれたばかりのユーリ王子を見つけたの。ノーシュタルト一族が呪いをかけて、それが一族の誰も解けなければ、一族の名は地に落ちる。あの男の矜持はズタボロになるはずだと、単純にそう思ったの」


 ジュリアはぱちんと指を鳴らした。するとテーブルの上に温かい紅茶の入ったティーカップが二つ現れる。


(すごい……)


 エレナはティーカップを見つめて息を呑む。呪いもそうだが、異能の力をもつノーシュタルト一族の中でも、彼女は特に強い力を持っている。そんな彼女がどうして一族に恨みを持っているのか、エレナにはわからなかった。エレナみたいに「無能もの」と冷遇されていたわけではないはずなのに、どうして――

 ジュリアはティーカップに口をつけた。


「あたしはね、ノーシュタルト一族を滅ぼしたいの。でもあたしに一族を呪い殺すような力はない。あとできることはノーシュタルト一族の評判を地に落とすことだけ。あのときのあたしは頭に血が上っていて、そんなことしか思いつかなかったのよ」

「いったい、何があったんですか……」


 ジュリアはティーカップをおくと、長いまつげを震わせて、言った。


「殺されたのよ。あたしの大切な息子を――、あの子が生まれてすぐに、ね」

 





 ユーリは苛立っていた。

 着替えるからと部屋から追い出されたが、あまりに遅い。扉を叩いても返事もないし、無理やり入ろうとすれば鍵がかかっていた。


「おいミレット、何かおかしくないか?」


 ミレットも同じことを思っていたようで、すぐにスペアの鍵を取りに向かった。けれども鍵穴に鍵を指して回しても扉は開かず、ユーリは確信した。


(あの女……!)


 考えられることは一つだけだ。あの女――マダム・コットンの使いだとかいうあの女が怪しい。

 ユーリはくるりと踵を返すと、階段を駆け下りて玄関から外に出た。

 エレナの部屋の窓のそばには大きな広葉樹が立っている。それを伝って登れば、部屋の窓までたどり着けるはずだ。

 ユーリは梯子を持ってくるとそれを使って登れるところまで登り、それから慎重に枝を伝って窓まで近づいた。

 雪で滑るせいで時間がかかってしまったが、どうにか窓までたどり着くと、部屋の中を覗き見たユーリはカッと目を見開いた。


「エレナ……!」


 泣いているエレナを見た瞬間、ユーリは勢いよく窓ガラスを蹴破った。


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