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微睡みステーキ

作者: しゃん
掲載日:2020/01/23

今日はインセンティブディナーがあるので18時には会社を出られるようにしてください。

朝出社すると後輩から通知が来ていた。

先月がんばった分の会社からのご褒美として明日は高級ステーキをチームみんなで食べにいく。

費用は会社の奢りだ。



美味しい夕飯が食べられるワクワクと、上司と会話を合わせないといけない憂鬱が拮抗していた。

しかもチームに貢献してたかでいうとそれも怪しくやや後ろめたさがある。



そんなモヤモヤをしまい込み、一日の仕事のスケジュールを整理する。

いつもより残業ができない分、いくつかの仕事を前倒ししなくてはならず午前中は忙しそうだ。



気分展開がてらに行く煙草の数を減らさなくてはならない。

高級ステーキよりも目の前の一本の煙草を優先してしまう自分の弱さに辟易する。と同時にその素直さが愛おしくもなる。



身体が求めることは素直にしてあげた方がきっとストレスも少ないだろう、と生きている。



営業でノルマはあれど、外出できる分心を落ち着かせることができるのが救いだ。


やはり一人の時間を作らないと、自分が自分でいるのか確かめられなくなる。

ニコチンを求める身体を必死し抑えながら仕事をこなすうちに、18時になっていた。


結局なんだかんだみな仕事が終わらず遅れながらの出社となった。


会社から電車で10分程度のお店。

オフィスビルの一画にある高級洋食店だ。



入るとエントランスにはいかにも金持ちそうな男性がこれ見よがしに陣取っていた。


スーツやネクタイ、革靴はきっと立派だろう。だけどなぜかその人が空っぽに見えた。

それらしいお店、それらしい服装に彩られているだけで尊敬の眼差しを向けられなかった。


だが今の自分も同じかもしれない。

店内に入ると映画の世界の様なステンドグラスや絵画、それらが醸し出す独特の雰囲気に気分が高揚した。

きっとこうなのだろう。



その人から何かが発せられてる訳ではなく、この環境がそうしむけているだけなのかもしれない。


こんなお洒落な雰囲気にいると全てのものが高く見えてくる。


ビールで乾杯し、前菜にありつく。

生憎、舌が肥えてないが故にありがたみの度合いが曖昧だ。

一つ一つ懇切丁寧に、説明を受けるも、結局肉か、と頭が思考停止してしまっている。

普段なら興味を持ちそうなことも、上司の隣の席だとなぜか頭が回らないようだった。


やがてその場で調理されたステーキと赤ワインを飲む。

みな口々に美味い、美味いと言うがなんだか私にはわからなかった。


さすがに最近の無理がたかったのか、ストレスで味覚がやられてしまったのだろうか。


味覚がダメなら他の五感だ。

耳をお洒落なBGMや、高級食器同士が奏でる音、上品そうな客の会話に傾ける。

目は、食材の盛り合わせ方、間接照明の具合、店内のデザイン、飾られた絵画に集中した。


そのうちやっぱり本当に美味しいのか、そうじゃないのかわからなくなる。

だんだん上司の会話への相槌も適当になってくる。

そろそろ気合い入れなきゃ、と思うも元気が出ない。


そう仕向けられているのではないだろうか。

確かめる術がない分、モヤモヤだけが募った。


一通り食べ終わった後に、猛烈に帰りたい欲とニコチンへの欲求が湧いてきた。


心身ともにこの場から離れることを望んでいる。


もうこの感覚すらも仕向けられてるのではないか不審になってくる。

自分が逃れられない渦にどんどん沈んでいくようだ。


自分自身で選んできたものはどれだけあるのだろうか。


久しぶりにワインを飲んだせいか酔いも回っている


仕事のストレス、上司へのストレス、ニコチンの禁断症状、酔いの微睡みにとらわれついに頭がクラクラしてきた。


この感覚すらも仕向けられているのであれば私は、私の身体は何を求めているのだろうか。




我慢できずに喫煙所へ席を立つ。

途中煙草が残り一本しかないことを思いだした。




これは誰の仕業だろうか。




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