第5話
ゴブリン四匹の様子を観察するとどうやら、傷だらけゴブリンとガタイのいい三体は敵対しているようだ。あの打撲痕もあいつらの棍棒で殴られたものだろう。傷ゴブは三体の攻撃を捌こうとしていたが多勢に無勢で今やガードするのが精一杯だ。これらの行動から、この世界では同じ種族のモンスター同士も争うらしいことがわかったのはなかなかの収穫ではないだろうか。加えて同じ種でも見た目の違うモンスターがいることも推測できた。これが、いわゆる「進化」があるのかどうかまでは不明だが例の本にはモンスターの情報は一切書かれていなかったのでありがたい。
正直クールに解説してみたもののめちゃくちゃ怖い。全員目つき怖いし、殺気ガンガンだし。とりあえず、逃げよう。そう思い踵を返したとき、
「ポキッ!!」
イヤーな音が森に木霊した。
八つの目が一斉にこちらを向く。そしてガタイのいい三体が一斉にこちら向かって突進してきた。
「こんな定番望んでねぇよーーー!!」
心内で叫んで慌てて逃げようとするも、足が地面に張り付いたかの如く動かない。ヤバいッ、来る!精一杯の抵抗で腕で頭を覆い隠す。
「ガキーーン!!! ドンッ!」
横を見ると折れた棍棒が転がっていた。前を見るとゴブリン三体が固まっていた。……もしかしてこいつらの攻撃って僕には効かないのか。その考えに行き着くと次第に落ち着いていき、同時に自分の腕が龍化していることに気づく。おそらく、このゴブリン達は龍化した様子に驚いているのだろう。
ならばと全身を集中させ龍化させていく。
「「「ギギギッ!?」」」
龍化した姿を見たゴブリン達は一目散逃げ出した、一匹を除いて。
「ギーーッ!」
傷ゴブは敵意剥き出しでこちらを睨みつけている。そこで、龍化を解除して提案してみた。
「話し合いしないか?言葉通じてるか分からないけど。」
「ギーギー!」
「通じてるってことでいいのかな?じゃあ本題なんだけど、傷を治すから代わりに僕の仲間になってくれないかな?」
「ギー?」
「やっぱり通じてないのかな?まぁいいや、先払いって事で。ちょっとじっとしててね。」
スキルを発動すべく集中し、右手に力を込める。傷ゴブは最初警戒していたがスキルを発動して以降は大人しくしていた。
「治し終わったし返事を聞いてもいい?もし仲間になってくれるなら、僕の手に触れてね。」
「ギー……」
なんて言ってるかは相変わらず分からないがどうやら悩んでいるようだ。ちなみに僕の手に触れるのはどういう意味かと言うと契約を交わすためだ。この契約とは簡単に言うと双方の同意のもとモンスターを仲間にするスキルだ。他にも力で屈服させ従属させることもできるテイムスキルや人間を隷属させるスキルもあるらしいが、習得難度が高く持っている人も少ないと例の本に記載されていた。一方契約は双方の同意があれば簡単に出来るが、そもそも同意してくれれモンスターがあんまりいないらしい。
傷ゴブ改め普通のゴブリンがこちらをじっと見つめ、
「ギギッ!」
茂みに入りそのまま離れてしまった。
残念ながら失敗のようだ、やっと話相手ができると思ったのに!。正直、1年以上誰とも話していないどころか何とも会ってすらいないのだ、発狂寸前である。例え話が通じなくとも誰か(ゴブリンでも)がそばにいるだけで嬉しいのである。あっ、マッチョゴブリンは怖いんで結構です。
うん?、察知スキルに何かが引っかかる。ガサガサっと茂みが動き、そこからさっきのゴブリンがたくさんの果物を抱えて飛び出してきた。
「ギギッ!ギギッ!」
「これくれるの?ってことは僕の仲間になってくれるってこと?」
「ギ!」
「じゃあ僕の手に触れてね。はい。」
ゴブリンの手が触れると、頭がフワフワし何とも表現しづらいが繋がりを感じる。これがまた契約の際の感覚なんだろう。しばらくして、感覚が元に戻るとゴブリンの方も同じ感覚を味わっているのか上の空な様子だ。
「じゃあ、改めてよろしくね、ゴブリンくん。あっ、ゴブリンくんって言いづらいからさ『ゴーギー』って呼んでいい?声と種族名からもじっただけなんだけどさ。」
「ギッ!」
「相変わらず何言ってるかわからないけど肯定の意として受け取るね。じゃあ、僕の家に帰ろうと思うんだけど一緒に来る?来るなら付いてきてね。」
一人と一匹で家へと帰ると、まずは水浴びをした。ゴーギーはずっと外で生活しているからか汚れで肌の色がくすんでいた。それに元日本人として汚れたままでは家で寛げないのだ。その後、一緒に食事をした。その際イングの実をあげようとしたのだが、ゴーギーに拒否られてしまった。モンスターと人では味覚が違うのかもしれない。(僕は龍人だけどね)
今日は実りある一日だったなぁー、会話相手もできたことだし。そんなことを考えていると、猛烈に眠くなってきた。
と言うことでおやすみー