第2話
落ち着いたかい?」
「うん。ありがとう。
「すっかり堅苦しさがなくなって、なによりなにより。」
「あっ!気づいたらそうなってた……。」
「いいのいいの!ついでに私の事はママでいいのよ?」
「それは………」
「まぁまぁメイもそのくらいで。レンが恥ずかしがってるからね。ところでレン、そろそろお腹が空いているんじゃないかい?もう昼だしね。」
「確かに一頻り泣いたらお腹が空いたかも。」
「そうね。じゃあお昼にしましょうか!」
食事を取るため、部屋を出てダイニングに向かう。その途中で窓があったのでのぞいてみると、辺り一面木が生い茂っていた。おそらくここが町や村にある家ではないことが分かった。
「マイト、ここの近くに家がないけどここら辺は二人以外誰も住んでないの?」
「ここら辺だとここから60キロ離れた先に人族の村があると思うよ。」
「ろ、60キロ!?」
「そもそも、静かに暮らすためにここに住んでいるからね。それに、ここら辺は食料が豊富だからね。」
食料が豊富?野草や動物がいっぱいいるってことかな?考えながら歩いているとリビングにたどり着いた。リビングは僕の部屋と同様簡素な作りでテーブルと椅子コップや食器が入った棚が一つあるだけだった。
調理道具はもちろんキッチンすらない。
「じゃあ取ってくるから。」
そう言い残すとメイはリビング出て行ってしまった。そして待つこと数分、リュックを背負ったメイが帰ってきた。そしてリュックからフルーツらしきものを9つ取り出して、皿に三つずつ載せた。
「お待たせ!さぁー食べましょう。」
「美味しそうだね。ほら、レンも座って食べよう。」
二人とも席に着くと例のフルーツ?にかぶりついている。さも昼食がこのフルーツだと言わんばかりに。おかしいなぁ?僕が思ってた昼食と違う。
「二人とも、確認したいんだけど昼食ってこれ?」
「そうよ。ほかにある?」
「新鮮なイングの実だよ。とても美味しいよ。」
「いや、なんて言うかそのーー……もうちょっと加工したものかと思ってたんだ。」
「あはは…… ちょっと料理が苦手なの……」
「レン!新鮮な果物はそのままが一番だよ!」
メイとマイトが目を逸らしながら、弁明じみた口調で答えてきた。あぁ、これ二人とも料理出来ないやつだな……僕も料理出来ないんだよなー。ずっとフルーツはキツイぞ……。
「まぁ、とりあえず食べてみて。」
「分かった。」
席に座ってイングの実を手に取って観察してみる。形は円錐で色はザクロの実に近い。頬張ると水を飲んだかのような水分と爽やかな甘さが口いっぱいに広がる。
「美味い!こんな果物食べたことない!!」
「そうだろう、そうだろう!さぁ、もっと食べなさい。」
僕はひたすらイングの実を食べ続け、あっという間に3つを平らげた。
「やっぱり食べ盛りね。もっと用意すればよかったかしら。」
「大丈夫。もうお腹いっぱいだから。」
「やはり龍族には果物が合うようだな。」
「龍……族?なんの事?」
「何って?私達の種族のことさ。」
「えぇーーー!?」
すぐに自分の手足や胴を見るが龍の特徴の鱗もなく、人の肌としか思えない。
「もしかして龍族を知らない?」
「龍族どころか人族しか知らないよ!」
転生したと分かった当初から予想はしていたのだ、ネット小説のようにいろんな種族がいることは。でもまさか自分が人族以外の種族に転生していたとは。
「「えっ?」」
僕は二人に自分が前世で住んでいた環境を話した。二人とも人族しかいない世界にたいそう驚き、メイは人種差別について話すと、「やはり差別は起こるのね……」とどこか遠い目をしていた。全てを話終えると、この世界について話し始めた。
この世界には東西南北と中央にそれぞれ大陸があり、北のザノン大陸、南のザザン大陸、西のエスト大陸、東のストイ大陸、そして中央にあるミルド大陸である。そして前の世界にはいなかった魔物や多種多様な種族がおり、ハーフまで合わせてると、その種族数は把握できないほどであるらしい。さらに龍族や一部の種族は戦闘になると普段、生活している姿ではみれない種族特性が現れる事があるらしい。また今僕がいるのはエスト大陸の東端の森林地帯であり、エスト大陸では、国が乱立しており、全ての国が虎視眈々と統一を狙っているらしい。二人はその戦乱の世に辟易してこの森に移ってきたらしい。
また、時間は各地の領主邸にある塔の鐘の音で1時間毎に違う音色から判断するらしい 。暦は庶民は納税の日を領主邸前で確認するのみで庶民は暦を詳しく知らないらしい。領主邸は主要な都市にあるため、小さな村では時間を知る術はないらしい。但し、時を知る魔法を使えればどこでも時間や暦を知ることができるらしい。
「どう?こっちの世界について少しは分かった?」
「うん。でもエスト大陸以外の情勢はどうなの?」
「えぇと……分からないこともないのよ?でも……」
「何を言ってるんだい、メイ?私達がザノン大陸にいたのは100年以上前……」
マイトの発言を遮るようにメイの流星の如き拳がマイトの顎を捉えた。 惚れ惚れするようなスカイアッパーであった。
「レン、私はまだまだ若いのよ…?」
「そうだね。たった、にひゃく………」
虚空を湛えた二つの目がマイト捉える。その瞬間マイトは蛇に睨まれた如く動くなった。次は……。
「わ、分かってるよ?メイと僕が並んで街を歩いたら兄弟と思われるだろうなぁ…いや、オモワレルニチガイナイ」
深い闇が晴れ、美しいサファイアが顔を出す。僕はやり遂げたのだ!!
「ところでザノン大陸って龍族がいっぱい住んでるの?」
「まぁ、たくさんと言う程は居ないけどここよりはいるわね。」
「へえー、じゃあ何でエスト大陸に来たの?同族と一緒の方が落ち着くんじゃない?」
「それは………。」
どうやら何か事情がありそうだ。
「無理に言わなくていいよ。そこまで気にならないし。」
「ふふっ、ありがとうレン。優しいところはマイトそっくりね。」
鬱な話が聞きたくないからとは口が裂けても言えない。それにあなた優しい夫にスカイアッパーかましてたよね?
「とりあえず起こそうよ。『優しい夫』をさ?」
「乙女の秘密をバラす者には制裁が必要なのよ!」
そんなに力強く言われても………
ちなみにマイトはあの一撃を喰らっても大きな怪我は無かった。さすが龍族、頑丈だな!
食事でのゴタゴタが終わると、外へ散歩に行くことになった。
「空気が美味い!!」
「ここの森は魔力濃度が高いからね。」
それは意図してないんだけれども……。ところで魔力とは実にファンタジーらしい響きである。
「ここなら魔法も使いやすいし訓練にはぴったりよね。」
「まぁ今日のところは森の散策でもしようじゃないか、レンは森について何にも知らないんだし。」
「訓練って?」
「魔法と武術の訓練さ。レンは外の世界に行きたいのだろう?」
「えっ?」
「私たちの話を目を輝かせながら聞いていたもの」
いや確かに興味津々ではあったが気付かれるとは、この歳になって恥ずかしい…。とりあえず話題を変えよう。
「そういえば、訓練って具体的に何をするの?」
「そうだね……。まずは森の探索も兼ねて死を味わってもらおうか。」
「えっ…?」