8 神憑き少女は朝に弱い
目覚ましが鳴る少し前に起きる習慣がついている私。
そうやって起きるたびに「今日も勝った」と思うのです。
カーテンの隙間から明るい光がベッドの淵にかかる。
マリーの頭の上で寝ていた疫病神は起き上がると、ぐぐっと体を伸ばす。
すやすやと眠るマリーの左右に死神と貧乏神も転がっていた。
疫病神はマリーの顔を覗き込み、声を掛ける。
『ほらぁマリー、朝よ起きなさい』
「……」
マリーの額を疫病神がペチペチと叩く。
『早起きは美容の基本なのよぉ。さあさあ、さっさと起きなさぁい』
「……もう少しだけ……ちゃんと……起きるから」
疫病神はマリーの髪の毛を掴むとぐいぐいと引っ張る。
『だめよぉ。ほら、ちゃんと起きるの』
「……う~ん、骨もじいさんもまだ寝てるじゃない」
『そんな屍もどきと耄碌爺と同じでいいのぉ?』
「……なんであんたは朝からそんな元気なの?」
諦めたマリーはむっくり体を起こし、枕元に横たわる死神と貧乏神を見る。
死神は眼窩の中の赤い光が消え、貧乏神は大きな寝息を立てていた。
自分だけ起こされたのに、多少腹が立ったマリーは二人を掴み上げる。
「あんたたちも起きなさい」
マリーが軽く揺すると、貧乏神は目を開き、死神は眼窩に赤い光が薄く灯る。
『おはようマリー、もうちょっと年寄をいたわってもらいたいんじゃが』
『……』
死神の眼窩の赤い光が薄く点滅し、段々と薄くなっていく。
「骨、寝ぼけてないで起きなさい。あんただけずるいわ」
『お、おおー、起きてる。俺は起きてるぞ』
そうは言うものの、若干光は戻ったものの、まだ赤い光は薄く点滅していた。
洗面を終えたマリーは鏡の前で髪の毛の寝ぐせを整える。
『マリー、後ろ側がまだ少し跳ねてるわぁ。ブラシを貸しなさい』
『ありがとう』
疫病神は自分の身体ほどのブラシを器用に持ち、マリーの金髪をすき始める。
丁寧に丁寧に、一本のほつれもないかのように仕上げていく。
指を通しても一つのひっかりもなく、滑らかな絹糸のようにさらさらと流れる。
マリーの金髪が日の光を浴びて、キラキラと輝いているように見える。
『疫病神は美容の類にこだわるのう』
『仮にも女神だからねぇ。美しさにはこだわるわよぉ』
『疫病神でも女神というと、威厳がそことなくあるな』
『嫌味ねぇ。それにしてもあなた、使いもしない鎌をよく毎日磨くわねぇ』
マリーの横で死神が鎌を研いでいて、死神が毎朝行う日課だ。
『生まれたときから一緒にいるからな。愛着も沸く』
『疫病神や、マリーが髪をといてもらってる間に寝とるぞ』
『あら? もうマリーったらぁ、起きなさぁい!』
疫病神に髪を整えてもらうのが気持ちよくて、再び寝てしまったマリーだった。
お読みいただきましてありがとうございます。
死神の寝る表現が他に思い浮かばなかった件。