5 神憑き少女は胃が痛い
邪気がないから無邪気という。
翌日、学校への8回目の編入手続きを済ませ、元のクラスへと足を進める。
転校したはずなのに、何故かそのまま置かれていた自分の机。
自分が戻ってくることを暗示されているように思えた。
「こればっかりは慣れない」
『出て行くときの挨拶もなくなったしねー』
『3回目くらいから、戻ってきたときの挨拶もなくなったよな』
『誰も気にせんようになったからのう』
「うるさい」
そそくさと、マリーは自分のクラスに入り、自分の席に座る。
目立たないように行動したつもりだったが、その姿を捉えたものがいた。
「あ、マリーちゃん帰ってきてる。おかえりー」
マリーに声を掛けてきたのは、クラスメイトのアイラ。
教会の近所にあるドラッグ店の娘で、マリーやジャックとも長い付き合いでもある。
性格がよくマリーとも仲は良いが、困った特徴を持っている。
「た、ただいまー」
「今回は早かったね」
「う、うん。まあね」
『あらまあ、えぐってくるわね。マリーになんてむごいことを』
『相変わらず毒舌じゃのう』
『ここまで悪意なく無意識に人を傷つけるのって才能だと思うぜ』
そう、彼女の言葉はマリーを痛めつけるのだ。
マリーの胃がキリキリと痛み出す。
孤児院である教会暮らしの子供たちは多少の差別を受けやすい。
親がいないから、貧しいから、教育が足りていないとか。
そんな批判を大人から受けやすく、子供たちはその空気を敏感に読み取り、悪意を向けてくる子が多い。
アイラはそんなことに惑わされることなくマリーらに接してくる。
ただ、純真すぎて、言葉使いや言葉の裏にある意味を考えずに放ってしまうのだ。
「またマリーちゃんと一緒に遊べるね。私嬉しいな」
「そ、そうだね。私も嬉しいよ」
「今度はどんな目に会ってきたの?」
アイラはワクワクしながらマリーに問い詰めてきた。
ますます胃がキリキリと痛むマリーだった。
マリーはアイラに身の周りに起きた出来事をかいつまんで話す。
「うっそー。マリーちゃんそんな危ない目に遭ってたの? よく無事で帰ってきたね?」
「う、うん。運が良かったみたい」
「すごいよねー。とても同じ年だとは思えないくらいいろんな経験してるよね。羨ましい」
羨ましいと思うなら代わってもらいたい。
今なら神様憑いてくるよと、セールストークも付けてあげる。
痛む腹を押さえながら、そんなことを思うマリーだった。
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