1 吼える神憑き少女
プロローグが詐欺な件。
「あ、もう帰ってきてる」
「…………もうですか。今回は早いですね」
畑仕事の手伝いを終えて、養護施設に帰ってきたジャックとシスターのジュリエッタは、テーブルに突っ伏した人物を見て呟くように言った。その人物は声を聞いて、ぴくっと体を揺らすものの顔を上げることはなかった。
「これもしかしてマリーの最短記録じゃねえか?」
「言わないでよジャック。これでも落ち込んでるんだから」
テーブルに突っ伏したまま、掠れた声で答えるマリーと呼ばれた少女。
「それで、今回は何が起きたの?」
「聞いてよジャック。実はさぁ――」
つい二週間前、里親が見つかりジュリエッタとジャックに笑顔で見送られたばかり。
里親に連れられ新しい生活がいざ始まろうとした途端、彼女に不幸が訪れた。
翌日の新聞に里親の経営していた会社の不正がマスコミにすっぱ抜かれたのである。
各種メディアは更に追撃を加え、相当あくどいこともしていたようで警察も介入し、各取引相手から一斉に引き上げられ、あっという間に借財だけが残り、里親は彼女を置いて夜逃げしたのである。唯一の救いは彼女が正式な養子の手続きを終えていなかったため、負債の義務を背負うこともなく、元の養護施設に送り届けられただけで済んだ。
「あらあら、まあまあ。良かったですね。身内だと思われてたら内臓とか売られてたかもしれないですよ。常識のある相手でよかったですね」
マリーの話を聞いて、シスターでもあり、施設の管理者でもあるジュリエッタが慰める。
「いや、言うとこそこじゃないから! ねえ、何で? なんで私だけこの施設にいつも帰ってくる羽目になるの? マシューだって、イライザだってこの施設から出て行った子はいるのに、何で私だけいつも帰ってくるのよ!」
そんなマリーの憤る姿を見てジャックがぽつり。
「……マリー、お前だって分かってるだろ? 神様に愛されてるからだろ」
「そこよ!」
「神様に愛されてるから無事に帰ってきてるんですよ?」
「それは感謝するけどさあっ!」
「「しかも神様三人から愛されてるってすごいことなんだぜ(なのよ)?」」
シスターとジャックの揃った声に、マリーはわなわなと体を震わせる。
マリーは全身全霊の力を込めて吼えた。
「神は神でも、疫病神と貧乏神と死神じゃないかああああっ!」
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