9 神憑き少女は散歩が好き
往復20kmは散歩と言えるのか、論議したことがある。
「おー、いいお天気だわ。んじゃあ、適当に行くわよー」
『『『おー』』』
マリーは天気の良い日に散歩するのが好きだ。
それに別段コースが決まっているわけでもない。
街の雑多なところ、人通りが少ないところ、多いところ。
自然が多いところ、全くないところ。
公園、学校の周り、スーパーマーケット、特に縛りは設けていない。
街を見て回るのが好きなのだ。
日々の中で小さな変化を探して歩くのが好きだった。
よく見かけるポリスマンの髭がなくなってた。
店の飾ってある服が変わった。
掃除のおじさんが新しい人に変わった。
新しいお店が開いていた。
フットボールのポスターが破けてた。
街の中はほんの少しづつ変化がある。
マリーはそれを見つけるのが楽しかった。
街路樹が並ぶ歩道を歩く。
見上げると、この間まで新緑の色合いを出していた街路樹が色褪せてきている。
まだ落葉はしていないが、もう少し寒くなれば次第に始まることだろう。
『もう秋ねぇ』
『大分、葉の色も変わってきたのう』
「そうね。大分変ってきたわね」
『ふん! ふんふん! ふん! ふんふん!』
交差点に着いたところで、横から風が通り抜ける。
その風は夏に感じた暑さがなく、ほんの少し肌寒かった。
『そろそろ厚着に変えた方がいいんじゃなぁい?』
「そうね。ジュリエッタに言って出してもらわないといけないわね」
『マリーも少し背が伸びたしのう。去年着ておったのじゃと、ちと小さいじゃろう』
「そっかなー? まだいけると思うんだけど」
『とりゃっ、そりゃっ、せいやっ、おりゃ!』
マリーは耐えきれなくなって死神の身体を掴む。
「骨、さっきから鬱陶しいんだけど。横で鎌をぶんぶん振り回すの止めてくんない?」
『ま、待て。日ごろの訓練は大事なんだ』
「人が気持ちよく季節を味わいながら散歩してる横ですることかな?」
『死神は情緒がないわよねぇ』
『お主も人のことは言えんと思うが、死神は戦闘バカじゃからのう』
マリーは掴んだ死神を街路樹に向ける。
「ほら、葉っぱの色が変わってきてるでしょ。なんか思うことないの?」
『……落葉が近そうだな』
「でしょ。骨も訓練ばっかしないで目に見える景色を楽しみなさい。せっかく散歩に来てるんだから」
『落葉を使った訓練もいいな』
「あ゛?」
『ぐぉっ、ちょっ、マリー締まってる。締まってるぞ』
「締めてんのよ、あんたしばらくそのままね」
マリーの散歩は続く。
『これって毎回コースが違うけど散歩よねぇ?』
『そうじゃの』
『これ周りから見たら徘徊って言わない?』
『しっ、マリーに聞こえたらどうするんじゃ』
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