0 プロローグ
ネタが降臨したので書いてみた。
多分、神様のせい。
古びた養護施設内の教会で祈りを捧げる少女がいる。
まだ成長しきっていない未熟な少女だったが、その姿は美しかった。
しゃがんで祈りを捧げる彼女の金髪は床に着くほど長く、天井から射す光にキラキラと輝く。
小さな手を重ね、誰かのために祈りを捧げる姿は、人が見れば心打たれるものがあるだろう。
それほどに祈る少女の姿は美しく見え、神々しささえ感じられた。
カツンと教会の床に靴の音がして、少女は静かに目を開けた。
少女が振り返ると、そこに執事服に身を包んだ老齢の男がいた。
「マリー様お迎えに上がりました。旦那様と奥様がまもなく出られます」
小さな笑顔を浮かべながら言った
「ビオラさんありがとうございます。無理を言って申しわけありませんでした」
美しき少女――マリーは立ち上がり、満面の笑みと感謝の言葉をビオラに向けた。
老執事のビオラのあとを、マリーはついていく。
1年ばかりと短い期間であったが、世話になった施設を名残惜しむように目を馳せながら。
両親を事故で失い、身寄りのないマリーは擁護施設へと預けられることになった。
幸いなことに養護施設のシスターは躾にこそ厳しい人であったが、とても優しく、心からマリーのことを慈しんで育ててくれた。同じく施設で過ごす子供たちも、些細な喧嘩はするけれど、困ったときには絶対に助けてくれるとても頼れる家族だった。そんな環境でマリーは居心地よく仲良く暮らせていたのである。
兄弟姉妹同様にこの施設でともに育った者たちは、別れを惜しんでくれるだろうか。
祝福してくれるだろうか。また会いにくることは叶うのだろうか。
そんな不安も少女の胸にかすめていた。
別れの理由――それはマリーに里親が見つかったからである。
里親となるデービット夫妻は教会のミサに何度も来てくれていた。
子供に恵まれなかった夫妻は施設の子供たちにおやつをくれたり、一緒に遊んでくれるとても心の優しい夫婦であった。その夫妻からマリーは養女にならないかと誘われ、彼女も合意したのである。
「みんな今までありがとう。みんなのこと絶対に忘れないから」
施設のみんなへ送る最後のあいさつ。
涙をこらえて言い切った。
言葉を受けた者たちは、中には大泣きする者もいた。
ともに苦労し、ともに喜び、苦楽を分かち合ってきた仲間との別れがそうさせた。
「またいつか、みんなに会いに来るから、待っていて」
そう言って少女は歩き出した。