食パンを加えれば
寝ていたのにも関わらず、身体が重い。てか疲れてる。寝すぎたのかな?
高校1年 高橋 夏輝は徐々に意識を覚醒させ、余韻に浸りながらカーテンの奥に見える陽の光を薄目で眺める。
「風に揺れるカーテン、零れる日差し、流れる昼のチャイム…………昼のチャイム?」
ふぅと息を吐き、身体を伸ばし、サッと起き上がる。
爽やかな朝だ。
そう彼は思ったことだろう。
そして、ふと目に入った時計と数秒見つめ合った。
「うぉっ!?やべぇ!めっちゃ昼じゃん!夜ちゃんとアラームかけたよな……??」
ドタドタと駆けながらナツキは支度を始めた。…………どうやら忙しい半日になりそうだ。
「荷物よし、服装よし、焼いた食パンよし」
「あんた本当になにしてんのかしら」
「ああこれ?食パンを咥えながら急いで学校に向かうと女子とぶつかって恋に発展させようと思って」
「うちの息子がとんでもないバカだったわ。
あと1000歩譲ってそれは朝起こるやつよ。今時計は13時を指してるわ」
ナツキは靴のかかとを踏みながら勢いよく玄関を明け
「いってきますっ!」
「気をつけるのよ〜」
見送る母を横目に、急いで学校へ向かうナツキ。彼は昼休み後の授業なら間に合うと判断しているのだろう。
「カリッ」
「そろそろ可愛い女の子と」
「カリッ」
「ぶつかっても」
「カリッ」
「いいんじゃないかな!?」
こんがり焼けた食パンの音色をいい感じに鳴らせながら意味わからんことを口走るナツキ。
「うぇい!曲がり角きたー!」
10m先に見えた右折の曲がり角
「タイミングバッチシ!まぁちょっとトースト食べちゃったけど大丈夫だよね!きっと!」
別に食べても食べてなくてもどっちでもいいと思う。なんか語り手としてもなんでも良くなってきてしまった。
「初めまして!未来のお嫁さーん!」
と言いながらナツキは猛ダッシュで右折した。
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「お前なんでそんなガッカリしてんの」
「いやちょっと聞いてくれ」
放課後のホームルームが終わって、一緒に帰ろうと机に突っ伏してるナツキに声をかけたのは、同じクラスの茶髪で甘いマスクを被ったちょっとチャラい男。「井上 拓海」である。
「なに、今日遅刻してきたのと関係あんの?」
「ない!関係ないんだけど、その、なんて言うの?女の子とぶつかろうとした」
「とんでもねぇことを口走りやがったこいつ」
ナツキはそのまま突っ伏しながら
「違うんよ。計画的じゃなくて偶然を狙いに行ったの」
「それはもう狙ってる時点でアウトだねこれ」
「だってさ!食パン加えたら女の子と当たるあのマンガはなんなの!?当たれよ!俺にも当たれよ!そしていい感じのハッピーエンドで幕を閉じろよ!」
「ナツキ、そこまでにしとけ一緒にいる俺が恥ずかしい」
その後も何故かナツキはぐずりながらタクミと一緒に帰路に着く。
「なんだよこの高校生活!面白くねぇ!」
「俺はナツキ見てるだけで面白いからこのままでいいや」
「くそ!もっとこれから青春してやるからな!!」
これはそんな変わった彼らが送る高校生活の話である。