第95話【決意】
「うっ、あ、あれ? 私……」
「ベリーさん! 大丈夫ですか!? 突然意識を失ったようで……」
どうやらベリーは鍵を回して絵の扉を開けた瞬間に意識を失ってしまったようだ。
「じゃああれは夢……ううん、違う、私は見たんだ、あの子の全てを……」
そう、ベリーは《ベリードール・ユーベル》の心の扉を開けたことで、その全てを見たのだ。
すると部屋の扉が強く叩かれる。
『ハァ、ハァ……! 見たな……ッ!』
部屋の扉を無理矢理蹴り破り、《ベリードール・ユーベル》は息を切らしながら入ってきて言う。
「うん、見たよ……遊びたいんだよね、いろんな景色を見たいんだよね……! わ、私に出来るかわからないけど、でもベル達の力も貸してもらって、なんとかやって……」
『黙れッ! 見たならわかるだろう!? 無理なんだよ! ここはゲームだ! モンスターが死ぬというシナリオは絶対に変えることは出来ないんだッ! 私はここで殺されるか、お前を殺すかの二択しか無いんだよ! 私はシナリオ通りに動く、だからお前もクエストに従って私を殺しに来い! それなら私もちゃんとやれる! だから!』
「で、でもっ……」
『うるさいッ! 【絶解・暗幕】ッ!』
ベリーの言葉を遮って、《ベリードール・ユーベル》は【絶解・暗幕】を発動する。その効果で部屋は真っ暗になってしまい、ベリーとローゼは何も見えなくなる。
『私は……もうこれしかやることが無いんだッ! 【絶解ノ溟太刀・雨刃】……ッ!』
そう言って《ベリードール・ユーベル》は【絶解ノ溟太刀・雨刃】を発動する。発動された一瞬で、ベリーとローゼに20連撃を与える。しかしそれだけではない。
「み、見えない……っ! 【絶対回避】ッ!」
「しかもこの攻撃力は……ッ!」
【絶解・暗幕】で光を失った部屋は、何か動いても見えず、例え豆電球やLED電球が光っていたとしてもそれが周りを照らすことは無い。
そして【絶解ノ溟太刀・雨刃】とは名の通りで、範囲内に《悪鬼ノ太刀・絶解》の刃と同じ攻撃力の雨を降らせるのだ。それは見えていたとしても自然の雨とほぼ同じで自力で避けるのは当然難しい。
『戦えッ! ベリーッ! 本物の私ッ!』
「そ、そんなこと……出来ないよ!」
「ッ、ベリーさん、ここは私がやります! 【シュッツ】!」
攻撃することが出来ないベリーの代わりに、ローゼがそう言って指定した方向にホログラムの防御壁を出現させる【シュッツ】というスキルを発動し、雨を防ぐ。
「【シュトラール】ッ!」
そして【シュトラール】で細剣から高出力の光線を勘で適当な場所に放つ。その光線の光は、一瞬、本当に僅かな間だったがほんの少しだけ照らし、《ベリードール・ユーベル》の真横を通過した。
「そこです! 【シュトース】ッ!」
ローゼはその一瞬で位置を調整し、前方に向かって移動しながら突き刺す単発攻撃スキルの【シュトース】を発動し、見事、《ベリードール・ユーベル》の腹を突く。が、しかし。
「ぜ、0ダメージ……? ま、まさかユニーククエスト!?」
『よくわからないけどそういうことだ! 【覇気】ッ!』
《ベリードール・ユーベル》はベリーもよく使う【覇気】を発動する。ローゼはそれを喰らい、ダメージを負って動けなくなるが、その効果時間はベリーの【覇気】とは比べ物にならないくらい長かった。
「す、すみません、役に立てなくて……」
「ッ! ローゼ!!」
【絶解・暗幕】と【絶解ノ溟太刀・雨刃】の効果が切れて、雨も止んで部屋に光が戻る。
『役立たずにはさっさと退場してもらうよ、お返しだ、【冥光線】』
《ベリードール・ユーベル》はそう言って真っ黒な光線をローゼの心臓部へ向けて放つ。
「え……【閻解】ッ!」
しかしその光線は【閻解】を発動したベリーによって防がれる。
『……戦う気になった? それとも友達を守っただけ?』
《ベリードール・ユーベル》の問い掛けに、ベリーは意を決して答える。
「……戦う、よ……あなたが本気でそれを望むなら」
『そっか……ありがとう、あなたは罪悪感とか、そういうの何も考えなくていい、ただのゲーム、こういうクエストなんだと思って……私をただのモンスターと思って、殺しに来て』
「………それは出来ないよ、出来ないけど……罪悪感で押し潰れそうになったとしても、私は戦うことを決意したんだよ」
ベリーの決意、それはモンスターを倒すではなく、目の前のもう一人の自分を殺すこと。それが《ベリードール・ユーベル》への敬意の表しだ。
『そう……じゃあ、そんなあなたに私からアドバイス、あなたは【閻解】の力を半分も出してないよ』
「な、なんでそんなことを……?」
『うん、まぁ、ここに何かを、私が存在した証を残したいから……かな? ユニーククエストのモンスターって、倒されたらそれで終わり、つまり死ぬんでしょ? だからその前にあなたに私から教えられること全てを伝える、ただし、戦いながらねッ!』
《ベリードール・ユーベル》はそう言ってベリーに刀を振るう。一瞬遅れたベリーだか、なんとかそれを防ぐ。しかし驚くべきなのはそのスピードだ。一瞬で刀身が首元に来たのだ。あと少し遅れていたら首を斬られ、一撃死していただろう。
『じゃあ、行くよ!』
稽古、という名の本気の戦いが今始まる。




