第94話【○○○○為だけに作られたお人形】
「うひゃああああ!!? 隠れてたのになんでぇぇええ!?」
ベリーはそう叫びながらローゼと共に走る。この屋敷に入ってから走ってばかりだ。
『うるッさいなァ、少しは静かにしてよォ、寝てる人も居るんだからさァ』
「へ?」
するとベリーは何かに躓いてしまう。
一体何に躓いたのか足元を見ていると、そこには骸骨が転がっていた。
『ほらほらァ! 動きを止めてていいのかなァ!』
「べ、ベリーさん! 【テレポート】!」
骸骨を見て動きが止まったベリーの腕を掴み、ローゼは【テレポート】で適当な場所に移動する。
『ありャ、逃げたか……まァ別に………いや待て、そこはダメだッ!!!』
《ベリードール・ユーベル》は【全覚強化】の効果で、ベリーとローゼがどこにいるのかがわかる。この屋敷の構造も把握している。だから、適当に移動したその場所がどんなところかわかるのだ。そして血相を変えて言った《ベリードール・ユーベル》は全速力でベリーとローゼの元へ急ぎ走る。
* * *
「う? 明るい?」
「……これは、人形?」
ベリーとローゼが【テレポート】した場所は、電気が点いていて明るく、今までの屋敷の廊下や部屋とは全く違う豪華な装飾が施された部屋だった。しかし、目立ったものはたくさんの可愛らしい人形に囲まれた小さめのベッドがポツンとあるだけで、装飾は豪華なのに寂しい感じがした。
「ベッドの上になるかあるよ?」
ベリーはそう言ってベッドに近付き、その上にあった物を手に取る。
「鍵……ですね、あとこれは……子供の落書きでしょうか?」
ベッドの上にあったのは、小さなおもちゃの鍵と、子供が描いたような落書きがある画用紙が何枚もあった。
「この鍵……」
「ベリーさん……?」
するとベリーは、一枚の絵に手を伸ばす。
その絵は大きな木製らしき扉があるだけの絵だったが、鍵穴があった。ベリーは持っている鍵を、その絵の鍵穴に吸い込まれるように差し込む。ただの絵のはずなのに、鍵は絵の中の鍵穴に入り込み、ベリーはゆっくり鍵を回す。
その瞬間、扉が開く音がして、ベリーの視界は真っ白になった。
* * *
「おはよう」、「おやすみなさい」。「こんにちわ」、「こんばんわ」。
私はそれを毎日人形に向かって言い続ける。
なんでもない挨拶だが、私にはこれを言う人も言ってくれる人も居ない。
扉は固く閉ざされて、外にも出れない。
だからいつも「今日は晴れかな?」、「今日は雨かな?」と頭の中で想像しながらその絵を描く。でもそこに出てくる登場人物は私一人。人形が側に居てくれるけど、絵の中の人形も、絵の外の人形も、温もりはない。
毎日毎日、人形とお話をして、絵を描いて、外の景色を想像しながらまた絵を描いて……その繰り返しに私は嫌気が差した。
扉を叩いて、大声で「出して」と叫んだ。
一目でいいから外の景色を見たかった。
人の温もりを感じたかった____。
でもそんな昔のことを思い出しながら絵を描いたある日、ふと気付いてしまった。
『ワタシはモンスター、ここはゲーム』ということを。
そう気付いた瞬間に目が覚めた。全て、今までのことは全て、作り物だったんだ。
幼い頃の私の記憶も、幼い頃の私自身も、全部全部嘘なんだって気付いた。
でも悲しくはなかった、むしろ飛び跳ねるくらい嬉しかった。
だから扉を壊して、無理矢理外に出た。
最初に見た景色は一面雪景色の銀世界。私が一番見たかったものだった。ただ真っ白なだけだが、それがとても美しく思えた。もっともっといろんなところを見てみたいという欲求が高くなった。
でもそれは叶わない。だってワタシはモンスター。誰かに作られた温もりなんて無いお人形。
雑魚ならまだ自由に移動出来たかもしれないけど、どういうわけかボスモンスターらしい。ボスモンスターは限られた範囲でしか行動できない。もし飛び出せたとしても、どうせ元の場所に戻される。
『だったら仕方ない。景色を見るのは諦めよう。』そう思って、今度は遊ぶことにした。
これもやってみたかった。でも人数が足りない。
一人遊びは設定でもうお腹一杯だ。
友達、そうだ、友達が欲しいな。モンスターのワタシでも優しく接すれば仲良くしてくれるプレイヤーも居るかもしれない。
でもそれも無理だった。ワタシを殺しに来る人どころか、ここに足を踏み入れる人すら居なかった。
それからワタシはドッペルゲンガーをモチーフとしたモンスターなんだと気付いた。だからワタシと同じ姿をしたプレイヤーが必ず来ると確信した。
そのプレイヤーが来たらいっぱいお話ししよう。日が暮れるまで遊ぼう。その後でクエストを開始すればいい。
『仲良くなッた後だとワタシを殺すのは心が痛むかな? でもワタシはモンスターだし問題ないか!』そう楽観的に思った。
でも、クエストはあの子に会った瞬間、容赦なく開始された。
会話することは難しくなった。あの子も私を見て怖がっていた。もういいや、でも少しは楽しんだっていいだろう。屋敷に招いて、鬼ごっこでもしながら殺そう。あっちは何度殺したってまた戻ってくる。ワタシが殺されない限り何回だッて遊べる!
だってもう私が進める道がそれしか残ってないから。
そう思いながら、まず初めて会った人には自己紹介をしたきゃと、私はワタシになって、シナリオに従ってクエストを進行する。




