第93話【GAMESTART】
『ゲームの内容はとッても簡単! 鬼ごッこだよォ!』
《ベリードール・ユーベル》はそう言ってベリーとローゼに【テレポート】を発動する。
「こ、ここは……?」
ベリーとローゼが目を開くと、目の前には大きな古い屋敷が建っていた。屋根に積もった雪で今にも潰れそうなくらいボロボロだ。
『ようこそようこそ! ワタシの屋敷にようこそォ! まァ、このゲームのフィールドだよォ、ワタシが60秒数えてる間に逃げてねェ! あ、拒否権は無いからァ! 』
《ベリードール・ユーベル》はそう言って一瞬で姿を消す。
「戻ることは……出来ないみたいですね……このクエストをクリアするしかないみたいです、大丈夫ですか、ベリーさん?」
「……う、うん、やるよ、あの子もそれを望んでる……嫌だけどやるしかないよね」
そう決意したベリーだが、強く握った手は震えていた。
「大丈夫です、いざとなったら私がやります……とりあえず鬼はあちららしいですし、早く逃げましょう」
「うん、そうだね……」
そう言って二人は屋敷の中に足を踏み入れる。
『うんうんいいねいいね! いらッしャーい! ちャんと入ッてきてくれたね! まァ逃げられないんだけど! じゃあ数えるよォ! あ、もちろん捕まったら死んでもらうからねェ! はい、いーち! にーい! さーん!』
「行きましょう!」
「うんっ!」
カウントダウンが開始され、ベリーとローゼはなるべく遠くへ向かって走る。しかし屋敷の中は暗く、足元に注意しないと転んでしまう。それに屋敷の構造は相手の方がよく知っているだろう。常に警戒していないとすぐに見つかってしまうかもしれない。
* * *
「ハァッ……ハァッ……! あ、あれ? そういえば、捕まったら負けだけど……私達はどうすれば勝てるの!?」
「た、確かにそうですね……! 」
もう60秒は過ぎている。だが全速力で走ったので結構遠い所に来たようだ。しかしベリー達の勝利条件が無いことに気付く。
「と、とりあえず、そこの部屋に入りましょう!」
身体を休めるため、ベリーとローゼはすぐ近くの部屋に入る。
「そ、それで、勝利条件……ですか、そうですね……制限時間もありませんし、危険ですが屋敷を探索した方が良さそうです」
「うん、そうだね……それでこの部屋は……」
ベリーはそう言って入った部屋を確認する。どうやら寝室のようだ。廊下を走る途中にいくつもあった部屋も、恐らく同じ寝室なのだろう。
「え、これ……」
「血液……ですね、もうこれ別のゲームですね……というか実は私、ホラーは苦手で……」
「うっ、わ、私も苦手……なんだか急に寒気が……」
「あ、それは恐らく走って汗をかいたのが冷えてきてるんですね」
「あぁそっか……そうだよね!」
どうにかして怖さを緩和するべく、ベリーとローゼはそう言いながら手を繋ぐ。
『はいはァーい! こんにちわァァ!』
「「ヒャアアアアア!!?」」
手を繋ぎ少し安心すると、高々と《ベリードール・ユーベル》の声が響く。
もちろん二人は悲鳴を上げながら寝室を飛び出し、全速力でダッシュする。
『アッハハハハハハッ!! いやいやいやァ、そこまで驚かれると脅かしがいがあるねェ! ハァ……うん、さて、【悪鬼化・絶解】』
腹を抱えて涙を浮かべながら大笑いした《ベリードール・ユーベル》は【悪鬼化・絶解】を発動する。
【鬼神化】と同じく、髪や防具の色が変化し、刀身と同じ青みがかった黒色に変化する。しかし瞳の色は青黒くなく、鮮やかな赤に染まる。
『【身体強化】、【全覚強化】、【エンチャント・デス】……【絶解】』
目を閉じ、スキルを発動する《ベリードール・ユーベル》。
【身体強化】で身体能力を強化し、【全覚強化】で視覚、聴覚、嗅覚などあらゆる覚を強化する。さらに特殊な属性である、即死属性を付与する【エンチャント・デス】、そして【絶解】を発動する。
『……なにやってんだろな、私……あー、ダメダメ、ちゃんと演じなきゃね……【アクセルブースト】』
《ベリードール・ユーベル》はそう言って【アクセルブースト】を発動し、ベリーとローゼを追い掛ける。
* * *
その頃、現実世界にて、三嶋と八神は。
「ねぇねぇ三嶋、最近あんまり仕事無いね」
八神はそう言いながらペットボトルのお茶を飲む。
「そりゃお前、俺にやらしてるからな……まぁでも確かに仕事は減った気がするな、クエストは自動生成だし、まだメンテナンスは必須だけど」
「このまま全部自動化しないかなぁ! なんてー」
八神は冗談混じりに言う。
「お前それ俺達の仕事無くなるって意味だぞ、どうやって食ってくつもりだ」
「やだなぁ三嶋さんがいるじゃないですかぁー」
「あーはいはい、ほれさっさと仕事しろ」
「ほーい、っと……そーえばさ、前にローゼたんが見ないほうが良いって言ってたやつ、何だったんだろうね?」
八神はふと思い出したのかそう言いながらパソコンを弄る。
「あー、まぁローゼは嘘付く感じは無いからな、見なくて正解だろ、まぁでも一応バグ報告はしといた」
「やっぱバグなの? というか最近イレギュラー多くない? プレイヤーもだけど、ほらベリーちゃんとか」
「確かになぁ……でも本社のほうで修正はしてるらしいし大丈夫だろ、あとプレイヤーはどうしようもない、あれはちゃんとした実力と才能だ」
「まぁそうだよねー、気にすることないかー」
三嶋と八神はそう言って仕事を続けた。




