第90話【ユーベル化モンスター】
街からフィールドに出たベリー達は、《アイスウルフ》と《イエティ》を探す。
「お、【クイックショット】!」
ベルは《イエティ》を一体発見して【クイックショット】で攻撃する。
「モンスターのレベルもまだそこまで高くないようですね」
ローゼはそう言って雪の中から現れた《アイスウルフ》を倒す。
「だがこのレベルのモンスターを三体だけってのはなぁ……」
「ソラ……噛まれてるよ」
《アイスウルフ》に噛まれながら言うソラにフィールがそう言って教える。
「【一閃】! っと、気を付けてねソラ」
「わりーな、レベルアップして防御力が上がったから気付かなかった」
バウムはソラの腕に噛み付いている《アイスウルフ》を【一閃】で倒して言う。ソラは周りが超火力なので防御力を集中的に上げていた。
「【鬼神斬り】! ふぁぁ、火が暖かいよぉ……」
そしてベリーは《イエティ》を【鬼神斬り】で斬り倒し、そこから発生した炎で暖まる。
「さて、あと一体ずつなわけだけど……見当たらないね」
上級階層ということで《アイスウルフ》と《イエティ》がかなりの難易度だと思っていたが、《焼結島》の《アイスウルフ》より少しレベルが高いくらいで苦戦も無く、残り一体ずつとなった。
「ッ! この感じは……!」
ローゼは表情を変えてそう言って細剣を構える。ローゼにしかわからないが、あの“悪魔”と似た雰囲気を感じ取ったのだ。
すると地面から大きな腕が出てくる。
「な、なんじゃこりゃぁぁ! でっけぇぇ!」
「ソラ! そんなこと言ってる場合じゃないよ! 巻き込まれる!」
驚いているソラを引いてバウムがその場から離れる。フィール、アップル、ベルも危険を察知し後退する。
『グォォォ……!』
「これは……このモンスターは何なのですか……?」
呆然と立ち尽くしているローゼに、先程の個体とは何かが違う《イエティ》が腕を降り下ろして攻撃する。
「ローゼ! 【鬼神化・激流】、【真・激流ノ太刀・高霎】ッ!」
ベリーは【真・激流ノ太刀・高霎】を発動し、スキルによってローゼの元に瞬間的に移動し、《イエティ》の腕を抑える。
「うくっ、重い……! ベル!」
「【アクセルブースト】! 【テレポート】ッ!」
ベルは【アクセルブースト】を発動してローゼに近付き、ローゼの肩に触れると【テレポート】を発動してその場から離れる。
「うっし、ベリーそこ離れろ!」
「うん! 【絶対回避】!」
ソラの合図でベリーは【絶対回避】を発動し、【真・激流ノ太刀・高霎】を解除してわざと攻撃を受けて【絶対回避】の効果を発動してその場から離れる。
「【エクスカリバー・フィニッシュ】……!」
そして既に用意していた【エクスカリバー・フィニッシュ】をフィールが放ち、《イエティ》を押してぶっ飛ばす。
「ローゼ、大丈夫?」
「は、はい、ありがとうございます」
ローゼはベリーにそう言って、《イエティ》を見る。
「体格だけじゃなく、ネームに変化があります……《イエティ・ユーベル》?」
“ユーベル”というのはこの場にいる者誰一人として聞いたことがなかった。恐らくは突然変異個体。変異した原因として考えられるのは、ローゼが第五階層で見た“悪魔”だろう。
「う、うそ………」
「おいおいマジか……アレを喰らっといてその程度しか減らねぇのかよ?」
フィールとソラは、《イエティ・ユーベル》のHPを見て言う。
フィールが発動した【エクスカリバー・フィニッシュ】を受けてもHPは二割程度しか削れていなかった。
『ヴォォォォォオン!』
すると狼の遠吠えが聞こえ、同じく体格が大きくなって狂暴になった《アイスウルフ・ユーベル》が出現する。
「ど、どうしようか……?」
プレイヤーがゲームオーバー、つまり死亡すると最後に居た街に転送される。すぐ近くにある水晶の街に転送されれば良いのだが、何せここは上級階層、何があるかわからない。
「いざとなったらフィールの【ラグナロク】で……いやでもなぁ」
確かにフィールの【ラグナロク】はチート級に強力だが、本当にやらなくてはいけない状況でないと、それではゲームとして楽しめない。
「私に良い考えがあります、皆さん、協力してくださいますか?」
ローゼはそう言う。もちろん協力しないという選択肢はベリー達にはない。
「いいよ! それで考えって?」
「はい、それではまず……」
* * *
「うっしゃあ! このソラお兄さんに任せな!」
「ソラ、うるさい……」
ソラとフィールは《イエティ・ユーベル》と《アイスウルフ・ユーベル》の前に立ちそう言う。
「ソラ達の準備は完了したみたい」
召喚したモンスターと視覚と聴覚を共有しているアップルが、ソラとフィールの近くに配置した【大鷲】から情報を受けとり言う。
「んじゃ、ソラとフィールがここに誘き寄せてくれるから……」
「はい、ベルさんは爆発物の作成をお願いします」
ローゼはそう言って、ベルにお願いする。
「それで僕達はそれを配置すればいいんだよね?」
「はい、バウムさんとベリーさんはベルさんが作った爆発物を私が指定した場所に配置してください」
「うん、任せて!」
ベリーは元気よく返事をする。そしてソラとフィールが動き出したようだ。
「【カウンター】……!」
「【カウンターシールド】!」
フィールは【カウンター】、そしてソラは【カウンターシールド】で《イエティ・ユーベル》と《アイスウルフ・ユーベル》の攻撃を弾きながらベリー達の元へ誘き寄せる。
「【バーストグレネード】、【バーストグレネード】、【バーストグレネード】……って何個必要なのさ!」
「そうですね……じゃあ、三十個ほど! お願いしますねベルさん♪」
ローゼは笑顔でそう言う。
「あれ、ひょっとしなくてもローゼってS……」
「ほら、早く作らないとソラさん達が来ちゃいますよ!」
ちなみにベルはまだ七個しか作っていない。
うまはじメモ!
《ユーベル》
邪悪、悪、災いなどの意味を持つ。
第五階層でローゼが確認した
“悪魔”との関係性が高いと思われる。
ユーベル化したモンスターは通常よりも狂暴になり、能力も高くなる。巨大化するのは稀。
ユーベルとなるきっかけは不明である。




