第87話【暴走と串焼きと甘噛み】
なんかバウムとベリーがいい感じ……というのは置いといて、今回はちょっとだけ長めです。
「水晶の中に街があるとはなぁ……ビックリだ」
そう言ってソラは天井や壁を眺める。
「さて、休憩したいけど、ここがどんなところか聞いとかないとね」
ベルはそう言ってNPCに話しかける。すると数秒後不思議そうな顔で戻ってきた。
「どうしたのベル?」
「いや、それが話しかけても反応なくて……」
「マジかよ、いやまて、それ他のNPCもそうだったらヤバくないか? 物も買えねぇし宿で寝ることも出来ねぇぞ」
NPCが反応しない。だがそれはバグでは無いらしく、クエストが発生した。
「《龍の捜索》? 捜索って言ってもどう情報を集めれば……?」
「そ、そうよね、NPCが反応しないんじゃあ話も聞けないし……」
「うーん、僕は……って、あ、あれ? ベリーは?」
《龍の捜索》というクエストが発生したが、どう捜索すればいいかわからない。そんな中ベリーの姿が見えないことにバウムが気付く。
「あ、居た」
だがそこまで遠くに行ってなかったのですぐに見つかった。
「お、お肉ぅ……」
屋台の前で焼かれている肉を見つめながらそう言うベリー。話しかけても反応しないので買うことも出来ないのだ。
「ベル~、お肉食べられないよぉ~」
「だからって私の腕を噛まない、指をぺろぺろしない!」
ベルのはぐはぐと腕を甘噛みし、指をぺろぺろする。ベルは一応抵抗するが、その抵抗も軽い、何度もこういった事を受けているので慣れてしまっていた。
「あぁほら、ペロペロキャンディーあげるから」
「なんでそんなものを持ってるの……」
ポーチからペロペロキャンディーを取り出して言ったベルにアップルが困惑しながら言う。ベルはベリーがこういう行動に出たとき用にポーチにいくつか食べ物を隠していた。
「ぺろぺろ……おいひい……でもお肉……」
「飴くらいしか入ってないよ、残念ながら」
龍を探さなければ、このままだとベリーが飢えてベルが食べられてしまう。それだけは何とかして避けなければならない。
「あ、そうだ、村長的な人なら反応するかも!」
「そうですね! ここはきっと外部の人間には厳しいところなんですよ!」
ローゼもそう言うので、各員二人ずつわかれて、村長的な人を捜索する。
「あれ、でも龍を探すんじゃ?」
「バウム君! こっちに唐揚げが!」
ベリー&バウムチームは、村長的な人を探すのに苦労しているようだ。空腹のベリーは食べ物に反応してしまう。
「ソラ……あの人は……?」
「ん? おー、いい感じに村長してそうな人だな、ちょっと行ってくるわ」
「ん……」
一方ソラ&フィールチームは、フィールの観察力を利用し、フィールがそれらしき人を見つけて、そこにソラが行って確かめるというように探していく。
「あのー、少しお時間よろしいでしょうか……? うぅ、やっぱり誰も反応してくれないですね」
「うん、こっちもダメだったよローゼ」
そしてベルとローゼは手当たり次第にNPCに声を掛けていく。だがやはり反応は無い。
「はい、集合」
ベルは困った顔でそう言って全員を集合させる。
「はぐはぐ……はぐはぐ……」
「あー、大丈夫バウム君?」
ベリーがバウムの右手を噛んでいるのに気付いたベルがそう言う。
「う……うん……ちょっと痛いけど」
バウムはどう対応したら良いものかとわからずベリーにはぐはぐさせたままにしていた。
「どーすっかなぁぁ……」
「うーん、もう街の隅々まで探索するしか……」
「はぐ……?」
ソラとアップルが悩んでいると、ベリーが一点に集中して見つめる。
「は……」
ベリーはバウムから離れると、その先へゆっくり向かっていく。
「べ、ベリー? ほら、ペロペロキャンディーもう一個あるから戻っておいでぇー?」
そしてベルはペロペロキャンディーでベリーを戻そうとするが、ベリーの耳には聞こえていない。何故ならそこにお肉があるから。
「おや? お嬢ちゃん、私に何か用で……」
「はぐぅぅーーっ!」
屋台でお肉、串焼きを買ったお爺さんに、ベリーが飛び掛かる。
「あ、【アクセルブースト】っ!!」
ベルは咄嗟に【アクセルブースト】を発動し、お爺さんの前に立つ。
「あ、あっぶなぁ……」
間一髪で、ベリーにナイフの鞘を変わりに噛ませる。もしベルがガードしていなかったらお爺さん……の串焼きは無くなっていただろう。
* * *
「いや助かりました、ありがとうございます!」
「い、いえいえそんな……こっちこそすみません」
ベルはベリーに鞘を噛ませながらそう言って謝る。ベリーは普通の空腹ではこういった事は起きないが、食べようとしてたものが食べられなくなったり、食べたいと思ったものが食べられなくなったりして、その後それが目の前に現れると、たまに暴走する。鈴が苺の回収係というのは、フワフワと何処かに消えてしまう苺を探して回収するのと、暴走状態の苺を止めて回収するのが大半だ。
「って言うか話せる!? あ、その前に……あのすみません、串焼きを買っていただけますか? 私達では無理みたいで……」
会話が可能なNPCを見つけたことは嬉しいが、その前にベリーの暴走を解除しなければならない。
「あぁ、外からの人達は《晶龍様》から許可を貰わなければこの街の人達には認めてもらえませんからね……ほら、その子に食べさせてあげなさい」
お爺さんはそう言いながら串焼きをベルに渡す。
「あ、ありがとうございます! じゃあちょっとだけお待ちください! ほらベリー、これ食べて落ち着いて」
《晶龍様》というのが気になるが後で聞けばいい、ベルはそう言ってベリーに串焼きを食べさせようとする。するとベリーはじっとベルを見つめる。
「あ、あの……どうかしたの?」
ベリーはそっとベルの顔に近付き、口を開け……。
「……はぐっ!」
「ひゃあっ!?」
ベルの首元を噛んだ。甘噛みされたベルは、らしくない声を上げる。
「……さ、さっさと食わせて正気に戻そうぜ」
「そ、そうね、早くお爺さんから話を聞きましょ」
「そ、そうですね!」
「ん……」
ソラ、アップル、ローゼ、フィールはそれをスルーした。無かったことにした。何故だか本能がそうしなければならないと言っていたからだ。そしてそれは正しかったようで、ベルはナイフを半分抜きかけていた。
「バウム君、よろしく」
「え、あ、うん」
ベルはバウムに串焼きを託し、皆から離れ壁に隠れた。
「……ほ、ほらバウム、さっさと食わせてやれよ、ベリーがお前を噛まないうちに」
「そ、そうだね、ほら……美味しいよー……ゆっくり食べるんだよー……」
バウムは涎を垂らして串焼きを見つめるベリーに串焼きを食べさせる。とりあえずこれでベリーは正気に戻る。
「ベリーさんは美味しいものが好きなんですね」
ローゼはそう言って自分の娘でも見ているかのように、串焼きを食べるベリーをじっくり観察する。
「ご馳走さまでした! ……はっ!? 私はいったい……?」
串焼きを食べ終えたベリーがそう言って正気に戻る。だがどうやら暴走時の記憶は無いらしい。
「ただいま、いやぁゲームでもこうなるとは思わなかったよーあははー!」
そしてベルも戻ってきた。顔がまだ少し赤いので、やはり相当恥ずかしかったのだろう。
「……あ、もしかしてまたやっちゃってたかな……? ご、ごめんねベル!」
ベリーは暴走時の記憶は無いが、自分がたまに暴走しているということは知っているようで、ベルの反応からそう言って謝る。
「いいよいいよ、いつもの事だよ、それに嫌いじゃな……んでもない」
ベルが何かを言い欠けたが、そこに触れてはいけない。触れたら半分抜かれて刃がチラリと見えている腰のナイフが飛んでくるだろう。
色々とハプニングはあったが、会話が可能なNPCのお爺さんを見つけられたので先へは進めそうだ。
(こんな個人的な事を書いていいのかなと思ったけどそれでも書くよ!)うまはじメモ!
可愛い女の子が嬉しそうに美味しいものを食べるということはとても良い。
そしてはぐはぐと甘噛みしてくる女の子も良い。
つまり、“美味しいと可愛い”は正義です。




