第85話【誰も居ない街】
「さ、寒い………!」
ベリーは第三階層ダンジョンを抜けるために、階段を登る。階段にうっすらと雪が積もっていることから、出口が近いことを知る。
「ここが……上級階層……!」
そして遂にベリーは第四階層に到着する。一面白銀の世界で、ふわふわと雪が降っているため、今のベリーの格好だと少し寒い。
「ベリー! 良かった、無事突破できたんだね」
「ベル! 皆も!」
雪景色の中、ベル達がベリーを待っていた。
「一時はどうなることかと思ったよ……」
「えぇ、全くその通りね」
一番苦戦したらしいバウムとアップルはそう言いながら凍える。
「寒……い……」
「確かにな……さっさと街に行って暖まろうぜ?」
フィールとソラがそう言う、皆も寒さでもう限界だった。
「賛成です、ところで前まではダンジョンを登りきったらすぐ街でしたが……この辺には街は無いようですね?」
ローゼがそう言う通り、第二、第三階層は階層ダンジョンをクリアし、先に進むとそこはもう街の中だったが、どうやら今回は街の外のようだ。
「地図もないし……歩いて探すしかないかぁ」
ベルの言葉に、あまり乗り気ではないが全員頷く。ログアウトしたいのは山々だが、フィールドに出た状態でログアウトすると、次にログインしたときモンスターに囲まれている可能性があるから出来ないのだ。
「へくちっ!」
と、ベリーが可愛らしいくしゃみをする。ベリーの防具、《霧雨》は露出は少ないが、肌も出ている。それに風通しが良い。
「あ、そうだ……確か……」
するとバウムが何か思い出し、アイテムを確認する。
「コートあったんだった……」
何とも暖かそうな厚手のコートを取り出してバウムは言った。
「あ、でも4着しかないよ……」
コートを持っていることが奇跡的だが、それは4着しか無かった。
「俺は大丈夫だからいいぜ」
「僕も平気だから……でも5人か」
ソラとバウムは平気らしいので、残りはベリー、ベル、アップル、フィール、ローゼになる。
「あぁ、じゃあ私もいいわ」
「え? アップルさん大丈夫なんですか? 私、結構大丈夫なのでお譲りしますよ?」
アップルの言葉に、ローゼはそう言うが、アップルにはアレがある。
「【白狼】」
と、モンスターも居ないのに召喚され、「え? なんすかご主人様」というような顔をする白狼にアップルは飛び付く。
「モフるから、大丈夫よ」
キリッとした表情で言うアップル。まぁ何にせよこれでコートの件は解決した。
「あ、暖かい……ありがとねバウム君、この恩は忘れないよぉ……!」
「う、うん、どういたしまして……!」
そんな二人の暖かい雰囲気に、ベル達は。
「……熱いねぇ」
「熱いなぁ」
「ん……熱い」
「熱いわね……」
「熱いですねー、青春ですねぇー」
その言葉にバウムは顔を赤くして恥ずかしがる。
「うちの苺は鋭いようで鈍感だから……まぁ、頑張ってね!」
「おう、頑張れよ!」
「ふぁいとー」
という言葉に追い討ちを掛けられ、さらに顔が真っ赤になったがそれにベリーは気付かなかった。
「あっ、あれが街じゃないかな!?」
コートで元気を取り戻したベリーが、街らしき建物を発見する。だが、しかし。
「こ、これは……つまり……?」
ベルがそう言って、崩れている建物達を見る。
「なるほどな……上級階層ってだけはある」
ソラが瓦礫の上に乗り、街を見下ろす。どうやら上級階層になると、安全な場所が少なくなるらしい。街はボロボロになって廃れていた。
「NPCも……居ない……」
「あ、ここに看板がありますよ?」
NPCも、建物もない街に、意味深に置いてある看板をローゼが見付ける。
「えっと何々? 『この街が《_____》の進路上になったため、街から避難する。』……」
ベルが読み上げる。どうやら何らかのモンスターが街に近付いてきたため、住民は避難しているらしい。何のモンスターかは文字が消えていて読めないが、一体でこの街を破壊したのならそうとうの強敵だ。
「んー、ベリーはどうすればいいと思う?」
「えっと、そうだなぁ……避難所に行ってみる!」
確かにこの看板の通りならNPC達は何処か安全な場所に避難しているということだ。ならばそこを見付けるしかない。
「休憩するのも一苦労だな」
「でも、ここがもう街じゃないならモンスターも居るってことだよね……なんで一匹もモンスターが居ないんだろう?」
バウムが言う通りここはもう街として機能していないため、モンスターが出現するはずなのだ。
「恐らくですが……この街を破壊したモンスターが、全て捕食したのではないでしょうか?」
ローゼはそう言いながら、地面に残っていた巨大な足跡を調べる。足跡の形から、猫科の動物がモチーフになっていることがわかり、ローゼは一安心する。
「かもね、避難所の場所もわからないけど、とりあえず探すか!」
「わぁ! ベルベル! あっちに綺麗な水晶があるよ!」
そうベリーは言う。どうやら街は高所に位置し、その下を見に行ったベリーは巨大な水晶の塊を見付ける。
「わお、何あれ……」
「もはや山……だね」
その水晶の塊は、ベルやバウムが思ってた大きさよりも数倍も大きい、一つの山のような水晶だった。
「あんな目立つんだし、行ってみるか?」
「ん、賛成」
ということで、ベリー達は謎の巨大水晶へ向かうことにした。




