第69話【クリンゲル・シックザール】
『【ドラゴンフレイム】……【スキップ】』
《ヘルツ》の持つ《焼結の宝杖》から、【ドラゴンフレイム】という強力な火属性魔法スキルを発動し、広範囲に広がっていく炎はゆっくりで、ベルは簡単に避けれると思っていた。
しかし【スキップ】された炎は、避けようと身構えていたベルの目の前に現れた。
「なっ!?」
突然の事で……いや、誰でもこんな攻撃は避けれないだろう。
一瞬で炎に包まれたベルのHPは一気に減り。
ギリギリ1ドットだけ残り耐えることができた。
「…………」
『どうしたベル? 回復しないのか? まぁ回復する暇も与えないが……【ソニックブーム】ッ!』
回復行動を取らないベルに違和感を感じるが、【ソニックブーム】の威力を利用し地上のベルに急速接近する。
『【マジックウェポン・ブレード】ッ! これで終わりだッ!』
【マジックウェポン・ブレード】で《焼結の宝杖》の先端に半透明の刃を作り出し、ベルに突き刺そうとする。
【ソニックブーム】のスピードからして、ベルが避けることは不可能だ。
……そのはずだった。
「フッッ!!!」
ベルはナイフを《焼結の宝杖》の刃に当て、上手く攻撃を反らす。
「せいッ!」
さらにそこから縦にナイフで《ヘルツ》にダメージを与える。
『くっ! 【フレイムショット】ッ!』
《ヘルツ》は反撃に【フレイムショット】を発動する。
「遅いッ! 【アイス・エイジ】ッ!」
ベルは【フレイムショット】を軽々回避し、そして【アイス・エイジ】の効果で《ヘルツ》の身体が薄く凍り、拘束される。
『やるじゃないか、ベルッ!』
「フッ! 【サウザンドスラッシュ】ッ!!!」
拘束し、動けなくなった《ヘルツ》に【サウザンドスラッシュ】で連続攻撃を放つ。
《ヘルツ》のHPは一気に削られ、もうナイフで一度刺すだけで倒せるレベルまで減った。
「………………っ」
『……どうした……ベル、やらないのか? 《暗殺者》なのだろう……? アサシンが弱った敵を放っておくのか……?』
《ヘルツ》の身体はボロボロになり、《焼結の宝杖》は役目を終えたかのように『パッ』と姿を消す。
「私はアサシン何かじゃないよ、あなたと同じ、ただの人間」
ベルはナイフを下ろし、そう言う。
『人間……人間か、おかしなことを言うな……私はただのゲームのモンスターだ』
「私には人間に見えたよ、思い出を持っていて、考える力があり……そして感情がある………人間と全く同じことをしてるじゃんか」
激しい戦いで、ダメージを負った城も、崩れようとしていた。
『そうだな……でも私は人間ではない、モンスターだ。
わかっているだろう、ベル、トドメを刺さなければモンスターはいつまで経っても倒せない』
《ヘルツ》はそう言って、ベルのナイフを持つ手をそっと持ち上げ、自身の心臓の部分に持ってくる。
『やってくれ、私はもうゲームに疲れた……』
そう言って頬笑む《ヘルツ》を見て、途端にベルは涙が溢れる。
「やっぱり、人間だよ……そんな優しそうな笑顔……私でも出来ないよ……」
『天に召されるかはわからないが……お前がどんなに辛いときも、苦しいときも、その困難を乗り越えると信じて見守っているよ』
《ヘルツ》はそう言って、目を閉じる。
「ありがとう……ヘルツ……」
ベルはそう言って、ナイフにほんの少しだけ力を入れて、《ヘルツ》のHPを削りきった。
『……出来ることなら……普通の人間としてお前と、弟と……ゲームがしたかったよ……ベル』
「私も、そう思ってるよ……ヘルツ」
《ヘルツ》の身体はゆっくりと光の粒となっていき、やがてその優しい笑顔と共に消滅し、光の粒は天へ舞っていった。
「…………泣くな、私……もう泣くな、しっかり前を見て歩け……!」
ベルはそう自分に言い聞かせ、《ヘルツ》からドロップした、たった一つのアイテムを見る。
「《KS01》、クリンゲル・シックザールか……」
ユニーククエストの報酬である銃、《KS01》を手に入れた。
そしてベルは《ヘルツ》との戦いで精神的にも強くなったと感じていた。
「私、頑張るッ! ってそうだハク!」
と、ベルがハクを思い出し、あたふたしていると、青い光が出現してハクが現れた。
「__わ、急に【テレポート】? ってベル、ボス戦は終わったのですか?」
急な瞬間移動だったらしく、驚くハクはベルを見付けるとそう言って駆け寄る。
「うん、終わったよ……。えっと、ハクは大丈夫だった?」
「はい、多少モンスターに襲われはしましたけどね……問題ないです。さぁ帰りましょう、ボクはもうくたくたです」
「そうだね、私もだよ……帰って休もう」
そう言ってベルとハクは城の中央に出現した街へ帰還するテレポーターに向かう。
「……ありがとう、元気で」
ベルはハクの後に、最後にそう言って街へ無事帰還した。
***
「あっ! おーいベルー!」
「ベリー! と、ロウってことは……狩りの帰りかな?」
ベリーの顔を見て、少し安心したベルは、そう二人に聞く。
「まぁな、というかそっちはなんだ? 珍しいな」
ロウはベルとハクを見て言う。
「いろいろあってねぇー……」
「そうですね……ロウさん、今日はボク物凄く疲れたので、これで失礼しますね」
ベルとハクは疲れが一気に押し寄せ、説明する気力も無くなっていた。
「ん、そうか、お疲れさん……俺も今日はログアウトするわ」
「はい! ロウさん! 今日はありがとうございました!」
ロウとハクがログアウトするのを見送ったベリーとベルも、ログアウトしようとすると、ある光景を目にした。
「ベル……あれ……波?」
「え? うーん……よく見えない……あ、そうだスコープ……」
海の街の外に波のようなものが見える。
ベルはスコープでそれを確認すると、ベルの表情は楽しそうなような、「うへぇ」という感じの複雑な顔だった。
「はい、ベリー」
「あ、ありがとう……」
ベリーはベルからスコープを渡され、それで波のようなものを見ると。
「さ、魚っ!?」
その波は全て魚だった。
《ヘルツ》戦、無事終了!
そして何やらベリーにまたモンスターに囲まれるトラウマが……




