第66話【激戦】
ベルが発動した【暗殺ノ技】というスキルは、職業《暗殺者》が使えるスキルで、一定時間、相手に認識され難くなり、さらに攻撃力と俊敏力が上昇するというものだ。
一方で《ヘルツ》が発動した【エンチャント・エクスプロージョン】は、爆破属性を付属させることが出来るスキルだ。
ただし《ヘルツ》の【エンチャント・エクスプロージョン】は特殊で、攻撃回数が多くなるほど爆発威力が大きくなるのだ。
「【潜伏】!」
ベルは攻撃力の高い爆破属性を回避すべく、【潜伏】でさらに隠れる。
『その程度では逃れられないぞ、【飛行】』
《ヘルツ》はスキル、【飛行】を使用し、空中へ移動する。
『お返しだ……【フルチャージ】、【オーバーチャージ】、【リミットブレイク・チャージ】! 【エクスプロージョン】ッ!』
【フルチャージ】などで強化された爆破魔法スキル、【エクスプロージョン】はフィールド全体に大爆発を起こし、城を破壊する。
「上だよッ! 【クイックスラッシュ】ッ!」
しかしベルは【テレポート】で《ヘルツ》の頭上へ瞬間移動し、【クイックスラッシュ】でHPを削る。
『くっ……! だがそれだと地に落ちるぞ!』
「まだまだ! 【バウンド】ッ!」
さらにベルは【バウンド】を発動し、上空へ跳ね飛ぶ。
『【マジックウェポン・バリア】ッ!』
「私は【分身】だよ♪」
《ヘルツ》はまたナイフ攻撃を喰らわないよう、前方を防御する。
しかしそれは【分身】で、持っていた【スモークグレネード】が起動する。
『ッ! だがどうせ後ろにいるのだろうッ!』
《ヘルツ》はそう言って後ろを斬り裂く。
しかし、煙の中にあったのは。
『爆弾ッ!?』
ベルが投げていた【バーストグレネード】の爆発を防御しようとしたが、間に合わず、《ヘルツ》はまともにダメージを喰らう。
「【バウンド】ッ! 【クイックスラッシュ】ッ!」
そして本物のベルが、【バウンド】を足場にしながら、《ヘルツ》に攻撃する。
『ッ! 【テレポート】ッ! 【フレイムショット】ッ!』
《ヘルツ》は【テレポート】で煙から脱出し、煙の中に居るのベルに向けて【フレイムショット】を放つ。
『ハァ……ハァ……攻撃が出来ないか……!』
エンチャント系スキルは攻撃スキルなどには反映されない為、武器での攻撃などでしかエンチャントの効果は発動しない。
《ヘルツ》が発動した【エンチャント・エクスプロージョン】も、ベルに攻撃を当てなければ意味がない。
「よっ……と! 焦ってるね?」
煙の中から無傷で地上に落下し、軽く崩壊した城の瓦礫の上に着地したベルは、上空の《ヘルツ》を見て言う。
先程は【幻惑】、【分身】のベルを見抜き、本物のベルに攻撃した《ヘルツ》だが、今回は焦り、そして【暗殺ノ技】の効果により、認識され難くなった本物のベルと、【分身】のベルの見分けが付かなくなっているようだ。
『……止めだ、近距離なんて私には似合わないな』
そう言って《ヘルツ》は【マジックウェポン・ブレード】を解除する。
『魔術師らしくしようか、【メテオ】』
「【絶対回避】!」
【メテオ】を避けようと、【絶対回避】を発動するベルだが、【メテオ】は降ってこない。
『あぁ、すまん、手順を考えていたら放つのを忘れていたよ』
そう言って放たれる隕石。
しかしそれは数秒後ピタリと静止する。
「あ、あれ?」
『……やはりお前は【時間停止】が効かないんだな……【コピー】』
《ヘルツ》はそう言って【メテオ】を【コピー】し、隕石が二つになる。
「え……っと……【バウンド】ッ!」
嫌な予感がしたベルは【バウンド】でまたも空へ跳ね飛び、《ヘルツ》に近付く。
『まぁいちいちこんなことをしていたら攻撃されるだろうな、保存していたやつを使うか……』
《ヘルツ》はそう言って大量の【メテオ】を一瞬で召喚する。
「やば……ッ!」
『【再生】しろ』
時が動き出した瞬間、静止していた【メテオ】は一斉に放たれ、逃げるベルを雨のように襲い、地面に衝突していく。
「うわあッ!?」
【絶対回避】で避けるが、降り続ける【メテオ】を回避し続けることは難しく、ベルのHPが減ってしまう。
全ての【メテオ】が無くなる頃には、ベルのHPは赤ゲージに突入していた。
「くっ……【クイックヒール】ッ!」
ベルは【クイックヒール】で何とか回復する。
だがしかし。
『【巻き戻し】』
「はぇ……?」
【巻き戻し】され、元に戻った【メテオ】は、上空で静止していた。
『【再生】、【早送り】』
「【クイックヒール】ッ! 【アクセルブースト】ッ!!!」
ベルはHPを全回復させ、【アクセルブースト】で俊敏力を強化し走る。
【早送り】されている【メテオ】は物凄いスピードでベルを襲う。
『あぁそうだ、安心してくれ、今回はこの世界丸ごと【巻き戻し】たり、【早送り】したりしていないからな』
「話を聞く余裕ありませんッ!!!」
【メテオ】の衝撃音などで聞き取れないというのもあるが、この状況で話を聞こうとすれば即ゲームオーバーだ。
そして【メテオ】はさらに【巻き戻し】をされ、また放たれる。
***
「ゼェ……ハァ……ッ! 避けて見せたぞぉぉっ……!」
『やるじゃないか、では次は……【召喚術】』
【メテオ】を何とか凌いだベルに、さらに追い打ちをかける。
《ヘルツ》は以前採取した《ブリッツェン・アインホルン》の角を持ち、【召喚術】を発動する。
その光景を見たベルは顔が引き吊る。
「ま、まさか……」
『大丈夫だ、本物よりは弱く出来ている』
そう言って召喚された少し見た目の異なる《ブリッツェン・アインホルン》は、通常より大きいような気がした。
「何処が大丈夫なのか説明して欲しいねッ!」
『全力だからな』
ベルのMPも自動回復が間に合わなくなってきた。
しかし正真正銘全力で、空中で浮遊している《ヘルツ》に攻撃するには【バウンド】で跳ね飛び、ちまちまスキルを発動するしかない。
ここから銃で狙えないこともないが、射撃耐性があるだろうし、遠距離よりも近距離のほうが魔術師相手にはいいとベルは思った。
そして、《ブリッツェン・アインホルン》を角で召喚したとなると、水晶の欠片からまた召喚するのではと、ほぼ当たりそうな未来をベルは予測していた。
ここまでの《ヘルツ》の能力。
超スピードでの移動(【音速化】など)。
多数のスキル(エンチャントなど)。
時間操作(保存(録画?)も出来る)。
召喚 (ボスモンスターなど)。
あれベルが勝つ要素は何処へ?




