第64話【自分を乗り越え生きてゆく】
『【マジックウェポン・砲撃】、開始』
魔術師、《ヘルツ》は自身の背後に【マジックウェポン】という魔法兵器を設置し、ベルに向けて自動砲撃を開始した。
「遅いッ! 【アクセルブースト】!」
しかしベルはその砲撃を見極め軽やかに避けていき、【アクセルブースト】を発動して《ヘルツ》に急接近する。
『まぁ、これくらいは避けてくれないと詰まらないな……【召喚術】』
だが《ヘルツ》は自身の足下に魔法陣を出現させ、【召喚術】を発動する。
『《ゴブリン》』
「ご、《ゴブリン》?」
《ヘルツ》によって召喚された《ゴブリン》は貧弱な木の棍棒を持っていて、これでどう対抗するのかベルにはわからなかった。
『キャッ?』
『【エンチャント・デスフレイム】』
すると《ヘルツ》は《ゴブリン》に向けて【エンチャント・デスフレイム】を発動する。
《ゴブリン》は極炎に包まれると、うめき声を上げて一瞬で消滅した。
『命を捧げ、顕現せよ! 【フィールドブレイク】!』
「ハァッ!? 【絶対回避】ッ!」
【フィールドブレイク】なんて、名前からしてフィールドを壊しに来ると予測したベルは即座に【絶対回避】を発動するが。
『【スキルキャンセル】』
「う……嘘でしょぉぉぉお!!!」
《ヘルツ》の【スキルキャンセル】により解除され、その次の瞬間に城は崩壊し、ベルは瓦礫の下敷きになってしまう。
「うぐ……耐えたけど……【ヒール】!」
ベルのHPは一瞬で8割ほど消し飛んだが、【ヒール】で即時に6割ほどまで回復する。
「まずい……動けない……」
瓦礫の下敷きになっているので、その重さで持続ダメージが入り回復したHPもジワジワと減っていく。
「エンチャント系も使えるし……さらに【スキルキャンセル】まで……スキルは全部持っているって考えとこう……」
ベルはこの時点で、いや、かなり前からだが《ヘルツ》をモンスターではなく、プレイヤー……人間として見ていた。
発動するスキルの多さもそうだが、本能、設定のまま攻撃する通常のモンスターと比べて、《ヘルツ》は考え、勝つ可能性のあるルートを見付けてその通りに実行している。
何のスキルを発動するか、それをどう対処するかということまで考えているだろう。
『【修復】』
「うぇ? ってうわっ! 浮いて……えぇ!?」
《ヘルツ》は壊した城を【修復】する。
瓦礫は浮き上がり、次々と元の位置へ戻っていく。
『やはり迫力が無いか……初見殺しというのは難しいな』
「城を壊して修復して……よく言うよ……」
ベルは再び《断鎧の短剣》を構える。
ベルはまだ《ヘルツ》に1ダメージだって与えていないのだ。
『まだ始まったばかりだ、もっともっと楽しもうではないか、【ガーディアンズ】』
《ヘルツ》はそう言って《ガーディアン》という全身鎧のモンスターの集団を召喚する。
『【ダブルエンチャント・アイスフレイム】』
さらにその《ガーディアン》達に【ダブルエンチャント・アイスフレイム】を施す。
「数が多いな……それなら! 【分身】! そして【幻惑】ッ!」
ベルも負けじとスキルを発動し、対抗する。
『数が多いなら減らせば良いだろう? 【マジックウェポン・砲撃】、【自動追尾】、開始』
《ヘルツ》はそう言ってまたも魔法兵器を設置し、そして次はなんと自動追尾式らしい。
「わ、私がどんどん撃ち抜かれていく……ってうわ! 危ない危ない……」
【自動追尾】の性能が良く、避けても避けても追い続ける砲撃に、ベルの【分身】が次々と消えていく。
『見つけたぞベル、【フロストショット】!』
すると本物のベルを発見した《ヘルツ》は【フロストショット】という氷の塊を一直線に飛ばすスキルを発動して攻撃する。
「ッ! なんでわかったのさ……!」
ベルはそれをギリギリで身体を仰け反らせ回避する。
『何故って……表情を見ればわかるだろう? 本体以外は全てNPCと変わりないのだからな』
だからと言って、本物の人間と全く同じように見えるNPCを見極めることが出来るだろうか。
そうなると《ヘルツ》は今の一瞬で全ての【幻惑】で増えて見える【分身】を一体一体確認したということになるのだろうか。
「……まずは《ガーディアン》を倒すか! 【クイックショット】ッ!」
ベルはそう言って【クイックショット】を一体の《ガーディアン》に向けて放つ。
が、しかし、ダメージ量は微量だ。
「やっぱ射撃耐性持ってるか……」
射撃耐性を持ち、防御力が高い《ガーディアン》、その数は10体だ。そして恐らく斬撃耐性もあるのだろう。
さらに《ガーディアン》を攻撃している最中に《ヘルツ》がただ見ているだけということも無い。
「これがユニーククエスト……これが、《ヘルツ》……!」
『さぁ、向かってこい、これがお前の試練だ! 乗り越えて見せろ!』
ベルはただ全力で。自分を乗り越える為に、全ての力を持ってこのクエストをクリアする。必ずしてみせる。




