第63話【鈴の音は鳴り響く】
「あった、下への階段!」
ベルとハクは順調に下の階へ進んでいく。
下へ進めば進むほど空気が重く揺れる。
「近い……」
ベルは魔術師が居るボス部屋が近いことを察した。
「私は恐らく攻撃しても意味はない……ですよね?」
ハクがそう言って確認する。
これはユニーククエストだ、ボスモンスターにはベルしかダメージを与えられない。
「うん、だからハクは……多分、観戦ってことになるのかな」
「まぁボクは帰れれば良いので、頑張ってくださいね、ベル」
二人はそう会話をし、先へ進んでいると他とは違う雰囲気の空間に到着する。
「ここが最終地点だね……」
しかし魔術師の姿はなく、ボス部屋と言うには少々狭かった。
「……ベル、どうやらここは実験室のようです、魔法陣の跡やモンスターの素材があります」
ベルはハクに言われ辺りをよく見ると確かに様々な道具や物が散乱している。
「……! ノートだ」
するとベルは部屋の隅の机に置いてあるノートを見つける。
「…………白紙?」
しかしそれは何も書かれてはおらず、白紙のページが続いていた。
「んー、他に何かないかな?」
「いえ、ベル! よく見てください、そのノート、最後のページに何か書いてあります!」
ハクがそう言うのでベルは表紙をよく見る。
「えっと……『辿り着いたか、では始めよう、お前と私だけのゲームを。』……うわッ!?」
ベルがそれを読み上げると、ノートが突然青く光り、その光に包まれたベルは、少しするとその場から消えていた。
「ベル! あの光は………【テレポート】?」
一人残されたハクは、この部屋でベルが無事戻ってくるのを待つことしか出来なかった。
***
「ッ……ここは?」
ベルは気付くと大きな城のような巨大な部屋に居た。
そして、目の前には魔術師が後ろ姿があった。
「やぁ、来たよ」
ベルがそう言うと、魔術師はゆっくりと振り返る。
『……ベル、ここは凄いだろう? 今の一瞬で作られた限定ステージだ』
ベルが城の窓から外を見ると、どうやらこの城は何もなかった《焼結島》の中心地に現れたようだ。
『ベル、私はね……この世界が嫌いだ。弟が死んでから、どんな手を使ってでも弟を蘇生させようとした。だが……もっと早く気付くべきだった……』
魔術師は被っていたフードを取り、ベルの瞳を覗く。
『この世界に私の弟など居ない、全て設定だったんだ、いくら角やら水晶やらを集めたって、蘇生するものが無ければ出来るはずもない……だから、私がここに居る、この世界で生きる理由はベル、お前と戦うこと、ただそれだけなんだよ』
ベルはその“弟”がもしかしたら存在しない、データが無いのではないかと頭の奥で思ってた。
魔術師はただのモンスター、いくらAI化して自動的に言葉を喋り、記憶していき、感情が芽生えたとしても、モンスターとしてプレイヤーに狩られる運命なのだ。
『ベル、お前もいつか……抗うことが出来ない運命が来る、その運命は非常に残酷で、苦しいものだ、断言するよ』
「……わかってるよ、けど……それでも私は突き進むよ、それが私、ベル……一条鈴の生き方だ」
ベルはそう言って《断鎧の短剣》を装備して構える。
そしてそのベルの言葉を聞いて、魔術師も覚悟する。
『では、始めようか』
魔術師はそう言って何もないところから、ハクが作成し、持っていたはずの《焼結の宝杖》を取り出す。
「……プレイヤーベル! いざ真剣に、勝負ッ!」
『……我が名はヘルツ! お互い全力で……殺し合おうではないか!』
まだ息が凍るような寒さの中、《焼結島》にただ一つ、ポツンとある大きな城で、プレイヤーベルと魔術師ヘルツの全身全霊の戦闘が開始された。




