第60話【魔術師の日記】
大理石のような床を慎重に進むベルとハク、道幅は広く、《ラビリンスゴーレム》の他にも植物型のモンスターや兎型のモンスターが徘徊していた。
「階段がある……下りるのか……上ると思ってたんだけどな」
かなり下まで落とされたので、上ると思っていたベルは少しだけ驚いていた。
「この辺りに部屋も見当たらないですし……降りますか?」
ハクが周りを警戒しながらベルに聞く。
モンスター達がこちらに移動してきていた。
「よし、行こう……」
「了解です……」
モンスターに見つからないように、トラップに引っ掛からないように、慎重に進んでいく。
「あれは……部屋だ」
階段を下りて、左の通路を少し行ったところに一つの部屋があった。
「少し調べてみよう」
「気を付けてください、トラップがあるかもしれません」
ベルは部屋の扉をゆっくり開いて、部屋に入る。
「本棚だ……」
「何かありそうですね、手分けして調べましょう」
部屋はそこまで広くなく、本棚があり、本が綺麗にビッシリ並んでいた。
「どうやらこれは魔術の本の様ですね」
「なるほどね、私には読めないけど……もしかしてハク読めたり?」
ベルが持っていた本をそっと閉じて聞く。
ハクは無言で頷き、手に持っていた本を解説する。
「どうやらこれは蘇生魔術のことが書かれていますね、ベルが持っているのは恐らく人体の構造が書かれた本です」
「えっと……全部黒魔術ってことかな?」
物騒な内容にベルは顔を歪ませて言う。
「まぁそうですね、あとそこからここは全て治癒について、そして向こうの棚の本はモンスターについて記されているようです」
「ほ、ほんと……ハクが居てよかったよ」
ハクの職業が《魔導師》だからか、本の内容がわかるようだ。
ベルだけではこの本はただのオブジェクトとなっていただろう。
「何かストーリーがあると見た!」
「そんな自信満々に言われても、大体の人は気付くのではないですか?」
と、ハクの言葉に「た、確かに……」と呟くベル。
「あとは……ん? これ、私でも読める」
すると、ベルが机の上に広がっていた一冊のノートのようなものを見つける。
「タイトルは……無名ですか、古くなっていますね、かなりの年月ここに置いてあるということでしょうか?」
魔術師について深い関わりがあると予想したベルは、そのノートを開いた……。
「……『3月10日、まだ寒い日が続く、しかし私の弟はそれをものともせずに外を走り回っている。本当に面白い奴だ、この日記には我が弟のことを綴っていこう。』……あいつ、弟が居たんだ……」
「どうやらこの日記はその弟が主に出てくるようですね……」
ハクがそう言って、ベルは次のページをゆっくり捲る。
「『3月11日、昨日ははしゃぎ過ぎたのか、弟は風邪を引いた、……全く、風邪を引いてなんと言ったと思う? 「お姉ちゃん、僕火の魔法を使えるようになったよ」だ、らしくないが、その場で笑ってしまったよ。』……ふふっ、風邪の熱を火の魔法か……」
ベルも日記を読んで笑ってしまう。とても、微笑ましい姉弟だ。
「『3月13日、いや、昨日は弟の看病をしていたせいか、風邪が移ってしまった、あいつは「僕がお姉ちゃんを治してあげる」と言って私に回復魔法をかけようとした……間違えて麻痺をかけられたが……もちろん今日お返しに足に麻痺属性魔法をかけてやった、しばらくは歩けないだろうな。』」
「回復と間違えて姉に状態異常の魔法をかけたんですね、確かに面白い弟です」
ハクも笑みを溢す。日記はまだ続く。
「『4月26日、最近忙しくて日記を書けていなかった、私もまだまだだな、今日は弟が友達と共に山へ遊びに行った、そろそろ日が暮れる、早く帰ってこい。』……山かぁ、私も昔ベリーと行ったなぁ」
「私は山の音が好きですね、とても安らぎます」
「そうだね、川の音、草木が揺れる音、小鳥達が歌う音……私も好きだよ」
ベルはそう言って昔ベリーと行ったことを思い出す。
そして次のページを捲った。
「『4月27日、弟が帰ってこない……。』……え?」
ここで、日記に異変が起きた。魔術師の弟が山へ遊びに行ってから帰ってないようだ。
「し……『4月28日、山へ探しに行ったが……いくら探しても、いくら呼んでも出てこない、春時はモンスターの動きが活発になる……無事で居てくれ。』」
ベルは、これがゲームのストーリー、作り話に思えなかった。
それはあの魔術師がモンスターでは無く、AIでは無く、人間と全く同じに見えるからだろう。
「……『6月21日、雨の中、弟の死体を発見した。』」
ハクの顔も暗くなる。しかしこの事は最初の時点で予測が出来た。
魔術師は会ったことがあるがその隣には弟など居ない、そして弟はこの日記にしか居ない。
そしてこの部屋の大量の治癒や蘇生魔術の本。
「『7月……もう日付けはいらないか、私は決心した、弟を蘇生させる。それが禁忌だとしても。』」
魔術師は、その弟を蘇生、蘇らせようとしていた。
それが禁忌だとしても、彼女はやろうと決めた。
そしてそれはまだ、続いている。
いつかの雷の一角獣、《ブリッツェン・アインホルン》からドロップした角や、《キャプテン・トートシュリット》戦の時の紫の水晶の破片を集めていたのは、蘇生に必要な物なのだろう……。
忘れてました、第3章、ほのぼの無しッ!(多分)
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あ、嬉しくて血涙が……。
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