第53話【氷結の帝王】
現在ベルは、《焼結島》へ向かう船に乗っていた。
黒ローブの老人により、道が開けたのか吹雪は弱くなっていた。
「さてと……行こう」
ベルはそう呟いて《焼結島》の中心部へ向かった。
吹雪が弱くなり、火山が活性化したのか温かく感じてきた。
ギリギリ生物が生きられる環境になったのだろう。モンスターが多数出現している。
「見たこと無いモンスターばっかり……気を付けて進もう」
ベルはなるべく体力を使わないよう、モンスターとの戦闘は極力避けた。
『ヴォウ! グゥゥウ!』
「っと、囲まれたか」
アップルの【白狼】によく似ているが、これは《アイスウルフ》というモンスターで、群れで行動しており、連携攻撃には注意が必要だ。
「【パワーアップ】、【ディフェンスアップ】! 【クイックショット】ッ!」
ベルはスキルで自身を強化し、【クイックショット】で先制攻撃をする。
見事ヘッドショットを決めて見せるが、HPは半分も削れていなかった。
「ッ! 火力がもう少しいるかな! 【分身】! 【サウザンドシュート】ッ!」
ベルは一瞬焦りを見せたが、すぐ【サウザンドシュート】で複数の《アイスウルフ》を倒した。
『グルル……!』
「さぁ、お次は誰かな?」
ベルはそう言って弾を込めてリロードする。
が、しかし。《アイスウルフ》達は何かに怖じ気付き、逃げていく。
「……ッ!? 【絶対回避】ッ!!!」
ベルは突如襲ってきた巨大な氷柱を【絶対回避】で何とか避けた。
「こ、これは……また、なんとも盛大なお出迎えだね……」
そこには巨大な白い虎と、魔術師が居た。
『すぐにボス戦というのも詰まらないだろう? だからこちらで用意したシナリオだ、存分に楽しんでくれよ』
魔術師はそう言って闇となって消えた。
そして残された白い虎……恐らく先程の氷柱はこのモンスターがやったのだろう。
『クエスト、《氷結の帝王》を開始します。』
クエスト開始の音声が聞こえたと思ったら、その《氷結の帝王》である白虎はいきなり地面から氷の剣を何本も作り出して攻撃を仕掛けてくる。
「初見殺しッ!? ってまずい! 【スピードアップ】ッ!」
ベルは身を翻しながら氷の剣を避けていく。
「っと……HPバーは2本か、《ゲフリーレン・カイザー》……心なしか吹雪が強くなってるような……」
ベルの言う通り、吹雪は強くなり、ベルのHPは少しずつ減っていた。
「スピード勝負だね」
『…………ガゥッ!!』
ベルはそう言うとナイフを両手に持った。
これはベルの予想だが、恐らく銃の対策をしてきている。
と言うのも、このゲームには属性の他に“斬撃”、“打撃”、“射撃”の3つの耐性がある。
例えば鎧を着ているモンスターやプレイヤーには斬撃や射撃の攻撃は通り難いだろう。
そして鎧を着ているならわかりやすいが、たまに見た目とは全く違う耐性を持つモンスターも居る。
明らかに剣で斬れそうなヒョロヒョロな身体なのに全く斬れない
頑丈な鋼鉄のような身体だった。という例もある。
「フッ! ハッ! ヤァ!」
ベルは素早く動き、《ゲフリーレン・カイザー》にナイフで攻撃していく。
ダメージ量は決して低くない。ベルは魔術師がこのモンスターに射撃耐性を付属させているのではないかと予想したのだ。
そしてその予想は見事に当たった。
「【地雷】設置! 【クロスフレイム】ッ!」
そしてベルは《ゲフリーレン・カイザー》に【地雷】を踏ませ、さらに【クロスフレイム】という火属性の攻撃スキルを使用する。
これは前方に進みながら相手を斬るスキルで、こういった移動しながら攻撃するスキルでベルは攻撃を避けながら攻撃していた。
「吹雪……いやもう雹だね、凄い痛い」
雪は雹になり、ベルのHPの減りも増えていた。
《ゲフリーレン・カイザー》は絶えること無く氷柱を飛ばしてきたり氷の剣を地面から作り出して攻撃しているため、ベルは止まることが出来なかった。
「体力的にそろそろまずい……ッ! 【エンチャント・フレイム】ッ! 【フルチャージ】、【クロスフレイム】ッ!!」
ベルはそう言って【エンチャント・フレイム】で火属性をナイフに追加し、さらに【フルチャージ】で強化、そして【クロスフレイム】を発動させて攻撃した。
『グォウ……ッ!』
《ゲフリーレン・カイザー》のHPバーももうすぐでニ本目に差し掛かる。
「【クイックスラッシュ】ッ! ……っと【ヒール】」
ベルは一本目のHPバーを【クイックスラッシュ】で削りきると、吹雪や雹で減ったHPをすぐに【ヒール】で回復させる。
「さて、あと一本……」
ベルはHPを回復させて言う。
しかし、やはり一筋縄ではいかなかった。
『《ゲフリーレン・カイザー》がスキル、【氷獄】を発動しました。』
というメッセージログを見て、次に《ゲフリーレン・カイザー》を見るベル。
『………………』
そこには氷の鎧を纏う白虎に姿を変えている《ゲフリーレン・カイザー》が居た。
それはまさに氷結の帝王の名に相応しい容姿で、ベルは一瞬固まった。
「……さすが、ユニーククエストだね……」
先程、“見た目とは全く違う耐性を持つモンスターも居る”と説明しただろう。
そして、“鎧などを着たモンスターやプレイヤーには斬撃や射撃の攻撃は通り難い”とも言っただろう。
つまり《ゲフリーレン・カイザー》は生身で射撃耐性を持っているのにも関わらず、氷の鎧を着ることでさらに追加で斬撃、射撃耐性を付けたということだ。
「……すぅぅ~、はぁぁ~…………よし、行こう……殺す気でッ!」
ベルは深呼吸して落ち着いてからそう叫び、二本のナイフを構えて《ゲフリーレン・カイザー》へ走って、攻撃を開始した。




